動物行動学者監修 「視覚・聴覚・嗅覚」ウサギの警戒センサーの秘密を探る動物の「行動」を知れば、本当の姿と「心」が見えてくる!
ウサギの生態はまだまだ研究途上、謎に包まれた部分がたくさんあります。こちらのシリーズでは「ウサギの行動」を読み解くことで、その不思議にせまります。

ウサギが自然界で捕食者から身を守る第一歩は、感覚器官を駆使して危険を察知すること。ウサギの知覚は素晴らしい警戒センサーとして機能する一方、意外な「苦手分野」もあるんです。

私たち人間にとって代表的な知覚の「視覚・聴覚」と、多くの動物にとって重要な「嗅覚」を取り上げ、ウサギが進化させてきた能力をご紹介し、その意味を考えてみます。

【視覚】視野はスゴイが、遠近調節と立体視は苦手なウサギの目

大きくつぶらな瞳はウサギらしさを作る大切な要素ですが、ただ可愛いだけではありません。
動物行動学者監修 「視覚・聴覚・嗅覚」ウサギウサギの目ーの警戒センサーの秘密を探る

視野は360度!ウサギは背後どころか、頭上まで見えている

ウサギは顔の両側に飛び出した目がついています。そのおかげで、頭を動かさなくとも全方位が見えるんです。

草食動物は顔の左右に目がついていますが、これは、広い範囲を見渡すことで近づく捕食者にいち早く気づくため。そんな草食動物の中でも、ウサギの視野の広さはトップクラスです。
うさぎの視野ー動物行動学者監修 「視覚・聴覚・嗅覚」ウサギの警戒センサーの秘密を探る

「灯台下暗し」意外な所に死角あり!カバーするためのアイテムが「ヒゲ」

ウサギにもわずかな「見えない場所」があります。それは自分の口元。おやつを口元に差し出しているのに、気づかないことがあるのはそのせいです。
そしてこの部分をカバーするかのように備わっているのが「ヒゲ」なんです。

ウサギのヒゲは根本に神経が通う高感度センサー。空気の流れを感じたり、狭い場所を通れるか幅を測ったりと、多彩な機能があります。

背後から近づく敵も見えるようになった代わりに、立体視はイマイチに

顔の左右に目を配置して「広く見渡せること」を優先した結果、ウサギが両目でみられるのは前方10度、後方9度の範囲のみになりました。
うさぎの視野ー動物行動学者監修 「視覚・聴覚・嗅覚」ウサギの警戒センサーの秘密を探る
両目で見ることで、奥行きや立体感・距離感、そしてそれらを複合した感覚である「高さ」が認識できます。視界のほとんどを片目でしか見ていないウサギは、これらがわかりにくいのです。

ウサギには「高い=危ない」は通じない!高所からの飛び降りには飼い主さんが気をつけてあげて

自然界のウサギは木の上で生活するわけではないので、高さがわからなくとも問題になりません。
しかし、飼育下では、巣箱や棚の上などに登ってしまう場合があり、高さ感覚がないせいで飛び降りて骨折する危険があります。また、抱っこを嫌がり腕の中から飛び出す子も。
転落からウサギを守るには、飼い主さんの十分な注意が不可欠です。(関連コラム:うさぎの骨はとっても繊細 飼い主さんに知っておいてほしいこと

薄暗いところでもよく見えるけど、視界はぼんやり二色刷り

ウサギは捕食者の少ない薄暗い時間帯に活発に動き回りますが、これを可能にしているのが、光を感知する能力がヒトの8倍もある目です。

一方で、ウサギの視力はあまり良くありません。遠近調節機能が乏しいため、ピントを合わせられず、視界はぼんやりしていると考えられます。色は、緑と青は認識できるものの、それ以外はわからないとされています。

ウサギの目が「選んだ能力」と「捨てた能力」

ウサギの目には、ヒトより優れている部分とそうでない部分がありますが、ここにウサギの生き残り戦略が読み取れるんです。
全部の能力が高められればいいのですが、そううまくはいきません。ある能力をぐっと引き上げた分、諦めねばならないものがあるのは、どの生き物にも共通しています。

これは推測ですが、物の輪郭と色合いをハッキリ認識する力は、ウサギにとって優先順位が高くなかったのかもしれません。

ウサギには、自分の周囲を広く見渡し、そこに敵がいるかをスキャンできることの方が重要と考えるのが自然でしょう。きつねー動物行動学者監修 「視覚・聴覚・嗅覚」ウサギの警戒センサーの秘密を探る敵らしきものが視界に入ったら、それが何かを確かめるより先に「よーいドン!」。さっさと逃げ出すのがウサギ流ですね。

警戒心の高さゆえ、「目は閉じない」のがウサギの特技

自然界では捕食の危険にさらされるウサギは、スキを見せたがりません。目を閉じるのも最低限で、まばたきは1時間にたった10〜12回!また、寝るときすら目を開けていることもあります。

私たち人間は、数秒間まばたきを我慢するだけで目が痛くなってしまいますよね。ウサギが平気なのは、ウサギの涙に脂質が多く含まれるから。水分の蒸発を防ぎ、眼球が乾燥しにくいのです。

ウサギは「見えなくてもそれほど困らない」のかも

ところで、飼育下のウサギにとって視覚はさほど重要ではないとする報告もあります。

実験では、生まれつき目が見えないウサギと、視覚に問題のないウサギの行動を比較。すると、盲目のウサギはエサを食べる、生殖行動をする、授乳するなどには支障がなく、盲目のウサギから生まれた子ウサギの成長度合いも、目の見えるウサギの子たちと差がなかったというのです。

これは限定的な条件のもとでの実験なので、すべてのウサギに当てはまるわけではありません。ただ、光の届かない地下トンネルで1日の大部分を過ごすのがペットのウサギの野生での姿ですから、視覚より、嗅覚・聴覚に依存している可能性は十分あります。

【聴覚】ウサギの耳は本当に高性能? 意外な一面も

ぴょこんと飛び出した長い耳もウサギの特徴です。「立派な耳だからよく聞こえるに違いない」と考える方も多いかもしれませんが、実際のところを見てみましょう。ウサギの耳ー動物行動学者監修 「視覚・聴覚・嗅覚」ウサギの警戒センサーの秘密を探る

ヒトに比べると高い音はよく聞こえるけれど、ペットとして身近な動物の中では意外と「普通」なのかも

耳の能力には「高い音・低い音をどこまで聞き取れるか」という指標があります。ヒトとウサギを比べたものが以下のグラフです。ウサギはヒトの聞き取れない高い音が聞こえますが、低い音はヒトの方が得意なことがわかります。
うさぎと人の音域比較ー動物行動学者監修 「視覚・聴覚・嗅覚」ウサギの警戒センサーの秘密を探る

そして、このグラフに他の動物を加えてみると、ウサギが必ずしも「高い音から低い音まで、飛び抜けて幅広く聞こえている」とは言えないことも見えてきます。
動物の可聴音域ーうさぎの視野ー動物行動学者監修 「視覚・聴覚・嗅覚」ウサギの警戒センサーの秘密を探る
高い音が聞こえる範囲はイヌやハムスター・モルモットとほぼ同じで、ネコには及びません。また、モルモットには低音の範囲で負けています。
ウサギの大きな耳は小さな音をキャッチする点では優れていると考えられていますが、ペットとして身近な他の哺乳類に比べて、特別、広い音域を聞き取れるわけではないのです。

ウサギの耳よりヒトの耳の方が優れている「音源定位能力」

さらに、ウサギよりも人間の方が優れていることがあります。それは、音がどこから聞こえたかを特定する「音源定位」の能力です。

後ろから話しかけられたので「声を頼りにその方に振り向く」、これが音源特定です。
ヒトはどこから聞こえたかを1〜2度のレベルで特定できますが、ウサギは15〜20度の範囲までしか判定できないとされています。
うさぎの音源定位ー動物行動学者監修 「視覚・聴覚・嗅覚」ウサギの警戒センサーの秘密を探る

ウサギの耳は広い視野と一緒に使ってこそのもの

ウサギが大まかにしか音の方向がわからないのは、細かく特定する必要がないからだと考えられています。
ウサギは360度見えていますから、音が聞こえた方向は最初から視界に入っています。ヒトは音のした方向に顔を向けないと音の発生源が目に入りませんが、最初から全部見えているウサギは「だいたいこのへんかな」で事足りるのでしょう。

聴覚と視覚は、捕食者検知のためにセットで使われていると考えると、納得がいきます。

放熱機能も備わっていると考えると、やっぱり優秀なウサギの耳

こうなると「ウサギの耳ってなんであんなに大きいの?」と思う人もいるかもしれませんね。ウサギの耳には「聞く」のみならず、「体温調節」の機能もあります。(関連コラム:【聴力と耳の形】ウサギの耳は左右別々に動くってホント?

ウサギは汗をかいて体を冷やすことができません。かわりに耳で放熱し、体温上昇を防いでいるのです。イヌは体内の熱を逃すために舌を出し「ハッハッ」と激しく呼吸しますが、同じことを静かにやってのけるのですから、ウサギの耳はやっぱり高機能と言えます。

【嗅覚】危険回避のための大きな手がかりに

マーキングの回でご紹介した通り、ウサギの嗅覚はとても鋭く、ウサギはこれをさまざまに活用しています。今回は、危険察知のための利用にスポットを当ててみましょう。ウサギの鼻ー動物行動学者監修 「視覚・聴覚・嗅覚」ウサギの警戒センサーの秘密を探る

危険なニオイを察知したウサギは警戒行動を高める

肉食獣は、自らのニオイをつけるマーキングを行うため、同じ場所を何度も訪れます。ウサギはこれを知っており、そのニオイを避けることで捕食者との遭遇を回避するのです。

実際、ウサギの行動範囲に天敵であるキツネのニオイをつけて観察したところ、ウサギは警戒を高めたという報告があります。

ウサギは「危険なニオイ」をどうやって判断しているの?

ところで、ウサギはニオイを嗅いだとき「これは僕たちを襲う危険なやつだ」とどうやって判断するのでしょう。例えば、初めて嗅ぐ肉食獣のニオイは、避けようとするのでしょうか?
このことを調べた実験(参考文献⑧)をご紹介します。

ウサギは経験したことがないはずの肉食獣のニオイも回避した

実験は、オーストラリアに生息する野生のウサギを対象に行われました。ウサギの行動範囲に以下の肉食獣のフンから抽出した液を散布してニオイをつけ、行動が変化するか調べました。 
ウサギの嗅覚警戒システムー動物行動学者監修 「視覚・聴覚・嗅覚」ウサギの警戒センサーの秘密を探る
その結果、ウサギは4種類すべてのニオイに対して回避反応を見せました。これは、ウサギが初めて嗅ぐ捕食者のニオイにも柔軟に反応できる可能性を示しています。

というのも(3)フクロネコ と(4)タスマニアデビルは、実験の時点ではオーストラリア本土に生息しておらず、ウサギたちが接触する機会はありません。つまり「知らないはずのニオイ」だったのです。

「嗅いだことのないニオイだからなんとなく避けた」だけなのかもしれませんが、ウサギは、未知の肉食獣のニオイもきちんと「避けるべき捕食者だ」と認識できた可能性もあります。

同胞を食べたニオイ=危険なニオイ、なのかも

ウサギが強い回避反応を見せたのは、(1)アカギツネと(4)タスマニアデビルのニオイでした。この理由を、研究者は「フンを採取した個体がウサギを食べていたことが関係しているのでは」と考えています。

タスマニアデビルのフンは飼育されている個体から採取され、この個体はエサにウサギの肉を与えられていました。また、キツネのフンはウサギを捕食している可能性が高い、野生の個体から採取されました。
他方で、フンを採取した(2)オオフクロネコと(3)フクロネコの飼育個体は、ウサギの肉をエサとして与えられていなかったのです。
タスマニアデビルときつねー動物行動学者監修 「視覚・聴覚・嗅覚」ウサギの警戒センサーの秘密を探る
同胞を食べた捕食者のフンのニオイにより強い警戒を示すのは、マウスやトカゲ・ヤギなどでも報告されており、ウサギにも当てはまるのかもしれません。

「このニオイはとっても危険だぞ」「こっちはさほど危なくなさそう」には、学習効果が大きい可能性も

また、ウサギの警戒反応には、後天的な学習の効果が大きい可能性も考えられます。

実験対象のウサギの生息域には、(1)アカギツネと(2)オオフクロネコが暮らしていました。ウサギにとっては両者とも身近な捕食者であったにもかかわらず、ウサギたちはキツネをより強く警戒しました。これは、キツネの方がオオフクロネコより生息数が多いことと関係あるかもしれない、と研究者は指摘しています。

オオフクロネコがキツネより生息数が少ないということは、キツネと比べれば、オオフクロネコに襲われるリスクが低いことを意味します。そのため、ウサギたちは経験からキツネがより「ハイリスク」だと判断し、オオフクロネコより警戒したのでは、というのです。この推測が正しいとしたら、ウサギの防衛戦略はとても合理的ですね。

このように、ウサギが「どのようにして捕食者のニオイを危険と判断するのか」についてはさまざまな推測が成り立ちます。中には、「捕食者と何世代も共存することで、”危険なニオイ”が遺伝子レベルにまでインプットされ、回避行動を示せるようになる」という壮大な仮説もあります。この実験の結果も、さまざまな角度から読み解くべきでしょう。

怖がりなだけではない! リスクを冷静に分析しエサを探しに行くしたたかな一面も

実験開始から10日後、ニオイをつけたエリアでウサギの回避行動が弱まっていることがわかりました。ウサギは捕食者のニオイがしても実際に危険に遭わなければ「ここ大丈夫な場所だ」と判断しているようです。

警戒心が高く臆病なウサギが、捕食者のニオイを避け続けるわけではない、というのは少しイメージに合わないかもしれません。回避は、その場所にあるエサを諦めることも意味するので、回避ばかりしていては餌不足におちいってしまいます。そこで、「低リスク」と判断したら回避行動をゆるめるのでしょう。

臆病なだけではない、ウサギのしたたかな一面と言えます。

ウサギの「世界の感じ方」はまだ解明されていないことがたくさん

ウサギの知覚能力に注目すると、生存競争に勝ち残るために進化してきた戦略がうかがえます。
いくつかの仮説や推測が登場しましたが、いずれも、諸説ある中の一部であり、必ずしも正解とは限りません。ウサギの生態・能力には未知の部分がまだたくさんあり、興味は尽きません。

日々ウサギと暮らし、大切にしている飼い主さんにとって、ウサギは家族も同然。無意識のうちに、その行動をつい観察している人も多いのではないでしょうか。ウサギの能力の秘密を知れば、丁寧にウサギを見つめることが、いつか、ウサギにまつわる数々の「謎」を解き明かすことにつながるかもしれません。

行動観察から環境エンリッチメントを始めよう

ウサギの行動がもつ意味を知ると、新たな一面が見えてきます。そして、環境エンリッチメントを実践するうえでも、動物の行動の意味を深く考えることはとても大切です。
動物行動学者監修ウサギの「かじる」謎にせまる image12
「環境エンリッチメント」というと、少し耳慣れない言葉かもしれませんが、その基本は、動物の目線に立って考える、というシンプルなものです。そして、動物たちの行動をよく観察することは、その第一歩になります。

うさぎの環境エンリッチメント協会は、飼いウサギの「ウサギらしさ」を引き出し、そして、私たち人間と楽しく活動的に暮らしていけるよう、これからも、ウサギの『生活の質=Quality of Life』の向上に役立つ情報を発信していきます。

一般社団法人 うさぎの環境エンリッチメント協会

参考文献
① Wiley Blackwell(2010). Behavior of Exotic Pets. pp.69-77.
② Teresa Bradley Bays, Teresa Lightfoot and Jörg Mayer(2006). Exotic Pet Behavior. pp.1-44.
③ 鈴木實(1994年)『動物の視覚』山口獣医学雑誌、21号、pp.1-38
④ Karim El-Sabrout(2018). Does the blindness affect the behavioural activities of rabbit? Journal of Animal Behaviour and Biometeorology 6(1):pp.6-8
⑤ Henry Heffner and Rickye S Heffner(2007). Hearing Ranges of laboratory animals. Journal of the American Association for Laboratory Animal Science: 46(1):pp.11-13
⑥ Rickye S Heffner(1997). Comparative Study of Sound Localization and its Anatomical Correlates in Mammals. Acta oto-laryngologica. Supplementum 532(532):pp.46-53
⑦ Raquel Monclús, Heiko G. Rödel and Dietrich von Holst(2006). Fox Odour Increases Vigilance in European Rabbits: A Study under Semi‐Natural Conditions. Ethology 112(12):pp.1186-1193
⑧ Francisco S. Tortosa, Isabel C. Barrio, Alexandra J. R. Carthey and Peter B. Banks(2015). No longer naïve? Generalized responses of rabbits to marsupial
predators in Australia. Behavioral Ecology and Sociobiology volume 69, pp.1649-1655
⑨ 霍野 晋吉、山内昭『ウサギの医学』.緑書房. 2018年
⑩ うさぎの時間編集部編『うさぎの心理がわかる本』. 誠文堂新光社. 2012年


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橋爪宏幸

橋爪宏幸

うさぎタイムズ編集長。 うさぎ専門店「ラビット・リンク」のオーナー。 一般社団法人うさぎの環境エンリッチメント協会 専務理事。 現在ニンゲン3人のほか、長男:ミニチュアダックスの桜花、次男ホーランドロップのカール、三男:ネザーランドドワーフの政宗、長女:ホーランドロップのミラ・ジョボビッチと暮らしている。