※当コラムは斉藤先生の臨床経験をもとに、ウサギの医学書や論文など専門的な文献を参照して執筆しています。ウサギと暮らす飼い主さんにとって有益で正確な情報の発信に努めていますが、記載内容は執筆時点での情報であること、すべてのケースに当てはまるわけではないことをご理解願います。
※当コラムへの写真掲載にご協力いただいた飼い主様とウサギさんに感謝申し上げます。
こんにちは。うさぎの環境エンリッチメント協会専務理事の橋爪です。ウサギの最新の飼育方法を発信しているウェブマガジン「うさぎタイムズ」の編集長や、うさぎ専門店「ラビット・リンク」のオーナーをしています。 プライベートでも5匹(3男2女)のうさぎさんと暮らしています。
今回からウサギの健康管理や病気について学んでいく企画を始めます。
こういったテーマは自分のウサギさんが病気にならない限り触れる機会がない、という飼い主さんも多いかもしれません。ですが、普段から健康や疾患の知識を持っておくことは大切です。
ウサギさんは本能的に体調不良を隠したがる生き物。飼い主さんが「もしかして?」という目で見てあげたから異常に気づけたケースも多いのです。
このコラムでは、うさぎタイムズ編集長の橋爪が斉藤動物病院の院長・斉藤将之先生にお話を伺います。
斉藤動物病院は、日本初のウサギ専門病院「さいとうラビットクリニック(東京都北区)」の本院で、斉藤先生はウサギの診療実績が年間4000件と豊富なご経験をお持ちです。
「ウサギの身体のことなら斉藤先生」と、私も日頃から相談しています。
そんな斉藤先生に、診察室ではなかなか聞けないお話もざっくばらんにお話ししていただきます。
さて前置きが長くなりましたが、初回のテーマはウサギの目の病気で多い「白内障」です。
目次
カメラの「レンズ」がにごることで視力が低下する ウサギの白内障
白内障は人間でもよく耳にしますね。目の「水晶体」に「にごり」が生じる病気で、カメラで考えるとイメージしやすくなります。
水晶体はカメラのレンズにあたるため、水晶体がにごると光が通りにくくなって視力が低下します。これが白内障です。
「じわじわ」から「急に」まで ウサギの白内障の進行速度
斉藤「白内障は徐々に進行する病気で、進行速度にかなり個体差があります。2〜3年かけてじわじわ進む子もいますが、“3ヶ月で急に進んだ”というケースもあるんです。末期では、明暗程度しかわからない失明状態になります」
白内障のウサギの目は白っぽくなりますが、これが水晶体の「にごり」です。白いにごりが増えるにつれて視力も低下していきます。見た目にもハッキリとわかるくらい白くなれば、かなり進行した状態なのだそうです。
老化による白内障が増えてくる年齢は5〜6歳
人間では高齢になると増える白内障。ウサギでも加齢は原因の1つだそうです。
斉藤「何歳で発症したら老化によるもの、と決まっているわけではありません。人間でも、40代で白内障になる人もいれば、80代でなる人もいますよね。
私の感覚では、5〜6歳から年齢が原因の白内障が増えてくるイメージですね」
ウサギの白内障は年齢以外が原因の場合も多そうだ、と斉藤先生は言います。
斉藤「遺伝的な原因もあれば、先天的に白内障がある子もいます。ウサギの白内障の原因で特徴的なのは“エンセファリトゾーン症”です。寄生虫による病気で、原虫が目で増殖したら白内障になります。
ただ、原因がわからないことも多いですが、原因に関わらず治療方針は同じです。」
ウサギの白内障の治療は目薬? それとも手術?
ウサギの白内障の治療法は目薬か手術の2通りがあるといいます。どちらを選ぶべきでしょうか。
ウサギの白内障は目薬による治療が第一選択
斉藤「白くなった水晶体を薬で元通りにはできません。治療の第一選択は、点眼薬で水晶体がにごっていく速度を“遅くする”ことです。
目薬の効果は個体によって違います。白内障の進行速度はそもそも個体差が大きいので、目薬がどの程度効いているのかも正直、わかりにくいんです」
ウサギの目薬のさし方は上まぶたを「あっかんべー」
ウサギに目薬をさすのは難しそうに思えますが、体に触らせてくれる子なら大丈夫、と斉藤先生は言います。
斉藤「抱っこをして、まぶたを“あっかんべー”と開かせて入れます。頭を撫でてあげ、リラックスしている時にさりげなく上まぶたを引っ張って開かせ、点眼するのもおすすめですね。
目薬はしみないので、ウサギにとってそれほど苦痛ではないと思います」
術後管理が難しいウサギだから、白内障の手術は慎重に考えたい
人間の白内障では視力を回復させるための手術治療もよく行われます。一方、ウサギの場合はかなり特殊なのだとか。
斉藤「水晶体の白く濁った組織を除去できるのは手術です。ただ、眼科専門の獣医師でないと難しいと思いますし、一般の動物病院ではまずやりません。
ウサギの手術は、術後の管理が難しいんです。手術した部分をこすったり触ったりしないよう、イヌやネコではエリザベスカラーを装着します。だけどウサギは、エリザベスカラーをつけられるストレスでエサを食べられなくなり、体調を崩してしまうんです」
ウサギの飼い主さんなら「うっ滞」という言葉を聞いたことがあると思いますが、食べられないとうっ滞につながり、命に関わる事態にもなりかねません。もちろん手術には、麻酔や合併症など一般的なリスクも伴います。
斉藤「大きなリスクを冒してまで手術を受けさせるかですが、治療方針を選ぶうえでぜひ知っておいて欲しいことがあります。ペットのウサギは視力を失っても、ほとんど変わらない生活を送れるということです」
ウサギは白内障末期で失明状態になっても、生活への影響は意外と少ない?
人間の場合、視力低下は困りごとに直結しますが、ウサギでは白内障になっても行動があまり変化しないのだそうです。
飼い主さんに守られている飼いウサギは「見えなくてもあまり困らない」
斉藤「ペットのウサギは飼い主さんに守られているから、見えなくてもなんとかなってしまいます。もちろん、外敵に狙われ、自らエサを探さなければならない野生の子では、こうはいきませんが」
失明状態になっても、まったく動けなくなるとか、それまでの生活をガラリと変えなければならないわけではない、と斉藤先生は言います。
斉藤「ウサギに聞いてみないと本当のところはわかりませんが、もともと視力よりも嗅覚・味覚などにより頼っているのと、見えない分それらの感覚を研ぎ澄まし、おぎなっているようです。
特に老化が原因の白内障の場合、高齢ウサギは“どんどん探検したい”という気持ちは少ないもの。ケージや部屋の一角など慣れた場所で過ごすことが多いため、見えなくともなんとかなるのかもしれません」
白内障になっても基本的に、ウサギの寿命は変わらない
白内障で視力が大きく低下しても、それ自体でウサギの寿命が縮まることもないと言います。
斉藤「通常、白内障で命に関わるような事態にはなりません。視力が低下すれば、高い場所から転落するなど事故の危険は出てきますが、人間と暮らすウサギさんの場合は、視力を失ってもそれ自体で致命的な状態にはなりません。
手術をする・しないを最終的に決めるのは飼い主さんですが、リスクを冒してまで手術を受けさせる必要があるのか、私なら考えてしまいますね」
飼い主さんは「なんとかしてあげたい」という気持ちですが、白内障それ自体には、痛い・痒いなどの不快症状はありませんから、日常的なQOLを大きく損なうとまでは考えなくて良いのかもしれません。
ウサギのチャームポイントである瞳が白くにごっていくのは、かわいそうに思えるかもしれませんが、実は「見た目の問題」という要素も大きいようです。
白内障のウサギとの暮らし方は「転落事故防止」がポイント
白内障のウサギがあまり困らないのは、飼い主さんのサポートが前提です。「見えなくても大丈夫」なよう、飼育環境を見直す必要があります。
斉藤「一番は、転落事故を防ぐこと。ウサギは“高さの感覚”が乏しい生き物です。視力に問題がない子でも、高い所から落ちて骨折というパターンに注意が必要ですが、白内障ではなおのことです。
見えなくなると、自分から高所に登ることは減りますが、巣箱の上で過ごす習慣がある子は気をつけてください。
また、うさんぽ部屋の模様替えをすると、見えない子はどこに何があるか分からない状態になります。慎重に行い、“うっかり段差”を作らないようにしてください。」
可能なら、見えているうちから対策を始めたい
初期の白内障ではまだ視力が残っていますが、対策は早めにスタートするのが望ましいそうです。
斉藤「白内障と言われた時点で、段差や高い場所をなくしましょう。視力が残っている段階で始めてあげれば、ウサギさんも慣れる時間があります。
他に注意したいポイントとして、見えないことでちょっとした怪我をしやすくなります。よくあるのは、牧草の束に顔を突っ込んで食べている時に牧草が目に当たり、充血しているケースです。目が赤くなっていないか、痛そうにしていないか、気にかけてあげてください」
ウサギの白内障は放置NG 治療は現実的な選択を
ウサギの白内障治療は、総合的に考えて、ウサギが幸せに過ごせる現実的な選択をしてあげるという視点が大切です。
斉藤「ウサギの白内障は、放置していいわけではありません。
ぶどう膜炎などの合併症を起こせば痛みやかゆみも出てきますし、エンセファリトゾーン症から白内障になっている場合は別の治療も必要です。
何より、視力が低下していくウサギさんが安全に過ごすには、飼い主さんが白内障の存在に気づいてあげなくてはなりません。
白内障が疑われる際には、まずかかりつけの獣医師に相談してください」
聞き手:橋爪
編集:うさぎタイムズ編集部
※当コラムでは、人間と暮らす多くのウサギが健康で長生きできるよう、疾患についての情報を共有するため、情報発信を行っています。個体により状況は異なりますので、ウサギの状態で気になることがあれば、かかりつけにご相談されることをお勧めします。当コラムの内容閲覧により生じた一切のトラブルについて、うさぎの環境エンリッチメント協会並びに斉藤動物病院、ラビットリンクでは責任を負いかねます。
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