※当コラムは斉藤先生の臨床経験をもとに、ウサギの医学書や論文など専門的な文献を参照して執筆しています。ウサギと暮らす飼い主さんにとって有益で正確な情報の発信に努めていますが、記載内容は執筆時点での情報であること、すべてのケースに当てはまるわけではないことをご理解願います。
※当コラムへの写真掲載にご協力いただいた飼い主様とウサギさんに感謝申し上げます。

こんにちは。うさぎの環境エンリッチメント協会専務理事の橋爪です。ウサギの最新の飼育方法を発信しているウェブマガジン「うさぎタイムズ」の編集長や、ウサギ専門店「ラビット・リンク」のオーナーをしています。 プライベートでも5匹(3男2女)のウサギさんと暮らしています。

ウサギの診療実績が年間4,000件と豊富なご経験をお持ちの斉藤動物病院の院長・斉藤将之先生にお話を伺うこちらのコラム。
診察室ではなかなか聞けないお話もざっくばらんにお話ししていただきます。

第2回のテーマは、ウサギさんの目の病気で多い「結膜炎」です。
うさぎの目 ウサギ専門医に聞く(2)結膜炎 うつるの?自然治癒する? 目をこする子への対応

「目のふちが赤い」「目やにが少しでる」ウサギの結膜炎の症状

眼球とまぶたの間には、袋状の薄い膜「結膜」があります。この結膜に炎症が起きたのが結膜炎で、結膜が赤く充血して腫れる、目やに、涙が出る、目を細めまぶしそうにするなどの症状が見られます。
うさぎの眼球の構造を横から見たところ ウサギ専門医に聞く(2)結膜炎 うつるの?自然治癒する? 目をこする子への対応
斉藤先生「目やにの出方はさまざまで、白色や黄色でドロッとしたものもあれば、透明でサラサラしたものもあります。ウサギの結膜炎は人間とだいたい同じ症状なので、飼い主さんも気付きやすいと思います」

結膜炎のサインは「前足の汚れ」がヒントに

人間でも朝起きた時には目やにが出ていますよね。ウサギの目やにが「少し出ている」「目のふちが赤い気がする」といった時はすぐに結膜炎を疑うべきでしょうか?

斉藤「換毛期で毛が眼についたり、干草の粉が目に入ったりするだけでも目やにが少し出ることもあるので、すぐに結膜炎を疑う必要はないと思います。
目のふちが赤いのも、付いていた目やにをウサギが自分ではがしたため、一時的に赤くなった、ということもあるので、こちらもすぐに結膜炎に結びつけなくてもよいのかもしれません。ウサギも、人間と同じように少し目やにが付くことがあり、そのせいでかゆがることはあると思います。

結膜炎のウサギさんは、目をこすることが増えます。でも、目をこすっていたのかと思ったら毛繕いしていただけ、ということもありますよね。見分け方のコツとしては、前足が汚れてゴワゴワになっていたら要注意です。結膜炎は涙が出るので、目をこすると涙で前足が汚れるんですよ

人間では、目やにが増えるとまぶたがくっつき目が開かない、なんてこともありますが、ウサギの結膜炎では、そのような状態を飼い主さんが見ることはまれだと斉藤先生は言います。

斉藤「ウサギさんは目が開かないほどに目やにがくっついても、ガリガリとひっかいて無理やり取ってしまいます。野生では目を閉じていたら即、捕食されるリスクにつながりますからね。

結膜炎かなと思ったら、前足が汚れているとか、目が赤くなっているとか、目やにを取ろうとした形跡がないか見てあげるといいですね」
うさぎの結膜炎 東京都モカちゃん ウサギ専門医に聞く(2)結膜炎 うつるの?自然治癒する? 目をこする子への対応

写真提供︰東京都モカちゃん

細菌感染・不衛生な飼育環境・牧草が当たった ウサギの結膜炎の原因は?

感染症にかかった、異物が入ったなど、結膜炎の原因はさまざま。原因によって、片目だけにも、両目にもなります。ウサギの結膜炎の特徴は、他の病気を合併しているケースが多いことです。

斜頸や不正咬合でも結膜炎に

斉藤「結膜炎の子を全身チェックしてみると、結膜炎だけという子は少なく、他の問題が見つかることが多いんですよ。

例えば、斜頸がある子では、傾いている側の眼球を何度も床にぶつけてしまい結膜炎に、というケースがあります」
斜頸のうさぎ ウサギ専門医に聞く(2)結膜炎 うつるの?自然治癒する? 目をこする子への対応
歯のトラブルも、結膜炎の原因で多いんです。
不正咬合では歯が削られずに伸び続けるので、歯の根っこが、目と鼻をつなぐトンネルの“鼻涙管(びるいかん)”を圧迫し、鼻涙管の通りが悪くなります。
鼻涙管の役割は、分泌された涙を鼻へと送ること。通りが悪くなると涙があふれるので、気になったウサギさんは目をこすり、その刺激で結膜炎になるんです」

トイレはどのくらいの頻度で掃除すべき?

不潔な飼育環境も結膜炎の原因になると聞いています。結膜炎になったら「掃除が足りなかった?」と心配になってしまう飼い主さんもいそうですね。

斉藤「おしっこに含まれるアンモニアが刺激となって結膜炎を起こすことはあります。ですが、それはかなり掃除を怠った場合の話。最近は滅多に見かけませんが、ものすごく汚れたトイレに入った時、目がツンとした経験はありませんか? あれがアンモニアの刺激です。

1日1回など、常識的な頻度で掃除していれば、あそこまでいくことはありませんから、神経質にならなくても大丈夫ですよ」
ケージは清潔に ウサギ専門医に聞く(2)結膜炎 うつるの?自然治癒する? 目をこする子への対応
さまざまな原因で発症する結膜炎ですが、臨床的には、歯の疾患からきているものが多いと斉藤先生は感じているそうです。歯と目というと、一見、関連があるように思えませんが、ウサギの飼い主さんなら意識しておきたいところですね。

ウサギの結膜炎はうつる? ウサギ同士、ウサギから人間への感染リスク

人間の結膜炎には「はやり目」と呼ばれるように、他の人に感染させるものがあります。家庭内でもタオルを分けるなど気を使いますが、ウサギの結膜炎はうつるのでしょうか?

斉藤ウサギさん同士で結膜炎がうつるとは基本的に考えにくいです。人間で結膜炎がうつりやすいのは、目を触った手で他の物に触れ、それをまた他の人が触るからです。ウサギの場合は、人間のように手で物に触ることがほぼありません。目と目がぶつかるというケースを除けば、直接、接触する機会が少ないので、感染しにくいのです。

ただし、結膜炎の背景に呼吸器系の症状“スナッフル”がある場合は、くしゃみで菌を撒き散らしてしまうので、他の子に感染させるリスクがあります。それを除けば、多頭飼育でも飼育スペースを分ける必要はないと思います」
多頭飼育しているなら注意を ウサギ専門医に聞く(2)結膜炎 うつるの?自然治癒する? 目をこする子への対応
ウサギから人間への感染も、ウサギのドロっとした目やにを触った手で自分の目を触るなど「明らかにそれはだめだろう」ということをしない限りは、感染のリスクはそれほどないと斉藤先生は言います。心配しすぎず、常識的な対応をしていれば大丈夫そうですね。

ウサギの結膜炎は炎症の度合いに合わせて目薬・飲み薬で治療

結膜炎の治療は、原因や炎症の度合いによっても異なります。細菌感染が疑われる場合には抗生物質を使用します。一般的に、目薬がしみない程度の炎症なら点眼薬が、しみるほどに激しく炎症を起こしているなら飲み薬が処方されます。

放置したら治らないうえ、原因もわからないから繰り返す

斉藤「ウサギの結膜炎は、軽いものなら数日でパッと治ることもありますが、時には1週間、2週間と長引くこともあります。

炎症がおさまらず角膜炎・角膜潰瘍に進行してしまうと痛みも強いためストレスを感じ、胃腸の動きが低下したり、エサが食べられなくなったりします。消化管うっ滞のリスクが出てきて命に関わる事態にもなりかねません
飼い主さんは大変ですが、しっかり治療して悪化を防がないといけません」

ウサギの結膜炎は様子を見ているうちに自然治癒、という可能性はあるのでしょうか。

斉藤「目薬をさすことがどうしても難しそうな時など、自然治癒を待たざるを得ないケースもあります。ただ、受診せずに放置というのはおすすめしません。結膜炎が悪化するとまぶたが腫れてウサギさんの苦痛も大きくなり、消化管うっ滞のリスクも高まります。

さらに、結膜炎は根本の原因を取り去らなければ、何度も繰り返してしまう病気です。隠れた病気がないか確認するためにも、受診は必ずしてほしいと思います」
うさぎimage ウサギ専門医に聞く(2)結膜炎 うつるの?自然治癒する? 目をこする子への対応

結膜炎の治療は根本の原因を取り去ることが大切

不正咬合や斜頸など、結膜炎の原因が簡単には取りされないケースはどうすればいいのでしょう。

斉藤「結膜炎とつきあいながら生活していくことになります。結膜炎が悪化しないよう毎日、点眼でコントロールをしている子もいます。結膜炎はそれ自体が命に関わる病気ではありません。まずは、ベースにある疾患に適切な対処をするのが大切ですね」

目をこするウサギさんには「気を紛らわせる作戦」で対応

痛みやかゆみなど不快な症状が出る結膜炎。涙で目元が濡れているときは、ウサギさんが触らせてくれるなら乾いたティッシュでサッと拭き取ってあげましょう。また、目をこすりたがるときは、そばについてあげるといいと斉藤先生は言います。

斉藤「エリザベスカラーを装着すれば目をこするのを確実にガードできます。ですが、ほかの動物と比べ、ウサギさんの場合はエリザベスカラーをつけること自体が強いストレスになってしまうんです。ストレスは消化管うっ滞という大きなリスクにつながりかねません。
エリザベスカラーをつけたうさぎ ウサギ専門医に聞く(2)結膜炎 うつるの?自然治癒する? 目をこする子への対応
目薬をさした後に、目をこすりたがる子がいます。これでは逆に炎症がひどくなってしまいますから、ぜひ防ぎたいところです。
目薬をさしてから20分くらい隣にいて、おやつをあげる、遊ぶなどして気を紛らわせてあげるといいと思います。その間に、目薬も全体に行き渡り、だんだん目をこすりたくなくなってきます。ウサギさんも飼い主さんも、少しの辛抱ですね」

ウサギの結膜炎は応急処置で済まさずに受診を

斉藤結膜炎は、“なぜ結膜炎になったのか”を究明するのがとても大切です

とてもまれなケースだと思いますが、“軽い結膜炎”と言われた子が数日後に亡くなったという話を聞いたことがあります。結膜炎が命に関わるとは考えにくいですが、その背景に、斜頸を起こす全身の病気が隠れていたなら、ありうる話です」
うさぎimage2 ウサギ専門医に聞く(2)結膜炎 うつるの?自然治癒する? 目をこする子への対応
斉藤「人間の感覚だと、結膜炎くらいならまずは家庭で応急処置をしてみようとか、市販薬を使ってみようという気にもなるかもしれません。でもウサギさんの場合はぜひ、受診してあげてください。

そして飼い主さんが普段からできることとして、結膜炎なのに目薬をささせてくれない、とはならないよう、抵抗なく体に触らせてもらえるレベルに、ウサギさんとの関係作りをしておくといいと思います」

※目薬のさし方は、第1回で解説しています。

聞き手:橋爪
編集:うさぎタイムズ編集部

※当コラムでは、人間と暮らす多くのウサギが健康で長生きできるよう、疾患についての情報を共有するため、情報発信を行っています。個体により状況は異なりますので、ウサギの状態で気になることがあれば、かかりつけにご相談されることをお勧めします。当コラムの内容閲覧により生じた一切のトラブルについて、うさぎの環境エンリッチメント協会並びに斉藤動物病院、ラビットリンクでは責任を負いかねます。


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橋爪宏幸

うさぎタイムズ編集長。 うさぎ専門店「ラビット・リンク」のオーナー。 一般社団法人うさぎの環境エンリッチメント協会 専務理事。 ExoticpetSaver FirstResponder。 ExoticpetSaver Emergency Rescue Technician。 現在ニンゲン3人のほか、長男:ミニチュアダックスの桜花、次男ホーランドロップのカール、三男:ネザーランドドワーフの政宗、長女:ホーランドロップのミラ・ジョボビッチと暮らしている。