動物の「行動」を知れば、本当の姿と「心」が見えてくる!
ウサギの生態はまだまだ研究途上、謎に包まれた部分がたくさんあります。こちらのシリーズでは「ウサギの行動」を読み解くことで、その不思議にせまります。

今回のテーマは「遊び」。遊びといえばおもちゃを思い浮かべる方も多いと思いますが、ウサギの遊びのバリエーションは何も、おもちゃだけではありません。ウサギはどんな風に遊ぶのが好きなのでしょうか。
ウサギの幸福度アップには、どんな遊びを用意すればいいのかも考えてみたいと思います。

ウサギの遊び方ってどんなもの?

そもそも動物の遊びとは何でしょうか?
明確に定義することは難しいのですが、簡単に言うと、なんの目的で行っているかわからず、「遊び」としか表現できない行動が動物の遊びだとされています。

遊びは生きるために直接的に必要だとは思えませんが、仲間同士のコミュニケーション方法や、エサを確保するためのテクニックを学んでいるとも考えられてます。これについては、後ほど詳しくご説明しますね。

遊びは知能をもつ生き物でしかみられないと考えられており、哺乳類のほとんどはもちろん、鳥類、そして意外なところではワニも遊びを行うことが報告されています。

知らないと見分けるのも難しい? 動物の「遊び」

動物の遊び、と聞いて多くの人がまず思い浮かべるのは、イヌがボールを追いかける姿や、ネコがおもちゃにじゃれつく姿かもしれませんね。彼らの遊びは、私たち人間から見ても明らかに楽しそう。時には、笑顔のような表情変化が見られ、遊んでいると一目でわかります。
ネコイメージ 動物行動学者監修 ウサギの遊びは自己完結型?その行動は「楽しい」のサインかも
ですが、他の動物となると、目の前の行動が遊びなのか判断が難しいことも多いのではないでしょうか。

特にウサギの場合、捕食される側の本能として、周囲の注目を集めないように振る舞います。尻尾を振ったり鳴き声をあげたりしないウサギの感情表現は、基本的に静かなもの。「喜んでいるのかイマイチわからない」「うちの子、本当に楽しんでるのかな?」と思ったことのある飼い主さんもいるかもしれませんね。

ですが、ウサギはちゃんと遊んでいますし、楽しいと思っているんですよ。
ではどんな行動が、ウサギの遊びなのでしょうか。

ウサギの遊びで多いのは「運動遊び」

動物の遊び方はさまざまに分類されています。主要な3つは、単独で身体を動かす「運動遊び」と、他の物を使って遊ぶ「物体遊び」、そして他の個体と遊ぶ「社会的遊び」です。

ウサギでよく見られるのは「運動遊び」。勢いよく体をひねる、頭をフリフリと動かす、高速ダッシュ、頭と体を反対方向にねじる、その場で高くジャンプする、などの動きを見せます。

これらは、一般的に「ウサギがご機嫌な時の仕草」として知られています。つまり、ウサギは幸せ・楽しい気持ちの時、自然と運動遊びを見せてくれている、ということなんです。

ちなみに、ボールやトンネル状のおもちゃで遊ぶのが、物体遊びにあたります。また、子ウサギ同士で追いかけっこのようにじゃれあうことがありますが、これは典型的な社会的遊びですね。

「本当にこれが遊び?」と思う方もいるかもしれませんが、このような運動遊びは、捕食される側の動物に典型的な行動です。

遊びを通して、敵から逃げる練習をしているウサギ

「逃げて隠れる」捕食者に打ち勝つウサギの知恵とは でご紹介した通り、ウサギは能力を逃走に特化させてきました。ジグザグに飛び跳ねたり、突然向きを変えたりする運動遊びは、捕食者から逃れるためのトレーニングとしての側面を持っているんです。
野を駆けるうさぎ 動物行動学者監修 ウサギの遊びは自己完結型?その行動は「楽しい」のサインかも
幼い動物がする遊びは、将来必要な行動の練習だと考えられています。
例えば、子猫がカーテンと戯れたり、ネズミを殺しも食べもせずただ追いかけたりするのは狩りの練習です。同様に、ウサギの「運動遊び」も、逃走の予行練習だと考えられます。

私たち人間も、大人になれば自然に字を書けたりお箸を持ったりできるわけではなく、子どもの頃から繰り返し練習しなければなりません。
先天的に備わった能力を最大限に発揮するため練習が必要なのは、どんな生き物にも共通なのです。

エサを探す、かじる、掘るー本能的な行動も飼いウサギにとっては大切な「遊び」

さて、一般的に遊びと認識されている「エサを探す・かじる(食べる)・掘る」。これらは本来、ウサギが生きていくために必須であり、本能的な欲求を満たすための行動ですが、今回は「遊び」と捉えたいと思います。というのも、これらの行動は運動遊びと並んで、ウサギの精神的な満足のためにとても重要だからです。

遊びの特徴の1つは、「明確な目的がないこと」ですから、これらは厳密には「遊び」の定義から少しずれるのかもしれません。

ここで考えなければいけないのは、野生と飼育下では置かれている条件が大きく異なるということ。飼いウサギは、容易にエサを手に入れられますし、安全な棲家を与えられています。本能にしたがって、労力を費やし「エサを探す・かじる(食べる)・掘る」をしなくても生きていけますよね。

ですが、このような生活が必ずしもウサギにとって幸せとは限りません。人間もやることがないと、ぼんやり覇気を失ってしまいます。「エサを探す・かじる(食べる)・掘る」ことは、飼いウサギにとっての喜び・楽しみになると考えるのが自然でしょう。
実際、カーペットをホリホリしたり、あたりのものをガジガジしたりするウサギは多いですよね。

心を豊かにするという意味で、探索する・かじる・掘るは、飼いウサギに必要な「遊び」です。
ウサギのおもちゃ トンネル型 動物行動学者監修 ウサギの遊びは自己完結型?その行動は「楽しい」のサインかも

ウサギの遊びは基本的に自己完結型

ウサギの好む遊びは基本的に自分のペースで行われ、飼い主さんを巻き込まないという特徴があります。これは、イヌやネコとの大きな違いです。

イヌが投げたフリスビーをキャッチして戻ってくる、ネコが差し出された猫じゃらしにパンチするーーこのような飼い主さんと一緒に楽しめる遊び方ができるのは、彼らに、獲物を追う本能があるからです。追われる側であるウサギでは、飼い主さんサイドから働きかけて共に楽しむというスタイルは、成立しにくいこともあります。

ウサギの遊びはそもそもヒトが入り込みにくいものであることを、飼い主さんは知っておくべきです。

人と楽しんで遊べるのは、飼いウサギならではの能力なのかも

ただし、個体によっては、明らかに人との交流を楽しみ「遊んでいる」ケースもあります。

例えば、飼い主さんがソファに座ってくつろいでいる時に限ってそっとテーブルに近づいてきて、ちょっかいを出しにくる、そして「ダメよ」と言われると楽しそうに体をくねらせながら走り去り、飼い主さんがソファに戻るとまた忍び寄ってくる、というウサギがいるそうです。飼い主さんからすると、どう考えても楽しんでいるようにしか見えない、とのこと。
紛れもなく、ウサギはヒトと遊んでいるつもりなのでしょう。

獲物として追われていた頃の本能がベースにあるとはいえ、長い年月をかけて家畜化され、ヒトと暮らすことに適応してきたのが飼いウサギです。
実際、野生のウサギと飼いウサギの脳は構造にもはっきりとした違いがあり、飼いウサギでは恐怖を感知する領域が小さいことが明らかになっています。ヒトと暮らすウサギは、その心も進化してきたと言えるでしょう。

ヒトとの積極的なコミュニケーションを「遊び」として楽しめる個体がいるのも、自然なことかもしれません。
人間とのふれあい 動物行動学者監修 ウサギの遊びは自己完結型?その行動は「楽しい」のサインかも

遊ぶことはウサギにとってこんなに大切

遊ぶことは幼いウサギにとって心身の成長に大切ですし、大人のウサギにとっても、大切なストレス解消方法です。しかし、残念ながら十分に遊べているウサギばかりではありません。

「ウサギはおとなしい」「あんまり遊ばない」は誤解

一部では、「ウサギはいつもケージの中でじっとしていて、あまり遊ばない」と考えられているようですが、それは大きな誤解。運動遊びをしたくとも、十分なスペースがないという理由で、ウサギが思うままに動けていないケースも多いのです。

遊びが足りないとどうなるの?

まったく立ち上がれない、ほとんど動きがとれないなど極端に狭いケージの中のみで飼育され、遊ぶ機会がなかったと思われる保護ウサギは、鬱っぽかったり、元気がなかったりすることがよく見られます。このようなウサギを、自由に動き回れる広い囲いに移すと、飛び跳ねたり走り回ったりして、活動性が一気に増加します。
まるでそれまでの分を取り返そうとしているようですね。ウサギには遊びが必要なのです。

遊べるのは健康の証

「遊び」は、ストレスのある環境に置かれた時には起こりません。例えば、痛みを感じている個体は神経質になり、警戒心を高め、楽しもうとはしません。遊べることは健康状態のバロメーターなのです。

ウサギは運動遊びが多いとご紹介しましたが、ケージの中をぐるぐる歩き回るのは遊びではなく、ストレスからくる行動です。飼育環境を見直してあげる必要があります。
ケージの中のうさぎ 動物行動学者監修 ウサギの遊びは自己完結型?その行動は「楽しい」のサインかも

ウサギのQOLアップのための遊びアイデア

ウサギの生活の質を高めるための遊びは、どのように提供するのが良いのでしょうか。好みには個体差もあるので100%の正解はありませんが、考え方のヒントは以下の2つです。

思いっきり動き回れるスペースを用意する

運動遊びを思う存分楽しめるよう、十分な飼育スペースを用意することはとても大切です。

「十分な」という言葉が具体的にどのくらいの広さを指すのかについては様々な考え方があります。
参考までに、動物福祉の先進国・イギリスでペットのウサギの生活の質の向上を目指して設立されたRWAFの推奨基準では、ケージは最低でも1.8×0.9×0.9(m)の大きさが必要とされています。体のサイズにも個体差があるので一概には言えませんが目安として、3回ジャンプでき、かつ、走れるほどの空間が必要とされています。

日本の住宅事情では、ウサギのために常時この広さを確保することは、特に都市部では困難なケースがほとんど。そこで代わりに、部屋んぽの時間を充実させることがポイントになります。毎日しっかりと時間を確保し、存分に動き回れるようにしてあげましょう。
おすすめは、サークルなどで区切った狭いスペースで散歩させるのではなく、サークルを分割して、ウサギに入られては困る場所にガードとして立てかけることです。こうすれば、部屋全体を探索でき、ウサギの満足度アップにつながります。

また、遊びやすくしてあげるための一工夫としては、足が滑らないようにすることも大切。裏に滑り止めのついたタイルカーペットのようなものを敷き詰めておけば、ウサギは快適です。ただし、カーペットの種類によっては、ウサギの爪が引っかかってしまう危険もあります。毛足の長いタイプのものは避けてください。
ウサギの爪に引っかかりにくい毛足の短いタイルカーペット 動物行動学者監修 ウサギの遊びは自己完結型?その行動は「楽しい」のサインかも
また、家具を適度に設置することも大切です。隠れ場所がなくただ広いだけの空間は、ウサギの不安を煽ってしまうこともあるからです。十分な広さは確保しつつ、逃げ込める物陰を用意してあげると良いでしょう。そして、いつでも駆け込めるようケージの扉も開けておいてあげてください。

「ケージフリー」が動物福祉の先進国であるヨーロッパのトレンドに?

ヨーロッパのウサギ専門書では、ケージはあくまでもトイレやエサ置き用のスペースであり、ウサギが日常的に過ごす場所としては推奨されていません。代わりに、室内での放し飼いなど、ウサギがかなり広いスペースを日常的に自由に行き来できるスタイルが推奨されています。
日本の感覚ではびっくりしてしまいますが、ヨーロッパではこのような流れが、ペットだけではなく畜産動物にも広がっています。

EUでは、2027年には家畜動物のケージ飼育が禁じられる予定です。「End the Cage Age」という市民イニシアチブがEU内で140万人の署名を集め、ケージ飼育を終わらせるキャンペーンを成功させたのです。

ヨーロッパと日本では事情も環境も大きく異なりますが、動物の飼育環境向上を考えるうえで、参考にできる部分はあると思います。
庭で遊ぶウサギ 動物行動学者監修 ウサギの遊びは自己完結型?その行動は「楽しい」のサインかも

本能的な欲求を満たせる遊びを提供する

また、「エサを求めて探索する・掘る・かじる」という自然な行動を促すことも、飼いウサギの遊びとして重要です。「掘る」「かじる」については、いろいろなおもちゃが販売されているので、取り入れやすいと思います。一方、「探索する」は、飼い主さんの腕の見せ所かもしれません。

ペレット・おやつは与え方を一工夫すれば、探索行動を促せる

特に実践したいのは、ペレットやおやつをすぐには見つけられない場所に隠すこと。というのも、野生のウサギは起きている時間のほとんどをエサを探すことに費やしているからです。
さらに、「コントラフリーローディング効果」といい、多くの動物は本能的に苦労や努力などの対価を払って報酬を得るのを好むことも明らかになっています。

牧草はいつでも自由に食べられるようにしなければなりませんが、ペレットやおやつではぜひ、探す楽しみも与えてあげましょう。

「隠し方」を変えてみればもっと楽しめる

いつも同じ場所に隠したのでは楽しさが半減、お皿に入れた牧草に混ぜるだけだとすぐに見つけ出されてしまいますよね。隠し方にバリエーションをつけることが、楽しさを広げるコツです。

例えば、牧草でできたボールの中に忍ばせておくのはどうでしょうか。牧草をかじって探して初めてゲットできます。また、部屋んぽのときに見つけられるようあちこちに撒いておくとか、犬用の転がすと穴からペレットが出てくるタイプのおもちゃを使ってみるのもいいかもしれません。
うさぎの探索行動イメージ 動物行動学者監修 ウサギの遊びは自己完結型?その行動は「楽しい」のサインかも

「うちの子、今楽しそう!」に気づけるのは飼い主さんの観察眼

「今、楽しく遊んでるの」と話せるわけではありませんから、行動をよく観察することがウサギの気持ちを理解する重要な手がかりです。

目がキラキラしているように見える、なんだか動きがハツラツとしている気がする、などが「楽しい」のサインになることもあります。そして、ほんの細かい変化からウサギの気持ちを見抜けるのは、もっとも長い時間を一緒に過ごす飼い主さんに他なりません。

私たちがウサギの行動をよく観察することで、一緒に過ごす時間が、ウサギにとってもヒトにとってもより充実したものになることを願っています。

行動観察から環境エンリッチメントを始めよう

ウサギの行動がもつ意味を知ると、新たな一面が見えてきます。そして、環境エンリッチメントを実践するうえでも、動物の行動の意味を深く考えることはとても大切です。

「環境エンリッチメント」というと、少し耳慣れない言葉かもしれませんが、その基本は、動物の目線に立って考える、というシンプルなものです。そして、動物たちの行動をよく観察することは、その第一歩になります。

うさぎの環境エンリッチメント協会は、飼いウサギの「ウサギらしさ」を引き出し、そして、私たち人間と楽しく活動的に暮らしていけるよう、これからも、ウサギの『生活の質=Quality of Life』の向上に役立つ情報を発信していきます。

一般社団法人 うさぎの環境エンリッチメント協会

参考文献
① Wiley Blackwell(2010). Behavior of Exotic Pets. pp.69-77.
② Teresa Bradley Bays, Teresa Lightfoot and Jörg Mayer(2006). Exotic Pet Behavior. pp.1-44.
③ Marit Emilie Buseth and Richard A. Saunders(2015). Rabbit Behaviour, Health and Care. pp.29-56, pp.161-175.
④ うさぎの時間編集部編『うさぎの心理がわかる本』. 誠文堂新光社. 2012年


The following two tabs change content below.
橋爪宏幸

橋爪宏幸

うさぎタイムズ編集長。 うさぎ専門店「ラビット・リンク」のオーナー。 一般社団法人うさぎの環境エンリッチメント協会 専務理事。 現在ニンゲン3人のほか、長男:ミニチュアダックスの桜花、次男ホーランドロップのカール、三男:ネザーランドドワーフの政宗、長女:ホーランドロップのミラ・ジョボビッチと暮らしている。