※当コラムは斉藤先生の臨床経験をもとに、ウサギの医学書や論文など専門的な文献を参照して執筆しています。ウサギと暮らす飼い主さんに有益で正確な情報の発信に努めていますが、記載内容は執筆時点での情報であること、すべてのケースに当てはまるわけではないことをご理解願います。

こんにちは。うさぎの環境エンリッチメント協会専務理事の橋爪です。ウサギの最新の飼育方法を発信しているウェブマガジン「うさぎタイムズ」の編集長や、うさぎ専門「ラビット・リンク」のオーナーをしています。 プライベートでも5頭(3男2女)のウサギさんと暮らしています。

ウサギの診療実績が年間4,000件と豊富なご経験をお持ちの斉藤動物病院の院長・斉藤将之先生にお話を伺うこちらのコラム。
診察室ではなかなか聞けないお話や、ウサギを診る獣医師の本音などお話ししていただきます。

第23回のテーマは、ウサギにとって非常に身近な病気の「湿性(しっせい)皮膚炎」です。

濡れるのが嫌いなウサギーウサギ専門医に聞く(23)湿性皮膚炎〜濡れる原因は水だけじゃない!涙・目ヤニ・よだれにも注意

ウサギの湿性皮膚炎ってどんな病気?

湿性皮膚炎とは、皮膚が長時間、濡れたままでいることで炎症を起こす病気です。

湿ったくらいで炎症を起こすなんて、ちょっと想像しづらいかもしれませんね。ウサギの皮膚は湿気に弱く、刺激に対して敏感。化粧品の安全性を確かめるテストに使われることもあるくらい、外部からの刺激に皮膚が反応しやすいんです。
そのため、水分の多い環境では、皮膚の外側をおおう「角層」のバリア機能・耐久性が低下し、ただれる・感染を起こすなどのトラブルにつながります。

斉藤「湿性皮膚炎はウサギにとてもよくある病気で、当院でも毎日3〜5件程度、湿性皮膚炎の患者さんが来院します。
ウサギが普通に生活していれば濡れることはまず考えられないと思いますが、濡れる原因は“水”ばかりではありません。よだれや鼻水、涙や目ヤニ、尿や下痢などによって、皮膚が湿り、ベタベタのままでいると、湿性皮膚炎になるんです。

つまり、よだれや鼻水・涙や目ヤニが出る病気にかかる子の大半が、湿性皮膚炎も合併するということ。だから、多くのウサギがかかるんです」

ちなみに湿性皮膚炎の子は、細菌性皮膚炎も合併していることが多いそうです。ただれた皮膚に、細菌も感染してしまうんですね。

なりやすい年齢・品種がある

湿性皮膚炎にかかりやすいのは、高齢の子だそうです。

斉藤「圧倒的に多いのが、5歳以上の患者さんです。ウサギも高齢になるにつれて、病気にかかる子が増えていきます。原因となる病気があっての湿性皮膚炎ですから、高齢の子の方が、湿性皮膚炎になる確率も高いんです。

また、後ほどご説明しますが、肥満も湿性皮膚炎の主要な原因です。そのため、太りやすい品種の子はハイリスクですから、ロップイヤーは気をつけた方がいいと思います」

肥満が原因になるとは、どういうことでしょうか。「皮膚が湿る」をもっと掘り下げていくと、その理由がわかります。

トイレの上のウサギーウサギ専門医に聞く(23)湿性皮膚炎〜濡れる原因は水だけじゃない!涙・目ヤニ・よだれにも注意

【涙・目ヤニ・よだれ・毛繕い不足・過剰な毛繕い】湿性皮膚炎の原因は?

ウサギの皮膚が継続的に湿った状態になるのは
・涙が止まらない
・よだれを飲み込めない
・毛繕いをしすぎる
・盲腸糞を食べられずに付着したままになる
などが原因だと言います。それぞれ、どんな病気で起こるのでしょうか。

不正咬合と肥満は湿性皮膚炎の2大要因

斉藤「多いのは、不正咬合です。
不正咬合になると伸びた歯のせいで口の中を切ったり、歯の根っこが裏側から眼球を突出させてしまいまばたきができなくなったり、鼻涙管閉塞になったりします。その結果、よだれや涙で口・目の周りが濡れたままになりがちです」

不正咬合にかかるウサギは大変多いので、湿性皮膚炎の子が多いのにも納得がいきます。

斉藤「また、肥満にも気をつけたいものです。

全身に脂肪がついたウサギは、お尻まで口が届かなくなり、盲腸糞をうまく食べられなくなるんです。
ウサギはふつう盲腸糞が出る際、肛門に口をつけて直接食べます。肥満の子ではそれが難しくなるため、肛門の周囲に便が付着したままになり、そこに抜けた毛が絡まって、ベタベタした状態に。

また、会陰部は盲腸糞以外の排泄物でも汚れがちですから、毛繕いができなければ清潔も保てません。お尻に口が届かないウサギは、湿性皮膚炎になりやすいんです」顔を洗うウサギーウサギ専門医に聞く(23)湿性皮膚炎〜濡れる原因は水だけじゃない!涙・目ヤニ・よだれにも注意

毛繕い不足で湿性皮膚炎を招くこともある一方、毛繕いの「しすぎ」もよくないそうです。
ストレスを感じたウサギは、過剰な毛繕いをすることがあり、唾液で皮膚が湿りっぱなしになってしまいます。女の子ウサギに特有の「肉垂(にくすい)」の湿性皮膚炎は、過剰な毛繕いが原因のケースも多いそうです。

起こりやすい部位

湿性皮膚炎になりやすい部位を、斉藤先生が「多い」と感じる順に並べてもらいました。

①目の周囲
②会陰部・肛門周囲
③肉垂
④前脚

斉藤「お尻の周りの炎症は、排泄物や抜け毛を巻き込んで毛球のようになり、どんどん大きくなります。ひどいケースでは、太ももの内側まで広がることもあるくらいです。

肥満によって盲腸糞を食べられなくなる以外にも、膀胱炎・尿道炎・膀胱結石などによる尿漏れも原因になります。

お尻の周りは敏感ですから、炎症が起きるとウサギは痛がって毛繕いをしなくなり、さらに悪化していきます」

前足が湿性皮膚炎になりやすいのは、涙や目やに・唾液を拭うために使うからなんだそうです。
ちなみに、高温多湿や不衛生など、不適切な飼育環境が原因になる、という話もあるようですが、実際のところどうでしょうか?

斉藤「臨床的には、なんらかの病気が原因で発症するケースがほとんどです。例えば、湿度の高い季節に除湿機を置いていない部屋で飼育したことが原因で湿性皮膚炎になる、なんてことはまず考えられません。
常識的な範囲で飼育していれば大丈夫ですから、心配しすぎる必要はないと思います」窓辺で寝そべるウサギーウサギ専門医に聞く(23)湿性皮膚炎〜濡れる原因は水だけじゃない!涙・目ヤニ・よだれにも注意

湿性皮膚炎の症状は「脱毛」から始まる

皮膚の赤み、脱毛、ただれが主要な症状で、ひどくなると、皮膚が脱落・壊死することもあると言います。

斉藤「初期から毛が抜け始めるので、飼い主さんにとっては気づきやすい病気だと思います。痒そうにしているな、と思ったら、いつの間にか脱毛していた、というケースが多いですね。皮膚が弱って毛が抜けることもありますが、初期の段階の脱毛はおそらく、ウサギ自身かじって抜いてしまうんだと思います。

お尻の場合、パッと見ではわかりにくいので、ひどくなってからようやく受診、というケースもあります。お尻を直接、観察することはあまりないとはいえ、湿性皮膚炎になると患部をしょっちゅう舐めるなど、普段と違う様子も見られます。よく観察すれば、異変にも気づきやすいと思います」

痛みやかゆみもあるので、ウサギ自身も不快な思いをする湿性皮膚炎ですが、基本的に命に関わることは考えにくいのだとか。痛みがストレスになり、食欲不振や消化管うっ滞につながる可能性もゼロではありませんが、皮膚炎それ自体で重篤な事態になる心配はしなくてよさそうです。
ただし、それでも放置はNGだ、と斉藤先生は言います。

【湿性皮膚炎の検査】原因疾患の特定が大切

斉藤「湿性皮膚炎になったということは、皮膚が濡れた状態になる、原因疾患がある可能性が高いということです。そのため、全身の丁寧な観察が必須で、歯の疾患と膀胱結石の有無、眼科検査などを行います」

湿性皮膚炎の検査は視診で行い、皮膚が濡れている原因を探します。実際、湿性皮膚炎をきっかけに他の疾患が見つかるケースも多くあるそうです。

トイレの中のウサギーウサギ専門医に聞く(23)湿性皮膚炎〜濡れる原因は水だけじゃない!涙・目ヤニ・よだれにも注意

湿性皮膚炎の治療は原疾患のコントロールが重要

ご存知の通り、ウサギの皮膚にはびっしりと細い被毛が生えていますから、一度濡れると簡単には乾きません。湿性皮膚炎の治療は、濡れた部位をブラッシング・トリミング・剃毛するなどし、皮膚を乾燥させることが基本だそうです。

斉藤「水分を取り除くことで菌の除去・感染防止にもつながります。イヌ・ネコ用のノミ取りぐしなど目の細かいものがおすすめです。

ただし、患部をブラッシングをされると痛いので、嫌がる子がほとんど。なかなかやらせてくれないと思います。トリミングも動物病院で処置してもらったほうが安全です。当院でも、小さなハサミでチョキチョキと切り取ることもあります」

湿性皮膚炎は治りにくいのか

「ちょっとした刺激をきっかけに毛繕いのしすぎで湿性皮膚炎に」といったケースであれば、皮膚炎の治療だけで済みますから、比較的スムーズに完治するそうです。

一方、涙が出る・唾液が出るといった原因で湿性皮膚炎になった場合、涙・唾液の原因となっているおおもとの病気の治療なくしては皮膚炎も治りません。

斉藤「下痢や膀胱結石などで陰部が湿りがちならば、食事のコントロール・膀胱結石の治療が必要です。肥満の子なら、体重管理とあわせて、お尻にウンチが付着したままにならないよう飼い主さんがケアしてあげてください。まずは原疾患のコントロールが重要です。

原疾患によっては完治が難しいものもあります。また、高齢で足腰が弱ってお尻の毛繕いが困難、というケースでは皮膚炎もなかなか治りません。悪化予防を目標に対処していくことが治療の方針になります。

臨床的には、原疾患がなく湿性皮膚炎のみ、という子は少数派。そういう意味では“湿性皮膚炎はなかなか治りにくい”とも言えます」

湿性皮膚炎の予防法

皮膚が湿る原因を作らないことが大切です。肥満を避ける・下痢や不正咬合などの病気にさせないといったふうに、全身の健康維持を心がけることが大切なのは言うまでもありません。うっかりウサギの身体を濡らさないよう注意することも、もちろん大切ですよね?

斉藤「被毛が少し濡れたから即、湿性皮膚炎になるわけではありませんが、気をつけてあげることは重要です。
ウサギは濡れても、犬のように身体を震わせ水滴を吹き飛ばすことはできません。代わりに、水分を取り除こうと濡れた部分を執拗に舐めてしまう子が多いんです。そのせいで、かえって被毛が乾かず、湿性皮膚炎につながりかねません。

例えば、お水を飲む際に給水ボトルから上手に飲めず口の周りをいつも濡らしてしまう様子があれば違う種類のボトルに交換するなど、濡れる機会を作らないよう、気をつけてあげてください」ボトルから水を飲むウサギーウサギ専門医に聞く(23)湿性皮膚炎〜濡れる原因は水だけじゃない!涙・目ヤニ・よだれにも注意

万が一、なんらかの事故でウサギがビショビショに濡れてしまったらどうしたらいいのでしょうか?

斉藤「ティッシュやタオルで押さえて、可能な限り、拭き取ってあげてください。ドライヤーを嫌がらないのであれば使用してOKですが、ウサギは風を吹きかけられることにも慣れていません。ストレスを感じることが多いので、無理強いは禁物です」

ウサギは元々、濡れる習慣のない生き物。自然界のウサギは雨の日、巣穴の中でじっとして、濡れないように過ごしています。「濡れる」はウサギにとって一大事ですから、十分に気をつけてあげましょう。

聞き手:橋爪
編集:うさぎタイムズ編集部

※当コラムでは、人間と暮らす多くのウサギが健康で長生きできるよう、疾患についての情報を共有するため、情報発信を行っています。個体により状況は異なりますので、ウサギの状態で気になることがあれば、かかりつけにご相談されることをお勧めします。当コラムの内容閲覧により生じた一切のトラブルについて、うさぎの環境エンリッチメント協会並びに斉藤動物病院、ラビットリンクでは責任を負いかねます。


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橋爪宏幸

うさぎタイムズ編集長。 うさぎ専門店「ラビット・リンク」のオーナー。 一般社団法人うさぎの環境エンリッチメント協会 専務理事。 埼玉動物海洋専門学校 特別講師。 ExoticpetSaver FirstResponder。 ExoticpetSaver Emergency Rescue Technician。