※当コラムは斉藤先生の臨床経験をもとに、ウサギの医学書や論文など専門的な文献を参照して執筆しています。ウサギと暮らす飼い主さんにとって有益で正確な情報の発信に努めていますが、記載内容は執筆時点での情報であること、すべてのケースに当てはまるわけではないことをご理解願います。
※当コラムへの写真掲載にご協力いただいた飼い主様とウサギさんに感謝申し上げます。

こんにちは。うさぎの環境エンリッチメント協会専務理事の橋爪です。ウサギの最新の飼育方法を発信しているウェブマガジン「うさぎタイムズ」の編集長や、うさぎ専門店「ラビット・リンク」のオーナーをしています。 プライベートでも5匹(3男2女)のウサギさんと暮らしています。

ウサギの診療実績が年間4,000件と豊富なご経験をお持ちの斉藤動物病院の院長・斉藤将之先生にお話を伺うこちらのコラム。
診察室ではなかなか聞けないお話や、ウサギを診る獣医師の本音などお話ししていただきます。

第6回のテーマは、ウサギの足の病気「潰瘍性足底皮膚炎(ソアホック)」です。
ウサギのソアホック(中等度)

ウサギの足の裏に起こる「潰瘍性足底皮膚炎(ソアホック)」ってどんな病気?

ウサギの足の裏がジュクジュクと腫れて出血したり、かさぶたになったりする「潰瘍性足底皮膚炎(ソアホック)」。足裏を痛めたところに菌が入ることで発症します。軽症でとどまることも多いのですが、人間でいう“足の裏の角質が分厚く硬くなった状態”とは異なり、ひどくなれば歩けなくなることも。
ウサギのソアホック(中等度レベル)
品種や年齢に関わりなく発症する一方、かかりやすい子とそうでない子がいるそうなんです。

肥満で足裏に負担がかかることがソアホックの原因

斉藤先生「ソアホックの要因の一つは肥満です。体重が重いと足の裏にかかる負担が大きくなり、ふとしたことでダメージを受けやすくなるからです。

体重が重い大型品種の方が足にかかる負担も大きそうに思えますが、体格に合わせて足裏も大きいため、負担の度合いは小型品種と同じようなもの。生まれつきソアホックになりやすい品種はなく、どのウサギでも太らせるとソアホックにかかる可能性があります」
ソアホックにかかる可能性の高い肥満のウサギ
足裏に負担をかけそうといえばウサギおなじみの「足ダン」ですが、足ダンのしすぎもソアホックの原因でしょうか?

斉藤「繊細だったり、怒りっぽかったりする性格の子に多い足ダンですが、足ダンでソアホックになるケースはそれほど多くありません。ただ、足ダンするとおやつがもらえる、ケージから出してもらえるなど、足ダンが日常的な習慣になっている子は気をつけた方がいいですね」

ソアホックになりやすい床材とは フローリングはダメって本当?

ソアホック発症のきっかけになるもう一つの要因は「不適切な床材」だと斉藤先生は言います。身近なフローリングも、実は要注意なのだとか。

斉藤「フローリングの上で部屋んぽさせるご家庭も多いと思いますが、肉球がなく足裏が毛で覆われているウサギにとって、フローリングは滑るので前に進みづらいんです。素早く動くと足の裏が摩擦され、火傷のようになってしまうこともあります。

体育館で滑って転んだときに、膝やすねをこすって火傷したように熱く感じた経験はありませんか? あれと似たようなものです。

足裏が傷つくと、ウサギは気にして舐め、毛を抜いてしまいます。そこから雑菌が入るんです」
ウサギの足の裏
斉藤「また、床材の材質とは直接関係ありませんが、ケージの床におしっこなどの水分が溜まり、足裏が常にジメジメと不衛生であることも、ソアホックのリスクを高めます。
濡れているとウサギも不快ですから、舐めてしまい、やはり脱毛につながるんです。人間で言うと“唇の荒れが気になって舐めていたら刺激になって悪化した”というのと似ていますね。
ソアホックはともかく、“舐めると悪化する”と知っておきましょう」

昨今は栄養管理が行き届き肥満の個体が減ったことや、飼育環境が衛生的になったことで、ソアホックが重症化する子は減っているのだとか。それでも「かかる子はかかる病気」なんだそうです。

【脱毛・足の裏が赤い・かさぶた・タコ・ジュクジュク・出血】ソアホックの症状、初期から重度まで

ソアホックの症状は通常、後ろ足から始まり以下のように進行します。
ソアホックの進み方

肥満の子では①から徐々に進みますが、怪我をきっかけに③から始まることもあり、原因によって症状の出始めも異なるようです。

斉藤「②の“角質層が分厚くなる”つまりタコの状態で止まるケースが多く、この段階ではウサギも痛みはないようです。しかし、原因を取り除かないと進行することもあるため、②で受診しておくと安心です」

様子を見てもいい期間はケースバイケース 悪化を防ぐため早めの受診が安心

足裏の脱毛に気づいた飼い主さんは、どのくらいの期間なら「様子見」で大丈夫なのでしょうか?

斉藤「肥満度が高い個体や、ケージ内が不衛生な時は急速に悪化するので、一概には言えません。

飼いウサギでは足の裏の毛がわずかに抜けてしまっていることが多いです。ですが足の裏が脱毛していても、足の裏の横から生えている毛で覆われて、脱毛している足の裏を保護してくれています。
その保護している毛の脱毛に気が付いたら早めの受診をした方がよいと思います。

ソアホックは放置しても命に関わる病気ではありませんが、悪化すると回復まで時間がかかりますから。

また、ウサギは体調の悪化を隠します。ソアホックの子でも普通に歩いていることも珍しくありません。歩けているから大丈夫、と思わず、足裏の状態確認が大切です」 

【自宅での治し方】ソアホック対策は床材の工夫とダイエット

ソアホックの治療は足への負担を軽減させることが第一です。病院では、ソアホックの原因を飼い主さんと獣医師で一緒に探ります。原因がわかればそれを取り除くだけで、大半の子が自宅で自然治癒するのだそうです。

斉藤「②か③で受診する子が多いので、 飼育環境の床材を変える、もし肥満なら減量する、これが治療の2本柱です。どちらも自宅で飼い主さんができるアプローチです。

痛みから爪先立ちになっている、足の裏から出血している、かさぶたが潰瘍になっているなどは重症化のサイン。包帯を巻く、抗生物質を処方するなど病院での治療が必要です」

部屋んぽの滑り止め対策はどうする?

フローリングは滑って足裏への負担になるとのことですが、部屋んぽの際の対策を教えてください。
フローリングの上のウサギ
斉藤「ぴょんぴょん跳ねる程度ならそれほど気にする必要はありませんが、バタバタと走り回っているのなら、ペットシーツや毛足の短いタイルカーペットを敷き詰めると良いですね。うさぎがかじれる素材のものは、誤って食べてしまわないか見守ってあげてください」

ケージの床材はスノコやコルクマットがおすすめ

部屋んぽよりもはるかに長い時間を過ごすのはケージですが、ケージの床材はどんなものが適しているでしょうか。

斉藤「いろいろな考え方があり、どんな床材にも一長一短ありますが、個人的なおすすめはスノコです。
押すと跳ね返ってくる柔軟性がありますし、おしっこをしても隙間から落ちます。水分を吸収してくれるので、足元がずっとベチャベチャで不衛生という事態も避けられます。
耐久性の観点から定期的な交換が前提にはなりますが、ウサギがかじって食べてしまっても大きな問題がないのは魅力です。

他にも、人間の赤ちゃん用に売られているコルクマットも良いと思います。天然素材のものならかじっても安心です」

スノコの他には、ワラでできた座布団も手に入れやすい素材ですし、水捌けの良いバミューダヘイ(牧草)を敷き詰める、SUSUを使用するなどがあげられます。ソアホック予防にもおすすめなスノコの床材にのるウサギ

肥満解消・ダイエットには食事管理と運動を

次に肥満対策ですが、ウサギのダイエットも私たちと同じで、食餌の量を減らし、運動を取り入れることが基本だそうです。

斉藤「“食事を明日から半分に!”と極端に減らす、毎日与えていたおやつを全くあげないなど、それまでの習慣からかけ離れたダイエットはストレスになります。2週間程度かけてゆっくり変えていくと良いですね。

運動は毎日1〜2時間くらい部屋んぽをさせたり、一緒に遊んだりしてあげるのが理想的です」

【軟膏・クリーム・スプレー】ソアホックは自宅の市販薬で治療できる?

初期のソアホックでまだ受診するほどではなさそう、軽度だからこのまま自宅で治したい、そんな時は、手持ちの薬をつけて様子を見たくなります。足裏を保護する軟膏やクリーム、被毛を守る効果のあるグルーミングスプレーなど、市販薬を使っても大丈夫でしょうか。

斉藤「すべての市販薬を確認したわけではありませんが、基本的に薬は使わないほうがいいと思います。
多くのウサギは足の裏に薬を塗られると不快に感じ、取り除こうと舐めます。舐めることで毛を抜いてしまうため、悪化を招くんです。特に、甘い香りがするものは要注意です。

市販薬で治そうとするのではなく、原因を取り除くほうに注力しましょう」

「ソアホックはなかなか治らない」? 足への負担軽減で予防を

重症のソアホックでは足裏の毛がなかなか生えてこず、完治まで1〜2ヶ月かかるケースもあるのだとか。できるだけ発症予防に努めたいものです。

斉藤「繰り返しになりますが、足に負担をかけないことが大切です。

“もしかして”と疑わしい症状が出ているなら、まずケージの床材を変更し、肥満気味なら減量を。
原因がわからない、改善が見られないときは、悪化防止のため必ず受診してください」

ケージの床材の上からこちらを見つめるウサギ
多頭飼育している場合は、関節炎になった、膿が溜まったなど相当悪化した状況を除けば、ソアホックの子を他のウサギから隔離する必要もありません。
軽症のうちに受診すれば経過観察で済みますから、命に関わることはないとはいえ、早めの対応がおすすめです。

ソアホックは、ふかふかの土・草の上で過ごし肥満にもなりえない、野生では考えにくい「飼いウサギならでは」の病気です。裏を返せば、飼い主さんが気をつければ防げるということ。ソアホックになってしまったら、ケージ内の衛生状態や床材、食餌内容など、飼育環境をトータルで見直してあげると良いかもしれませんね。

聞き手:橋爪
編集:うさぎタイムズ編集部

※当コラムでは、人間と暮らす多くのウサギが健康で長生きできるよう、疾患についての情報を共有するため、情報発信を行っています。個体により状況は異なりますので、ウサギの状態で気になることがあれば、かかりつけにご相談されることをお勧めします。当コラムの内容閲覧により生じた一切のトラブルについて、うさぎの環境エンリッチメント協会並びに斉藤動物病院、ラビットリンクでは責任を負いかねます。


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橋爪宏幸

うさぎタイムズ編集長。 うさぎ専門店「ラビット・リンク」のオーナー。 一般社団法人うさぎの環境エンリッチメント協会 専務理事。 ExoticpetSaver FirstResponder。 ExoticpetSaver Emergency Rescue Technician。 現在ニンゲン3人のほか、長男:ミニチュアダックスの桜花、次男ホーランドロップのカール、三男:ネザーランドドワーフの政宗、長女:ホーランドロップのミラ・ジョボビッチと暮らしている。