人間の栄養学の研究は進んでいますが、ウサギについては、まだまだわからないことがたくさんあります。ウサギの栄養学コラムでは、家庭で飼われるウサギを健康的に長生きさせるため、体のしくみや必要な栄養、食餌についてお伝えします。
現在、主なエサとして与えられているフードは、本来の食性とは異なるものかもしれませんが、野生に近い食餌が必ずしも「ウサギの長生き」にとってベストとは限りません。
だからこそ、栄養学の基礎はもちろん、最新の研究までを知る必要があると考えています。
これまで栄養学の基礎となるウサギにかかわる栄養素について解説してきました。
今回は、ペレットの硬さや種類、高齢ウサギへの配慮など、飼い主さんがウサギに与えるフードをどうやって選べばいいか、お話します。
目次
パッケージの表示をしっかり確認
現在、家庭で育てられているウサギたちの多くに与えられているエサは、乾燥牧草とラビットフード(ペレット)です。
乾燥牧草は原材料そのままなので、どんな栄養素が含まれているかわかりやすいのですが、ペレット飼料は、見ただけでは何がどれくらい含まれているのか、見当もつきません。
飼い主さんがぺレットをお店で選ぶときに、参考になるのがパッケージの裏面に書かれた成分表示です。
日本でも犬や猫については、2008年に制定された「愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律」(通称「ペットフード安全法」)内に、フードの製造方法などの基準や成分規格が定められています。それらに合わないものの製造は禁止されています。
しかし、ウサギはその対象ではありません。ペットフードを生産する企業は独自のガイドラインに沿っている場合もありますが、犬猫用の基準をウサギにも適用していることが多いようです。
EUやアメリカでは、犬猫だけでなくウサギにも基準が設けられているため、違反があれば製造者に指導が入ります。残念ながら日本はEUやアメリカに比べると遅れているのが現状です。
参考記事
ウサギの栄養学(6)どう守る?ウサギの「食の安全」
日本ではフード製造メーカーの良心にゆだねるしかない
ではウサギのフード選びの際は原材料のどこに注目すればいいのでしょうか?
厳密に規定があるわけではありませんが、原材料の表示順は、配合割合が多い順に並べられていることが多いようです。個人的な意見にはなりますが、「デンプン過多」を防ぐために、原料表示を確認し、チモシーやアルファルファなどの「牧草類」が最初に来ているものを選ぶといいと思います。
食性に合わせるなら牧草の含有量を多くするのが本来あるべき姿ですが、そうでないものは、デンプンが多く含まれているのだろうと容易に想像できますので避けたほうがいいですね。小麦粉に代表されるでんぷん質を多く使ったフードやクッキー状のおやつはその可能性がありますので注意しましょう。
おおまかに計算&原材料の確認でデンプン量が推測できる
デンプンの含有量は、糖質(可溶無窒素物)の量を計算することで、ある程度は推測できます。
糖質(可溶無窒素物)は、だいたい100から粗タンパク質、粗脂肪、灰分を引いた値となりますので、心配ならば計算してみて、その値が低いものにします。
水分含有量が記載されていない場合、乾いているように見えても10%程度は水分が含まれています。したがって90からほかの成分量を引いていくといいですよ。
下の写真のパッケージを例に計算してみると、
タンパク質12%+脂質2.5%+粗繊維24%+灰分10%+カルシウム0.5%+リン0.3%+水分10%=59.3%
100-59.3=40.7% で4割ほどの糖質が含まれているのではないかと推測できます。
デンプン量に気を配って、私が配合割合を考えた『コンプリート1.0』の場合でも、このように計算すると35%付近になります。これはビートパルプやアラビアガムをいれているためで、コンプリート1.0の場合は、デンプン以外の糖質が多くを占めていると思われます。
計算してみて、4割以上の糖質が含まれている場合は要注意です。原材料を確認し、明らかにデンプンが含まれている原材料(小麦粉やタピオカ粉など)が前の方に記載されているのなら避けたほうがいいかもしれません。
硬いペレットや牧草不足はウサギの不正咬合の原因になるの?
「不正咬合予防のために牧草を与えよう」と飼育本には書いてあるのですが、実際のところはどうなのか、ウサギの飼い主さんが気になるところでしょう。
何らかの要因で不正咬合になると、ウサギの上下の歯がかみ合わないまま伸び続け、摂食行動や生活に悪影響が出てきます。
大量の食物繊維を摂取しなければならないウサギにとって、不正咬合によりエサが食べられなくなるのは命取りです。野生なら生きてはいけません。飼いウサギであれば、動物病院で治療すれば、暮らしていけますが、定期的な通院はウサギ自身にも飼い主さんにもかなりの負担になります。
歯の硬さはどれくらい?
まず、歯の硬度についてご説明します。物の硬さを示す基準としてモース硬度があります。宝石によく使われるので、ご存じの方もいるかもしれませんね。
モース硬度は一番硬いものを10、柔らかいものを1とします。硬いと有名なダイヤモンドのモース硬度は10、爪を立てれば削れてしまうタルクは1です。硬度の高いダイヤモンドは、ほかのものでは削れず、ダイヤモンドで研磨することはよく知られています。ガラスのモース硬度は5です。
ウサギの歯を削っているのは、ペレット?牧草?
歯のエナメル質は6〜7です。では牧草はモース硬度6〜7の歯をすり減らせるのでしょうか。牧草のモース硬度は1〜2であると思いますので、牧草は歯を削れません。
では伸び続けるウサギの歯を削っているのは何なのでしょうか?
それはダイヤモンドと同じく、ウサギ自身の歯です。上下の歯がこすり合わされることで少しずつ歯が削れているのです。
ペレットだけだと「健康に長生き」は難しいかもしれない
だからといって、牧草が不要ということではありません。粉砕した牧草を含有したペレットだけでは咀嚼時間が短くなる上、あごの動きも単調になります。また、市販のペレットは牧草と一緒に与える前提で作られているので、食餌の全量をペレットで賄おうとすると、カロリー過多や栄養素の過剰摂取が心配です。
伸び続ける歯をすり減らすには長い咀嚼時間とあごの横運動が必要
ウサギの歯はある程度、咀嚼に時間がかかる食べ物を食べないと、歯がすり減る機会がなくなり、歯が伸びるペースと削れるペースが合わなくなってしまいます。ペレットのみの食餌の場合、臼歯が縦運動だけになりがちです。本来であれば、横運動で満遍なく削られるはずのところが、内側だけが削られて不正咬合になってしまう可能性もあります。
また、臼歯の内側だけが削れてしまうと、ナイフのように先がとがり、口内を傷つけます。それだけでなく、噛み合わない臼歯のせいで前歯にも影響が出てしまいます。
畜産の現場ではペレット飼料だけで育てられていますが、長く健康に暮らしてほしいウサギたちには、牧草も必要です。「咀嚼する時間を増やす」という意味では、牧草は歯の研磨には最適でしょう。
硬すぎるペレットは避けよう
海外で作られたペレットの中には、歯茎の弱った高齢ウサギには硬すぎるものもあるようです。高齢ウサギにとって硬いペレットを食べ続けると、不正咬合を招くかもしれません。ペレットの減りが少なかったり、歯の不調が疑われるようでしたら、ソフトタイプに変更すると、食べてくれるかもしれません。
人間の指でつぶせないペレットはハードタイプ
日本で多く流通しているのはソフトタイプのペレットで、人間の指でつぶせるくらいの柔らかさです。ハードタイプは指にぐっと力を入れても、なかなかつぶれないくらいの硬さです。ウサギの環境エンリッチメント協会が販売しているペレット「コンプリート1.0」はソフトタイプとハードタイプの中間くらいの硬さです。
糖質が多いフードは歯周病を引き起こす可能性がある
また糖質が多いおやつやペレットによって、歯周病を引き起こし、歯が弱っているウサギもいます。若くても食べづらそうに見えるのでしたら、動物病院の受診をお勧めします。診断結果によって、ペレットへの配慮が必要です。
遺伝的な要因や後天的な要因も
不正咬合の原因はいろいろありますが、遺伝的要因や金属のケージをかじるなどが要因であることも多いんです。
ロップ・イヤー種やドワーフ種など頭が短く可愛らしい種類です。本来は細長い顔が丸に近くなっているので、下あごのほうが長くなりがちで、遺伝的に不正咬合が生じやすい傾向にあります。
遺伝的な要因以外には、外傷や嚙み切れないものを噛んで歯が負けてしまうなどが考えられます。金属のケージをかじり、歯が傷ついたり曲がってしまったりするケースが多いんです。やめさせるのは難しいかもしれませんが、長く続くようなら牧草でできたボードや木の板などをケージに設置するといいですよ。
不正咬合になってしまったら定期的な通院を
不正咬合を悪化させる要因として、飼い主さんによる不適切なケアがあげられます。通院に時間を取られるのが嫌だからと、ニッパーやハサミなどで無理にウサギの歯を切ってしまうと、歯冠や歯根を傷つけ、取り返しのつかないけがを負わせてしまいます。そうなる前に、かかりつけの獣医さんのもとを定期的に訪れ、歯を整えてもらうようにしましょう。
いったん不正咬合になってしまうと治すのは難しいので、不正咬合防止のため、健康観察をかかさないように気を付けたいところです。
参考記事
うさぎの歯の病気「不正咬合」の症状・予防法とは【獣医師監修】
高齢ウサギにはふやかした柔らかいペレットを与えるべき?
ウサギは4歳を過ぎたら、人間でいう中年です。代謝が落ちてきますし、けがにも気を付けなければならない年齢です。7歳を過ぎれば高齢ウサギです。日々の健康観察が欠かせませんが、人間同様、個体差がかなり大きいんです。
自力でペレットを摂取できなくなったら、ペレットを水でふやかす、口元へ運ぶなどの処置をしなければなりませんが、病気をせず、元気に15歳を迎える子もいます。ですから、年齢だけで判断し、水でふやかした柔らかいペレットを与えるようなことはしなくていいでしょう。
健康なのに高齢だというだけで、ほとんど噛まずに飲み込めるような柔らかなエサを与えてしまうと、咀嚼回数が足りず、不正咬合を招きかねません。
エサを食べられず、あきらかに痩せてきたり、痛そうな様子を見せたりしているのでなければ、通常のえさを与えるようにしましょう。
年齢ごとに必要な栄養素は違う?ペレットは変えたほうがいいの?
ウサギにも成長期用やシニア用のペレットが売られています。お店に行くと、年齢によってたくさんのフードがありますが、どれを選べばいいか、迷ってしまいます。
赤ちゃんから青年になる時期、大人として成熟する時期、妊娠中や授乳中など、年齢や状態によってウサギが必要とするエネルギーは異なることは、これまでのコラムでもご説明しました。
若いウサギや授乳中のウサギには、通常の飼料に比べ、タンパク質や脂質は少し多め、繊維質は少し少なめにします。
成熟期は肥満につながらないように繊維質を多くします。妊娠時も肥満になると分娩に悪影響を及ぼしますので、エネルギー過多にならないように気をつけたほうがいいですね。
どのラビットフードを選べばいい?
では、実際にショップで販売されているラビットフード(ペレット)にはどのような種類があるのでしょうか。
ウサギのフードは、グロース・メンテナンス・シニア用に分かれている
成長期の子どもウサギ用はグロース、大人ウサギ用はメンテナンス、高齢ウサギ用はシニアとしているメーカーが多いようです。パッケージに説明が書かれているので参考にしてください。
普段は基本のエサとしてメンテナンス用、エネルギー量を増やしたい換毛期や授乳中はグロースを与えて調整するといいですよ。
私が開発に携わったラビットフードのコンプリート1.0は、全年齢のウサギに対応するように、普通のペレットより繊維質を多くし、牧草の食べる量に応じて給餌量を変えるようにしています。また牧草と同様の機能を持たせてあるので、不正咬合とうっ滞の予防効果もあります。熱処理も最低限にしてビタミンが壊れないよう配慮しています。
品種ごとに専用フードがあるけれど、含まれる栄養素が違うの?
ネザーランドドワーフ用、ホーランドロップ用などと品種別に専用フードがある場合、指定された品種以外のウサギに与えてはいけないのかと、迷われるかもしれません。
また、長毛種専用だから「毛艶をよくする栄養素を配合している」というようなことがあるのでしょうか?
品種別のフードにさほど違いはない
アミノ酸組成のバランスがいいフードがあれば、「毛艶をよくする」効果があるかもしれません。しかし、品種によるフードの違いは、私の個人的な意見ではありますが、さほど分けている意味がないように思います。原材料を見てみると、ハーブが配合されていたり、カロリーが調整されていたりします。品種の大まかな性格や体質に合わせているのかもしれませんが、大きく配合が違うわけではなさそうです。
どのような給餌試験が行われているかは明かされていないのでわかりませんが、もともと該当品種にしか与えていない可能性もありますね。
そもそもペットフード業界が参考にしている必要栄養素量は、ニュージーランドホワイト系雑種(大型種)のものです。ペットとして飼われることの多い小型種で、はっきりした品種名のあるウサギとは少し違うかもしれません。
毛艶が悪いのは選んだフードのせいではなく、病気やストレスのせいかもしれません。フードを変えた直後に体調を崩したのであれば、体質に合わない可能性もありますが、そうでないのなら病気かもしれないので、早めに動物病院に連れて行ったほうがいいと思います。
ほかの品種用のフードを与えても、健康上、大きな悪影響がすぐに出るということは考えにくいのですが、配合が違う飼料は味やにおいが異なるので、急に与えると嫌がるかもしれませんね。
ほかの小動物用のエサをウサギに与えても大丈夫?
デグーやチンチラ、モルモットなど、ウサギと同じくらいのサイズの草食動物を一緒に飼っている人もいます。では、種類の違う動物に、ほかの動物の専用フードを与えてもいいのでしょうか?
牧草は原材料がはっきりしているので、その動物に禁忌の植物でなければ与えても大丈夫。
しかし、複数の原材料で作られたペレット状のエサについては注意しなければなりません。
ネズミに近い雑食の動物用のエサにはでんぷん質が多く含まれているかもしれませんので、ウサギには合わないことがあります。
ウサギ用をエサをほかの動物に与えるのはリスクあり
ウサギのエサをほかの動物に与える場合のリスクもあります。以前お話ししたように、ウサギは体内でビタミンCを合成できる動物です。しかし、モルモットは体内でビタミンCを合成できないので、モルモットにウサギのエサを与える場合は、ビタミンCを飲水に混ぜるか、飼料に添加する必要があります。
ウサギは基本的には草食動物同士なら、同じ原料(牧草や大豆かすなど)で飼育可能です。
ただし、新たに購入するのであれば、ウサギ専用のフードにしたほうがいいと思います。
もちろん、キャットフードやドックフードを与えるのはNGです。ウサギは動物性たんぱく質や多量のデンプンを消化するような体ではありませんから、それが長期間に渡ると、確実に体調を崩します。
ペレットのほかにサプリメントは必要?
日本では戦時中の昭和20年代頃は、牧草と塩のみで飼育していたようです。
畜産での話ですが、日本全薬工業という会社で牛用の塩ブロックが販売されています。こちらの鉱塩は、天然の塩なのでミネラルが豊富に含まれています。以前はウサギ用も販売されていました。塩が配合されたペレットも市販されています。
牧草のみでは不足してしまうミネラルを塩から摂取すれば、理論上は栄養学的に満たされます。成長期で栄養要求量が多い時期は、アミノ酸やリジン、メチオニンなどが若干不足するとは思いますが、牧草を食べ放題にしてあれば、軟糞の食糞である程度、要求量は満たせるはずです。
では、飼いウサギに塩の塊をなめさせるのがいいのかというと、そういうわけではありません。飼いウサギを健康的に長生きさせるためには、現時点でわかっている必要栄養素量が満たされている、市販のペレットを食べさせるのが今のところはよさそうです。
メーカーごとにペレットの質にばらつきはあるものの、でんぷん質の過剰摂取や、繊維不足に気を配れば、問題はないでしょう。
ウサギには専用のフードとたっぷりの牧草を
犬や猫ほど細かく法律で栄養摂取量が定められないにしろ、市販のフードは多くのウサギたちが食べてきて、問題がなかったものだと思われます。必要栄養素量が完全に明らかになっているわけではない以上、飼い主さんが推測で配合する独自の飼料ではなく、市販品に頼らざるを得ないのが現状です。
また、寿命や体質に個体差が大きいため、すべてのウサギに同じエサを同じだけ与えても、成長具合は変わってきます。家族となったウサギの日々の様子をよく観察し、体重の増減や体調によって、フードの量を微調整してあげるのが健康への近道となるでしょう。
参考文献
霍野 晋吉、山内昭『ウサギの医学』.緑書房. 2018年
E. Blas and T. Gidenne. Digestion of sugars and starch. In: Nutrition of the Rabbit 2nd edition. CAB International. 2010.
C. de Blas and G.G. Mateos. Feed Formulation. In: Nutrition of the Rabbit 2nd edition. CAB International. 2010.
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