※当コラムは斉藤先生の臨床経験をもとに、ウサギの医学書や論文など専門的な文献を参照して執筆しています。ウサギと暮らす飼い主さんに有益で正確な情報の発信に努めていますが、記載内容は執筆時点での情報であること、すべてのケースに当てはまるわけではないことをご理解願います。
※当コラムへの写真掲載にご協力いただいた飼い主様とウサギさんに感謝申し上げます。
こんにちは。うさぎの環境エンリッチメント協会専務理事の橋爪です。ウサギの最新の飼育方法を発信しているウェブマガジン「うさぎタイムズ」の編集長や、うさぎ専門「ラビット・リンク」のオーナーをしています。 プライベートでも5頭(3男2女)のウサギさんと暮らしています。
ウサギの診療実績が年間4,000件と豊富なご経験をお持ちの斉藤動物病院の院長・斉藤将之先生にお話を伺うこちらのコラム。
診察室ではなかなか聞けないお話や、ウサギを診る獣医師の本音などお話ししていただきます。
第29回のテーマはノミ・ダニなどの外部寄生虫症です。ウサギに多い「ウサギズツキダニ」「ツメダニ」も紹介します。
目次
外部寄生虫症ってどんな病気?
皮膚に虫が寄生する疾患をまとめて「外部寄生虫症」と言います。消化管に寄生する回虫や、心臓に寄生するフィラリアとは異なり、体の外(皮膚表面)に寄生することからこのように呼ばれます。
斉藤「基本的にウサギ同士の身体的接触で広がります。ペットのウサギが寄生される可能性があるもので知っておきたいのは以下6️種類です。
(1)ウサギキュウセンヒゼンダニ
(2)疥癬(かいせん)
(3)ウサギズツキダニ
(4)ツメダニ
(5)ノミ
(6)ハエウジ
罹患率が高いのは(3️)ウサギズツキダニ (4)ツメダニです。心当たりがないうちに寄生されているケースがほとんどで、生後すぐに親との接触で寄生が成立することが多いと考えられます。皮膚疾患の患者さんの1〜2割が外部寄生虫症で、そのうち8〜9割がウサギズツキダニ・ツメダニですね。
イヌやネコでおなじみの(5)ノミはウサギへの寄生は草むらなどで散歩させることをしなければまれです。(6)ハエウジは、通常の衛生環境で飼育していればかかる心配はまずありません」
ウサギはイヌやネコよりも外部寄生虫がつきやすいのでしょうか?
斉藤「ダニ寄生は、イヌ・ネコより多いと思います。ウサギが寄生されやすいというより、イヌ・ネコでノミ・ダニ予防薬の投与が浸透し、寄生される機会が昔に比べて減っているからです。ウサギは予防薬の習慣がないので、結果的にイヌ・ネコよりも寄生が多くなっているんだと思います」
主な症状はかゆみで、患部が荒れるのが外部寄生虫症です。それぞれの寄生虫について特徴を見ていきましょう。
ウサギの外部寄生虫症(1)ウサギキュウセンヒゼンダニ
ウサギキュウセンヒゼンダニは「ウサギ耳疥癬(かいせん)」「ウサギ耳ダニ」とも呼ばれ、主に耳の穴に寄生するそうです。
斉藤「耳だけでなく、毛づくろいで他の部位にも拡大します。ウサギ同士の接触のほか、ダニ自身の移動によって寄生が広がります。成虫の体長は0.5mm前後で、肉眼でも見えます。
外耳炎を起こし、耳が充血する、浸出液が出る、大量のかさぶたが出るなどの症状が見られます。患部をかき壊すと二次感染を起こし細菌性皮膚炎になることもあります」
人間も、少し大きめの耳垢があるだけでゴソゴソと音がしたり、違和感があったりしますよね。人間よりすぐれた聴力を持ち、耳介も大きいウサギですから、耳の中を虫が常時動き回っていたら苦痛もかなり大きそうです。
ウサギの外部寄生虫症(2️)疥癬(かいせん)
ネコショウセンコウヒゼンダニ・イヌセンコウヒゼンダニがウサギにも寄生します。体長は0.3mm程度と、肉眼ではほぼ見えないサイズだそうです。
疥癬は、人間にもうつる人畜共通感染症。拡大力が強く、寮や介護施設などで発生すると対応に苦慮するようですが、ウサギから人間にうつることも多いのでしょうか?
斉藤「疥癬の子の飼い主さんも疥癬、というパターンは結構あります。もともと、人間の疥癬は動物からうつることが多いと言われています。腕の部分に症状が出る飼い主さんが多く、ウサギを抱っこしてうつったんだろうな、と思っています。
ウサギは動物病院で治療、飼い主さんは皮膚科を受診していただくようお伝えしています」
皮膚疾患が全身の問題に かゆみのあまりお腹の具合が悪くなる子も
ウサギの疥癬は手と顔に多く、かゆみから患部をかき壊す、局所的な脱毛、紅斑、浸出液が出る、かさぶたができるなどの症状が見られるそうです。疥癬は人間でも激しいかゆみをもたらすことで知られていますが、ウサギはどうでしょう?
斉藤「ウサギでもかゆみによるストレスはかなりのものになることがあり、食欲が落ち、胃腸の動きが鈍ってうっ滞になるケースもありえます。
寄生したダニの数や症状の重さというより、その子の性格によります。かゆみがひどくとも頑張ってごはんを食べ続けられる子もいれば、少量のダニの寄生でも違和感が強く耐えられず、食べられなくなる子もいます。
ウサギにとって消化管うっ滞は、ときに命に関わる一大事。皮膚科疾患といえども油断できません」
ウサギの外部寄生虫症(3)ウサギズツキダニ
斉藤「ペットのウサギにはかなりの確率で寄生しているとも言われます。”持っていて当たり前”とまではいきませんが、寄生されている親から生まれた子ウサギはほぼ確実に寄生される、と考えて良いでしょう」
ウサギズツキダニに寄生されても、普段は症状もなく、共存状態で過ごすそうです。
斉藤「ウサギの免疫力が低下したタイミングや、ダニが活動しやすい温かい気候になってきた時に一気に増え、フケやかゆみといった症状につながります。逆に言えば、それまでの段階では寄生を見分けるのも難しく、治療の必要性も薄いんです。
サイズは0.5mmほどで、虫体や卵がかろうじて肉眼でも見えます」
ダニアレルギーの人がいるなら積極的に治療を
ウサギ自身に症状がなくとも、飼い主さんや家族にダニに対するアレルギーがあり、症状が出るならウサギは治療対象です。寄生するダニの数が少ないうちはアレルギーの人も反応が出づらいですが、増えればアレルギー症状も出やすくなります。疑わしい場合はウサギが無症状でも検査・治療しましょう。
ウサギの外部寄生虫症(4)ツメダニ
ツメダニも、ウサギズツキダニと同じく寄生されても無症状のウサギが多いそうです。
斉藤「ウサギの頭から背中にかけて寄生します。かゆみやフケのようなものがみられたり、薄毛や脱毛になったりします。一時的に、人間の皮膚にも寄生してかゆみを起こすことがあります」
近年、ズツキダニよりもツメダニの方が増えていると斉藤先生は感じているそうです。サイズは0.5mm未満のことも多いとのことで、肉眼で確認するのも困難。無症状のうちはダニの数も少なく、検査でも見つかりにくいため、「寄生されていない」ことの証明はとても難しいんです。
ウサギの外部寄生虫症(5)ノミ
イヌノミ・ネコノミ・ヒトノミなどがウサギにも寄生しますが、まれです。イヌ・ネコ同様、大量に寄生されたら、かゆがってかき壊す・脱毛・フケのようなものがみられるそうです。
ウサギの外部寄生虫症(6)ハエウジ
いわゆる「ウジが湧いた」状態で、ハエの幼虫が壊死組織を食べながら皮下に潜り込みます。脱毛、皮疹、痒みや痛みなどさまざまな不快症状が起き、二次感染も起こします。
かなりショッキングですが、健康な子がいつの間にか寄生されるものではない、という点で、ハエウジは他の寄生虫疾患とは性質がちょっと違うのだそうです。
斉藤「寄生されるのは、高齢・肥満・脊椎疾患などで毛づくろいができず被毛が汚れがちな子、壊死した皮膚がある子です。ただし、そういった問題を抱えていても、清潔面で当たり前のことに気をつけていれば通常、ハエウジは発生しません。
寄生されるのは、常時お尻が排泄物まみれになっている、化膿した皮膚炎を何日も放置して悪化しているといったケースです。
飼育状況を細かく聞くと、最低限のお世話もできていなかったと発覚することもめずらしくありません。ウサギに対する治療と同時に、飼育指導が必要な飼い主さんもまれにいらっしゃいます」
ウサギの外部寄生虫症にどうやって気づく?肉眼で見える?
イヌ・ネコではノミやダニが動いているのに飼い主さんが気づき、受診につながることもあるようですが、ウサギはどうでしょうか?
斉藤「ウサギズツキダニ・ツメダニでは、被毛をかき分けたときに塩コショウをふりかけたように見える、ノミの寄生ではノミの糞が黒い点々に見える、などと言われることがあります。
ただし、寄生虫かと思ったら牧草を頭からかぶって遊んでいるうちに牧草の粉が付着しただけ、というケースもあり、飼い主さんが見分けるのは難しいこともあります。気になる様子があれば受診をおすすめします」
ウサギの外部寄生虫症、治療・駆除の方法
ウサギズツキダニ・ツメダニは基本的に駆虫薬での治療になります。被毛に垂らす滴下薬を用います。ウサギ用として認可されたものはないので、他の動物用を代用するそうですが、中には、ウサギに禁忌の成分もあるそうです。
斉藤「ノミ・ダニ治療薬で、フィプロニルという成分があります。イヌ・ネコでは一般的ですが、ウサギでは、まれに突然死の報告例があります。最近はイヌ・ネコに対して使われることも減りましたが、ウサギには重大な副作用の危険があるとして獣医師の間でも認識されています。
念のため、フィプロニルでなくてもイヌ・ネコ用の市販のノミとり薬を飼い主さんの自己判断でウサギに使用しないでください」
お薬を使うとすぐに虫はいなくなるのでしょうか?
斉藤「滴下薬は月に1度の投与ですが、卵には効かないので、期間をおいて2〜3回の投与が必要です。
ツメダニ・ズツキダニは完全にゼロにするのは難しく、症状が出ないところまで数を減らすのが治療目標になります。一方、疥癬を起こすヒゼンダニは一匹でもいれば症状が再発するという気持ちで治療しているので、症状が改善しても駆虫薬を数回継続して行きます」
疥癬は薬の投与とあわせて飼育環境の清掃も必要で、次亜塩素酸での消毒が有効だそうです。きちんと駆虫薬を投与すれば2ヶ月ほどで完治すると斉藤先生は話してくれました。
ウサギの外部寄生虫症の予防方法
斉藤「新しくお迎えする際は、疑わしい症状がないか確認してください。特に、多頭飼育で先住の子と遊ばせる前にはしっかり観察しましょう。
ただ、寄生率の高いツメダニ・ウサギズツキダニは、予防にも限界があると思います。検査で見つかれば”いる”ことは確認できますが、見つからないからといって”一匹もいない”ことの証明にはなりません。神経質になりすぎず、症状が出ていないのなら大きな問題はなく、検査や隔離は不要と考えてください」
外部寄生虫症は時に、人間が媒介することもあるのだとか。寄生されているウサギに触った手にダニや卵が付着し、そのまま他の子に触れることで、寄生虫も一緒に移動します。寄生が疑われるケースでは、お世話の前後の手洗いが重要です。
また、ノミは草や木など環境にも存在する可能性がありますから、屋外に連れて行った際に寄生されることもあります。他のウサギと接していないからといって寄生のリスクはゼロではないと知っておきましょう。
ブラッシングは予防・治療に効果がありますか?
斉藤「ウサギは、ブラッシングを嫌がることも多いので、あえて外部寄生虫症の予防のために行う必要はないと思います。そもそも、ウサギではブラッシングで取り除けるタイプのノミは多くはありません。
もしノミが見つかり、ウサギが嫌がらないのならやってあげてもいいとは思います。日頃からブラッシングさせてくれる子なら、そのついでに異常がないか見てあげると良いですね」
ウサギの外部寄生虫症は、イヌやネコとは事情が異なる部分もあります。皮膚科疾患は対応の緊急度が低そうにも感じられるかもしれませんが、かゆみ・痛みといった不快症状はQOLの低下を招きます。人間にうつる可能性を考えても、放置はおすすめできません。疑わしい症状に気づいたら、早期受診・駆除に努めましょう。
聞き手:橋爪
編集:うさぎタイムズ編集部
※当コラムでは、人間と暮らす多くのウサギが健康で長生きできるよう、疾患についての情報を共有するため、情報発信を行っています。個体により状況は異なりますので、ウサギの状態で気になることがあれば、かかりつけにご相談されることをお勧めします。当コラムの内容閲覧により生じた一切のトラブルについて、うさぎの環境エンリッチメント協会並びに斉藤動物病院、ラビットリンクでは責任を負いかねます。
最新記事 by 橋爪宏幸 (全て見る)
- ウサギ専門医に聞く(31)油断は禁物!ウサギの鼻炎 鼻づまりでQOLが大きく低下【症状・治療】 - 2024.08.30
- ウサギ専門医に聞く(30)「毛芽腫」「乳頭腫」皮膚のイボは切除が必要?【上皮系腫瘍】 - 2024.07.26
- ウサギ専門医に聞く(29)ツメダニ・ウサギズツキダニが最多【外部寄生虫症】 - 2024.06.12