※当コラムは斉藤先生の臨床経験をもとに、ウサギの医学書や論文など専門的な文献を参照して執筆しています。ウサギと暮らす飼い主さんにとって有益で正確な情報の発信に努めていますが、記載内容は執筆時点での情報であること、すべてのケースに当てはまるわけではないことをご理解願います。
※当コラムへの写真掲載にご協力いただいた飼い主様とウサギさんに感謝申し上げます。
こんにちは。うさぎの環境エンリッチメント協会専務理事の橋爪です。ウサギの最新の飼育方法を発信しているウェブマガジン「うさぎタイムズ」の編集長や、うさぎ専門店「ラビット・リンク」のオーナーをしています。 プライベートでも5匹(3男2女)のウサギさんと暮らしています。
ウサギの診療実績が年間4,000件と豊富なご経験をお持ちの斉藤動物病院の院長・斉藤将之先生にお話を伺うこちらのコラム。
診察室ではなかなか聞けないお話や、ウサギを診る獣医師の本音などお話ししていただきます。
第7回のテーマは、「膀胱炎・尿道炎」です。
目次
人間とは違う!ウサギの膀胱炎・尿道炎の原因は「尿中のカルシウム」が最多
膀胱炎は女性にとっては身近な病気なので、イメージが湧きやすいかもしれません。でも、人間とウサギで大きく違うところがあります。人間は、膀胱に細菌が侵入し膀胱炎になることが多いのですが、ウサギではそのケースは少ないんだそうです。
斉藤先生「ウサギの膀胱炎は、尿中のカルシウムが石や砂状になって膀胱に溜まり、膀胱の内側を傷つけてしまうのが主な原因です」
尿中のカルシウムとは、ちょっと聞き慣れませんね。どういうことでしょうか。
斉藤「ウサギのカルシウム代謝は他の哺乳類に比べて特殊で、尿中に大量のカルシウムが含まれるんです。カルシウムは尿中で結晶になり、細かい砂や泥状になります。人間でもおしっこに結石ができますが、その一段階前の状態ですね。
厄介なのは、溜まった砂がウサギが動く度に膀胱の中で動き、柔らかい膀胱の内側を傷つけることです。
例え話ですが、口の中に砂利が入った状態が続けば、砂利で擦れて口内が少しずつ傷ついていきますよね。同様に、膀胱の壁が常に砂でヤスリがけされている状態をイメージしていただくとわかりやすいと思います」
砂や泥というと柔らかそうで、膀胱を傷つけるとは思えないかもしれません。でも、カルシウムの砂を顕微鏡で見るとしっかり角があり、いかにも刺激になりそうな形状をしているんだそうです。
斉藤「カルシウムの砂は膀胱内に沈殿しますが、これも結構硬くて、お腹の上から触診してもわかります。
水溶き片栗粉を思い出してください。かき混ぜているときは水に溶けたように見えますが、時間が経つと下に溜まりカチカチになりますね。あれと同じです」
関連コラム:カルシウムとウサギの関係/ウサギの栄養学(5)
細菌感染やストレスでもウサギは膀胱炎になる?
斉藤「ウサギも人間と同じく、細菌が原因で膀胱炎になります。ただ、よほど不潔な場合に限られますから、適度な掃除を心がけていれば心配はまずありません。
時には、軟便や下痢でお股が汚れ、そこから細菌に感染することもあります。自分でお股のお手入れが難しい高齢ウサギやケガをした子は注意した方がいいですし、下痢の原因という意味ではストレスもよくありませんね」
さまざまな原因があるとはいえ、圧倒的多数を占めるのは、やはり尿中のカルシウムなんだとか。
カルシウムが原因で膀胱が炎症を起こしたなら、おしっこの通路である尿道も同じ刺激を受けているということ。だから膀胱炎と尿道炎は合併することが多いんだそうです。
斉藤将之
ちなみに、尿道から細菌が入ることで発症する人間の膀胱炎は、尿道の短い女性の方が男性よりもなりやすいですよね。ウサギはカルシウムの蓄積が主な原因なので「オスだからなりにくい」「メスだからなりやすい」ということはないそうです。
ウサギのおしっこ、「カルシウムの沈殿」はなぜ起こる?
尿中のカルシウムが増える原因は、食餌からのカルシウム摂取量が多いことだそうです。
野菜の与え過ぎには注意したい
斉藤「最近は各メーカーがかなり気を遣っているので、ラビットフードでカルシウム過多になるケースは減っています。気をつけたいのは、おやつとして与えられることが多い野菜類ですね。にんじんや大根の葉、小松菜、青梗菜などカルシウムの豊富な野菜は量に注意してください。
牧草では、大人になったらアルファルファも日常的には与えない方が無難です」
水分不足もカルシウムが溜まる原因に
「水分不足」も膀胱炎の誘因になると斉藤先生は話します。
斉藤「1日の飲水量は体重の10〜12%(体重1㎏で100ml~120ml)が目安です。水分が不足するとおしっこは濃くドロドロになり、膀胱内にネトネトと残ってしまうため、カルシウムが出て行きにくいんです」
関連コラム:水分/ウサギの栄養学(5)
水をあまり飲まない子では、水分補給として生野菜をたくさん与えるのも良さそうに思えます。しかし、野菜はドライフードより水分が多く含まれるとはいえ、それだけでは足りないそうです。
斉藤「野菜でお腹いっぱいになり、かえって水を飲まないケースもあります。また、生野菜を食餌のメインにすると糖質オーバーになりがちですから、主食は牧草がベストです」
あまり水を飲んでくれない子に病院では利尿剤を使うこともあるようですが、家庭では、こまめに飲水量をチェックし、水を飲むようにうながしていくしかなさそうですね。
私の方では、ノズル式の給水ボトルを受け皿式の給水器に変更するようアドバイスさせていただくこともありますが、斉藤先生の方では飼い主さんにどのように伝えているでしょうか?
斉藤「運動させると飲水量が増えることがあるので、部屋んぽの時間を増やす、一緒に遊んであげるなどができると思います。
また、高齢の子では、給水ボトルを設置する場所を増やしてあげるのが効果的なことも。
ちなみに、本当に飲水しなくて病的な状態になりそうな場合は、水にリンゴジュース・野菜ジュースを混ぜて与えてもらっています」
【頻尿・血尿・おしっこがポタポタ/少ししか出ない】ウサギの膀胱炎・尿道炎の症状
膀胱炎や尿道炎のウサギに多い症状は「度々トイレに向かう」「1回の尿量が少ない」「排尿姿勢を取ったまま動かない」などだそうです。
斉藤「人間の膀胱炎と同じでトイレの回数が増えます。おしっこをしたつもりでも出ていなかったり、出る量がポタポタ程度で少なかったり、やたら踏ん張る様子もみられるでしょう。
また、勝手におしっこが出てしまうので、お股が汚れることも多いですね」
ウサギの尿は正常でも赤〜褐色のことも 血尿の見分け方は市販の潜血検査薬を
血尿が出ることもありますが、ウサギの血尿を見た目で判別するのは非常に難しいんだそうです。
斉藤「ウサギは正常でも突然、赤〜褐色のおしっこをすることがあり、私たち獣医師も色だけでは判断できません。尿をたくさん溜めてから出すのが習慣になっているウサギでは、毎日のように濃縮された赤っぽい尿を出すこともあります。
飼い主さんが家庭でチェックするには、人間用に薬局などで売られている潜血検査薬が使えますよ。見た目に赤いと感じても、検査キットで反応なければ問題ありません。
一方で、潜血検査をせずとも“普段のおしっこよりも色が異常に濃いな”と感じたら、受診がおすすめです」
ウサギの膀胱炎・尿道炎で必要な尿検査 ウサギの検尿はどうやるの?
膀胱炎・尿道炎は、尿検査と、膀胱に砂が溜まっていないかの触診で診断します。
気になるのがウサギの検尿方法です。紙コップを渡して「どうぞ」とは行きませんから、膀胱を圧迫し排尿させるのが主流のようです。
ただし、おしっこが膀胱に溜まっていなければ押しても出ませんし、中には緊張でなかなか出ない子もいるのだとか。そうなると、病院での採取を諦めるしかありません。
確実に検査するには自宅で採取した尿を持ち込むと良いそうです。
自宅で採取した尿での検査も可能!採取のやり方は?
斉藤「潜血検査は、ペットシーツに染みた尿や床にこぼれた尿、ウサギの陰部周囲の毛についている尿などごく少量でも、液体成分が残っていれば検査できます。ペットシーツはそのまま、床に漏らした尿はティッシュで吸い取り袋に入れて持参してください。採取からの時間は、一晩から一日が目安です。なお、トイレ砂にしみ込んで固まった尿は検査には使えません」
採取する際に人間の手や他の場所に接触した尿でも、病院で採取した尿と同じ精度の検査ができるとのこと。自宅で採取した尿を持ち込めば確実に検査できますし、ウサギへの負担が少ないのが魅力ですね。
斉藤「細菌感染を調べる尿検査では一定の尿量が必要ですから、プラスチックトイレに何も敷かずにおしっこさせ、それを採取して持参してください。容器に摂取した尿があれば、潜血検査はもちろん他の検査にも使えるので、より便利です」
【膀胱炎・尿道炎の治療】治らない/繰り返すときは食餌と水分量の確認を
膀胱炎・尿道炎の治療は投薬だけでなく、食餌内容と水分摂取量のチェックも大切です。
斉藤「薬を飲めば炎症は抑えられますが、カルシウム過多が原因なら、食餌内容を変更しないと繰り返します。カルシウム量が多い野菜は控え、しっかり水を飲めるよう環境整備してあげてください。
現在流通している一般的なフードは、パッケージの表記通りの量を与えていればカルシウム過多になる心配はありません。ただし、カルシウムを吸収しやすい子では、フードの量を減らす必要があるかもしれませんから、心当たりがあれば獣医師に相談してください」
同じ食餌内容と飲水量でも、膀胱炎になる子・ならない子がいます。一度でも膀胱炎・尿道炎を発症したのなら、カルシウムを吸収しやすい体質の可能性も。健康診断時に尿を持参するなど、定期的なチェックをすると安心です。
聞き手:橋爪
編集:うさぎタイムズ編集部
※当コラムでは、人間と暮らす多くのウサギが健康で長生きできるよう、疾患についての情報を共有するため、情報発信を行っています。個体により状況は異なりますので、ウサギの状態で気になることがあれば、かかりつけにご相談されることをお勧めします。当コラムの内容閲覧により生じた一切のトラブルについて、うさぎの環境エンリッチメント協会並びに斉藤動物病院、ラビットリンクでは責任を負いかねます。
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