動物の「行動」を知れば、本当の姿と「心」が見えてくる!
ウサギの生態はまだまだ研究途上、謎に包まれた部分がたくさんあります。こちらのシリーズでは「ウサギの行動」を読み解くことで、その不思議にせまります。

ペットのウサギは「アナウサギ」、自然界では群れで暮らす社会性のある動物です。単独で飼育する場合も、飼い主さんの家庭という「社会」で生きることは同じ。群れでの行動を知れば、ウサギの生活を充実させることに役立てられるかもしれません。

今回は、ウサギの社会はどんなものか、野生のウサギたちの集団での暮らしぶりについてご紹介します。
寄り添うウサギー動物行動学者監修 ウサギの群れでの暮らし・社会のしくみを探る

ウサギたちの共同生活体ってこんな感じ

ウサギは大人のオス・メスが2〜10頭集まったグループを作り、地下に掘った巣穴で一緒に暮らします。時には、これが複数あわさって大きな群れになることもあります。

男も女も「序列」が肝心!ウサギ界のルールとは

群れでは、オスはオス同士、メスはメス同士でランク付けがあります。序列は、無駄な「内輪揉め」を避け、スマートに暮らすための知恵なんです。
では、オスとメスはそれぞれ何をめぐって争うのでしょうか?

オスはメスを、メスは子育て用の巣穴を求める

優位なオスは、メスの暮らす巣穴を囲うようにテリトリーを作り、他のオスから守ります。「妻」の他にも「第一夫人」「第二夫人」といった具合に複数のメスを従えることもあり、ランクが高いオスほどたくさんの子を持てる確率が高いのです。

続いてメスは、子育て用の巣穴を他のメスから守ります。メスは共同住宅である巣穴の一室で子育てをすることもあれば、別に、子育て専用の短い巣穴を掘ることもあります。優位なメスは、条件のより良い巣穴を使用できます。

生き物の究極の目的は自らの遺伝子を残すことですが、ウサギもそのために行動しているんですね。

劣位のウサギにとって子孫を残せるかはシビアな問題

強い個体だけが子孫を残せるのも自然界の掟ですが、ウサギにもこれがはっきり見られます。

子孫を残しやすいのは優位なオスと優位なメスー動物行動学者監修 ウサギの群れでの暮らし・社会のしくみを探る

まず、劣位のオスには交尾の機会がなかなか訪れません。優位なオスがテリトリーをパトロールし、自分のメスに近づかないか監視しているからです。

メスの場合、序列が低くとも妊娠のチャンスはありますが「胎児の再吸収」が起こり、出産に至らないケースも多くあります。

妊娠中のウサギは胎児を自らの体に再吸収することがあると、ウサギの子育ての秘密〜妊娠・出産から育児まで〜でご紹介しました。
再吸収は劣位のメスに限ってみられたという報告があり、メスのほとんどが生殖行動をしていたにも関わらず、出産した個体はその半分だったという観察結果もあります。
ウサギは交尾したら高い確率で妊娠しますが、約半分しか出産しなかったというのですから、序列の与える影響の大きさがわかります。

「下剋上」もあり? どんな母から生まれてもチャンスはある

一方で、優位な母ウサギが産んだ子が、必ずしも成功を納められるわけではない、というデータもあります。人間だと、お金持ちの家庭に生まれたら財産を受け継いで裕福な暮らしを送れますが、ウサギはそうはいかないらしいのです。

実験ではまず、メスたち(第一世代)を観察して個体ごとのランクを決めました。次に、メスから生まれた子たち(第二世代)が産んだ子で、成熟するまで生き残れた子(第三世代)の数をかぞえ、「生涯の繁殖成功度」としました。

ウサギの優劣は、母のランクでは決定しないー動物行動学者監修 ウサギの群れでの暮らし・社会のしくみを探る

結果、第二世代の子の生涯の繁殖成功度は、第一世代の母ウサギの序列とは関係なかったことが明らかになったというのです。

ウサギ界では「春生まれ」が有利

メスウサギにとっての成功は「家柄」とは無関係であるようですが、完全に本人の努力次第というわけでもありません。生涯の繁殖成功度の高い個体を分析してみると「生まれた時期」が大きく関係しているとわかりました。

自然界では、食べ物の豊富な早春〜秋に繁殖シーズンを迎えるウサギ。最も早い赤ちゃんは春先に生まれますが、遅い子は秋口に生まれます。子ウサギたちの序列は翌年の繁殖シーズンを迎えるときに決まりますが、この際、有利に立てるのは春生まれの子なんです。

秋に生まれた個体は、体が十分発育する前に厳しい冬を迎えねばならず、この体格差が、後のランク決定にも大きく影響します。そして、確定した序列は簡単にはくつがえりません。

生まれた時期によって序列が決まってしまうウサギー動物行動学者監修 ウサギの群れでの暮らし・社会のしくみを探る

生き物は、グーンと伸びる子ども時代に十分な栄養を摂らなければ、立派な身体が作られません。ヒトも、大人になってからたくさん食べても、ただ太ってしまうだけですよね。ウサギも、成長期をどう過ごすかが肝心なのです。

ウサギの社会はけっこう柔軟 環境で群れの暮らしも変わる

ウサギの群れでの暮らしぶりについては諸説あります。この背景には、調査対象となったウサギの生息環境の違いも関係していそうです。

例えば、安定した土壌は掘り進めやすく、巣穴をどんどん拡大できるので、多くのウサギが暮らせるスペースが生まれます。逆に、崩れやすい砂質の土壌ではこうはいきません。
群れのサイズは「最大で数十頭」とも「数百頭」とも言われますが、この差は、その地域の巣穴の掘りやすさと関わりがあると考えられます。

ウサギの群れー動物行動学者監修 ウサギの群れでの暮らし・社会のしくみを探る

暮らしぶりのばらつきは「地域性」もあるのかも?

人間では「国民性」「県民性」のように、気質に地域差があることが知られています。気候が温暖な南国の人はおおらかで、厳しい冬を過ごす北国の人は真面目、などと言われることもありますよね。

ウサギも、気候や、捕食されるリスクの高低など、生息地を取り巻く環境は場所ごとに異なります。その結果、ウサギの気質にも差が生まれ、それが群れでの行動に影響を及ぼす可能性もありそうです。

ウサギにとって仲間はどんな存在?人間関係ならぬ「ウサギ関係」の実情とは

ウサギにとって「仲間と暮らすこと」にはどんな意味があるのでしょう。
ウサギはたいてい、一度に複数匹生まれます。だから、仲間に囲まれているのが当たり前なんです。

「社会で暮らすこと」は子ウサギのストレスを緩和し、健全な発達をうながす

兄弟のいる環境で飼育したウサギの方が健全に発育した、という報告があります。

実験では、子ウサギを生後20日目まで、1日15分の授乳時間以外は隔離し単独で育てました。すると、兄弟と一緒に育てられたウサギに比べて覚醒時間とお乳を飲む量が少なく、体重増加率も低かったというのです。

海外の専門家の間でも、ウサギは仲間がそばにいると基本的にQOLが高まるので、複数で飼育した方がのぞましいと考えられています。

かごに入るウサギー動物行動学者監修 ウサギの群れでの暮らし・社会のしくみを探る

では群れで暮らすウサギたちはメンバーと密接に交流し、常に一緒に過ごしているのでしょうか? ウサギの行動を細かく調査したところ、必ずしもそうとは言えないことがわかってきたんです。

まるでソーシャルディスタンス? 仲間から「程よい距離」をキープするウサギたち

実験は野生のウサギの群れを対象に行われました。ウサギたちが日常的に、物理的にどのくらい近づいているかを調べるため、捕獲した一部の個体に「近接ロガー」を取り付けました。

近接ロガーは、ロガーを装着された別の個体と50〜100cmの距離に入ったとき、2頭が「近づいた」と検知して記録できる装置です。これを合計126頭に装着し、およそ半年間、接触の回数と時間を調べました。

その結果、ウサギが同じ群れの仲間同士で近づいた回数は、個体によってバラツキが大きいものの中央値が1日に0.54回、そして接触時間の中央値は29秒だと明らかになりました。
同じ巣穴で暮らし、餌場も同じであることを考慮すると、この数値はかなり少ないのではないでしょうか。「ソーシャルディスタンス」を意識しているかのように、互いに距離を置いていることがわかります。

さらに、個体差の開きも注目すべきポイントです。1日に最高12回、合計3.5時間も一緒にいる個体もいました。一方で、メンバーとの接触がほとんどない一匹狼ならぬ「一匹兎」も確認されたんです。

長い時間を共に過ごしたのは主に繁殖期のカップルですが、同性のウサギにも「気の合うやつ」と「そうでないやつ」がいるのでしょう。子ども時代を一緒に過ごしていた、兄弟・姉妹の場合は、寄り添うことで安心感が得られるようです。

伏せるウサギー動物行動学者監修 ウサギの群れでの暮らし・社会のしくみを探る

今回の結果はあくまでも一例です。ですが、このことからは、ウサギは群れで生活していても「私は私、あなたはあなた」というような、サバサバした関係を好む傾向があると読み取れます。

距離があるのも、ウサギが群れで暮らす意味を考えればごく自然なこと

このような関係性も、ウサギが群れで暮らす目的に照らし合わせれば不思議はないんです。

ライオンのように、群れで狩りをして獲物を分け合うものや、群れのメスが我が子だけでなく他の子の面倒を見るものもいます。このような動物では、仲間同士の密なコミュニケーションは欠かせません。

ウサギの場合、群れで暮らすのは、エサを食べるときの警戒の目が増え、巣穴ほりが楽になり、繁殖相手を探し回らなく良いからです。裏を返せば、これら以外では日常的に仲間と協力する必要がないとも言えます。むしろ、はっきり序列があるため「近づきすぎ」は、要らぬトラブルの元になる可能性すらあります。

このような事情で、ウサギ達は基本的に、距離をおいた関係性を好むのかもしれません。

ウサギの後ろ姿ー動物行動学者監修 ウサギの群れでの暮らし・社会のしくみを探る

群れを出るべき、残るべき? 若者ウサギの「分散戦略」

群れを作る動物は近親交配が起こらないよう、成熟したオスが群れを離れるという「分散戦略」をとることが多いのですが、これはウサギも同じです。

ウサギの場合、メスが生まれた群れに留まることが多いのは、その巣穴は母親が繁殖に成功した実績のある場所であり、自らもそこで安全に子育てができる可能性が高いからです。

しかし、必ずしも、すべてのオスが移動し、メスが留まるわけではありません。群れの状態によってウサギは分散戦略を変えていることがわかってきました。

野生のウサギを対象にした観察によると、オス・メスともに、群れの密度が低いときの方が多くの個体が遠くまで移動することを選択していました。逆に、密度が高いときは移動するウサギの割合は低く、移動距離も短かかったのです。

群れの密度が高いほうが広々とした空間を求め、遠くに移動しそうにも思えますが、なぜ真逆の行動をとるのでしょうか?

ウサギの分散戦略は、豊富なエサ場と繁殖相手を得るための行動なのかも

考えられる理由は、仲間が多い環境の方がウサギにとっては好都合ということです。たくさんのウサギが暮らす場所には、それを支える豊富なエサがあるはずです。さらに、群れのメンバーが多いほど、繁殖相手にめぐりあうチャンスも増えます。

ウサギたちは、移動開始する少し前の段階で、生まれた巣穴の周りや隣接する巣穴を探索するそうです。これは、大人になった後もその巣穴で暮らしていけるか確認するためと考えられています。

人間でも成人すると、実家に留まろうか、親元を離れ都会に出ていこうか悩むものですが、ウサギにも似たような葛藤があるのかもしれません。

走るウサギー動物行動学者監修 ウサギの群れでの暮らし・社会のしくみを探る

複数飼育のポイントは?群れでの暮らしぶりから見えてくること

1頭を飼育して十分な余裕があり、さらにウサギの幸せを考えるなら、もう1頭迎え入れることを検討するのも手段の1つです。でも、複数飼育では、1頭で飼っていた頃には思いもよらない問題も出てくるので、十分な準備が必要です。

「序列付け」はウサギが共に暮らす上での宿命

避けられないのがお互いの順位付け。「僕の方が上」「俺だって負けないぞ」と、張り合うのは本能ですから、やめさせることはできません。マーキングの一種であるスプレー行為がひどくなる、大怪我を負うような激しいケンカに発展するなどの可能性もあります。

  • 去勢・避妊手術を受けさせる
  • ケージは1頭につき1つずつ用意する
  • 順位付けが激しくなりがちなオス同士での飼育は避ける
  • 相性が悪そうならケージの場所を離す

などで上記の困りごとは緩和できます。

野生のウサギの暮らしぶりには、ウサギが喜ぶ接し方のヒントがある

ウサギは社会性のある動物とはいえ、個々の関係性はあっさりとしたもの。飼い主さんとの関係でも「過度にベタベタしない」という視点を持つのは大切です。

もちろん個体差はありますが、「落ち着けるスペースは確保したうえで、人間の家族が視界に入る」くらいがウサギにとってはちょうど良いと考えてください。愛情たっぷりに遊んであげるのとは別に「おひとりさま」を楽しめるよう配慮するのも、ウサギと良い関係を築くためのポイントです。

行動観察から環境エンリッチメントを始めよう

ウサギの行動がもつ意味を知ると、新たな一面が見えてきます。そして、環境エンリッチメントを実践するうえでも、動物の行動の意味を深く考えることはとても大切です。

動物行動学者監修ウサギの「かじる」謎にせまる image12

「環境エンリッチメント」というと、少し耳慣れない言葉かもしれませんが、その基本は、動物の目線に立って考える、というシンプルなものです。そして、動物たちの行動をよく観察することは、その第一歩になります。

うさぎの環境エンリッチメント協会は、飼いウサギの「ウサギらしさ」を引き出し、そして、私たち人間と楽しく活動的に暮らしていけるよう、これからも、ウサギの『生活の質=Quality of Life』の向上に役立つ情報を発信していきます。

一般社団法人 うさぎの環境エンリッチメント協会

参考文献
① Wiley Blackwell(2010). Behavior of Exotic Pets. pp.69-77.
② Teresa Bradley Bays, Teresa Lightfoot and Jörg Mayer(2006). Exotic Pet Behavior. pp.1-44.
③ 山田文雄『ウサギ学ー隠れることと逃げることの生物学』.東京大学出版会. 2017年
④ R・M・ロックレイ著・立川賢一訳『アナウサギの生活』.思索社. 1973年
⑤ うさぎの時間編集部編『うさぎの心理がわかる本』. 誠文堂新光社. 2012年
⑥ David P. Cowan(1987). Aspects of the Social Organisation of the European Wild Rabbit (Oryctolagus cuniculus). Ethology 75, pp.197-210
⑦ Heiko G. Rödel, Dietrich Von Holst, Cornelia Kraus(2009). Family legacies: short- and long-term fitness consequences of early-life conditions in female European rabbits. Journal of Animal Ecology 78(4), pp.789-797
⑧ Dietrich von Holst, Hans Hutzelmeyer, Paul Kaetzke, Martin Khaschei, Heiko G. Rödel & Hannelore Schrutka(2002). Social rank, fecundity and lifetime reproductive success in wild European rabbits (Oryctolagus cuniculus). Behavioral Ecology and Sociobiology 51, pp.245–254
⑨ Darlene DeSantis, Stephen Waite, Evelyn B.Thoman, Victor H.Denenberg(1977). Effects of isolation rearing upon behavioral state organization and growth in the rabbit. Behavioral Biology 21(2), pp.273-285
⑩ Maija K. Marsh, Michael R. Hutchings, Steven R. McLeod, and Piran C. L. White(2011). Spatial and temporal heterogeneities in the contact behaviour of rabbits. Behavioral Ecology and Sociobiology 65(2), pp.183-195
11  B. J. Richardson, R. A. Hayes, S. H. Wheeler and M. R. Yardin(2002). Social structures, genetic structures and dispersal strategies in Australian rabbit (Oryctolagus cuniculus) populations. Behavioral Ecology and Sociobiology 51, pp.113–121


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橋爪宏幸

橋爪宏幸

うさぎタイムズ編集長。 うさぎ専門店「ラビット・リンク」のオーナー。 一般社団法人うさぎの環境エンリッチメント協会 専務理事。 現在ニンゲン3人のほか、長男:ミニチュアダックスの桜花、次男ホーランドロップのカール、三男:ネザーランドドワーフの政宗、長女:ホーランドロップのミラ・ジョボビッチと暮らしている。