※当コラムは斉藤先生の臨床経験をもとに、ウサギの医学書や論文など専門的な文献を参照して執筆しています。ウサギと暮らす飼い主さんにとって有益で正確な情報の発信に努めていますが、記載内容は執筆時点での情報であること、すべてのケースに当てはまるわけではないことをご理解願います。

こんにちは。うさぎの環境エンリッチメント協会専務理事の橋爪です。ウサギの最新の飼育方法を発信しているウェブマガジン「うさぎタイムズ」の編集長や、うさぎ専門「ラビット・リンク」のオーナーをしています。 プライベートでも5頭(3男2女)のウサギさんと暮らしています。

ウサギの診療実績が年間4,000件と豊富なご経験をお持ちの斉藤動物病院の院長・斉藤将之先生にお話を伺うこちらのコラム。
診察室ではなかなか聞けないお話や、ウサギを診る獣医師の本音などお話ししていただきます。

第17回のテーマは、ウサギの脱臼です。
片耳だけ垂れて寝転ぶうさぎーウサギ専門医に聞く(17)脱臼の原因と治療法は?

骨が本来の位置から離れてしまう『脱臼』

脱臼とは、何かの拍子に骨が本来あるべき場所からずれてしまった状態で、骨と骨をつなぐ関節部位で生じます。

《ウサギは骨折頻度が高い》脱臼も起こしやすいの?

ウサギの骨はとても繊細で、外力が加わると簡単に折れてしまうことを骨折の回で教えていただきました。ということは、同様に脱臼も起こりやすいのでしょうか?

斉藤先生「骨折は週に1頭くらい診察していますが、脱臼は月に1、2頭程度です。骨が折れやすいウサギは、骨に強い力が加わったら脱臼では済まず、骨折に至る方が多いですね。また、脱臼と同時に折れてしまうパターンもあります。

年齢による差もあります。高齢のウサギなら骨折するような衝撃も、骨が成長途中で柔軟性がある子ウサギであれば、脱臼で済むケースも見られますよ」

ウサギの脱臼は圧倒的に外傷が原因で起こる

人の脱臼はスポーツや転倒などで起こり、主に外傷が原因ですが、ウサギも同じでしょうか? また、外傷のきっかけはどんなものか教えてください。

斉藤「ウサギの脱臼も、人間と同様に外傷性のものが圧倒的です。中でも、多いのは

・高いところから落下した
・部屋んぽの際に飼い主さんが誤って踏んだり蹴ったりしてしまった
・爪切りの最中に暴れた

などですね。

数は少ないですが、空中で「から蹴り」しただけで脱臼に繋がる場合もありますし、カーペットに爪が引っ掛かり取ろうと引っ張った結果、脱臼することもあります」

私たちからしたら「そんなことで」と思えるような、ちょっとしたことがきっかけで脱臼が起こってしまうんですね。ウサギが脱臼したらどんな症状が出るのでしょうか。

ウサギが脱臼したらどうなる? よくある症状【肘・膝・股関節】

脱臼したウサギは、歩かないでじっとしていたり、患部が腫れたりします。脱臼の程度で症状がかなり違うと斉藤先生は言います。

脱臼の外れ方の程度は『グレード』で示す

斉藤「例えば、脱臼の重症度を評価する手段の一つに“グレード”があります。犬ではしっかりとしたグレード分けがされていますが、ウサギではされていません。ですが私は犬にならってグレード分けを考えながら診察をしています。
膝関節だけに使われるのですが、1から4で数字が大きくなるほど重症度が高くなります」
立っている白色垂れ耳ウサギーウサギ専門医に聞く(17)脱臼の原因と治療法は?
斉藤グレード1は、足を伸ばすと関節が元に戻るためほぼ無症状ですが、グレード4になると自力では元に戻せず、三本足でケンケンしている姿も見られます。同じ部位の脱臼でも程度によってだいぶ違いがあることがわかりますね。
ちなみに、肘や肩、股関節などは、外れたら自然には元に戻りません」

ウサギは脱臼しても意外に平気? 飼い主さんが気づかない理由

人は脱臼すると痛みで動けないケースもあると聞きます。ウサギはどうでしょうか?

斉藤「ウサギはあまり痛がりません。これまでもお伝えしている通り、ウサギは捕食者の標的にされないよう、体調不良をできる限り隠そうとします

脱臼してから日が経つと、関節が外れたままでも何もなかったように足を使い出しますから、脱臼しても飼い主さんがすぐに気付けないケースも多々あるんです」

レントゲン撮影で検査・診断したら治療へ ウサギの脱臼は整復すべき?

骨折の回では、無闇にレントゲン撮影をしないと教えていただきました。脱臼はどうでしょうか。

斉藤「グレードが進行している膝の脱臼は、触診で判断できる場合もありますが、基本的にはレントゲン撮影が必要です」

確定診断後は、治療に進みます。ウサギの脱臼治療は

・関節を引っ張って元の位置に戻す『非観血的整復』
・手術で骨を固定する『観血的整復』
・経過観察する方法

があり、斉藤先生は経過観察を選ぶことが多いそうです。なぜ整復で元に戻さないのでしょうか?

脱臼を積極的に整復しない理由

斉藤「イヌやネコでは“1日も早く整復を”、と言われますが、ウサギは必ずしもそうではありません。

脱臼の整復は、早期に行わなければ、整復後も再脱臼するリスクが高くなります。ウサギは脱臼にすぐさま気づけるケースは少なく、時間が経ってからの処置にならざるをえないことが多いため、整復で元に戻した後も再脱臼する可能性が高いんです
足裏を見せて寝転ぶ茶色のうさぎーウサギ専門医に聞く(17)脱臼の原因と治療法は?
斉藤「さらに、整復の際に骨折させてしまう可能性も考慮しなければなりません

脱臼の整復は、強い力でグリグリと外れた部分を押し込む処置です。ウサギに慣れた獣医師ですら“大丈夫かな?”と怖くなるくらい力を入れないと、はまらない場合もあるんです。ウサギは骨が繊細ですから、処置の過程で骨折させてしまうリスクがつきまといます。

さらに整復は、皮膚を切開しない非観血的方法でも全身麻酔下で行いますから、麻酔のリスクも負うことになります

これらのリスクを総合的に検討すると、経過観察した方が良いケースが多いと私は考えます。当院では“整復はせず、痛み止めを使いながら様子を見ましょう”とお伝えすることが多いですね」

なるほどウサギの脱臼処置にはリスクが高いことがわかりました。でも、人間では“脱臼をあえてそのままにしておく”とはあまり考えられません。ウサギは、整復しないままで問題ないのでしょうか?

驚き!「ペットのウサギは脱臼を整復せずとも天寿を全うできるケースが多い」

斉藤脱臼したままでも、飼いウサギが生きていくには大きな支障がありません

脱臼後は筋肉が、はずれた関節部分をカバーするようになり、やがて偽関節(ぎかんせつ)と呼ばれる“ニセの関節”に変わることもあります。
部位にもよりますが、偽関節は正常な関節に比べると、動かせる範囲が70〜80%とやや狭くなります。人間では問題ですが、ペットのウサギはこのくらい動かせれば、生活上の大きな困りごとにはならないんです。

捕食されるリスクがなく、食餌も与えてもらえる飼いウサギでは、脱臼したままでもそれが直接、寿命を縮めることにはなりません」

放置はダメ!脱臼がソアホックの原因になることも

痛がることもあまりなく、脱臼したままでも通常の生活が送れると聞くと、受診しなくてもいいのかな、と思えるかもしれません。しかし、脱臼の放置はおすすめできません。正面を向いているグレーのミニウサギーウサギ専門医に聞く(17)脱臼の原因と治療法は?股関節脱臼では、外れた側の足をかばい、反対側の足にかかる負担が増すことでソアホックを招く場合もあるのだそうです。

斉藤「股関節を脱臼してしまうと、普通に立っているつもりでも脱臼していない方に自然と負担がかかり、ソアホックを招く可能性があります。片足だけソアホックになっている子では、反対側に脱臼を見つけるケースもたまにありますよ」

脱臼も他の病気と同様、様子がおかしいと気づいたら受診、が基本ですね。

骨折予防は脱臼予防!ちょっとした事故に気をつけよう

脱臼を防ぐには、どんなことに注意すれば良いか教えてください。

斉藤「まずは、高所からの落下防止を心がけましょう。部屋んぽをさせるスペースでは家具の配置を工夫し、抱っこの際は飼い主さんができるだけ座るようにしてください。

ケージの見直しも大切です。爪や足をケージの金網に引っかけないように、網目の細かなものを使用したり、スノコの隙間に足を落とさないようケージに牧草を敷き詰める、藁の座布団を用意するなど、工夫してみてください。

また、爪が長いと引っかかる原因になりますから、伸びすぎないよう適度にカットしてあげて欲しいのですが、爪切りを嫌がって暴れた結果、脱臼するケースもあります。不安があれば、ショップや病院にお任せすると良いでしょう」
座っている茶色のうさぎーウサギ専門医に聞く(17)脱臼の原因と治療法は?
斉藤「また、部屋んぽ中にウサギを蹴らないよう注意するのはもちろん、ウサギを驚かせないことも大切です。びっくりした拍子にケージ内で暴れて足を引っかけたり、強く蹴り上げたりすると脱臼を招きます。

脱臼の予防策は骨折と同様です。お部屋の見直しから始めてみてください」

人間の脱臼は治療で関節を元に戻すケースがほとんどかと思いますが、ウサギの場合は「経過観察」も合理的な選択肢であることを知っておいていただければと思います。もちろん、状況や主治医の考え方によっては、整復が医学的に妥当と判断されるケースもあるでしょう。ウサギ特有の事情や治療の背景まで知ったうえで選択できたら、より安心ですね。

聞き手:橋爪
編集:うさぎタイムズ編集部

※当コラムでは、人間と暮らす多くのウサギが健康で長生きできるよう、疾患についての情報を共有するため、情報発信を行っています。個体により状況は異なりますので、ウサギの状態で気になることがあれば、かかりつけにご相談されることをお勧めします。当コラムの内容閲覧により生じた一切のトラブルについて、うさぎの環境エンリッチメント協会並びに斉藤動物病院、ラビットリンクでは責任を負いかねます。


The following two tabs change content below.
うさぎタイムズ編集長。 うさぎ専門店「ラビット・リンク」のオーナー。 一般社団法人うさぎの環境エンリッチメント協会 専務理事。 埼玉動物海洋専門学校 特別講師。 ExoticpetSaver FirstResponder。 ExoticpetSaver Emergency Rescue Technician。