※当コラムは斉藤先生の臨床経験をもとに、ウサギの医学書や論文など専門的な文献を参照して執筆しています。ウサギと暮らす飼い主さんにとって有益で正確な情報の発信に努めていますが、記載内容は執筆時点での情報であること、すべてのケースに当てはまるわけではないことをご理解願います。
※当コラムへの写真掲載にご協力いただいた飼い主様とウサギさんに感謝申し上げます。

こんにちは。うさぎの環境エンリッチメント協会専務理事の橋爪です。ウサギの最新の飼育方法を発信しているウェブマガジン「うさぎタイムズ」の編集長や、ウサギ専門店「ラビット・リンク」のオーナーをしています。 プライベートでも5匹(3男2女)のウサギさんと暮らしています。

ウサギの診療実績が年間4,000件と豊富なご経験をお持ちの斉藤動物病院の院長・斉藤将之先生にお話を伺うこちらのコラム。
診察室ではなかなか聞けないお話もざっくばらんにお話ししていただきます。

第3回のテーマは、ウサギにとって身近な病気の「うっ滞(うったい)/毛球症」です。

※ウサギの「毛球症」は、獣医師によっても若干、定義が異なる場合があります。後ほど詳しくご説明しますが、今回の記事中の「毛球症」は、「胃のうっ滞」を指します。
ケージの中の2匹のウサギ

ウサギの胃のうっ滞とは、消化管の動きが低下した状態

うさぎの消化管は、食べ物を食道→胃→小腸→盲腸→大腸へ送るため、常に動き続けています。これを蠕動運動(ぜんどううんどう)と言い、食事をしていない時も、蠕動運動は休むことなく続いているのが正常です。

胃のうっ滞とは、何らかの原因でこの蠕動運動がゆっくりになったり、止まったりした状態です。

斉藤先生「うっ滞は、ペットのウサギにとって非常に身近な病気です。私の感覚値ですが、軽いものを含めれば、すべての飼いウサギが一生に一度はうっ滞を経験するんじゃないかと思います

他人事ならぬ「他兎事」では済まされない、ウサギのうっ滞。
「毛球症(もうきゅうしょう)」とも言われますが、斉藤先生によると、両者は厳密には同じ意味ではないそうです。

イヌ・ネコの「毛球症」とうさぎの「うっ滞(毛球症)」はどう違う?

斉藤「“毛球症”とインターネットで検索すると、真っ先にヒットするのはペットとして身近なイヌやネコの病気ですね。

イヌやネコの毛球症は、毛繕いの際に飲み込んだ毛が胃で塊となって、消化管のトラブルを起こした状態を指します。
でもウサギの場合は、毛を飲み込むこと自体が、毛球症の直接の原因というわけではなさそうなんです」

毛球の原因となる束になった抜け毛
斉藤「ウサギは綺麗好きなので常に毛づくろいをしており、胃にはある程度の量の被毛が存在しているのが普通です。胃腸の蠕動運動が正常なら、被毛はきちんと排泄されます。
でも、何らかの原因で蠕動運動が低下したら、被毛は胃にとどまってエサなどと一緒に塊になります。これが“毛球”です。

うっ滞になる過程を最初からすべて観察できるわけではありませんから、何が原因か、推測に頼るしかない部分もあります。でも、このような考え方が獣医師の間で近年、増えてきています」

ウサギは消化管の構造上、嘔吐ができません。飲み込んだ毛を吐き出せる猫とは違い、毛づくろいで飲み込んだ被毛は“お尻から排泄する”しかないそう。裏を返せば、ウサギの消化管は、健康な状態なら蠕動運動で被毛を排出できるということですね。

斉藤「ウサギの“毛球症”という場合、消化管全体のどこかに蠕動運動の低下を起こした状態を指すこともある一方、胃のうっ滞だけを毛球症と呼ぶ医師もいます。実は私もそうです」

ウサギの胃のうっ滞がイヌやネコの毛球症と大きく違うことがもう一つあります。それは、ウサギの胃のうっ滞は、生命をおびやかす事態に陥りやすいこと。
じっとするウサギ
斉藤「ウサギは体調不良を悟られまいと、限界まで隠そうとします。飼い主さんがうっ滞に気づく頃には症状がかなり進んでしまっていることも珍しくないんです。

自然界では捕食される側ですから、“あいつ元気がないぞ”とバレると、肉食動物の格好の標的になってしまいます。だから本能として、体調が悪くとも、必死にいつも通り振る舞おうとするんですね。

うっ滞を起こしていたら、食欲もなくなるし痛みも出ます。ですが、ウサギは症状が相当重くなってからでないと、“エサを食べられない”とはなりません。飼い主さんが異変に気づいた時はすでに危ない状態、ということもよくあるんです」

胃のうっ滞になるとウサギはどんな症状が出るの?

胃のうっ滞の症状を飼い主さんが見抜くのは簡単ではない、と斉藤先生は話します。

斉藤「いつもは動き回っている時間にあまり動かない、なんとなく元気がない、などのわずかなサインがヒントになります。“普段とはどこか違う気がする”という飼い主さんの直感が一番の手がかりになった、というケースも多いんです。

“こういう行動が出たらうっ滞かも”、と一概には言えないのが難しいところです。
例えば、私たちが強い腹痛を感じている時、横になって、お腹をくっつけてうずくまると少し楽になることがありますよね。ウサギも同じで、腹痛で腹這いになることもある一方、リラックスしている時に腹這いになる子もいますからね」

また、糞が小さい・量が少ない・形が変、なども重要なサインになるそう。普段から、こまめに掃除して状態の変化にすぐ気づけるようにしておきたいですね。
うっ滞のサインとなるいびつな糞

ウサギの胃のうっ滞の原因で多いのは不適切な食餌の内容

蠕動運動の低下はさまざまな原因で起こりますが、斉藤先生が臨床で出会うことが多いのは不適切な食餌が胃のうっ滞につながったと思われるウサギだそうです。逆に、紙や布といった異物を飲み込んでそのものが詰まった、というケースは少ないのだとか。

斉藤「異物の誤食の場合、かなり細かくなるまで咀嚼してから飲み込むので、塊のまま飲み込んだことでそれが詰まる、ということは比較的少ないんです。

一方、繊維質が少なくデンプンが多いものをたくさん与えたことでうっ滞を起こしたと思われるケースはよく目にします。例えば、ひまわりの種やピーナッツなどですね。また、果物のような甘いおやつのあげすぎも、うっ滞の原因です」

おねだりされても甘いものの与えすぎには注意

ウサギの主食であり主なエネルギー源となるのは繊維質。わかってはいるのですが、「おやつちょうだい」とウサギにおねだりされると、つい与えてしまう飼い主さんも多いのではないでしょうか。ウサギはなぜ甘いものが好きなのでしょう?

斉藤「“甘さ”には中毒性があるんでしょう。私たちも、身体にあまりよくないとわかってはいても、スナック菓子やファストフードについ手が伸びる、という経験がありますよね。ウサギにとっての甘いものも、同じだと思います」
糖質の多く含まれるフルーツとナッツ
「胃のうっ滞になりやすいのは飼いウサギならでは」と斉藤先生は続けます。繊維質の少ないペレットや甘いおやつといった、不適切な食餌を口にする機会のない野生のウサギでは、うっ滞のリスクは少ないのだそうです。

ストレスもうっ滞の原因って本当? ウサギは何にストレスを感じる?

胃のうっ滞の原因で、食べ物の内容と並んで多いのが「ストレス」だそうです。

斉藤「地震が怖かった、台風が来て大雨が降り雨音がうるさかった、急に夏日になったなど気候の急激な変化はウサギの負担になります。また、移動に慣れていない子を動物病院に連れて行ったら、それ自体が大きなストレスです」

ウサギはデリケートと言われていますが、ストレス源になったと思われるエピソードを飼い主さんから聞き「まさかそんなことにストレスを感じていたのか」と驚くようなケースにも出会うそうです。

斉藤「雷の鳴った翌日には必ずと言っていいほどうっ滞になる子がいました。きっと、大きな雷鳴が怖いんでしょうね。
私たち人間もそうですが、ストレスに耐える力には個体差も大きいので、1頭ずつ性質にあわせて対応してあげることが大切です」

ウサギの胃のうっ滞はどうやって治療する?

低下してしまった消化管の動きを元に戻すため、蠕動促進剤を与える内科的治療が第一選択です。

斉藤「口からは飲めないことが多いので、注射で投与します。止まってしまった消化管が動き出す時は痛みを伴うので、あわせて鎮痛薬も与えます。内科的治療で改善しなければ全身麻酔で切開手術を行い、内容物を取り除くケースもあります」
注射器
重篤になることもあるうっ滞ですから、「一晩くらい入院させてもらった方が安心できるんだけど・・・」と思うかもしれません。ですが、必ずしも入院で治療するわけではないのだそうです。
獣医師の考え方にもよりますが、と前置きしながら斉藤先生は話します。

斉藤「消化管の動きがせっかく元に戻っても、ウサギの場合、今度は入院が新たなストレスになり食欲不振を来たすことがあります。
“ここはどこ?” “あの人は誰?” と見知らぬ環境に対する不安で、エサを食べるどころではなくなってしまうんです。そうすると、またお腹の動きが悪くなり、新たにうっ滞を起こしかねません。だから当院ではできるだけ、入院はさせない方針です」

胃のうっ滞の治療は、ただ処置をすればいいというわけではなく、デリケートなウサギならではの配慮が必要なんですね。

斉藤「体調の回復がみられても自力で食べられないこともあります。その場合は強制給餌を行います。シリンジを口の端から差し込んで、流動食を与えます。ご自宅で飼い主さんにやってもらうのですが、自己判断ではなく、必ず獣医師の指導を受けてからにしてくださいね」

自宅で様子を見ているうちに回復することも

胃のうっ滞を起こしていることに気づかなかったり、自宅で様子を見ていたりするうちに自然治癒することはあるのでしょうか?

斉藤「ありますね。おそらく、ごく軽度のうっ滞はしょっちゅう起こっていて、ひとりでに回復しているんだと思います。“便が出たらすっきりした”、という感じで治るんでしょう。

様子見していてOKか・NGかで迷う飼い主さんも多いと思います。判断が難しいのですが、“食べられない”、“お腹がギュルギュルしている” はかなり危険な段階です」

ウサギがうっ滞を起こしていそうだと気づいたら、基本的にはすぐ受診するのが望ましい、と斉藤先生は言います。早急に適切な処置が受けられれば、回復することが多いのだそうです。

早急な処置がベストだが、受診にともなうリスクも考慮したい

ただ、体調不良を限界まで隠すウサギですから、異変に気づいた時点で残念ながら時すでに遅し、ということもあります。さらに、受診にはデリケートなウサギならではの難しさも伴うそうなんです。

斉藤キャリーに入れる、長い時間をかけて移動するなどが、さらなるストレスになり、状態の悪化につながることがあります。近所にウサギを診れる病院がなく遠方まで連れていく、といったケースでは細心の注意が必要です」
キャリーに入ったウサギ
なるべく早めに気づいてあげることが大切ですが、最終的に受診するかはウサギの状態をみつつ、飼い主さんの判断に委ねることになる、と斉藤先生は言います。

自宅の近くにかかりつけ医を持っておくことに加え、病院受診に過度なストレスを感じないよう、ある程度、外出や移動に慣れさせておくことも大切かもしれません。
しょっちゅうキャリーに入れて連れ出す必要はありませんが、半年に一度は健康診断のための受診をかねて外出させたいものです。

「うっ滞かも」と思ったとき、家庭でできる処置はお腹のマッサージ

斉藤軽度のうっ滞であれば、お腹のマッサージは有効です。抱っこして、肋骨の下あたりをポンポンして、軽く揺らすように刺激を与えます。うさぎを固定して、下から手を入れるとやりやすいですよ。

ただ、これも普段からマッサージに慣れていることが前提です。体調が悪いところに突然、慣れないことをされればそれがストレスとなり逆効果です。またお腹が風船のように膨らんでいたり、ゴツゴツと硬かったり、明らかに普段と違う場合はマッサージは行わず、すぐに動物病院に連れて行ってください」

お腹のマッサージは、健康なウサギに行っても問題はないそう。
飼い主さんが「普通のお腹」の触り心地を知っておくと、異変に早く気づけますし、コミュニケーションの一環として普段から慣れさせておけば、胃のうっ滞予防にもつながります。もちろん、うっ滞を起こした際「お腹を触らせてすらくれない」という事態も避けられますね。

嫌がる子に無理にマッサージするのはいけませんが、リラックスする様子を見せてくれるなら、トライしてみる価値はあると思います。お腹のマッサージを受けるウサギ

ウサギのうっ滞、予防方法は「たっぷりと繊維質を食べさせること」

胃のうっ滞を防ぐために何より大切なのは牧草をしっかりと食べさせること、と斉藤先生は話します。草食であるウサギの主食は繊維質。繊維質をたっぷり食べることで消化管が正常に働くのだそうです。

斉藤「繊維質を十分に摂ることが、うっ滞の予防法として確実です。牧草を食べ放題スタイルで提供するのはもちろん、フードを購入する際は成分表示を必ず確認し、繊維質がたっぷりと含まれている製品を選んであげてください」

関連コラム:ウサギの栄養学(12)飼い主さんのフード選び、重視すべきポイントは?

グルテンフリー・サプリメント・ブラッシング、効果のあるうっ滞予防法はどれ?

最近、うっ滞予防にグルテンフリーのフードが良いという話も聞きますが、獣医師の視点ではどうでしょうか?

斉藤「グルテンは小麦粉と水が合わさったときにできるタンパク質の一種で、ネットリ・ベタベタの質感が特徴です。そのため、胃の中で毛球を形成する原因になるのでは、と考えられています。
ですから、理論上はグルテンフリーにすることでうっ滞を防ぐ効果はありそうです。でも、残念ながらまだウサギを対象にした実験で確実な予防効果が証明されたわけではありません」

ケージに置かれたウサギのフード
斉藤「それに、グルテンフリーにしようと、慣れたフードから変更することでウサギにストレスをかけてしまうことも。食餌量が減ってしまったら、かえってうっ滞になりかねません。

そしてもちろん、グルテンフリーのフードでも、タピオカ粉を使うなどデンプンがたっぷり入っていたらうっ滞予防には完全に逆効果です。

グルテンフリーだから大丈夫、と過信せず、“デンプンが少なくしっかりと繊維質を食べられているか”に着目してください」

関連コラム:グルテンフリーのラビットフードは必要なの?
ウサギの栄養学(9)ウサギとデンプン〜ポイントは「消化率」(後編)

では、毛球症の予防に、とうたっているサプリメントはどうでしょうか?

斉藤「薬ではなくサプリメントですから、劇的な効果は期待できない前提にはなりますが、“ラキサトーン”は油分が多く含まれているため、お腹の中の毛球をある程度ほぐせるのではないかと思います。
パパイヤ酵素は、医学的なエビデンスを目にしたことがないのですが、服用させている飼い主さんの話もよく聞きます。“お守り”の気持ちで、試してみるのも良いかもしれません」

ブラッシングをして、毛繕いの際の抜け毛を減らすのは効果的でしょうか?

斉藤「アンゴラ種など長毛種は、しっかりと抜け毛の処理をしてあげた方がいいと思います。換毛期は特に気をつけたいので、ブラッシングを頻繁にするのも良いでしょう。ただし、嫌がるならそれもまたストレスとなり逆効果なので、負担をかけない程度に行うのが前提です。

また、普段からたっぷりの水と繊維質を摂取していれば、毛づくろいで飲み込んだ毛は固まることなく自然に消化されていきます。給水ボトルには常に新鮮な水をいれ、いつでも自由に飲めるようにしておきましょう。水の減りが少ない場合は早めに受診したほうがいいですね」アンゴラ種のウサギ

適度な刺激を!運動も胃のうっ滞予防に

ケージの中で静かに過ごす時間が多いウサギ。巣穴を掘って暮らすアナウサギが祖先の飼いウサギにとってはケージの中もリラックスできる空間ですが、やはり運動も必要だと斉藤先生は言います。

斉藤「狭いケージの中でできる運動は限られています。人間同様、運動が不足すると胃腸の働きが悪くなるので、一日一回はケージから出して運動させてあげてください。
飼い主さんが声掛けをして一緒に遊べば、刺激となります。適度な刺激は体を覚醒させ、食欲増進につながりますよ」

ウサギの胃のうっ滞は原因を究明して、慢性化に気をつけたい

治療によって回復しても、原因を改善しなければまた繰り返してしまうのがうっ滞の特徴です。

斉藤「時々、慢性的に軽いうっ滞を起こしていると思われる子に出会うんです。飼い主さんに聞くと、“いつもこうだから、大丈夫ですよ”とのこと。おそらく、お腹の動きが低下することにウサギの身体も慣れてしまっているんでしょう。いつも自然に回復しているので飼い主さんも気づいていないのだと思いますが、もちろん、ウサギにとって望ましい状態ではありません。
原因をきちんと究明し、フードを見直す、ストレス源を取り除くなど根本的な対応が必要です」

ただし、胃のうっ滞の原因を特定するのは簡単ではないそうです。便を調べても何が原因になったかハッキリとわからないことも多く、飼い主さんから丁寧に問診するしかありません。直近の食餌内容を訊ねたり、ストレスになるような突然の環境変化がなかったか確認したりして、一つずつ探っていくことになります。
飼い主さんは、日頃からウサギの様子をよく観察しておくことが肝心ですね。

聞き手:橋爪
編集:うさぎタイムズ編集部

※当コラムでは、人間と暮らす多くのウサギが健康で長生きできるよう、疾患についての情報を共有するため、情報発信を行っています。個体により状況は異なりますので、ウサギの状態で気になることがあれば、かかりつけにご相談されることをお勧めします。当コラムの内容閲覧により生じた一切のトラブルについて、うさぎの環境エンリッチメント協会並びに斉藤動物病院、ラビットリンクでは責任を負いかねます。


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斉藤将之

院長斉藤動物病院
獣医師。 日本初のうさぎ専門病院さいとうラビットクリニック(東京都北区)の本院である斉藤動物病院(さいたま市)院長 本院の斉藤動物病院もうさぎ診療が全体の7~8割を占め、ウサギの年間診療実績も4000件と豊富な診療実績を誇ります。 一般社団法人うさぎの環境エンリッチメント協会 理事