不正咬合は代表的なうさぎの歯の病気です。うさぎの歯は咀嚼(そしゃく)により擦り減り、それを補うため成長し伸び続ける特徴があります。
うさぎの歯は「成長」「摩耗」を繰り返し咬合バランスを保っています。

遺伝、外傷、食生活などが原因でかみ合わせがずれ、歯の成長に摩耗が追いつかなくなり、バランスが崩れ不正咬合となるのです。

今回は、ウサギの不正咬合の症状と予防法について、獣医師監修の元ご説明します。

うさぎの歯の特徴と構造


特徴的なウサギの歯、実は伸び続ける特徴があるのです。

草食動物であるうさぎは低カロリーで繊維質の高い食物を多く摂るため、上下の歯で擦り合わせ咀嚼(そしゃく)します。その結果うさぎの歯は、擦り減るのが通常の状態です。その削れた歯を補うために、常生歯といい、一生伸び続ける特徴があります。

歯の構造は前歯(切歯)6本、奥歯(臼歯)が22本の計28本です。目に見える前歯(切歯)は上下各2本だけですが、上前歯の裏側に小切歯が隠れています。

草の茎など硬いものは、上下に動かした前歯で小さくします。さらに左右にこすり合わせた奥歯で繊維質を消化しやすい大きさにします。これら一連の動き(咀嚼)は1分間に約120回といわれています。

不正咬合の症状


うさぎの歯の病気に「不正咬合」があります。うさぎは本来、硬い繊維質を食べることで正常なかみ合わせを保っています。しかし、歯が伸びるスピードと削れる速度のバランスが崩れることで不正咬合を発症するのです

上下の歯が正しく合わさっている状態が、うさぎの正常なかみ合わせです。前歯は飼い主さんでもよく観察、確認すれば気づけますが、奥歯の不正咬合は確認できません。定期的に獣医師さんに診てもらうことが大切です。

不正咬合を起こすことで、うさぎさんの様子や見た目にも異変が起こります。

症状1:食べづらそうにしている

かみ合わせが悪くなりうまく削れなくなると、歯は伸び続けてしまいます。奥歯(臼歯)の一部が伸びて先端が尖ると、口の中を傷つけます。痛みも伴うため食べづらくなり、食欲低下も引き起こします。

食事中に下記の様子がみられたら獣医師に相談しましょう。

  • 食べづらそうにしている
  • 食べたそうなのに食べられない
  • いつもより食べる量が減っている
  • 匂いだけ嗅いでやめる
  • 柔らかいものばかり食べる

痛みや食べられないことがストレスになるだけでなく、胃腸の動きも悪くなります。そのままにしてしまうと「うっ滞」を併発してしまうかもしれません。

【関連記事】
獣医師監修:うさぎの鬱滞(うっ滞)

症状2:よだれが出ている、顎が膨れ上がっている

顎がよだれで濡れている、触られるのを嫌がる場合は不正咬合を疑いましょう。口(特に顎下)の汚れ、脱毛も確認できるかもしれません。

よだれが多くなるとぬぐうため、前足の内側が汚れます。また口の周りにはよだれはなくとも、前足だけ汚れていることもあります。口周りだけでなく、前足にも汚れがないか確認しましょう。

下の臼歯の根元が伸びることで、顎に膿がたまり凸凹したり膨れ上がったりすることもあります。

症状3:涙が出ている、目が飛び出している

上の臼歯の根元が伸びることで内側から鼻涙管(涙が通る管)を圧迫すると、涙や目やにの原因になります。また、裏側から圧迫して眼球が飛び出してくることも。
目の周りが濡れている、気にして頻繁に顔を洗い前足の毛がいつも濡れているといった場合は要注意です。

その他の症状

上記3つは不正咬合を発症したうさぎさんに見られる代表的なものですが、ほかにもこんな症状が表れることがあります。

  • 口をモグモグさせる
  • 体重減少
  • じっとしている
  • 鼻水が出ている
  • 牧草をうまく食べられない、落とす
  • 給水ボトルからうまく水が飲めない

歯の位置や伸びる方向によって、出てくる症状や併発する病の種類は異なります。うさぎさんのお口は小さく、飼い主さんでは全体の確認はしづらいものです。見た目に異変が表れた段階で受診できるように、普段からよく観察しましょう。

うさぎの不正咬合の検査と治療


不正咬合は全てのうさぎさんの歯に起こる症状です。「ウサギの歯は◯cm」と決まっているわけではないため、正確な検査を飼い主さんが行うのは難しいかもしれません。
しかし、ちょっとした確認なら飼い主さんにもできます。
自宅でもできる確認方法と、動物病院で行っている検査、さらに治療方法を確認してみましょう。

検査のやり方

前歯(切歯)の状態は、うさぎの顔を固定し上唇と下唇をめくることで確認できます。上の歯が下の歯にかぶさっているのが正常な状態です。

前歯の状態は飼い主さんでもチェックできるので、定期的に確認してあげましょう。一方、奥歯(臼歯)の確認は難しいため、動物病院で耳鏡や鼻鏡などを用いての検査が必要になります。

歯を削る治療の内容

不正咬合の症状に応じて治療は変わりますが、以下の方法を行います。

  • 歯を削る(麻酔が必要になる可能性もあり)
  • 投薬(痛み止めや食欲増進剤など)
  • 抜歯(場合によっては)

前歯(切歯)の不正咬合については、生後8ヶ月までの成長期なら矯正治療が有効な場合もあります。前歯の過長は麻酔を用いずに歯科用の器具を使って、カット・調整ができます。しかし奥歯(臼歯)の不正咬合も合わせて起こしている場合は、一般的に全身麻酔による歯削りが必要です。

また、不正咬合が起きている歯を飼い主さん自らがニッパーなどで対処するのは絶対にやめてください。歯根に重大なダメージを与えるだけでなく最悪の場合、歯根にまで縦割れを起こしてしまいます。

うさぎの不正咬合の原因

ケージを齧るうさぎ
不正咬合を発症してしまうと、歯だけでなく全身への影響が懸念されます。そんな不正咬合の原因について見ていきましょう。

先天性のもの

遺伝によるものなど、生まれつきの不正咬合。特にダッチ系やロップイヤー種で多くみられ下顎過長症等があります。

外傷性のもの

不正咬合の原因に外傷が挙げられます。

  • ケージや硬すぎる木をかじり続けることで歯の根元に負担がかかる
  • 怪我や落下事故などで顎にダメージを負う
  • 歯が折れる、欠けてしまう

これらの事故が発生した場合は、すぐに動物病院を受診しましょう。

食生活によるもの

フードを食べるうさぎ
普段の食生活が不正咬合を起こす場合もあります。とにかく多種多様の牧草をうさぎさんに食べてもらうことが理想ですが、摂食不足、おやつ類を与えすぎると、咀嚼(そしゃく)の回数が減り、咬耗(こうもう)が不十分になってしまいます。

またペレットは飼いうさぎにとって欠かせない栄養源ですが、与える上で以下のデメリットが存在します。

  • 咀嚼回数の減少
  • 奥歯への負担

前歯で「噛み」奥歯で「すりつぶす」のが、うさぎ本来の咀嚼方法です。しかし、固形で硬いペレットは前歯では噛めず、どうしても奥歯で噛み砕くことになります。

前歯は使わないため、当然咀嚼回数は減少します。そのためペレットを与え過ぎるなどして牧草の摂食量が減少すると不正咬合の原因になる場合があります。

うさぎの歯を守るために「不正咬合」の予防方法

ペットうさぎの歯が伸びすぎるのを予防するには、正常な歯の咬耗を促す食生活をさせること、歯の外傷を防ぐ環境をつくることが重要です。

残念ながら先天性による不正咬合は予防できるものではありません。しかし、ここで紹介する「歯を守る生活」を行うことで、通院の頻度が減少する可能性があります。

うさぎさんは私たち人間と生活することによって、柔らかい物を食べるようになりました。それにより、歯が摩耗せず伸びてしまい歯の病気を起こしてしまうのです。

硬すぎないペレットを与えつつ、繊維質の高い牧草を主食にし、おやつ類は少量にしておきましょう。牧草をたくさんあげるように意識しましょう。

牧草を食べさせよう!好き嫌いを克服する方法

イネ科の牧草やチモシーの一番刈りは繊維質が高いためオススメですが、硬く太い牧草が多いためうさぎさんの中にはあまり食べない場合もあります。
その際は、二番刈り、三番刈りや他の牧草も試してください。

それでもなかなか食べてくれない場合は、電子レンジで牧草を少しあたためてみましょう。牧草の香りがうさぎさんの食欲をそそってくれるかもしれません。

うさぎさんのお気に入りだけでなく、食わず嫌いをなくすように色んな種類の牧草を与えるのがベストですが、一番重要なのはとにかく牧草を食べることです。

これらの方法を試してもうさぎさんが牧草を食べない、食べる量が減った場合は、不正咬合が進行している可能性があります。

また、カロリーの高いおやつやペレットをたくさんあげてしまうと、うさぎはそれだけでおなかがいっぱいになってしまいます。それにより牧草の摂取量が減少、歯をすり合わせる機会が減り、不正咬合を招いてしまうのです。

牧草の摂取は腸を正常に動かすためにも重要。胃腸うっ滞などの予防にもつながります。「主食を牧草にすることが健康を保つ」と覚えておきましょう。

普段からうさぎの様子をよく観察し、少しでも異変を感じたらすぐに動物病院で診てもらうことを心がけ、早期発見・早期治療に努めましょう。

2021年10月、待望のウサギの完全栄養食『コンプリート1.0』が誕生

コンプリート1.0は、これまでのフードの弱点を克服し、牧草を食べているのと同じ状態を作り出します。

具体的には、

1.豊富な繊維質の摂取によるうっ滞予防

2.咀嚼回数の増加により咬耗が促進され不正咬合の予防

3.低カロリーにより肥満の防止

コンプリート1.0は、最新の臨床獣医学と栄養学に基づいて共同開発されたウサギの完全栄養食ですので、牧草をまったく食べない子にも対応していますので、牧草をしっかり食べる子から全く食べない子までしっかりサポートできる理想のラビットフードです。

詳細、ご購入は<こちら>から

飼い主さんができる環境面の工夫

かじり木などのかじるおもちゃや硬すぎる木はストレス解消用であり、歯の伸びすぎを予防するグッズではありません。それを使用したことで、かみ合わせが悪くなるなど、不正咬合になる可能性があります。

また、ケージの噛み癖を持っているうさぎさんの場合、ケージの隙間に金網をつけたり、フェンス型のかじり木をつけるなど、ケージを直接かじらないようにしましょう。同時にケージをかじらないようしつけを行うことも重要です。

🐇ワンポイント・アドバイス🐇

遊びたい、ご飯が欲しいなど、うさぎさんはケージをかじることで要求してくる場合があります。その要求に応じているとケージをかじると要求が通ると覚えてしまいますので、むやみに要求に応えないようにすることが大切です。

不正咬合のうさぎ・すぐ受診できない時の空腹対策

不正咬合をそのままの状態にしておくと、正常な歯にも進行するため、気づいたらすぐに動物病院へ受診しましょう。早期の治療も予防の一つ、悪化を防ぐのです。

しかし、すぐに獣医さんに診察をしてもらえないこともあるでしょう。うさぎさんは常に胃を動かさなければいけない生き物です。不正咬合を発症し、食欲が低下していて生命の危機になっているかもしれません。その場合は、ペレットをふやかして与えるなど、シリンジを使い強制給餌を行うなどの方法で胃を動かしてあげましょう。

これらは、飼い主さんとうさぎさんに信頼関係があってもすぐに行えるものではありません。事前に獣医師さんや専門店などから方法を学んでおきましょう。
牧草を食べるうさぎ

不正咬合は繰り返しやすい病気

不正咬合は放っておいても治る病気ではなく、一度かかってしまうと繰り返し発症する可能性が非常に高いものです。定期的に通院し、獣医師さんに歯の確認をお願いしなければなりません。

また不正咬合がひどいと、うさぎさんの力だけでは歯を正常な長さに保てず、獣医師さんに削ってもらう必要も出てきます。前歯は3〜4週間に1回、奥歯は1ヶ月〜数ヶ月に1回程度の頻度で通うため、うさぎさんにとって心身ともにストレスです。

不正咬合にならないよう積極的に予防対策をしましょう。

「繊維質の多い牧草に変えたいけど、どれにすればいいかわからない」
「万が一のことを考えて、ペレットのふやかし方を知りたいけどネットの情報だけではわからない」

ラビットリンクはうさぎさんと周辺グッズを扱っている、うさぎ専門の販売店。不正咬合を防ぐための最適な牧草や用品も取り揃えています。飼い主さんが疑問に思うことはお気軽にご相談ください。うさぎさんと飼い主さんの充実した毎日のお手伝いをしています。ぜひ当店の可愛いうさぎさん達に会いにきてくださいね。


◆不正咬合の予防には牧草をしっかり食べることが一番です。牧草をしっかり食べさせる方法は〈こちら〉をご覧ください。

◆ケージを齧る行為は不正咬合の原因となります。ケージを齧る子には、ケージを直接齧らせないようガードしていただくことが効果的です。ガードにお使いいただく便利な商品としては〈かじがじフェンス〉、〈チモシーボード〉などがあります。

◆不正咬合が原因で牧草やフードが食べられない時は強制給餌が必要になります。強制給餌は、フードをお湯や100%果汁のアップルジュースなどでふやかして潰したりして与えるほか、「ケアフード」も充分な栄養を補給できるうさぎ専用の介護食ですので、お手元にあると大変重宝します。


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齊藤万里子

うさぎの専門雑誌『うさぎと暮らす』元編集長。 『うちのうさぎのキモチがわかる本』元編集部員。 現在はフリーでペット関連書籍・雑誌の執筆・編集を行う。