※当コラムは斉藤先生の臨床経験をもとに、ウサギの医学書や論文など専門的な文献を参照して執筆しています。ウサギと暮らす飼い主さんに有益で正確な情報の発信に努めていますが、記載内容は執筆時点での情報であること、すべてのケースに当てはまるわけではないことをご理解願います。

こんにちは。うさぎの環境エンリッチメント協会専務理事の橋爪です。ウサギの最新の飼育方法を発信しているウェブマガジン「うさぎタイムズ」の編集長や、うさぎ専門「ラビット・リンク」のオーナーをしています。 プライベートでも5頭(3男2女)のウサギさんと暮らしています。

ウサギの診療実績が年間4,000件と豊富なご経験をお持ちの斉藤動物病院の院長・斉藤将之先生にお話を伺うこちらのコラム。
診察室ではなかなか聞けないお話や、ウサギを診る獣医師の本音などお話ししていただきます。

第27回のテーマは尿失禁(尿漏れ)です。

ウサギの尿失禁とは?ウサギのおもらしは病気なの?

尿失禁とは、おしっこが本人の意思とは関係なく出ること。「尿漏れ」「おもらし」と言ったほうがピンと来るかもしれません。ウサギの尿失禁は、いろいろな疾患で起こります。

斉藤「尿失禁の子はそれほど多いわけではありません。膀胱炎・尿道炎といったウサギによくある病気の症状でもあるので、一定数、来院されます。

尿失禁では通常の排尿のように膀胱に溜まったおしっこが全量、ジャーっと勢いよく流れ出るのではなく、ポタポタ・チョロチョロと少量ずつ、まさに“漏れ出る”という出方をします」

トイレの上のウサギーウサギ専門医に聞く(27)尿失禁は病気? ウッカリ? お尻が濡れていたら

人間で考えると、子どもではおもらしやおねしょがありますし、大人でも、加齢にともなう筋力低下からくる尿漏れのように、病気でなくとも「うっかり」おしっこが漏れることは考えられます。ウサギも、健康な状態でも尿失禁が見られることはあるのでしょうか?

斉藤「人間とは違い、ウサギの尿失禁は膀胱が正常に機能しなくなることで起こります。

ウサギでは、加齢そのものが尿失禁の原因になるとは考えにくく、人間の子どものように“おねしょ”をするという話も聞いたことがありません。尿失禁が見られたら高確率で、原因疾患があると考えます

ウサギの尿失禁は膀胱の疾患が原因で起こる

尿失禁は具体的に、どんな病気で見られるのでしょうか。

斉藤「多いのは、背骨の骨折です。背骨には、膀胱などの筋肉を動かし、排尿をコントロールする神経が走っています。骨折するとこの神経も損傷しますから、意識的におしっこを出す・止めることができなくなるんです。
作られたおしっこは膀胱に溜まり続けますから、体を動かしたり、抱っこされたりして膀胱が圧迫された際に、漏れ出ます」

膀胱の機能不全が起こるのは、膀胱の筋肉をつかさどる神経に問題があるケースばかりではありません。膀胱炎・尿道炎、そして尿路閉塞も、尿失禁の原因で多いんだそうです。

斉藤膀胱炎からくる尿失禁は、“頻尿”と言った方がイメージしやすいかもしれません。
膀胱炎では痛み・違和感がありますが、ウサギには尿意と感じられるようです。人間の膀胱炎も、排尿後にスッキリしない感じがするようですが、それと似ていますね。

排尿しようと踏ん張っても膀胱におしっこは溜まっていませんから、ちょろっとしか出ずにお尻を汚します。この状態を尿失禁と表現しています」

尿路閉塞というと、おしっこが出なくなるイメージがありますが、なぜ尿失禁につながるのでしょう?

斉藤尿路閉塞とは、尿中のカルシウムが結石となり、多くは膀胱から尿道までの経路を塞いでしまったことで起こる状態です。確かに、ウサギがおしっこをしようと踏ん張っても基本的には排尿できません。
ただ、うさぎが踏ん張った際や、体勢によって、尿道に詰まった結石の位置が変化する・ずれることがあります。膀胱には行き場をなくしたおしっこがパンパンに溜まっていますから、結石のわずかな隙間を伝って漏れ出て、尿失禁になるんです」

トイレの失敗が増えたのは尿失禁か

「突然、トイレを使わずに他の場所でおしっこをするようになった」「トイレの失敗が増えた」という相談を受けることがあります。トイレの場所を忘れたのかな?と思っていたら、実は病気からくる尿失禁だった、というケースもありそうですが、どう考えたらいいでしょうか。

斉藤「尿失禁か判断するには、排尿の状況を観察し整理することがヒントになります。

高齢のウサギがトイレではない場所での排尿が増えた場合、毎回だいたい決まった場所に排尿しているなら、尿失禁ではありません。その場所を“新たなトイレ”と認識した可能性があります。

ウサギも年齢を重ねることで足腰が衰えますから、ちょっとの段差を乗り越えるのが負担になったり、トイレまでの距離がおっくうになったりしてきます。そんなとき、手近な場所でおしっこをしてみたけれど叱られなかった、という経験をしたら、“じゃあ今度からはここをトイレに”と考えるのでしょう」

トイレに座るウサギーウサギ専門医に聞く(27)尿失禁は病気? ウッカリ? お尻が濡れていたら

斉藤「若いウサギでこれまでのようにトイレがうまくいかなくなったのなら、成長にともない縄張り意識が強まってスプレー行為が始まった可能性もあります。体のサイズが大きくなったことで、トイレの中にうまく排尿できていないのかもしれません」

「漏れたかどうか」の判断は、飼い主さんがよくウサギを観察することが肝心ですね。

尿やけ、皮膚炎、歩き方がおかしい 尿失禁の症状

尿失禁の子では、おしっこがしょっちゅう漏れ出ることで、会陰部の被毛が茶褐色に変色する「尿やけ」を起こします。さらに、お股が常時濡れていることで湿性皮膚炎を起こす、びらん・潰瘍ができるなど、陰部の肌が荒れてきます。
膀胱炎・尿道炎が原疾患の場合、排尿に伴う痛みもウサギのQOLを低下させます。

斉藤「尿やけに気づいて“内股が汚れている”、と受診してくれる飼い主さんが多いですね。ひどくなれば、ニオイもきつくなりますし、脱毛してしまうこともあります。びらん・潰瘍になれば痛がって、歩き方もおかしくなります。放置せず早い段階で受診が必要です」

ウサギのお尻が濡れていることに気づいたら、真っ先に尿失禁を疑うべきでしょうか?

斉藤「健康な子であれば、おしっこでお股が濡れることはまずありません。ただし時々、至近距離で壁に向かって発射したおしっこが跳ね返ってきて自分も濡れてしまった、というウッカリさんもいます。
1度や2度、おしっこで濡れていたからといって、真っ先に尿失禁を疑う必要はありませんが、しょっちゅうお尻が濡れているのなら尿失禁の可能性大です」

尿失禁の検査と治療

尿失禁の子には、膀胱や尿道と、脊椎の状態を確認するためのX線検査を行い、原因疾患に応じた治療を行うのだそうです。

斉藤「尿やけを起こした患部は、清潔で乾燥した状態に保つことが治療の基本です。

尿失禁の原因が治療でき、排尿が良好にコントロールできるなら皮膚炎は回復に向かいます。尿路閉塞が原因なら結石を摘出する、慢性膀胱炎・尿道炎なら、炎症が治まることで改善が期待できます。

一方、背骨の骨折・脊髄損傷による膀胱神経麻痺は、基本的に回復が見込めません。根本的な治療は難しいため、尿の刺激でお肌が荒れないよう、対症療法が中心になります」

背中を撫でられるウサギーウサギ専門医に聞く(27)尿失禁は病気? ウッカリ? お尻が濡れていたら

脊髄損傷のウサギの尿失禁への対応方法

ここからは、脊髄損傷の子への対処法をうかがっていきます。
膀胱におしっこがたくさん溜まるとどうしても漏れやすくなり、お股を汚してしまいますから、パンパンになる前に排尿させることが必要だそうです。

定期的な圧迫排尿が、尿失禁の予防につながる

斉藤「ウサギ自身の力ではおしっこが出せませんから、人間が手伝う圧迫排尿というやり方があります。
下腹部を優しく押して圧をかけることで、おしっこを出させます。クリニックで指導を受けたうえで、飼い主さんが行います。どのくらいお水を飲む子かにもよりますが、1日に2〜3回は圧迫排尿をしてあげてください」

圧迫排尿がうまくできない場合や、数時間に一度、圧迫排尿をさせることが難しいときは、どうしたらいいでしょうか。

斉藤「おむつの着用をおすすめすることがあります。おむつが尿をすぐ吸収しますから、何もつけていないよりは、内股への刺激を軽減できるんです。
脊髄損傷で排尿が難しい子は、下半身・後ろ足も動かせないので、おむつを嫌がってかじったり、取り除いたりする心配もあまりありません。

現在のところ、ウサギ用のおむつは市販されていません。子犬用や子猫用を代用することにはなりますが、場合によっては有効な手段です」

くつろぐウサギーウサギ専門医に聞く(27)尿失禁は病気? ウッカリ? お尻が濡れていたら

乾燥状態を保つためにできること

皮膚炎を改善するには乾燥が肝心とのことでした。圧迫排尿の際にはどんなことに気をつけるべきですか?

斉藤「排尿後はティッシュで拭いて水気を取り除いてください。びしょびしょに濡れてしまったら、毛を絞ってふき取る、を繰り返します。それでも内股の皮膚の乾燥が保ちにくいなら、時には剃毛する・毛を短くカットするなどの方法もあります」

ドライヤーの風を当てて患部を乾かすのはどうでしょうか?

斉藤「有効ですが、あくまで脊髄損傷の子に限った話だと考えてください。

ドライヤーの音や風の刺激を嫌がるウサギがほとんどだと思います。脊髄損傷のウサギは下半身が動きませんから、激しく動いて怪我をする心配はありませんが、そうでなければ、逃げ出そうと激しく暴れるでしょう。無理強いするとそれこそ、骨折や怪我につながるリスクもあります。ウサギをしっかりと安全に保定できる技術がないなら、行わない方が無難です」

尿は下に落とす?吸収させる?床材も検討を

ちなみに床材ですが、木製やスノコだと尿が染み込み続けるので、尿腹部・足底が常に湿った状態になり尿失禁の子には適さない、という考え方もあります。乾燥状態を保つには、おしっこが金網から下に落ちるタイプの床材が優れていますが、金網は特に脊髄損傷で後ろ足が不自由な子の場合、下半身にダメージを与える可能性もあります。

個人的なおすすめは、吸水&速乾力に優れたモール形状のマイクロファイバーを使用したSUSUというマットです。柔らかい素材で足裏への刺激も少ないうえ、漏れ出たおしっこをしっかり吸い取ってくれます。

SUSUマットの上のウサギーウサギ専門医に聞く(27)尿失禁は病気? ウッカリ? お尻が濡れていたら

布が気になってかじってしまう子には適しませんが、少なくとも、常時オムツをつけて過ごす脊髄損傷の子では、検討してみる価値があると思います。

斉藤「ウサギの尿失禁は、背後に何らかの病気が隠れていることが多いので、早めに気づいてあげたいものです。“たまたま”、“歳をとったから”、などと自己判断せず、疑わしい場合は動物病院を早めに受診しましょう」

聞き手:橋爪
編集:うさぎタイムズ編集部

※当コラムでは、人間と暮らす多くのウサギが健康で長生きできるよう、疾患についての情報を共有するため、情報発信を行っています。個体により状況は異なりますので、ウサギの状態で気になることがあれば、かかりつけにご相談されることをお勧めします。当コラムの内容閲覧により生じた一切のトラブルについて、うさぎの環境エンリッチメント協会並びに斉藤動物病院、ラビットリンクでは責任を負いかねます。


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橋爪宏幸

うさぎタイムズ編集長。 うさぎ専門店「ラビット・リンク」のオーナー。 一般社団法人うさぎの環境エンリッチメント協会 専務理事。 ExoticpetSaver FirstResponder。 ExoticpetSaver Emergency Rescue Technician。 現在ニンゲン3人のほか、長男:ミニチュアダックスの桜花、次男ホーランドロップのカール、三男:ネザーランドドワーフの政宗、長女:ホーランドロップのミラ・ジョボビッチと暮らしている。