※当コラムは斉藤先生の臨床経験をもとに、ウサギの医学書や論文など専門的な文献を参照して執筆しています。ウサギと暮らす飼い主さんにとって有益で正確な情報の発信に努めていますが、記載内容は執筆時点での情報であること、すべてのケースに当てはまるわけではないことをご理解願います。
※当コラムへの写真掲載にご協力いただいた飼い主様とウサギさんに感謝申し上げます。

こんにちは。うさぎの環境エンリッチメント協会専務理事の橋爪です。ウサギの最新の飼育方法を発信しているウェブマガジン「うさぎタイムズ」の編集長や、ウサギ専門店「ラビット・リンク」のオーナーをしています。 プライベートでも5匹(3男2女)のウサギさんと暮らしています。

ウサギの診療実績が年間4,000件と豊富なご経験をお持ちの斉藤動物病院の院長・斉藤将之先生にお話を伺うこちらのコラム。
診察室ではなかなか聞けないお話もざっくばらんにお話ししていただきます。

第5回のテーマは、「急性胃拡張」。年齢や性別に関係なく突然発症し、命の危険もある怖い病気です。うっ滞とあわせて、ぜひ知っていただければと思います。
耳を伏せるウサギ

わずか数時間のうちに急変・突然死も!ウサギの急性胃拡張

急性胃拡張は、胃の内容物が腸に流れて行かなくなり、胃が大きく膨らんだ状態を指します。急激に発症し、短時間のうちにどんどん進行します。

斉藤先生「消化管の蠕動運動がゆっくりになったり、止まったりするのが消化管うっ滞ですが、急性胃拡張もうっ滞の一つに含まれます。

胃には食べ物や唾液・胃液などが常に流れ込んでいるので、行き場がなくなれば、すぐにパンパンになるんです。ウサギが食べることを止めても胃の膨張は止まりません。胃液や唾液が分泌され続けるうえ、溜まった液体からはガスが発生し、胃をさらに膨らませます」

膨らんで引き伸ばされた胃の壁は血行不良を起こし、胃の蠕動運動がますます弱まります。結果、胃はさらに膨らみ続け、悪化の一途をたどるのだそうです。急性胃拡張のウサギのレントゲン写真

斉藤「こうなると胃は、水風船のように液体と空気がいっぱいに詰まった状態です。最終的には耐えきれなくなった胃の壁に穴があいたり、強烈な痛みを感じたりすることで命を落とすこともあります」

破裂するほど胃が膨らむなんて、想像するだけでも痛そうです。人間の場合はそれほど頻繁に耳にしませんね。ウサギが急性胃拡張で命に関わる事態になるのは、「嘔吐できない」という、ウサギ特有の消化管の構造が関係しているのだそうです。

苦しくとも嘔吐できないのはなぜ? ウサギの消化管が一方通行の理由

ウサギは、胃の中身が先に進まなくなっても、嘔吐という形で口から出すことができません。食道と胃をつなぐ部分の筋肉が非常に発達しており、胃から食道への逆流を徹底的に防いでいるからです。なんとゲップすらできないのですから驚きですね。
どうしてウサギの消化管は逆流を許さないのでしょうか?

斉藤「ウサギの消化管は“食べ物を体内に入れること”を強く意識した作りになっています。

ウサギは繊維質という栄養価が低い物を大量に食べなければなりません。さらに、捕食される側の弱い立場ですから、常に食事にのんびり時間を割けるわけではありません。エサを食べられる時は、短時間のうちにできるだけたくさん食べた方が都合が良い。だからこそ、一度飲み込んだ食べ物を逆流させない構造が必要だったのでしょう。

私たち人間は、お腹がいっぱいになったら苦しいと感じ、食べるのを止めます。でもウサギは“お腹いっぱいだから、今はこれ以上食べられません”では困るんですね」
草むらを歩く小さいウサギ
なるほどウサギが吐けないのも、立派な生存戦略ということですね。
ウサギは味覚がとても鋭敏で、フードを変えたら食べなくなったという話もよく聞きますが、これも、有毒なものを食べても嘔吐できない性質ゆえかもしれませんね。

ウサギの急性胃拡張の原因は?

胃の中身が先に進まなくなるというと「毛球などの異物が詰まることで、胃から腸への流れをせきとめるのが原因?」と思う飼い主さんもいるかもしれません。しかし、斉藤先生によるとそういったケースはほとんどなく、胃炎・胃潰瘍などのせいで胃に血行不良が起こり、それをきっかけに胃拡張になることが多いのだそうです。

斉藤「胃の血流が悪くなると、胃の中身を腸へと送り出す蠕動運動が低下します。そうすると胃が膨らみ始め、引き伸ばされた胃の壁はさらに血行不良を起こします。結果、胃の蠕動運動はますます弱まり、胃はもっと膨らむというわけです」

一度胃が膨らみ始めると、どんどん進行する悪循環に陥ります。血行不良を起こすという意味では、胃の病気だけではなく、ストレスも急性胃拡張の原因になるのだとか。「ストレスは万病の元」とも言われますが、気をつけたいものです。

ウサギの急性胃拡張の症状は、パンパンのお腹と強い痛み

急性胃拡張になったウサギのお腹はパンパンに膨らみます。触ってみたら水風船のようにボヨボヨしていることもありますし、想像以上に限界まで膨らんだパンパンな胃が触れることもあります。いずれもウサギ自身は、強い痛みを感じるのだそうです。

斉藤「人間だったら“痛い!”と叫ばずにはいられないと思います。ウサギは叫びませんが、叫ぶほどの元気もないというか、痛みのあまり意識が朦朧としている感じがします。ぱっと見は痛がっているというより、ぐったりした“沈鬱”状態ですね。

私たちは痛いところを触られるとビクッとなることがありますが、急性胃拡張を起こしたウサギはそれすらできないくらい衰弱しています。相当痛いはずです」
耳を倒してじっとするウサギ
聞いているだけでも激烈な症状ですね。「急性」とのことですが、何時間程度で発症するのでしょうか?

斉藤「飼い主さんの話を聞いた限りでは、発症から重症化まで1日以内ということが多い印象です。“昨夜は元気だったのに、朝になったら様子がおかしかった”などと話してくださいますが、本当に急激に起こるので、怖い病気だと思います。

食欲が低下した後に発症することもありますが、なんの予兆もなく突然なってしまった、というパターンもあります。本当に、発症するまでわからない病気です」

ウサギが急性胃拡張かも? 様子見か、病院に連れて行くべきか

「急性胃拡張かも」と疑ったときはどうすればいいのでしょうか。

斉藤「自然治癒することは少ないので受診してほしいですね。ただし、病院まで連れて行くことがウサギに新たなストレスを与え、事態を悪化させるリスクがあります。移動に時間をかけないことが非常に大切です」

うっ滞の回でも触れましたが、自宅の近くにウサギを診てくれるかかりつけ医を持つことがポイントですね。

急性胃拡張の治療では何よりも「痛みを抑える」ことが優先

急性胃拡張の治療では、強力な鎮痛薬を使って痛みを抑えることが基本だそうです。

斉藤「胃拡張は、強い痛みそのものが命に関わります。ウサギは強い痛みを感じるとショックのあまり死に至ることがありますから、まず痛みを取り除かなければなりません。
薬の入った瓶と注射器
そのうえで、胃の蠕動運動を回復させる薬や胃液の分泌を抑える薬を投与したり、胃に溜まった内容物を抜く処置をしたりします。
いずれにせよ、痛みがなくならないことには治療を始められません。蠕動運動を回復させる薬も、鎮痛薬が効く前に投与したら、胃が動き出すさらなる痛みでそれこそ死んでしまいかねません。ウサギが感じている痛みを取り除くことで自然と胃の血行も回復し、胃の内容物が腸へと流れ出します」

ただし、適切な段階で受診しても残念ながら助からないケースもあるのが急性胃拡張の怖いところなのだそう。進行が極めて早いため、どうしても死亡率が高くなってしまうのだと斉藤先生は話します。

できるだけかからないようにしたい病気ですが、予防方法はあるのでしょうか?

ウサギの急性胃拡張は防げる? 効果的な予防法は?

斉藤「基本的には、うっ滞の予防が、急性胃拡張を防ぐことにもつながります。余計なストレスを与えず、牧草をよく食べさせ、適度に運動させるのが何よりの予防です。

急性胃拡張は、どんなウサギでも発症する可能性があります。健康的な生活を送ってもらうことを心がけつつ、万が一の時にはすぐ対処できるよう、近くにかかりつけ医を持っていただくことをおすすめします」

聞き手:橋爪
編集:うさぎタイムズ編集部

※当コラムでは、人間と暮らす多くのウサギが健康で長生きできるよう、疾患についての情報を共有するため、情報発信を行っています。個体により状況は異なりますので、ウサギの状態で気になることがあれば、かかりつけにご相談されることをお勧めします。当コラムの内容閲覧により生じた一切のトラブルについて、うさぎの環境エンリッチメント協会並びに斉藤動物病院、ラビットリンクでは責任を負いかねます。


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斉藤将之

院長斉藤動物病院
獣医師。 日本初のうさぎ専門病院さいとうラビットクリニック(東京都北区)の本院である斉藤動物病院(さいたま市)院長 本院の斉藤動物病院もうさぎ診療が全体の7~8割を占め、ウサギの年間診療実績も4000件と豊富な診療実績を誇ります。 一般社団法人うさぎの環境エンリッチメント協会 理事