人間の栄養学の研究は進んでいますが、ウサギについては、まだまだわからないことがたくさんあります。ウサギの栄養学コラムでは、家庭で飼われるウサギを健康的に長生きさせるため、体のしくみや必要な栄養、食餌についてお伝えします。

現在、主なエサとして与えられているフードは、本来の食性とは異なるものかもしれませんが、野生に近い食餌が必ずしも「ウサギの長生き」にとってベストとは限りません。
だからこそ、栄養学の基礎はもちろん、最新の研究までを知る必要があると考えています。

今回のテーマは「糖類」。ダイエット目的や健康志向で「糖類ゼロ」をうたった食品を目にする機会も増えましたね。これまでも、ウサギに甘いものの与えすぎはNGだとご説明しましたが、「甘いもの」を細かく分析していくと行き当たるのが「糖類」です。

今回は、ウサギと糖類の関係、ウサギが糖類の取りすぎを避けるべき理由について詳しくご紹介します。
糖類

そもそも糖ってなんだろう?

まずおおもとの「糖」についてのお話から始めましょう。

「糖」は広い意味では甘みのある成分全般を指しますが、狭い意味では「炭水化物」とほぼ同じ意味で使われます。

炭水化物とは、化学式では、炭素(C)と水素(H)と酸素(O)で表されるものです。
炭水化物を構成しているものをどんどん分けていくと最終的に「糖分子」に行き着きます。そこで、糖分子がいくつ結合しているかで炭水化物は分類されているんです。

どこまで細かく分類するかによって若干の違いはありますが、主に、以下の表にカラーで示したような種類に分かれます。
炭水化物の分類
この中で、今回登場するものは次の4つです。

(1)単糖類
糖分子が1つだけで、それ以上分解できないものが「単糖」
です。いくつか種類があるので、まとめて単糖類と呼びます。

(2)二糖類
二糖類は、単糖が2つ結合したもの
です。

(3)少糖類(オリゴ糖)
「オリゴ」とはギリシャ語で「少ない」という意味の言葉が語源で、オリゴ糖は単糖が2つ以上10個未満程度結合したもの
を指します。

(※)オリゴ糖の定義はややあいまいで、人間の栄養学では、3つ以上の糖が結びついたものをオリゴ糖と呼ぶ傾向があります。また、オリゴ糖として扱われるものの中には、単糖が10個以上も結合したものもあります。
なお今回は、オリゴ糖の定義に忠実に、二糖類もオリゴ糖に含めます。

(4)多糖類
10個以上の単糖が結合したもの
で、結合数はときに数千個におよぶこともあります。

分子のサイズが小さく、吸収が早いものが「糖類」

上記4つは広い意味ではすべて「糖類」ですが、人間用の食品表示基準では糖類を「単糖類または二糖類であって糖アルコールでないもの」と定めています。いろいろな分類の仕方がありますが、今回のコラムでも糖類といえば単糖類・二糖類を指すものとします。

糖類の特徴は、体に吸収される速度が早いこと。この理由は「分子のサイズ」にあります。
糖分子の結合イメージ
ご紹介した通り、糖は結合している数によって、さまざまな形状をしています。どんな糖でも、体に吸収するには、それ以上分解できない最も小さい単位にまで消化する必要があります。

したがって、単糖類や、単糖類が2つ繋がっただけの二糖類はほぼそのまま体に取り込めるので吸収が早いのです。一方、分子がたくさん連なった多糖類は、結合を切り離さなければ吸収できないので、その分時間がかかります。

吸収スピードが早い・遅いってどういうこと?

吸収速度が早いということは、すぐにエネルギーとして利用できるということですが、同時に、短時間で吸収が終わってしまうということでもあります。つまり、すぐにお腹が空いてしまうのです。逆に、吸収に時間がかかるとは「腹持ちが良い」ということです。

糖類が主成分であるキャンディーと、でんぷんが主成分であるご飯(白米)を比べると、ご飯の方が腹持ちが良いですね。これは、でんぷんが多糖類であり、キャンディーに多く含まれるぶどう糖やショ糖といった単糖類・二糖類よりも、消化に時間がかかるからです。

「糖類」と「糖質」の違い

糖類と似た言葉に「糖質」があります。糖質と糖類の関係を図で示すと、まず、炭水化物から食物繊維を除いたものが糖質で、さらにその中で消化・吸収されやすいものが糖類です。
炭水化物と糖質・糖類
ダイエット志向の食品に「糖質ゼロ」や「糖類ゼロ」と表記されているのを見かけますが、糖質と糖類の関係を知ると、この違いがわかります。

「糖類ゼロ」は砂糖のような消化吸収されやすい糖を使っていないという意味で、「糖質ゼロ」は、「消化されて糖になるものを含んでいない」ということです。
つまり、「糖類ゼロ」の方は、砂糖が使われていないだけで、他の糖分は入っているということですね。

ウサギが特に気をつけたい糖類

さて糖の中で、ウサギが特に気をつけるべきなのが糖類(単糖類・二糖類)なんです。

消化の仕方で分類すると見えてくる!糖類に特に気をつけるべき理由

炭水化物を、ウサギが自力で消化できるもの(易消化性)と、腸内微生物の力を借りることで初めて消化できるもの(難消化性)に分け、吸収のしやすさで上から順に並べると、以下のようになります。糖類は赤枠で囲んだ部分です。
ウサギの栄養学の糖類の分類
糖類は、ウサギが自力で消化でき、かつ、すぐに吸収されるものという位置付けであることがわかります。

これは実は、糖類が、炭水化物の中でも盲腸内の微生物のバランスを崩しやすく、そして、肥満を招きやすいということを示しているんです。

ちょっと意外?「オリゴ糖」にもいろいろある

少し横道にそれますが、図の中のオリゴ糖について、オリゴ糖には易消化性のものと難消化性のものの両方があることをご存知でしょうか。

オリゴ糖といえば、健康効果をうたったものが、スーパーなどで売られているのを見かけます。腸内で善玉菌のエサとなり腸内環境を整える、血糖値を上げにくいなどの効果が知られていますが、これらはガラクトオリゴ糖やフラクトオリゴ糖など、難消化性のものです。

一方で、最初にご説明した通り、厳密には二糖類もオリゴ糖。したがって、オリゴ糖にも、すみやかに血糖値を上げるタイプのものがあるということです。

自力で消化できる糖類は、ウサギの盲腸内の微生物のバランスを崩してしまう

ウサギの栄養学(1)(4)でご説明した通り、ウサギは繊維質を主要なエネルギー源にしていますが、自力では繊維質を消化できません。体内に棲まわせている微生物の力を借りて、吸収できる形に分解してもらっています。
つまり、微生物がきちんと働いてくれるよう、微生物にとって理想的な盲腸内環境をキープしなければ、栄養の消化・吸収がうまくいかないのです。
悪玉菌のイメージ
「難消化性」の糖は、消化するために腸内微生物の力を借ります。腸内細菌は難消化性の糖を餌とし、牧草を食べた時のように、ウサギの消化システムは本来の形で働きます。しかし「易消化性」のものでは、そうはいきません。

易消化性の糖は、盲腸内の特定の微生物だけを異常増殖させてしまいます。易消化性の糖を野生ではあり得ないほどたくさん摂取すると、細菌叢のバランスが崩れ、下痢を発症するなど、ウサギの健康に悪影響が及ぶと考えられています。
ただ、糖類が腸内細菌にどう影響するのかはまだよくわかっていない部分もあり、今後の研究が待たれます。

糖類のとり過ぎが肥満につながりやすいのは、ヒトもウサギも同じ

また、糖類は肥満を招きやすいという特徴もあります。

急速に吸収される糖類は血糖値をすぐさま上げますが、使われなかった血液中の糖はグリコーゲンという物質に変換され、筋肉や肝臓に蓄えられます。グリコーゲンの貯蔵可能量よりも多く糖を摂取すると、余ったぶんは脂肪として蓄積されるのです。

血糖値が上がった時に出るのがインスリンというホルモンですが、インスリンは血液中の糖を脂肪に換えて体にため込みます。血糖値が急激に上昇することでインスリンが過剰に分泌され、体に脂肪をため込みやすくなってしまいます。

このように、血糖値を急上昇させやすい糖類は、ヒト同様、ウサギでも肥満の原因になるのです。

おやつの与え方に気をつけていれば糖類のとりすぎにはならない?

腸内の健康と肥満防止のために控えたい糖類ですが、おやつの与えすぎにさえ注意していれば、過剰摂取にならないわけではありません。おやつだけではなく、日常的に与えるフードにも糖類が含まれています。

意外にたくさん入ってる ウサギのフードの原材料の単純糖含有率

以下は、ウサギのペレットフードによく使用される原材料の糖の含有率を示したものです。糖類はふつう餌料中に低濃度で存在しますが、糖蜜などでは糖類の含有率が約50%に達するものもあります。
原料中に含まれる糖の分量
回腸の内容物中の(80%エタノールに可溶な糖類)のレベルは、標準的な市販飼料を与えたウサギの場合、2.5%(乾物中)に達することがあります。「たった2.5%」と思えるかもしれませんが、「少ない」とは言えません。というのも、ウサギが野生で本来食べている野草には、糖質がほとんど含まれていないため、回腸にまで流れ込む糖類はかなり少ないと考えられるからです。

これだけの糖類が回腸に達すれば、当然、微生物が暮らす盲腸に流れ込む糖類の量も無視できないでしょう。こんなに大量の糖類が盲腸に送られると、ウサギにとっての生命線とも言える、腸内細菌のバランスが崩れてしまいます。

糖類の過剰摂取を避けるには、毎日のフードの量にも気を配る必要があるとわかります。

「腹八分目」のウサギの方が生存率が高い

「腹八分目に医者いらず」ということわざがあります。健康のためには満腹になるまで食べない方がいい、という意味ですが、これはウサギにも当てはまるとわかってきました。
ペレットを食べるウサギ
実験(参考文献4)ではまず、ウサギたちにペレットを自由に食べさせ、食べなくなったところを「満腹」としました。そしてその量の65%程度に制限したペレットを与えたところ、満腹になるまでペレットを食べていたウサギよりも、生存率が高かったというのです。

ウサギにとって本来のエネルギー源であり、繊維質が豊富な牧草は、欲しがるだけ与えて構いません。ですが、長生きのためには、糖類を含むフードの量はきちんと管理することが大切です。

ウサギを糖類過多から守れるのは飼い主さんだけ

「ウサギが喜ぶから」「おねだりしてくるから」と、ついおやつをあげたくなってしまうこともあるでしょう。野生では甘いものを食べないはずのウサギなのに、どうして糖類タップリのおやつが好きなのでしょか?

甘いものが美味しいのは生き物の本能

お菓子や果物なら、食後の満腹を感じている時ですら食べられてしまう経験はありませんか? 私たちは甘いものを本能的に美味しく感じます。そしてそれはウサギも同じです。

生き物はなぜ甘いものを美味しいと感じるのでしょう。
生きるために必要な行為は快楽と結びついています。エネルギーを摂らないと動物は生きていけません。したがって、エネルギー源となる物質は「食べると心地よい」ほうが理にかなっています。だから、即吸収できる糖類は美味しいのです。
飢餓におちいったとき、本能的に一番効率よくエネルギーを吸収できる糖を選択的に摂取できるように、身体に組み込まれたシステムなのかもしれません。
糖類の多い果物
自然界では口にするはずのない糖類の「甘み」を覚えた飼いウサギが、いくらでも欲しがってしまうのは当たり前。

ヒトでも、甘いものの摂りすぎで砂糖依存症になると言われています。砂糖には幸福感や癒やしを感じさせる脳内神経伝達物質の分泌を促す働きがあり、「甘いものを食べると、幸せが感じられる」は科学的にも解明されているのです。

これと同じことがウサギに当てはまるかはまだわかっていませんが、おやつが大好きで肥満になってしまうウサギもいるくらいですから、やはりなんらかの中毒性はあるのかもしれません。甘いものの量・与え方は、きちんと管理してあげるのが飼い主さんの責任です。

さて次回は、糖類・糖質と同じ炭水化物で、ウサギが口にする機会のより多い「でんぷん」についてご紹介します。

参考文献

[1]Blas, E., Gidenne, T. 2010. Digestion of sugar and starch. In: Nutrition of the Rabbit, 2nd Edition. CAB International, pp 19-38.
[2]Maertens, L., Lebas, F. and Szendrö, Z. 2006. Rabbit milk: a review of quantity, quality and non-dietary affecting factors. World Rabbit Science 14, 205–230.
[3]Gidenne, T. and Ruckebusch, Y. 1989. Flow and rate of passage studies at the ileal level in the rabbit. Reproduction Nutrition Development 29, 403–412.
[4]Gidenne T, Combes S, Fortun-Lamothe L. 2012. Feed intake limitation strategies for the growing rabbit: effect on feeding behaviour, welfare, performance, digestive physiology and health: a review. Animal 6(9), 1407-1419. doi:10.1017/S1751731112000389
[5]川﨑浄教 著『ウサギの栄養学(7) 糖類の消化について』


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香川大学 農学部助教 農学博士 現役の研究者としては、日本唯一のウサギ栄養学の研究者 World Rabbit Science Association 会員