はじめに

現在、世界中でペットとして飼育されているウサギはアナウサギ(Rabbit)であり、イベリア半島(フランスからスペインにかけて)に生息していた野生のアナウサギを家畜化し、様々な品種改良を行い作出されました[1]。ちなみに、アナウサギにはラテン語でOryctolagus cuniculusという学術名が付けられています。Oryctolagus cuniculusを英訳すると“Hare-like digger of underground passages”となり[1, 2]、日本語訳では「地下通路のノウサギに似た採掘者」となるでしょうか。

日本国内にはペット飼養頭数に関する正確な統計データがありませんが、イギリスのPet Food Manufacture’s Association(PFMA)の2019年の報告書ではイギリス国内のウサギ飼育数は60万頭であり、ペットとしては犬猫に次いで3番目の飼育数となっています[3]。ペットとしての人気順は日本でもイギリスと同様と考えられますが、ウサギの栄養生理に関する情報は不足しています。そこで、ウサギの栄養学シリーズと題し、ウサギの栄養生理に関する情報を提供していきたいと思います。

 

ウサギの消化管について

草食動物は消化管の構造の違いから、ウシのような前胃発酵型動物とウサギのような後腸発酵型動物に分類できます。発酵型と名前がついている理由としては、草食動物が微生物を消化管の中に棲ませ発酵により、動物には利用できない繊維質を分解してもらい動物が利用できる物質に変換してもらっているからです。実際には、表1のように、前胃発酵型動物は反芻を行う反芻動物(ウシやヤギなど)と反芻をしないが胃の前が大きい動物である非反芻動物(カンガルーやナマケモノなど)に分けられ、後腸発酵型動物も例外はありますが、盲腸発酵型動物(ウサギやモルモットなど)と結腸発酵型動物(ウマやサイなど)に分けられます[4]。なお、ウサギの盲腸内容物重量は消化管全体の約4割を占め、盲腸にいる微生物は栄養素の消化吸収に大きく貢献しています[5]

表1.草食動物の消化管構造の違いによる分類
前胃発酵型動物 後腸発酵型動物
反芻 非反芻 盲腸発酵型 盲・結腸発酵型 結腸発酵型
ウシ

ヤギ

カンガルー

ナマケモノ

ウサギ

モルモット

コアラ

ハイラックス

ウマ

サイ

出典:Stevens and Hume 1998. [4]

 

草食動物には消化管内で繊維質を分解してくれる微生物の発酵を効率良く持続的に行うために様々な機能が備わっており、ウサギやモルモットのような盲腸発酵型動物には盲腸内で持続的に微生物による発酵を行うために、微粒子や微生物を盲腸内に貯留する仕組みが近位結腸部分に備わっています。この機能は結腸分離システム(Colonic Separation Mechanism: CSM)[6]と呼ばれています。また、ウサギが持つCSMは固液分離型(Wash-back type; 図1左)、モルモットを含むその他の多くの盲腸発酵型動物は粘液トラップ型(Mucus-trap type; 図1右)というように異なる仕組みとなっています[6, 7]。さらに、ウサギが持つ固液分離型のCSMは粘液トラップ型よりも、微粒子や微生物といった液状の相(液相)を不溶性の大きい粒子(不溶性の繊維)といった固形の相(固相)から分離し、盲腸内に貯留する能力が高いと言われています[4]。上記のように、ウサギは似たような消化管構造を持つ仲間があまりいない変わった草食動物と言えます。

図1.盲腸発酵型動物の結腸分離システムの違い

 

ウサギの消化管の特異的な構造は、繊維の消化能力にも影響しており、ウサギは草食動物であるにも関わらず、繊維の消化率は低い動物です[6]。この他、ウサギの低い繊維消化率を引き起こしている要因としては、ウサギのエネルギー要求量にあると考えられます。成熟したウサギ(体重2 kg)の1日あたりの維持エネルギー(1日の通常の活動に必要なエネルギー)は約170 kcalであるのに対し、成人男性(体重60 kg)の1日あたりの維持エネルギーは約2200 kcalです[8]。このエネルギーを体重で割った値(単位体重あたりの維持エネルギー量)はウサギで85 kcal/kg、ヒトで37 kcal/kgとなり、体重1 kgあたりで考えるとウサギはヒトの約2.3倍のエネルギーを摂取しないといけないことになります。実際に、体重約2 kgのウサギは固形飼料のみを与えた場合、1日あたり約150 gの飼料を摂取しますが、体重約60kgの成人男性が2200 kcalのエネルギーを得ようとした場合、食事の内容にもよりますが、1日あたり約2000 gの食事を摂取します[8]。体重1 kgあたりで計算するとウサギは75 g、ヒトは33 gの食事を摂取する必要があります。このため、ウサギはより多くのエネルギーを摂取するために、飼料をたくさん食べ、すぐに排出するということを繰り返しています。つまり、ウサギの繊維消化率が低い理由は、①「消化管の構造上微生物による発酵を行う場所に粒子サイズの大きい不溶性の繊維質は流入しにくいこと」、②「エネルギーを得るためにたくさん食べ、利用できないものは速やかに排出している」の2点が考えられています。

ウサギは草食動物であるにも関わらず、繊維の消化率にこだわらないという一見変わった動物と言えます。他の動物に比べ繊維をあまり利用しなくてもウサギが生きていける理由としてはウサギが他の動物よりも栄養豊富な盲腸便を再摂取(食糞)しているからです。ほぼ全ての盲腸発酵型動物は食糞を行いますが、他の動物に比べウサギの捨てる糞(硬糞)と食べる糞(軟糞)は大きく異なる特徴を持ちます(表2)。ウサギは食糞によりタンパク質を豊富に含む盲腸便を再摂取し利用しているのです。

表2.硬糞と軟糞のタンパク質含有率の違い
動物種 CSMのタイプ 飼料 硬糞 軟糞
ウサギ Wash-back 17.3 13.6 35.5
モルモット Mucus-trap 18.6 12.5 19.4
マウス Mucus-trap 26.2 18.1 22.9
出典:Sakaguchi 2003. [6]

 

図1でもウサギの盲腸内容物は液相が多くを占めるものであることを示しましたが、この盲腸内容物の貯留様式の違いがウサギの高蛋白質な軟糞につながっていると考えられます。次回はウサギのタンパク質代謝(軟糞がどのように作られるか、どのように利用されるか)について概説します。

 

参考文献

1    Lowe, J.A. 2010. Pet Rabbit Feeding and Nutrition. In: Nutrition of the Rabbit, 2nd Edition. CAB International, pp 294-313.

2     Buseth, M.E., Saunders, R.A. 2015. The origins and Development of Rabbits. In: Rabbit Behaviour, Health and Care. CAB International, pp 1-14.

3     PFMA. 2019. PFMA Annual Report 2019.

4     Stevens, C.E., Hume, I.D. 1998. Contributions of Microbes in Vertebrate Gastrointestinal Tract to Production and Conservation of Nutrients. Physiological Reviews 78, 393–428.

5     Carabaño, R., Piquer, J., Menoyo, D., Badiola, I. 2010. The Digestive System of the Rabbit. In: Nutrition of the Rabbit, 2nd Edition. CAB International, pp 1-17.

6   Sakaguchi, E. 2003. Digestive strategies of small hindgut fermenters. Animal Science Journal 74, 327-337.

7  Cork, S.J., Hume, I.D., Faichney, G.J. 1999. Digestive strategies of nonruminant herbivores. The Role of the Hindgut. In: Nutritional Ecology of Herbivores, American Society of Animal Science, pp. 210-260.

8     農林水産省 一日に必要なエネルギー量と摂取の目安
https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/zissen_navi/balance/required.html

 


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川﨑浄教
香川大学 農学部助教 農学博士 現役の研究者としては、日本唯一のウサギ栄養学の研究者