※当コラムは斉藤先生の臨床経験をもとに、ウサギの医学書や論文など専門的な文献を参照して執筆しています。ウサギと暮らす飼い主さんに有益で正確な情報の発信に努めていますが、記載内容は執筆時点での情報であること、すべてのケースに当てはまるわけではないことをご理解願います。

こんにちは。うさぎの環境エンリッチメント協会専務理事の橋爪です。ウサギの最新の飼育方法を発信しているウェブマガジン「うさぎタイムズ」の編集長や、うさぎ専門「ラビット・リンク」のオーナーをしています。 プライベートでも5頭(3男2女)のウサギさんと暮らしています。

ウサギの診療実績が年間4,000件と豊富なご経験をお持ちの斉藤動物病院の院長・斉藤将之先生にお話を伺うこちらのコラム。
診察室ではなかなか聞けないお話や、ウサギを診る獣医師の本音などお話ししていただきます。

第24回のテーマは、緑内障です。
ウサギの目ーウサギ専門医に聞く(24)緑内障は「痛い」失明のリスクは?手術で治るの?

ウサギの緑内障ってどんな病気?

緑内障とは、おもに眼圧の上昇によって目と脳をつなぐ視神経が圧迫され、痛みが出たり、視力に障害をきたしたりする病気です。人間の眼科疾患でもよく耳にしますから、身近なイメージをお持ちの人もいるかもしれません。

斉藤「目の病気で当院にいらっしゃる子の中で、緑内障の子は3割程度だと思います。緑内障だけを単独で発症する“原発性緑内障”より、斜頸エンセファリトゾーンぶどう膜炎などに引き続いて起こる“続発性緑内障”の方が多いですね。

続発性緑内障では、緑内障と他の疾患のどちらが先だったのか特定が困難なこともありますが、発症の原因がなんであれ緑内障に対する原因は同じです」

人間の緑内障と同じく、年齢が上がるごとに罹患率も上がるのでしょうか?

斉藤「ウサギの緑内障は加齢が直接の原因ではないのですが、実際には1〜2歳で発症することは少ないですね。他の病気から続いて緑内障になることが多いとお話しましたが、年齢を重ねることで他の疾患にかかる確率も上がるからだと思います。
片目だけに起こるケースと両目に起こるケースで、割合としては同じくらいです」

緑内障の原因「眼圧上昇」はなぜ起こる?

眼圧は「眼球内部の圧力」のこと。眼球の内側は房水(ぼうすい)と呼ばれる液体で満たされており、房水の量が一定に保たれることで眼球は丸い形を維持しています。「眼圧が高い」とは、房水量が増えすぎ、眼球がパンパンに膨らんだ状態です。
眼球の断面イメージーウサギ専門医に聞く(24)緑内障は「痛い」失明のリスクは?手術で治るの?
斉藤「眼圧が上昇する原因は、房水が作られる量が多すぎる、または、房水の排出がうまくいかない、のどちらかです。
眼の構造に生まれつき異常がある、もしくは、眼球の内部に炎症がある場合にこれらの問題が起こります」

先天的に「緑内障になりやすい子」がいるんですね。

斉藤「遺伝性緑内障が多いとされているのはニュージーランドホワイト種ですが、日本国内でペットとして暮らしているケースはほとんどありません。ペットショップから一般的な品種の子をお迎えする場合はまず、気にしなくて大丈夫です」

だから続発性緑内障の方が多いんですね。
原因疾患は、斜頸やエンセファリトゾーン、ぶどう膜炎とのことでしたが、どれが多いのでしょうか?

斉藤直接の原因として最も多いのは、ぶどう膜炎ですね。ぶどう膜炎はウサギで非常によくある病気です。ただ、ぶどう膜炎・斜頸・エンセファリトゾーンはそれぞれが密接に関係していて、どれがおおもとの原因かわからないこともあります。

ぶどう膜炎は外傷と感染症で起こりますが、感染症の原因で多いのがエンセファリトゾーンです。眼球の内部に炎症が起こり、ぶどう膜炎、緑内障、と進みます。
さらに、エンセファリトゾーンでは神経症状として斜頸も起こりますから、立つ・歩くことができず転がってしまう“ローリング”の結果、目に傷を負って、ぶどう膜炎、そこから緑内障、というパターンもあります」

頭を撫でられるウサギーウサギ専門医に聞く(24)緑内障は「痛い」失明のリスクは?手術で治るの?

ウサギの緑内障の症状:痛みをともなうことを知っておいて

緑内障になると、眼圧の上昇で眼球が拡張し、痛みが出ます。さらに、眼球表面が白っぽくむくむ角膜浮腫、充血、瞳孔散大、涙・目やに・羞明・まぶたの痙攣といった症状が出ることもあるそうです。

斉藤「ウサギの緑内障は、痛みをともなうことが多いんです。圧がかかってパンパンになると眼球に痛みを生じ、時には、痛みのあまり食欲不振や活動性の低下をきたすこともあります。

涙が出ている・目を半分瞑っている・なんとなく元気がないのは“痛いよ”のサイン。
ウサギは眼球表面に毛がべったりと張り付いていても平気そうにしている子が多いのですが、そのウサギが痛がるのですから、よほど痛みが強いんだと思います。ぶどう膜炎で炎症を起こしているため痛いのかもしれませんが、かなりの痛みをともなうと思われるケースが多いんです」

人間の緑内障で眼球の痛みが出るイメージはあまりなかったので「ウサギの緑内障は痛い」は飼い主さんにぜひ知っていただきたい内容ですね。
緑内障はじわじわと進行する病気ですが、ウサギも同じでしょうか?

斉藤「ウサギの緑内障も時間とともに進行します。眼圧上昇が進めば、明らかに眼球が大きくなり、まぶたをひっぱって、あっかんべーをさせても、白目がなかなか見えないくらいになるんです。眼球が外側に突出するというより、全体に拡大している感じです。

基本的にはじわじわと進行するので、飼い主さんが気がつきにくい病気です。眼球がだいぶ大きくなって、明らかに眼のあたりの様子がおかしい、となってから受診に至るケースが多いですね」

ただでさえ大きく印象的な瞳が、ますます大きくなるんですね。

斉藤「黒目が大きくなってきた、白目との境界がハッキリ見えなくなってきた、と感じられることもあるかもしれません。また、角膜浮腫が起こると黒目の表面が白く濁ったように見えますから、気づきやすいと思います。
緑内障が進行すると視野が狭くなり、最終的に失明に至ることもあります」

パンダ模様のうさぎーウサギ専門医に聞く(24)緑内障は「痛い」失明のリスクは?手術で治るの?

ウサギの緑内障の検査 眼圧は「触って測定」

緑内障の検査では眼圧測定・眼底検査・眼内の観察・対光反射や眩目反射のチェックなどを行い、中でも、眼底検査は必須だそうです。
デリケートな目の検査をウサギに対して行うのは大変そうですが、どのように実施するのでしょうか?

斉藤「点眼で局所麻酔をしてから、保定して検査します。
ウサギの緑内障は検査すべてをフルコースで行わなくとも、診断がつくケースが大半です。当院では、ウサギへの負担を減らすため、必要最低限の検査だけ行うようにしています。

眼圧測定は専用の機械がありますが、私はまぶたの上から指で触って行います。眼圧が一定以上になり眼球がパンパンであれば触り心地でわかります。眼底検査は虫眼鏡のような専用のレンズで覗き込んで行い、対光反射はライトで照らしてチェックします」

緑内障の治療方法:視力は回復する?手術適応の基準は?

治療の目的は、眼圧を低下させ痛みを抑えること、そして、視力低下を食い止めることだそうです。

斉藤「基本的には目薬での治療です。房水の産生を抑える・排出を促進する目薬を飼い主さんに点眼してもらいます。ただ、眼圧を十分に低下させるのは難しいことも多く、悪化しない程度にコントロールしていくのが現実的な目標になります。また、痛みで食欲不振など全身の不調をきたしていれば、そこに対する治療も必要です。この場合は内服薬で治療していきます。

痛みに関して言えば、抗炎症薬や痛み止めで改善できるケースが大半です。治療を受ければウサギの苦痛を取り除けますから、“治らないから意味がない”とは考えず、ぜひ受診をお願いします

複数種類の目薬が出されることも多いと聞きました。点眼する飼い主さんの負担が重そうですが・・・

斉藤「時には2種類、3種類と点眼薬を処方することもあります。目薬は1種類を点眼して数分、時間をおいてから次のものを点眼していただくことになります。そのため複数の目薬を1日に何度も点眼、となると、飼い主さんとウサギの双方にとって正直、大変だと思います。
ただ、痛みを抑えるために必要な処置ですから、がんばり所です。最終的に1~2種類で落ち着くことが多いですよ

目薬のさし方 ウサギ専門医に聞く(1)白内障 治療法は目薬?手術?

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緑内障では手術をすることもあるようです。手術をすれば点眼の負担もなく、痛みから解放されるのでしょうか?

斉藤「痛みのあまり食餌ができず、点眼や内服ではどうしても痛みが取り除けないなら、手術も視野に入れることになります。ただし、そういったケースは非常に少ないと思います。たいていは内服薬で痛みが抑えられ、最終的には点眼薬の継続だけに落ち着きます。

それに、手術したからといって眼の痛みがなくなる・その後の点眼薬の継続が不要になるとは限りません。手術では眼球摘出を行いますが、術後に感染を起こしたり、その後も継続的な治療が必要になったりする可能性もあります。
痛みが薬で抑えられるのなら、あえて手術を受けさせるメリットは少ないかと思います」

ウサギの緑内障は予防できる?

緑内障の原因となるぶどう膜炎を早期に治療しておくことが発症予防のポイントだそうです。

斉藤「外傷によるぶどう膜炎は、飼い主さんが気をつければ防げるケースもたくさんあります。ウサギが暴れて眼をぶつけてしまった、人間が誤って蹴飛ばしてしまった、など不慮の事故を起こさないよう気をつけましょう」

主要原因のもう1つであるエンセファリトゾーンは、感染予防が難しいと教えていただきました。ぶどう膜炎はある程度、予防ができる疾患ですから、外傷予防は心がけたいところです。
進行するまで気づきにくい病気とのことですが、早期発見にはどうしたら良いでしょうか?

斉藤「定期的な検診をおすすめします。その子の元気の度合いや年齢にもよりますが、緑内障の早期発見・予防目的では、半年に1回、1年に2〜3回の頻度で受診するのが理想です。

上昇した眼圧はなかなか正常範囲に戻りにくいのですが、発症してすぐであれば、回復が見込めることもありますから、早期発見は重要です。
また、原因不明の急激な眼圧上昇で、数日のうちに起こる“急性緑内障”もあります。目を痛そうにしていて食欲もない、となったら早めにかかりつけの病院を受診してください」

まんまるな目のウサギーウサギ専門医に聞く(24)緑内障は「痛い」失明のリスクは?手術で治るの?

斉藤「中には眼科専門医でないと診断・治療が難しい緑内障もあり、眼科専門の動物病院でフォローしてもらった方が良い場合もあります。当院でも、動物専門の眼科に紹介をしたことがあります」

ウサギは視力にあまり頼らずに生活している、と以前教えていただきました。発見が遅れたら「飼い主さんが気づかないうちに失明していた」という事態も起こりうるのだとか。

斉藤見えないことでの困りごとは、限定された生活空間で飼い主さんに守られるペットのウサギの場合、ほとんどありません。飼い主さんにとってショッキングなことではありますが、失明それ自体が寿命を縮めるわけではありませんし、私たち人間が想像するよりQOLの低下に直結するわけではないと思います。

緑内障でウサギにとって最大の問題は、痛みです。食欲の低下をきたせば全身状態にも関わりますので、注意して観察してあげてください。
また、進行した緑内障は完治が難しく一度、点眼薬での治療を続けることが多い病気です。初期の段階で治療開始できるよう、定期検診で早期発見に努めていただければと思います」

聞き手:橋爪
編集:うさぎタイムズ編集部

※当コラムでは、人間と暮らす多くのウサギが健康で長生きできるよう、疾患についての情報を共有するため、情報発信を行っています。個体により状況は異なりますので、ウサギの状態で気になることがあれば、かかりつけにご相談されることをお勧めします。当コラムの内容閲覧により生じた一切のトラブルについて、うさぎの環境エンリッチメント協会並びに斉藤動物病院、ラビットリンクでは責任を負いかねます。


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うさぎタイムズ編集長。 うさぎ専門店「ラビット・リンク」のオーナー。 一般社団法人うさぎの環境エンリッチメント協会 専務理事。 埼玉動物海洋専門学校 特別講師。 ExoticpetSaver FirstResponder。 ExoticpetSaver Emergency Rescue Technician。