動物の「行動」を知れば、本当の姿と「心」が見えてくる!
ウサギの生態はまだまだ研究途上、謎に包まれた部分がたくさんあります。こちらのシリーズでは「ウサギの行動」を読み解くことで、その不思議にせまります。

今回のテーマは、ウサギの「心」。なかでも、「恐れる」という感情に注目しました。というのも、人間との関係で問題となる攻撃的な行動にも深く結びついているのが、「恐怖」だからです。

ウサギのネガティブな感情とその表現方法を知れば、ウサギの生活の質の向上を考える助けになります。ウサギは何を恐れ、どんな反応を見せるでしょうか。
隠れるうさぎ/動物行動学者監修 ウサギの怖いものって何?怯えるウサギの行動・心

ウサギにとって恐怖ってどんな感情?

感情といえば「喜怒哀楽」で表現される4つを思い浮かべます。「恐れる」はこの中には入っていませんね。ですが、恐怖は、捕食される側としてのウサギの行動を読み解くカギでもあります。

生き残るため、恐怖の高感度センサーを備えたウサギ

ウサギは生存確率を高めるため、強い警戒心という、素晴らしい能力を発展させてきました。
リスクを無視して大胆に振る舞う個体や、危険にも気づかないおっとりとした性格の個体が、捕食者のかっこうの餌食になってしまうのは想像に難くないでしょう。常に警戒センサーを張りめぐらし、わずかな物音などを敏感に察知して素早く対処できたウサギだけが、自然界で生き残って来られたのです。

これはつまり、ウサギは基本的に臆病で、恐怖を感じやすいということでもあります。

ウサギの怖がり度合いの「個体差」は、性格と育った環境で作られる

種として「臆病」という傾向はあれど、ウサギの性格にも、もちろん個体差があります。恐怖心があまり強くない個体もいる一方、慣れ親しんだ環境から外に出るだけでパニックになるウサギもいます。

人間の性格には、遺伝と環境の2つが影響を与えるとされていますが、ウサギの恐怖心も、生育環境の影響を受けているようなんです。

人間との接触機会が少ないまま育った個体は、触られることにストレスを受けると言われています。
てのひらに乗るうさぎ/動物行動学者監修 ウサギの怖いものって何?怯えるウサギの行動・心
逆に、好奇心旺盛な子ウサギのうちから人とスキンシップを取っていれば、人への恐怖心が少なくなると考えられており、生後26〜42日で離乳して人と接触したウサギがもっともよく慣れるというデータもあります。
子ウサギの離乳時期についてはいろいろな考え方がありますが、赤ちゃんの頃から人間と近い距離で暮らすことで、人間を仲間だと認識しやすくなるのかもしれませんね。

恐怖を感じたウサギが取る行動3つとその理由

恐怖を感じたウサギが身を守るために取る行動は「固まる(フリージング)」「逃げる」「攻撃する」の3つに大きく分かれます。どれを選択するかは、おもに危険との距離で決まります。

捕食者に気づかれない程度の距離がある時は、じっと動かず、気づかれないように「フリージング」します。「凍結」の文字通り、動きをピッタリと止め、足は体の下に入れてしゃがみ、アゴを地面に近づけて体を伏せ、耳を頭に対して平らにします。こうして危険が過ぎ去るのを待つのです。

捕食者との距離が近い場合は素早く逃げ出しますが、逃げ場がないときは最後の手段。追い詰められたウサギは攻撃行動に出ます。

ウサギらしからぬ攻撃行動は、追い詰められたすえのやむをえない選択

「自宅にお迎えしたばかりのウサギに噛まれてしまった」「自分にはよく懐いているのに、他の家族にはすごい勢いで突進していく」などの話を聞くことがあります。おとなしく可愛らしい印象のウサギが、時に、このような行動に出るのは多くが「恐れ」のせいです。

血がにじむほど噛まれた、ともなれば「ウサギは意外に凶暴だ」と思いたくもなります。実際、噛まれれば血も出ますし、ひっかき傷からも流血することがあります。痛みも伴いますので人が恐怖を感じるには十分な攻撃力かもしれません。ですが、飼い主さんがウサギに噛まれて、全治何週間という大怪我をするのは非常に稀なケースでしょう。やはり、「戦う力」としては、イヌやネコなどと比べ、かなり乏しいわけです。
木に隠れるうさぎ/動物行動学者監修 ウサギの怖いものって何?怯えるウサギの行動・心
勝てるとは思えないけれど、どうしようもないので仕方なく反撃する、それがウサギの攻撃行動だと言えます。

怖がるウサギの体内で起こるストレス反応

感情は目に見えませんが、恐怖を感じたウサギの体内では生理的な反応も起こります。

「ストレスホルモン」とも呼ばれるカテコールアミンやコルチゾルという神経伝達物質が放出され、心拍数や呼吸数、血糖値などが変化します。このような反応を繰り返せば、慢性的な血糖値の上昇や免疫抑制などにつながり、感染や腫瘍のリスクが高まるとされています。

実はこのストレスホルモンは私たち人間にも共通です。ヒトでも、ストレスホルモンが過剰な状態が続くと、うつ病や不眠症、生活習慣病などが引き起こされると知られています。過度なストレスが体に良くないのは、ヒトもウサギも同じなんですね。

ウサギは、人と暮らす動物の中ではデリケートな方

さらに、ウサギはイヌやネコなど人と暮らす動物の中ではデリケートで、恐怖というストレスに対して弱いことが明らかになっています。

実験では、診察室で採血されたウサギは、慣れ親しんだ環境で採血されたウサギよりも血糖値が高くなりました。これは、ストレス性の高血糖です。ウサギは、見知らぬ環境に連れてこられ、医師という慣れない人物に針を刺されるという恐怖で、身体的に大きなストレス反応を示すのです。

ウサギの恐怖が極限に達すると「ショック死」することも

これだけ繊細なウサギが、非常に強い恐怖や痛みにさらされたら、どうなってしまうのでしょうか。これは滅多に起こることではありませんが、驚くべきことに、ウサギの体内ではカテコールアミンが大量放出されて、突然死を迎えるとされています。進化の過程で残った行動なのか、生理現象なのかは分かりませんが、まさに自らの生命を終わらせるプログラムです。

診る側も、診られる側も一苦労? ウサギの病院事情

愛され大切にされている飼いウサギが大きな恐怖を感じる場面があるとしたら、病院受診でしょう。
治療/動物行動学者監修 ウサギの怖いものって何?怯えるウサギの行動・心
私たちでも、ゾウのように大きな見知らぬ生き物にいきなり捕まえられて高いところにあるベッドに連れていかれ、身体の自由を奪われると考えたらかなりの恐怖を感じます。怖がりのウサギが、病院を嫌がるのは無理もありません。

ウサギの病院受診では、性格によっては「怖がって暴れる」「強いストレスを感じる」などで、思わぬ事故が起こる可能性があります。ウサギをしっかり保定して採血や無麻酔で歯の処置を行ってくれる病院が意外に少ないのもこのためです。

ウサギに慣れている医師にお願いするのはもちろん、時には、「ウサギがパニックを起こした際は、急を要する診察でなければ中断してもらう」という判断を飼主さんがするのも、大切です。例えば、爪切りで来院したウサギが「キィーキィー」と悲鳴を上げたというお話はよくあります。こんな時、飼主さんの方から「やめておきましょう」と言ってくれれば獣医師さんの方も、無理せずに済みます。ウサギのストレスに配慮できると良いですね。

撫でられて噛む・抱っこされてキックするのはなぜ?

なかなか撫でさせてくれない、抱っこしたら噛まれた、という話を聞くこともあります。飼い主さんとしては愛情表現のつもりの行動が、ウサギにはなぜ通じないのでしょう?
実は抱っこ・ナデナデは、ウサギが本能的に恐怖を感じるものなんです。
抱き上げられるウサギ/動物行動学者監修 ウサギの怖いものって何?怯えるウサギの行動・心

怖がる気持ちがあるのは当然 飼い主さんにはわかってほしい

飼い主さんがウサギを撫でようと伸ばした手は、ウサギにとって、ユラユラした影が頭上から近づいてくるように見えます。

「視覚・聴覚・嗅覚」ウサギの警戒センサーの秘密を探る でご説明しましたが、ウサギの視野は草食動物でもトップクラスの広さを誇り、360°に加えて「上」まで見えています。頭上から近づく影は、上空から猛禽類に狙われるのを連想させるため、怖がると考えられます。

また、抱っこは捕食シーンそのものを思い出させます。意図せず4本の足すべてが地面から離れるのは、敵に捕まって口にくわえられた時のみ。体がふわっと宙に浮く感覚を本能的に怖がってしまうのは、仕方ないことなのです。

ウサギの群れでの暮らし・社会のしくみを探る でもご紹介した通り、自然界で暮らすウサギは群れの仲間同士でも身体的接触には消極的です。飼い主さんとのスキンシップは、そもそもウサギのストレスになる場合があることを知っておきましょう。

「怖がらせていない」はずのウサギが噛む理由

中には「抱っこどころか、怖がるようなことは何もしていないのに、噛まれてしまった」という飼い主さんもいるかもしれません。
ふせるうさぎ/動物行動学者監修 ウサギの怖いものって何?怯えるウサギの行動・心
「ゴハンをあげようと手を出したら、手からはたき落として逃げて部屋の隅に隠れてしまう。おいでーと手を出そうものなら飛びかかってくる」「部屋の電気をつけただけで、噛みつこうと寄ってくる」ということも。
このようなケースでは、過去の経験が関係している可能性が高そうです。

ウサギ目線になって考えてみましょう。例えば、「ケージの中に手が入ってきて、嫌なのに、抱き上げられた」という経験をしたとします。逃げ場のないウサギはやむをえず手に噛み付いたら、手は離れていきました。こうなるとウサギは、噛むことが恐怖から逃れる手段として有効だと学習します。

そして次の日、ウサギはケージの扉が開けられるという、さらに早い段階で反応することで怖い状況を回避しようとします。最終的には、人の気配を感じただけで噛みつこうとする「攻撃的」なウサギになってしまうのです。

ウサギはとても静かに感情を表現する生き物

ところで、噛み付く・キックしてくるウサギが「怖がっているようにはまったく見えない」と思う人もいるかもしれません。これは、ウサギ特有の静かな表現方法のせいです。

恐怖を感じたとき、吠えたりうなったりする動物もいますが、ウサギの「怖がる」はいたって静かなもの。大きな声をあげたら敵に自分の位置をはっきりと知らせてしまうことになりますし、聞きつけた仲間が集まってきても、かえって巻き添えにしてしまいます。
食物連鎖の最底辺に位置するからこそ、感情表現もできるだけ目立たないようにするのがウサギ流です。

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普段とは違う攻撃的な行動の裏には、体調不良が隠れていることも

「抱っこ・なでなで」に慣れているはずのに、突然、嫌がったり攻撃してきたりする場合は、疑って欲しいのが「体調の悪化」です。病気やケガの時に敏感になるのは私たちも同じ。特に、痛みを感じていれば、さらにケガをさせられないよう身を守ろうとします。

弱っている姿を見せるというのはウサギにとって、捕食のリスクを高めることを意味します。そこでウサギは、体調不良を隠そうとします。痛みを我慢する結果、神経質になることがあるんです。
いつもとは違う様子に気づいたら、迷わず受診しましょう。

恐怖からくる「攻撃的な行動」への対処法

ウサギが攻撃的な行動をとる理由は、必ずしも恐怖心だけとは限りません。
思春期特有のホルモンバランスの変化や、体調不良、欲求不満による八つ当たりなども、ときには攻撃的な振舞いに結びつきます。まずはウサギをよく観察し、飼育環境をチェックすることから始めましょう。

そのうえで、攻撃性が恐怖心から来ていると思われる場合には、ウサギに安心感を与えてあげることが大切です。

逃げ場所と隠れ場所を用意して「ウサギ主導」がポイント

獲物であるウサギが安心するには、自由が保証されていることが重要です。
「逃げ場所・隠れ場所」を用意したうえで、ウサギのペースで過ごさせてあげるとリラックスにつながります。おやつなどで動機付けを行いながら、無理せずスモールステップで、人間との関係作りを進めましょう。

抱っこさせてくれない・触らせてくれないウサギにはどう接するべき?

どうしてもスキンシップを嫌がる子には、どのように対応するのが正解でしょうか。

「抱っこされる、撫でられる」はウサギ本来の生態には合わない行動ですから、受け入れてもらえないのはある意味、当たり前。これらは、ウサギが人間に許してくれるコミュニケーションの中で、最上級のものと思ったほうがよさそうです。無理強いは禁物ですね。
人とのふれあい/動物行動学者監修 ウサギの怖いものって何?怯えるウサギの行動・心
人間側がウサギの事情を理解し、ウサギに譲歩するという視点も、時には必要。ウサギの気持ちを尊重することで、ウサギの方から歩み寄ってくれる日がくるかもしれません。

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ただし、すべてのウサギが飼い主さんの膝の上に座ったり、抱っこされたりすることを好むわけではありません。飼い主さん側がそのことを理解し、尊重することも重要です。

人とウサギが豊かに暮らすために「ウサギらしさ」を受け入れるという視点を

飼いウサギは、遠い昔、野生の「アナウサギ」を家畜化して生み出されました。そして、その子孫を家族として迎えると決めたのは、飼い主さんです。一緒に暮らすことを選択したのはウサギではなく、私たち人間の方だということを忘れてはいけません。

人間が望んだ結果、私たちと共に暮らしてくれているウサギですから、人間の方がウサギに一定の配慮をしてあげるべきではないでしょうか。

もちろん、ウサギを優先してばかりというわけにはいきません。譲れるところ・譲れないところを線引きして、お互いを尊重しながら、ヒトもウサギも豊かに暮らせるのが理想ですね。

力関係では、どうしても人間がウサギの上に立つことになります。そしてウサギは、私たちのように言葉で表現できませんし、感情表現もとても静かです。だからこそ私たちは、動物行動学の視点でウサギの行動をよく観察する必要があるのです。

環境エンリッチメントで、飼いウサギのQOL向上を

「環境エンリッチメント」というと、少し耳慣れない言葉かもしれませんが、その基本は、動物の目線に立って考える、というシンプルなものです。
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うさぎの環境エンリッチメント協会は、飼いウサギの「ウサギらしさ」を引き出し、私たち人間と楽しく活動的に暮らしていけるよう、ウサギの『生活の質=Quality of Life』の向上に役立つ情報を発信していきます。

一般社団法人 うさぎの環境エンリッチメント協会

参考文献
① Wiley Blackwell(2010). Behavior of Exotic Pets. pp.69-77.
② Teresa Bradley Bays, Teresa Lightfoot and Jörg Mayer(2006). Exotic Pet Behavior. pp.1-44.
③ Marit Emilie Buseth and Richard A. Saunders(2015). Rabbit Behaviour, Health and Care. pp.29-56.
④ 霍野 晋吉、山内昭『ウサギの医学』.緑書房. 2018年
⑤ うさぎの時間編集部編『うさぎの心理がわかる本』. 誠文堂新光社. 2012年
⑥ 斉藤久美子『獣医師の職域としてのウサギの診療』. 2007年. 日本獣医師会雑誌(60). pp.477〜480.


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橋爪宏幸

橋爪宏幸

うさぎタイムズ編集長。 うさぎ専門店「ラビット・リンク」のオーナー。 一般社団法人うさぎの環境エンリッチメント協会 専務理事。 現在ニンゲン3人のほか、長男:ミニチュアダックスの桜花、次男ホーランドロップのカール、三男:ネザーランドドワーフの政宗、長女:ホーランドロップのミラ・ジョボビッチと暮らしている。