動物の「行動」を知れば、本当の姿と「心」が見えてくる!
ウサギの生態はまだまだ研究途上、謎に包まれた部分がたくさんあります。こちらのシリーズでは「ウサギの行動」を読み解くことで、その不思議にせまります

スリスリしたりオシッコをかけたりと、多くの動物がマーキングをしますが、ウサギも例外ではありません。
マーキングといえば「これはボクのもの」という縄張り主張のイメージが強いのですが、ヒトのような言葉を持たない動物にとって、マーキングは大切なコミュニケーション手段。そこにはさまざまなメッセージが含まれているんです!

今回は、マーキングするウサギの気持ちを動物行動学の視点から探ります
広場に集うウサギ/ウサギのマーキングの意味は?

どのくらい鼻が利くの? ウサギの嗅覚

ウサギはマーキングでおもに嗅覚に訴えています。そこでまず、ウサギの「ニオイを嗅ぎ分ける力」についてご紹介しましょう。

嗅覚の発達度合いの指標の1つが、ニオイを受け取るセンサーとも言える「嗅細胞」の数です。嗅細胞はヒトでは諸説あり数百万個と言われていますが、ウサギはなんと約1億個。ちなみに、すぐれた嗅覚を活かし警察犬として活躍することもあるイヌは約2億個と、人間の4倍以上の嗅細胞を持っています。

イヌには及ばないにせよ、ウサギは人間よりはるかに嗅覚がすぐれていそうなことがわかりますね。
穴から顔を出すウサギ/ウサギのマーキングの意味は?

ウサギのマーキング行動3つとその意味

マーキングは「印をつける」という意味で、自分の痕跡を残す行為を指します。私たち人間に例えると、SNSで「いいね!」をつける感覚に近いかもしれません。

ウサギでよく知られているマーキング行動は3つあります。

ウサギのマーキング(1)おしっこを飛ばす(スプレー行為)

イヌやネコが電柱などにおしっこを引っ掛けるのを見たことがある人は多いでしょう。同じようにウサギも尿でマーキングをし、これをスプレー行為と呼びます。
マーキングする犬/ウサギのマーキングの意味は?
ウサギは強い縄張り意識を持っているので「ここもあそこも自分のテリトリーだ!」といった具合に、トイレ以外の場所でおしっこを飛ばします。スプレーのように盛大に飛ばすのではなく、少量頻回にあちこちでおしっこをしてまわるタイプのウサギもいます。

縄張り主張の他には、異性への求愛行動や、環境が変わった緊張・興奮の影響でスプレー行為が出ることもあります。

ウサギのマーキング(2)フンにニオイをつける

ニオイのもとを分泌するのが臭腺(しゅうせん)で、ウサギのお尻には肛門腺・鼠径腺(そけいせん)という2つの臭腺があります。肛門腺は肛門部分に、鼠径腺は肛門の両脇に一対(2個)あります。このうちの肛門腺でフンに自分のニオイをつけるのです

草食動物であるウサギのフンは、ニオイが強いものではありません。一方、肛門腺からの分泌物は典型的な「ウサギ臭」がします。フンがにおう時は、肛門腺でマーキングをしている可能性が高いのです。
座り込むウサギ/ウサギのマーキングの意味は?
ニオイをつけたフンは縄張り全体にばら撒くなどして、他の群れのウサギに対する縄張りの主張に使われます。しかし、それだけではありません。

野生のアナウサギは群れのメンバーで使用する「共同トイレ」を設け、ここにフンをためていきます。そして、ウサギたちはこのトイレで「お互いのニオイ情報を交換しあっている」と考えられています。

ニオイのついたフンは、「群れの秩序と一体感」を守るのに役立っているのかも?

実際にトイレでどんな情報交換が行われているのかについてですが、例えば、群れで上位に君臨するウサギが「ボクが上司としてこの群れの安全と平和、そして秩序を確保するよ」と仲間に伝えていることが推測できます。

アナウサギは群れのメンバー間で厳しい順位付けがあり、地位が高いオスほどしょっちゅう、このトイレを訪れるのだそうです。ウサギも仲間うちでの無駄な戦いは避けたいので、ニオイをつけたフンをトイレにたっぷり置いておくことで、群れのメンバーに「いいね、僕が上司だからね、ケンカはしないよ」と自分の存在を意識させているのではないでしょうか。「僕たちの関係性はこうだから、よろしく」といった意味のコミュニケーションのようなものと考えられます。

人間でも、社内の団結力を高める目的で、会社のトイレの個室に社訓を貼る企業があるようですが、野生のアナウサギのトイレもそれに通ずるところがあるのかもしれません。

ウサギのマーキング(3)あごをこすりつける(チンニング)

ウサギの臭腺はあごの下にもあり、これを顎下腺(がっかせん)といいます。あごをスリスリとこすりつけるマーキングは、英語で「チンニング」と呼ばれます。
顎下腺の分泌物はヒトにとって無臭なので、あまり目立たないかもしれませんが、チンニングにも複数の意味があると考えられます。

チンニングはウサギ同士での「ボクの方が上だぞ」アピール

チンニングは群れでの順位の確認と関係があるとされています。

群れで上位のオスの顎下腺は、下位のオスに比べて倍の大きさだったという報告があります。さらに、ウサギ間で小競り合いがあった後は、チンニングの頻度が増えるというのです。
チンニングするウサギ/ウサギのマーキングの意味は?
「ボクの方が強いよね」というアピールのような意味があるのでしょう。

「自分のニオイに包まれて安心したい」のかも

一方、チンニングには「身のまわりを自分のニオイで満たし安心したい」という気持ちもありそうです。

ある実験で、複数のウサギに、他のウサギのニオイをつけたレンガと、つけていないレンガを与えチンニングの回数を調べました。すると、ニオイをつけたレンガの方が多くチンニングされました。
また、ウサギは自分の縄張り内で他の群れのウサギのフンを見つけた時、チンニングを激しく行います。これはまるで「誰かのニオイがする!自分のニオイをつけなきゃ」といわんばかりの行動に思えます。

ネコの場合、顔をこすりつける時に頬の腺からのフェロモンもなすりつけており、これはネコ自身が安心・納得を感じるために役立っていると考えられています。同じような効果が、ウサギのチンニングにもあるのかもしれません。

「愛情表現」の可能性だって十分あり

飼い主さんに愛おしそうにアゴをスリスリする姿、「どう考えても、大好き!と言ってくれているようにしか見えない」とお思いの人もいるかもしれません。確かに、よく懐いている飼い主さんにチンニングを行うウサギはいます。

実は、チンニングをはじめとしたマーキング行動には解明されていない部分がたくさんあります。人間に対するチンニングは「大好き」などの意思表示という可能性もないとは言えません!

メスのチンニングで代表的なのは、子ウサギへのニオイつけです。現実的な意味合いとしては「我が子の識別」ですが、「愛情表現」の意味もあるのだとしたら、お母さんウサギには「いい子いい子」となでなでするような感覚もあるのかもしれませんね。

マーキングしたくなるのはなぜ?

マーキング行動に深く関わるのは性腺(オスでは精巣・メスでは卵巣)の働きです。

一般的な飼いウサギは、生後3〜5ヶ月頃に思春期を迎えます。この頃から性腺の働きが活発になり、マーキング行動が始まります。そして、思春期が過ぎ去ったり、手術で性腺を除去したりすると落ち着きます。

男の血が騒ぐ? オスの方が「マーキングしたい欲求」は強い!

マーキング行動を誘発するのは、主に男性ホルモンです。実際に、オスウサギの臭腺はメスより大きく、オスのほうがメスよりもスプレー行為が多いと言われています。
マーキングイメージ/ウサギのマーキングの意味は?
ただし、オスばかりがマーキングしたいのかというと、必ずしもそうとは言えないんです。

チンニングの頻度をオスとメスで比べたところ、性別による差ではなく、むしろ「やるウサギ」「やらないウサギ」という個体差が大きかったという実験結果があります。また、「メスウサギを飼っているけどスプレー行為が激しい」という話を聞くことも。

この個体差の原因について、考えられているのが群れの中での序列です。

オス・メスかかわらず、強いウサギほどニオイを残したがる

オス・メスともに群れでのランクが高いウサギほどよくマーキングを行います。さらに、ランクが上位のウサギでは、顎下腺の分泌物に香りを持続させる物質が含まれ、チンニングでこすりつけたニオイが長持ちするのです。これは、群れでの優勢な地位を維持するのに役立っていると考えられています。
草をはむウサギ/ウサギのマーキングの意味は?
「強いウサギほどニオイを残そうとする」そして「ニオイを残せるウサギほど強い」ということですね。
実際、ニオイでウサギは「ケンカに勝ちやすくなる」ということがわかっているんです。

ウサギは自分や群れのニオイを感じていると自信がつく

別の群れに所属する2羽のウサギが出会ってケンカになったとき、自分の縄張りにいるウサギの方が勝利する確率が高かったそうです。自分や群れのニオイは、ウサギに「自信を与える」と考えられています。

人間の場合も、サッカーや野球などの試合で、地元で行われるホームゲームの勝率は敵地でのアウェーゲームよりも高いことが知られています。地元ファンの熱心な声援が選手の力になると考えられていますが、ウサギの場合は、自分や仲間のニオイがそれに当てはまるのかもしれません。
匂いを嗅ぐウサギ/ウサギのマーキングの意味は?

ウサギも「くっさ〜」の顔をする? ウサギのフレーメン反応

動物のおもしろ行動として有名な「フレーメン反応」。これもマーキングに関連した行動なんです。
飼い主さんの靴下のニオイを熱心に嗅いだ後に「くっさ〜」と言わんばかりの表情を見せるネコの動画が話題になったのを覚えている方もいるかもしれませんね。あれがフレーメン反応です。
フレーメン反応をする馬/ウサギのマーキングの意味は?

「クサイ」のではなく、フェロモンを嗅ぎ取るための反応

フレーメン反応とは哺乳類が異性の尿のニオイなどを嗅いだ後に見せるもので、唇を引き上げたり、目を見開いたりします。フェロモンを嗅ぎ取ろうと神経を集中させることで起こると考えられており、「臭くてビックリした!」というより「ニオイを味わい吟味している」という方が適切です。

ネコやウマ、ゾウなど一部の動物でしか観察されないフレーメン反応ですが、実はウサギでも確認されているんです

ちょっと地味だけどウサギにもフレーメン反応がある

ウサギのマーキング行動について詳しく調べた実験によると、ウサギのフレーメン反応は3秒〜75秒の間、鼻を近づけて他のウサギの尿のニオイを集中的に嗅いだあとに起こり「急激に頭をあげた後、水平にして3〜15秒ほどじっとする」というものだったとのこと。その間、鼻をヒクヒクと動かしたり、中には、頭と体を震わせたりすることもあったそうです。

ウサギのフレーメン反応は明らかな表情の変化をともなわないので、よく気をつけていないと見逃してしまいそうです。ウサギは普段から、イヌやネコに比べると比較的「静か」な生き物。派手さにはちょっと欠けますが、こんな反応もまた「ウサギらしい」と言えるかもしれません。

行動学的な視点から考える飼いウサギの「おしっこ飛ばし」対処法

マーキング行動で問題となることが多いのはスプレー行為でしょう。本能的なものですから、しつけではコントロールできません。対策の基本は、思春期を迎える前に去勢・避妊手術を受けさせることです。

時期を逃してしまったなどで、去勢・避妊手術を行ってもスプレー行為が止まない場合は、飼育環境を工夫しましょう。ケージの掃除は水洗いのみにとどめるなどニオイを消しすぎないよう心がける、多頭飼育ではケージを離して設置するといったことも手段の1つです。
ウサギが緊張や不安を感じることのないよう、飼育環境や生活サイクルをしょっちゅう変えないこともポイントです。
ウサギの親子/ウサギのマーキングの意味は?

スプレー行為を人間が受け入れることも重要

ウサギが本来の行動をそのままに、飼育環境でイキイキと暮らすには、飼育する側がスプレー行為を受け入れていく視点も必要です。

飼い主さんサイドの「困り事」を減らすためにできることとして、尿のニオイを低減する消臭剤を導入する、掃除の手間が減るよう撥水性のシートを壁に貼るなどの方法があります(参考記事)。

また、スプレー行為は年齢を重ねることで、ある程度落ち着いてくることも多いもの。おしっこ飛ばしがひどい時期は、人間と生活する部屋を分けるなど、物理的に距離をおくことも方法の1つです。

行動観察から環境エンリッチメントを始めよう

ウサギの行動がもつ意味を知ると、新たな一面が見えてきます。そして、環境エンリッチメントを実践するうえでも、動物の行動の意味を深く考えることはとても大切です。
動物行動学者監修ウサギの「かじる」謎にせまる image12
「環境エンリッチメント」というと、少し耳慣れない言葉かもしれませんが、その基本は、動物の目線に立って考える、というシンプルなものです。そして、動物たちの行動をよく観察することは、その第一歩になります。

うさぎの環境エンリッチメント協会は、飼いウサギの「ウサギらしさ」を引き出し、そして、私たち人間と楽しく活動的に暮らしていけるよう、これからも、ウサギの『生活の質=Quality of Life』の向上に役立つ情報を発信していきます。

一般社団法人 うさぎの環境エンリッチメント協会

参考文献
① Wiley Blackwell(2010). Behavior of Exotic Pets. pp.69-77.
② Teresa Bradley Bays, Teresa Lightfoot and Jörg Mayer(2006). Exotic Pet Behavior. pp.1-44.
③ Del Thiessen and Maureen Rice(1976). Mammalian scent gland marking and social behavior. Psychological Bulletin, 83(4), pp.522–524.
④ Patricia Black-Cleworth and Gerda Verbern(1975). Scent-marking, dominance and flehmen behavior in domestic rabbits in an artificial laboratory territory. Chemical Senses, 1(4), pp.465–494,
⑤ Margarita Martínez‐Gómez, Madai Guarneros, René Zempoalteca and Robyn Hudson(1997). A Comparison of Spontaneous and Odor‐induced Chin Marking in Male and Female Domestic Rabbits (Oryctolagus cuniculus domestica). Ethology,103, pp.893-901
⑥ 松沢安夫・大越純子(1993年)『雄ウサギのマーキング行動に及ぼすケージ交換の影響』日蓄会報、64(10)、pp.992-1000,
⑦ 柏木文吾編『うさぎの時間』. 誠文堂新光社. 2015年


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橋爪宏幸

橋爪宏幸

うさぎタイムズ編集長。 うさぎ専門店「ラビット・リンク」のオーナー。 一般社団法人うさぎの環境エンリッチメント協会 専務理事。 現在ニンゲン3人のほか、長男:ミニチュアダックスの桜花、次男ホーランドロップのカール、三男:ネザーランドドワーフの政宗、長女:ホーランドロップのミラ・ジョボビッチと暮らしている。