※当コラムは斉藤先生の臨床経験をもとに、ウサギの医学書や論文など専門的な文献を参照して執筆しています。ウサギと暮らす飼い主さんにとって有益で正確な情報の発信に努めていますが、記載内容は執筆時点での情報であること、すべてのケースに当てはまるわけではないことをご理解願います。
※当コラムへの写真掲載にご協力いただいた飼い主様とウサギさんに感謝申し上げます。

こんにちは。うさぎの環境エンリッチメント協会専務理事の橋爪です。ウサギの最新の飼育方法を発信しているウェブマガジン「うさぎタイムズ」の編集長や、ウサギ専門店「ラビット・リンク」のオーナーをしています。 プライベートでも5匹(3男2女)のウサギさんと暮らしています。

ウサギの診療実績が年間4,000件と豊富なご経験をお持ちの斉藤動物病院の院長・斉藤将之先生にお話を伺うこちらのコラム。
診察室ではなかなか聞けないお話もざっくばらんにお話ししていただきます。

第4回のテーマは、ウサギのトレードマーク・耳に起きる病気「外耳炎」です。
耳を立てたウサギを後ろから見たところ

意外と飼い主さんは気付きにくい? ウサギの外耳炎

ウサギも人間も、耳は外側から順番に「外耳・中耳・内耳」の3つのエリアに分けられます。このうち、外耳はいわゆる「耳たぶ」から鼓膜の手前までを指し、ここが赤くなる・腫れるなどして炎症を起こすのが外耳炎です。

斉藤先生「ウサギの長い耳の“長い”部分はすべて外耳道ですね。人間よりはるかに外耳のエリアが広いと言えます。
ウサギの耳の解剖
外耳炎になると、赤くなって耳垢が増えます。ウサギはおそらく違和感があるのでしょうが、耳の周囲をしきりに気にするそぶりを見せたり、後ろ足でパンパンと叩いたり、頭をブルブルと振ることが増えたりします

これだけ広い外耳道に炎症が起こると、飼い主さんもすぐに異変に気付きそうですが、意外に見落とされがちな病気なのだとか。

斉藤「ウサギの外耳で私たちに見えているのはかなり外側ですが、外耳炎は外から見えない奥の部分で炎症が起こることが多いんです。外から見てわかるところにまで炎症が広がっているのは、かなり進行したひどい外耳炎です」

激しい痛みが伴う病気ではないため、発見が遅れるケースも多いのだそうです。

人間の外耳炎では耳から液体「耳だれ」が出ることで「ちょっとおかしいな」と気づくこともありますが、ウサギはそういうケースもほぼないのだとか。
ウサギは寝ているときも起きているときも、通常は常に頭を起こした状態です。耳穴が下向きになる機会がほぼないので、耳の外側に滲出液が流れ出てくることはまずありません。
また、耳だれが出ているウサギは違和感から頻繁に頭を振るので、その際に耳だれも飛んでいってしまうからなのだそうです。

斉藤「外耳炎自体は、命に関わる病気ではありません。ただし、放置すると炎症が中耳・内耳へと広がっていってしまうことがあります。こうなると、平衡感覚をつかさどる前庭という部分に障害が出て斜頸になる場合があり、深刻な事態になりかねません」
斜頸のうさぎ ウサギ専門医に聞く(2)結膜炎 うつるの?自然治癒する? 目をこする子への対応
痛みが強くないとはいえ、やはり「放っておいても大丈夫」という病気ではないんですね。激烈な症状がないからこそ、飼い主さんの知識の有無が外耳炎の悪化を防ぐポイントになりそうです。

ウサギの外耳炎の原因で多い「セルフ耳掃除の失敗」とは

ウサギの外耳炎は、耳ダニの感染や細菌感染、異物が入ったなど、いろいろなきっかけで起こります。耳ダニであれば両耳に、異物であれば片耳だけに炎症が起こります。

ちなみに人間の外耳炎は「耳かきのしすぎ」が主要な原因の一つになることをご存知でしょうか。耳の中を触りすぎることが刺激になり、炎症を起こしてしまうんです。

ウサギの場合もなんと、外耳炎の原因で多いのは「耳掃除がうまくいかないこと」なんだそうです。
耳掃除と言っても、人間がウサギにやってあげる耳掃除ではなく、ウサギ自身の「セルフ耳掃除」なのだとか。一体どういうことでしょうか。

斉藤「ウサギの耳掃除をしたことがない飼い主さんがほとんどかと思いますが、それで問題ありません。ウサギは普通、自分で自分の耳掃除ができるので、耳垢がほぼ溜まらないんです。

ウサギが時折、後ろ足で耳をパンパンと叩いて頭を振っているのを見たことがあると思います。これがウサギの“セルフ耳掃除”で、綿棒や耳かきを使わなくとも自分で器用に耳垢を取っているんですよ」
片耳を上げているウサギ
斉藤「ただ、すべてのウサギがセルフ耳掃除をできるわけではありません。感覚的には全体の2〜3割ですが、自力ではうまく耳垢が取れない子がいるんです。

例えば肥満の子は、全身についたお肉が邪魔をして、後ろ足を力いっぱい伸ばさないと耳まで届きません。
こういう子は、“耳垢が溜まってきたから、さぁ取るぞ!”と耳パンパン・頭フリフリしようとして、全力で足を突っ張っているうちに力加減を誤り耳をガリっと傷つけてしまう、なんてことがあります。この傷に細菌が感染すると外耳炎になるわけです」

溜まった耳垢が刺激となって外耳炎になるよりは、溜まった耳垢を取ろうとして傷をつけてしまうことが原因というのはちょっと意外ですね。

ブリーダーさんの意識が高まり、ウサギの耳ダニの感染率が以前よりも下がっている中、外耳炎の原因で目立つのは圧倒的に「セルフ耳掃除の失敗」だと斉藤先生はいいます。
では、「セルフ耳掃除」が苦手なのはどんなウサギでしょうか?

斉藤セルフ耳掃除が上手にできない原因は、後ろ足が思うように動かせないこと。肥満の他には、高齢の子、脊髄疾患・股関節脱臼などがある子で多い問題です。
また、ホーランドロップ種のような垂れ耳の子は耳の構造上、立ち耳の子に比べると、どうしても耳垢が溜まりやすくなっています。

このようなケースでは外耳炎の予防のため、人間が耳掃除をしてあげるのがベターです」横を向いている垂れ耳ウサギ

ウサギの耳掃除ってどうやればいい? 安全・確実なのはプロにお任せする方法

「うちの子はセルフ耳掃除が難しそうだから、人の手でサポートしてあげた方が良さそう」となった場合は、獣医師や専門店のスタッフなどに依頼するのがおすすめだと斉藤先生は言います。

斉藤「私は専用の器具を使って耳掃除するのですが、綿棒で取るよりもはるかに短時間で大量に取れるので、飼い主さんにはびっくりされます。逆に言うと、そういった道具もなく家庭で飼い主さんが1人でウサギの耳掃除をするのは至難の業だと思います。

うさぎの耳垢ー外耳炎外耳に傷をつけると外耳炎の原因になりますし、飼い主さんが耳垢を取ろうと耳を触りにいくとウサギにストレスを与えかねません。専用の器具と技術のあるプロにお任せした方が良いと思います」

ウサギの耳垢が溜まりすぎ? どこまでが正常でどこからが異常か

ウサギがセルフ耳掃除を上手にできているかを確認するためにも「耳垢の溜まりすぎ」に気づいてあげたい飼い主さんも多いと思います。ウサギの耳垢の正常と異常、「溜まりすぎ」はどうやって見分ければいいのでしょうか。

斉藤「耳垢がどのくらいの量あれば”溜まりすぎ”かは、立ち耳の子か、垂れ耳の子かでも異なります。立ち耳の子がセルフ耳掃除をきちんとできていれば、耳垢はほぼありません。一方、垂れ耳の子は消しゴムのカスくらいの量が溜まっていても正常の範囲内です。

ちなみにラキサトーンとか、歯磨き粉のチューブから3cm程度出したくらいの量の耳垢が塊が出てくることがありますが、これは溜まりすぎです。もう耳の中が耳垢で全部埋まってる、くらいの状態です」
歯磨きのチューブから出たペースト
さすがにそこまでの量の耳垢が見えたら、多くの飼い主さんが異常だとわかりそうですね。

ただウサギの耳の中を観察するのは、獣医師さんでなければ難しいもの。外からパッと見てわかるほど耳垢がびっしりとあるのはもちろん溜まりすぎですが、耳の奥で溜まっている分には、飼い主さんが見つけるのも難しいかもしれません。耳垢の量で判断するより、「ウサギが耳を気にしている様子が多すぎないか」で見極めるのが良いそうです。

斉藤ウサギが“セルフ耳掃除”をする頻度は1日に十数回なら正常ですが、数十回、となれば異常です。あまりにもしょっちゅう頭を振っている、後ろ足でかこうとしているなら、耳垢がうまく取りきれていないサインかも、と疑ってください」

ウサギの外耳炎は内服で治療する 再発予防が大切な理由

人間の外耳炎は点耳薬を用いるのが一般的ですが、ウサギの場合は内服治療になることがほとんどだそうです。

斉藤「飼い主さんが家庭でウサギに点耳するのはハードルが高いんです。薬を入れてしばらくの間、じっとしていてもらわなければならないのが大変なのはもちろん、耳の中の窪みの部分に薬が溜まってしまい、奥まで行き渡らせるのも難しい。
だから当院では、外耳炎の治療はほぼ内服薬です」

適切に治療すれば症状は速やかに改善されていきます。大切なのは「再発予防」と斉藤先生は語ります。

斉藤外耳炎になった子は、セルフ耳掃除が上手にできない可能性が高いですから、そのままでは何度も繰り返してしまいます。月に1回程度は病院や専門店などでの耳掃除をしてあげた方が良いでしょう」
ウサギの耳掃除にも使う綿棒
斉藤先生が「耳掃除失敗の原因で最も多い」と語る肥満は、努力次第で改善できるものですから、長い目でのQOL向上のためにも、ぜひともダイエットを考えたいところです。また、高齢になるにつれて運動機能は徐々に衰えるので、それまで外耳炎になったことがない子でも、健康診断などで、耳垢の状態を定期的にチェックすると良いですね。

特に、ホーランドロップ種は垂れ耳のうえ、太りやすい傾向もありますから、飼い主さんは気をつけてあげましょう。

聞き手:橋爪
編集:うさぎタイムズ編集部

※当コラムでは、人間と暮らす多くのウサギが健康で長生きできるよう、疾患についての情報を共有するため、情報発信を行っています。個体により状況は異なりますので、ウサギの状態で気になることがあれば、かかりつけにご相談されることをお勧めします。当コラムの内容閲覧により生じた一切のトラブルについて、うさぎの環境エンリッチメント協会並びに斉藤動物病院、ラビットリンクでは責任を負いかねます。


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斉藤将之

院長斉藤動物病院
獣医師。 日本初のうさぎ専門病院さいとうラビットクリニック(東京都北区)の本院である斉藤動物病院(さいたま市)院長 本院の斉藤動物病院もうさぎ診療が全体の7~8割を占め、ウサギの年間診療実績も4000件と豊富な診療実績を誇ります。 一般社団法人うさぎの環境エンリッチメント協会 理事