※当コラムは斉藤先生の臨床経験をもとに、ウサギの医学書や論文など専門的な文献を参照して執筆しています。ウサギと暮らす飼い主さんにとって有益で正確な情報の発信に努めていますが、記載内容は執筆時点での情報であること、すべてのケースに当てはまるわけではないことをご理解願います。

こんにちは。うさぎの環境エンリッチメント協会専務理事の橋爪です。ウサギの最新の飼育方法を発信しているウェブマガジン「うさぎタイムズ」の編集長や、うさぎ専門「ラビット・リンク」のオーナーをしています。 プライベートでも5匹(3男2女)のウサギさんと暮らしています。

ウサギの診療実績が年間4,000件と豊富なご経験をお持ちの斉藤動物病院の院長・斉藤将之先生にお話を伺うこちらのコラム。
診察室ではなかなか聞けないお話や、ウサギを診る獣医師の本音などお話ししていただきます。

第13回のテーマは「避妊手術」。女の子うさぎの飼い主さんにはぜひ知っていただきたいトピックです。

草むらにいる白と茶色のうさぎーウサギ専門医に聞く(13)避妊手術は受けるべき?子宮疾患を防ぎ寿命を伸ばすには

ウサギの避妊手術の目的は、繁殖防止と病気の予防

ウサギに避妊手術を受けさせる主な目的は、

①予定外の繁殖の防止
②子宮の病気の予防

の2つ。①は想像できると思いますが、斉藤先生が強調するのは②子宮疾患の予防です。

斉藤先生「メスは年齢とともに子宮疾患のリスクが跳ね上がります。メスウサギは4歳で約60%、6歳で約80%もの確率で、子宮がんといった子宮系の病気にかかるとされています。避妊手術を受ければこの確率をゼロにできますから、予防手段として非常に有効です」

出産経験と「子宮の病気のかかりやすさ」は無関係

ヒトは出産経験があれば子宮疾患にかかりにくいと聞くことがあります。「健康のために、一度くらいは産ませてあげた方が良いの?」とお店でもよく尋ねられるのですが、医学的にはどうでしょうか。

斉藤「私も同様の質問を非常に多く受けますが、ウサギでは出産経験と子宮疾患の罹患率は、現時点で関連性が証明されていません。

自然界のウサギに子宮疾患が少ないので、これを“自然のままに繁殖していること”と結びつけ、このような説が生まれたのかもしれませんね。でも、自然界のウサギが子宮疾患にかかりにくいのは、子宮疾患になるほど長生きできるケースが少ないからだと思います」

子宮疾患の罹患率が高いのは、人間と暮らすウサギならではと斉藤先生は言います。

飼いウサギはなぜ子宮の病気になりやすい?

斉藤「自然界のウサギはほとんどが捕食されてしまうので、寿命は2〜3年。対する飼いウサギは非常に長生きで、近年は飼育環境や栄養状態が向上したため、10歳を超えるご長寿の子も増えています。

一方で、ウサギは一度も子どもを産まないままで2歳を超えたら、もう出産できません。出産を繰り返していれば4歳頃まで産めますが、一般的な飼いウサギの場合、まれなケースだと思います。
出産できなくなっても性ホルモンは出続けるので、これが刺激となり子宮疾患になるんです」
2匹のつがいのウサギーウサギ専門医に聞く(13)避妊手術は受けるべき?子宮疾患を防ぎ寿命を伸ばすには
他のペットもこんなに子宮の病気にかかりやすいのでしょうか?

斉藤「イヌやネコも寿命が伸びるにしたがって、子宮疾患が増える傾向にあると思いますが、ウサギと単純に比較はできません。というのも、イヌやネコは、繁殖させるつもりがなければ避妊手術を受けさせる飼い主さんが圧倒的に多いので、必然的に、子宮の病気も少ないんです」

飼い始める時点で避妊手術も念頭に置くのがイヌやネコではスタンダードになって来ていますが、ウサギはまだそうではないとのこと。斉藤先生の診察する女の子ウサギで、避妊手術を受けている子は7割くらいだそうです。
ウサギに子宮疾患が多い背景には、このような事情も関係あるのでしょう。

避妊手術を受けさせればおとなしくて扱いやすい子になる?

性ホルモンは行動に影響を与えることが知られています。人間でも「生理前にイライラする」「産後、誰にも我が子に触れて欲しくないと感じる」などは性ホルモンと関連づけて説明されますよね。ウサギも避妊手術を受けると攻撃的な行動が減少したり、穏やかな性格になったりしますか?

斉藤「攻撃的な行動が減ったという声もありますが、あくまで少数です。“凶暴すぎて手に負えないから避妊手術を受けさせたい”と言われたら、避妊手術ではほぼ治らないですよ、とお話ししています」

ホルモンのせいにするのではなく、性格の問題と受け入れる方がいいかもしれませんね。予定外の繁殖防止と病気予防が避妊手術の主目的だと考えましょう。

ウサギの避妊手術でおすすめの時期・手技

斉藤先生のおすすめは生後6ヶ月〜1才頃に手術を受けることだそうです。

斉藤6ヶ月未満では未成熟のため、卵巣が非常に小さく、組織を取り除くのが困難なことがあります。逆に1歳を超えると、内臓脂肪が増えるぶん手術の難易度がやや上がるのと、切開する範囲が広がるため傷も大きくなり、ウサギの負担が増えます床に寝そべる白と茶色のうさぎーウサギ専門医に聞く(13)避妊手術は受けるべき?子宮疾患を防ぎ寿命を伸ばすには

早めの手術なら、卵巣を取るだけで済むので負担が少ない

1歳未満で手術を受ければ、卵巣だけを取るという、子宮全摘より簡易な方法で済むのもメリットなのだとか。子宮疾患の予防目的なのに、子宮を残して大丈夫なのでしょうか?

斉藤「子宮疾患の原因は、卵巣から出るホルモンです。子宮が卵巣からのホルモンを長期間受けなければ、子宮疾患にはなりません。

当院の場合、2歳くらいまでの子の避妊手術は、子宮をチェックし問題なければ子宮は温存します。しかし3歳以上では、肉眼や画像では子宮が綺麗に見えても、ごく小さい病変が隠れている可能性を考慮して必ず摘出します」

避妊手術の適齢期への考え方や術式は獣医師によって異なり、6ヶ月の子でも子宮全摘する病院もあるそうです。術前に、担当医師に確認しておきましょう。

傷が小さく、処置が簡単な方がウサギの負担は少なくなります。さらに、年齢が上がってからの手術ではすでに子宮疾患に罹患しているリスクもありますから、避妊手術を受けると決めたなら「適齢期を迎えたら早めにやってあげる」という視点が大切です。

ちなみに避妊手術は原則、ペット保険の適用外となり、手術費用は全額、自己負担になります。女の子ウサギをお迎えする際には、初期費用の一部として、見込んでおいていただくと良いかもしれません。

避妊手術のリスクとデメリット「太りやすい」の真相は

避妊手術のデメリットは第一に、手術にともなうリスクで、代表的なのは、全身麻酔により術中に急変する、そして術後に食欲不振が続き消化管うっ滞を起こす、というもの。

全身麻酔に関しては去勢手術の回で詳しく説明していただきましたが、近年はかなり安全に行えるようになってきたそうです。ウサギの診療に慣れた病院を選ぶのが前提ですが、「ウサギの手術はハイリスク」と決めつけず、冷静な判断が求められるところです。
牧草の上に座る黒白のウサギーウサギ専門医に聞く(13)避妊手術は受けるべき?子宮疾患を防ぎ寿命を伸ばすには
ただし、避妊手術はオスの去勢手術より、術後の消化管うっ滞を起こすリスクが高いのだとか。避妊手術は開腹して行うので、術中操作で腸に触れることがあるからだそうです。

斉藤「帰宅後も食欲が戻らないケースがしばしばあります。また、傷口を気にして舐め、縫合糸が外れてしまったらまた連れて来てもらわねばなりません。

これらに備え、当院では念のため、卵巣のみの摘出で1泊、子宮卵巣全摘出なら3泊4日入院してもらっています」

術後何かあっても対応できるよう、避妊手術も、通える範囲の病院を選ぶことが大切です。

体重管理は飼い主さんの頑張りどころ

術後に太りやすくなるのは、オスの去勢手術と同様とのこと。個体差はあれど、「おやつを与えたら即体重が増えるので、なかなかあげられない」となる可能性もある、と斉藤先生は言います。
こまめに体重測定をする、ペレットの量はきちんと測って調整するなど、肥満には生涯、気をつける必要があります。ウサギも頑張って手術を受けてくれたわけですから、体重管理は、飼い主さんが頑張ってあげてほしいところですね。

病気予防の意味が大きいウサギの避妊手術 女の子をお迎えするなら検討を

ウサギに避妊手術を受けさせることで、子宮疾患を防いで寿命を伸ばせる、と斉藤先生は強調します。ただ、健康な体にメスを入れることには抵抗感もあります。手術の必要性について、斉藤先生はどう考えるのでしょうか。

斉藤基本的に避妊手術は受けさせてあげてほしいと思っています。
子宮がんが見つかってからでは、すでに転移していて処置できないケースも少なくないからです。

子宮疾患の罹患率の高さは、無視できるものではありません。適切な時期に避妊手術を受けることで、子宮がんで命を落とすリスクはゼロにできます。寿命を伸ばすことに大きく貢献する確率が高いので、避妊手術はウサギ自身にとっても大きなメリットがあると思います」

避妊手術を受けさせた方が良いのか、迷う飼い主さんもいらっしゃると思います。手術をする・しない、どちらの選択も、ウサギのことを真剣に考えた末の決断であれば、尊重されるべきです。
避妊手術を受けない場合は、3歳以降は子宮疾患になるリスクが非常に高いことを意識し、高頻度に定期健診を受けるなど、十分な対策をとってあげてほしいと思います。

聞き手:橋爪
編集:うさぎタイムズ編集部

※当コラムでは、人間と暮らす多くのウサギが健康で長生きできるよう、疾患についての情報を共有するため、情報発信を行っています。個体により状況は異なりますので、ウサギの状態で気になることがあれば、かかりつけにご相談されることをお勧めします。当コラムの内容閲覧により生じた一切のトラブルについて、うさぎの環境エンリッチメント協会並びに斉藤動物病院、ラビットリンクでは責任を負いかねます。


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橋爪宏幸

うさぎタイムズ編集長。 うさぎ専門店「ラビット・リンク」のオーナー。 一般社団法人うさぎの環境エンリッチメント協会 専務理事。 ExoticpetSaver FirstResponder。 ExoticpetSaver Emergency Rescue Technician。 現在ニンゲン3人のほか、長男:ミニチュアダックスの桜花、次男ホーランドロップのカール、三男:ネザーランドドワーフの政宗、長女:ホーランドロップのミラ・ジョボビッチと暮らしている。