※当コラムは斉藤先生の臨床経験をもとに、ウサギの医学書や論文など専門的な文献を参照して執筆しています。ウサギと暮らす飼い主さんにとって有益で正確な情報の発信に努めていますが、記載内容は執筆時点での情報であること、すべてのケースに当てはまるわけではないことをご理解願います。

※当コラムへの写真掲載にご協力いただいた飼い主様とウサギさんに感謝申し上げます。

こんにちは。うさぎの環境エンリッチメント協会専務理事の橋爪です。ウサギの最新の飼育方法を発信しているウェブマガジン「うさぎタイムズ」の編集長や、うさぎ専門「ラビット・リンク」のオーナーをしています。 プライベートでも5匹(3男2女)のウサギさんと暮らしています。

ウサギの診療実績が年間4,000件と豊富なご経験をお持ちの斉藤動物病院の院長・斉藤将之先生にお話を伺うこちらのコラム。
診察室ではなかなか聞けないお話や、ウサギを診る獣医師の本音などお話ししていただきます。

第8回のテーマは、ウサギの骨折です。

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他の哺乳類と比べて圧倒的にもろいウサギの骨

他の動物と比べてウサギの骨はもろく、ちょっとしたことで折れてしまうのだそうです。

斉藤先生「ウサギの体重に占める骨の重さの割合は約8%。これは、空を飛ぶ鳥と同じくらいです。ペットとしてお馴染みの犬(14%)、猫(12%)と比較しても少ないことがわかります。

これは、捕食されそうになった時に素早く逃げるためだと考えられます。飛び跳ねて逃げるには体重が軽い方が有利ですから、骨も軽い作りになっているんでしょう」

それだけ逃走に特化して暮らしてきたことがわかりますね。

斉藤「ウサギの骨は軽いだけではなく薄いんです。力が加わると簡単に折れてしまいますし、亀裂骨折が起きることもあります。

体の中でもっとも太く、強度がありそうな背骨ですらそうです。ウサギの背骨は人間と違ってC字型に湾曲しています。そのため、まっすぐに引き伸ばす方向の力に弱く、軽い力で押さえつけただけでも背骨の骨折に繋がることがあります。ウサギの背骨のイメージーウサギ専門医に聞く(9)高さ30㎝でも危険?ウサギの骨折 原因と治療法
また、ケージから出そうと抱えられたことに抵抗し、空中で激しく空蹴りをした結果、その衝撃に耐えられず骨が折れてしまうこともあるんです」

そんなに折れやすいと聞くと、一緒に遊ぶにもおっかなびっくり、となる飼い主さんもいそうですね。実際のところ、斉藤先生の病院には、どのくらいの頻度で骨折のウサギがやってきますか?

斉藤「指など軽度の骨折だと1週間に1〜2件、背骨など重度の骨折は1ヶ月に1件くらいという感覚です。いくら折れやすいとはいっても、普段のスキンシップを警戒しすぎる必要はないと思いますよ。

とはいえ、イヌやネコに比べると、ウサギの骨折頻度は圧倒的に高いのが現実です。イヌやネコは室内飼いの子が増え、交通事故が減ったことから、骨折数も一昔前に比べれば少なくなりました。一方、同じ室内飼育でもウサギは骨折します。それだけウサギの骨は繊細だということでしょう」

年齢・性別に関係なくすべてのウサギが気をつけたい骨折

人間では妊娠・出産を経験する女性は骨がもろくなると言われます。また、男の子は女の子よりも活発な遊びを好むからか、男子と女子では男子の方が圧倒的に骨折の頻度が高いようです。ウサギは骨折頻度にオス・メスで違いはあるのでしょうか。

斉藤「オス・メスで骨折頻度に差はないと思います。また年齢による骨折のしやすさに違いもありません。ただ幼少期の骨はバネのように柔軟性があり、しなるので、ポキっと折れる完全骨折は起こりにくいかもしれませんね」

骨の柔軟性に差はあれど、すべてのウサギが骨折に気をつけないといけないということですね。具体的に、骨折が起こりやすいシチュエーションはどんなものがあるのでしょうか。

ウサギの骨折原因のベスト3! 骨折が起きやすい状況を知っておいて

ウサギの骨折の原因は、大きく分けて

(1)ケージ内での事故
(2)飼い主さんの不注意による事故
(3)ウサギがパニックを起こしてしまった

の3つだと斉藤先生はいいます。それぞれについて詳しく聞かせてください。

斉藤(1)ケージの中での事故は、”プラスチックやスノコの隙間で足を挟んだ”、”ノビをした時に金網に足が入った”などが挙げられます。いずれも、普段は問題なく過ごせているところでふとした時に起こる、不慮の事故ですね」
板をかじった穴から足を出すウサギーウサギ専門医に聞く(9)高さ30㎝でも危険?ウサギの骨折 原因と治療法
斉藤「(2)飼い主さんの不注意による事故ですが、私の感覚では骨折原因のナンバーワンで、大半は部屋んぽの時に起きています。
“クッションの後ろや布団の中にウサギがいると気づかずに踏んでしまった”、”ドアを開けたら向こう側にウサギがいて当たった”などですね。他にも”抱っこしようとしたら暴れて落下させた”、”逃げるウサギをつかまえるために上から押さえつけた”なども骨折につながります。

ちょっと意外かもしれないのですが(3)ウサギがパニックを起こして自ら危険な行動をするのも骨折の原因です。
例えばカーペットに爪が引っかかり、“なんで?どうして?急に手が動かせなくなったよ、助けて!”と暴れたため指を骨折したり、大きな物音に驚き、“危険が迫っているぞ、今すぐ逃げなきゃ!”と高さのある椅子から飛び降りたため足を骨折したりするパターンです」

骨もメンタルも繊細なウサギならでは? パニックで自ら骨を折ってしまうことも

パニックで自分から骨を折るような危険行動に出てしまうとは、びっくりです。

斉藤「私が驚いた事故でいうと、“部屋んぽ中に家具の隙間に入り込んで骨盤が引っかかって出られなくなってしまい、パニックを起こした末に自ら骨盤を折って出てきた”という子がいました。冷静に考えれば、バックするようにお尻から出てくれば出られたはずですが、“どうなろうともともかく、今すぐここから逃げ出さなきゃ”と考えたんですね」

自分の一部を犠牲にしてでも逃走を優先させるのは「トカゲの尻尾切り」とも少し似ているように思えます。また生えてくるトカゲの尻尾と、重症を負う骨盤骨折ではレベルが違いますが、まさに、ウサギの逃走本能を伝えるエピソードですね。

斉藤「パニックを起こしたことでの骨折は、折れたタイミングがはっきりと特定できないことも少なくありません。
“抱っこから落ちて骨を折った”と来院した子の場合も、よくよく状況を聞いてみれば、落下の衝撃で骨折したのか、落下した事実にパニックを起こし、ところかまわず走り出してぶつかったために骨折したのかわからない、といったこともあります。

いずれにせよ、ウサギに冷静さと判断力を失わせるパニックは、骨折の大きなリスク因子だと思います」

わずか30cmでも危険? ロフトからの落下で骨折することもある

「抱っこしたら嫌がられて落としてしまった」という話はしばしば耳にしますが、ウサギはどれくらいの高さから落ちると骨折のリスクがあるのでしょうか?
人間に抱っこされる子ウサギーウサギ専門医に聞く(9)高さ30㎝でも危険?ウサギの骨折 原因と治療法
斉藤「ウサギは、高いところから飛び降りることが得意ではありません。落ち方によっては30センチ程度の高さから落下しても骨折します。ケージ内に設置したロフトから落ちるだけで骨折することもあるくらいですから、たとえ椅子に座っていたとしても、人間の抱っこの高さから落ちればもちろん骨折のリスクがあります」

骨折を予防するには、ケージの中のロフトは設置しない方がいいのでしょうか?

斉藤「ロフトに登って過ごすのがお気に入り、という子もいますので、ウサギのQOLを考えると一概に、ロフトを設置しないのがベストと断言はできません。危険な場面がないか飼い主さんがウサギをよく観察し、性格や年齢などを考慮して判断してあげると良いと思います。

すでにロフトを設置してあり、ウサギもロフトの使用に慣れているなら、あえて撤去する必要はないと思いますが、年齢が上がってきたら事故の可能性も考えて高さを少し低くするなどの対応ができると思います。ロフトの存在を知らない子をこれから飼い始めるのなら、あえて設置しなくとも良いのかもしれません」

ウサギが骨折したらどんな症状が出るの?

骨折したらどのような症状や行動が見られるのでしょうか?

斉藤「足や腰など大きな骨の骨折であれば 『足を上げている』、『歩き方がおかしい』など、見た目から明らかです。背骨を骨折したときも後ろ足が麻痺して歩けなくなるため、すぐに気づきます。

しかし、指先の軽微な骨折は、見た目にわかる症状が少ないこともあります。弱っているところを見せまいとするのがウサギの本能ですから、骨が折れていても普通に振る舞う子もおり、飼い主さんも気づきにくいことがあります」

外出時など飼い主さんの不在時に事故が起きる可能性も考え、日頃からウサギの様子をよく観察しておくことはやはり大切ですね。
また、日常生活での不都合は、動きに制限が出るだけではないと斉藤先生は言います。

斉藤「腰椎の骨折で神経が傷つくと下半身麻痺や排尿トラブルを生じることもあります。
骨折部位が治癒しても、損傷した神経は回復しないため、完全には元の生活には戻れなくなってしまいます」

また、骨折が原因でちょっと意外な合併症が起こることもあるのだとか。

斉藤「手足が不自由になったストレスから食欲が低下し、胃腸障害や肝不全につながる子もいます。さらにストレスから血栓ができてしまうと、急性腎不全、急性肝不全などを引き起こし、最悪の場合は突然死を招くことも。
骨折した子は、折れた部位に限らず全身状態にも注意する必要があります」
足を伸ばして横たわるうさぎーウサギ専門医に聞く(9)高さ30㎝でも危険?ウサギの骨折 原因と治療法

レントゲンで確認するウサギの骨折

ウサギの骨折はレントゲン撮影で診断します。とはいえ、無闇に撮影しないこともあるのだとか。

斉藤「ウサギの骨折は触診で把握できるものの、レントゲン撮影での状態確認が主です。
指の骨折など小さい部位は、撮影の際の固定が原因で他の骨折を招く恐れもあるため、触診だけで確認することもあります」

【ウサギの骨折治療】自然治癒を待つことが多い 手術になるのはどんな時?

骨折すると人間でもかなり痛いと思うのですが、痛み止めは処方するのでしょうか?

斉藤「骨盤や腰骨など大きな部位の骨折に対しては鎮痛薬を出しますが、そこまで痛がっていない場合や小さな部位の骨折であれば、痛み止めを使わないこともあります。
痛みを感じないと骨折している部位も、普段通りに使ってしまいます。動かすことで治りが悪くなることがあるので、自分で痛い部分をかばい安静を保ってもらえるよう、あえて処方しないんです」

骨折というとギプスを巻いたり添え木で支えたりして固定するイメージもありますが、ウサギでは自然治癒を待つ場合が多いようです。もちろん部位にもよりますが、固定が動きづらさを招き、逆にストレスを与える可能性もあるためなんだそうです。

自然治癒ではきちんと元の状態に戻らない折れ方をしている場合など、手術することもあるのでしょうか?

斉藤「骨が正しい位置でくっつくのをサポートするために、手術をしてピンやプレートを埋め込んで骨を固定することがあります。ただし、手術適応かどうかは総合的に判断する必要があります。

ウサギの全身は毛に覆われているので、骨が多少ずれてくっついてしまっても見た目では、まずわかりません。それでも“完全に元の状態に戻るよう綺麗にくっつけてほしい”と、飼い主さんが希望するなら手術するケースもあります。

骨が多少ずれてくっついてしまってもウサギの生活の質にはほぼ影響がないので、リスクを冒してまで手術をしなくてもいいのではないかと個人的には思っています」

自然治癒を待つのが治療の基本ですが、経過をみていく中で、まれに骨折部位から遠いところまで膿が溜まったり、粉砕骨折などで骨が粉々に折れてしまったりした場合は、骨折部位の切断を余儀なくされる場合もあるそうです。
横に並んだ3匹のうさぎーウサギ専門医に聞く(9)高さ30㎝でも危険?ウサギの骨折 原因と治療法
一瞬の不注意から起きた骨折で切断に至ってしまったら、ウサギも飼い主さんも非常につらい思いをします。事故防止につとめたいものですが、骨折予防はどんなことに気をつけたら良いのでしょうか。

飼い主さんができる骨折の予防方法

骨折を予防するポイントは飼育環境の見直しにある、と斉藤先生は話します。

斉藤「以下の項目は、ウサギの安全のためぜひ確認してあげてほしいですね」

・すのこは体格にあわせて適度な隙間のものを選ぶ
・子うさぎはケージ底板の隙間に足が落ちそうであれば、金網やマットを敷く
・抱っこは座って行い、仰向け抱っこは嫌がるならやらない
・部屋んぽ時はウサギの居場所に注意し、踏んだり蹴ったりしないようクッションの裏、布団の中などに潜り込んでいないか確認する
・部屋んぽの時は高いところに登らないよう見守り、ウサギが隠れられそうな狭い場所は作らない

これらは飼い主さんができる対策です」

悩ましいのが、安全管理とウサギのQOLのさじ加減ではないでしょうか。
部屋んぽの際に隠れ場所を適度に設けてあげたり、ウサギが飛び乗れるような少し高めの丘を作ってあげたりすると、ウサギの探究心を刺激できますよね。骨折はもちろん予防したいですが、飼育環境を豊かにするという観点からは、そういった工夫を取り入れてあげたい気もします。斉藤先生はどう思いますか?

斉藤「安全管理と飼育環境を豊かにすることは、ある程度、両立できると思います。難しい問題だと思いますが、骨折して痛い思いをするのはウサギですから、基本的には、ウサギの身体の安全を優先するのが飼い主さんの義務ではないでしょうか。
安全に配慮しつつ、どうやったらウサギが楽しめるか、飼い主さんが試行錯誤してくれたらウサギはとても幸せだと思います」ソファの上に座る白いうさぎーウサギ専門医に聞く(9)高さ30㎝でも危険?ウサギの骨折 原因と治療法

ウサギが骨折したら、動きを制限しつつ食餌量を増やして体力をつけさせて

骨折の治療中はできる限り患部を安静にすることに加えて、食餌の量を増やすことがポイントなんだそうです。

斉藤「骨折と診断を受けたら、できるだけ動きを制限し、ケージの中で安静を心がけましょう。ちょっとかわいそうに思えるかもしれませんが、部屋んぽもこの期間は我慢ですね。

普通に売っているケージサイズで問題ありません。特に後ろ足の骨折の時は、ケージ中での生活を意識してください」

フードの量は「2倍にアップ」を目標に

斉藤「骨折した箇所は動かしづらいため、ウサギにとってはストレスになります。さらに、骨が治るためにエネルギーを使うため、普段以上に食餌をとって栄養状態をよくすることが完治への近道です」

通常、ウサギの食餌は、肥満にならない程度の量を意識しています。牧草は常に食べ放題にしているので、摂取カロリーをアップさせるには、ペレットを増やせばいいのでしょうか?

斉藤「あえてカルシウムや特定の栄養素が多いものをたくさんあげる必要はなく、普段のペレットを多く与えるのでOKです。ちょっと太っちゃうかな?と思うくらい、モリモリ食べられたら満点ですね」
ペレットを食べるウサギーウサギ専門医に聞く(9)高さ30㎝でも危険?ウサギの骨折 原因と治療法
本人の体力・自己治癒力だよりになることが多いウサギの骨折治療ですから、回復のカギは食餌量にあると言っても過言ではありません。ペレットの摂取量をアップさせる工夫ができるといいですね。ラビットフードをリンゴジュースなどでふやかしたものを与えたり、食欲がある状態でも食欲増進剤を処方したりすることもあります。

ウサギの骨はもろくて折れやすいことを常に頭の片隅においておき、うっかりぶつかる・抱っこから落とすなど衝撃を与えること、そして、パニックにおちいらせるシチュエーションは避けるべきです。骨折予防という視点から一度、飼育環境の安全面をチェックしてみることをおすすめします。

聞き手:橋爪
編集:うさぎタイムズ編集部

※当コラムでは、人間と暮らす多くのウサギが健康で長生きできるよう、疾患についての情報を共有するため、情報発信を行っています。個体により状況は異なりますので、ウサギの状態で気になることがあれば、かかりつけにご相談されることをお勧めします。当コラムの内容閲覧により生じた一切のトラブルについて、うさぎの環境エンリッチメント協会並びに斉藤動物病院、ラビットリンクでは責任を負いかねます。


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橋爪宏幸

うさぎタイムズ編集長。 うさぎ専門店「ラビット・リンク」のオーナー。 一般社団法人うさぎの環境エンリッチメント協会 専務理事。 ExoticpetSaver FirstResponder。 ExoticpetSaver Emergency Rescue Technician。 現在ニンゲン3人のほか、長男:ミニチュアダックスの桜花、次男ホーランドロップのカール、三男:ネザーランドドワーフの政宗、長女:ホーランドロップのミラ・ジョボビッチと暮らしている。