動物の「行動」を知れば、本当の姿と「心」が見えてくる!

ウサギの生態はまだまだ研究途上、謎に包まれた部分がたくさんあります。こちらのシリーズでは、「ウサギの行動」を読み解くことで、その不思議にせまります。

今回のテーマは育児。ウサギの赤ちゃんは目も開かない、毛も生えていない未熟な状態で生まれますが、お母さんウサギは1日1回(あるいは2回)しか授乳せず、それ以外は子ウサギと離れて過ごします。

散歩のいらないペットとして人気が高まっているウサギですが、迎え入れて初めての妊娠・出産には飼い主さんにも不安が付きまといます。「育児放棄かも?」と飼い主さんを心配させるウサギの育児スタイルも、野生での暮らしぶりを知ることでその行動の理由が見えてくるんです。

ウサギの驚くべき妊娠の仕組みから、子育ての謎までを紐解いてみましょう!
巣の中の子うさぎー動物行動学者監修 育児放棄じゃなかった!ウサギの子育ての秘密〜妊娠・出産から育児まで〜

ウサギの繁殖力はとっても旺盛!驚異的な妊娠の仕組み

ウサギは繁殖力が強い生き物です。急激な増加を「ネズミ算的に増える」と表現することがありますが、ヨーロッパには「ウサギ算」という言葉もあります。
ウサギが増えやすいのはなぜでしょうか?

ウサギは「年中」そして「産後すぐ」さらに「妊娠中」にまで妊娠できる

野生のウサギは子育てのしやすい時期に妊娠・出産しますが、飼育下では季節に関係なくいつでも繁殖できます。

多くの動物は発情期にメスがオスを受け入れる状態になり、子どもを産みます。そして発情期は、例えばネコなら春と秋など年2〜3回、イヌは季節に関係なく約6ヶ月ごと、というように時期や回数がある程度限られていることが一般的です。

一方ウサギの場合、メスは4〜17日ごとに妊娠できる期間と1〜2日の休憩期間を繰り返します。したがって、思春期を迎えた後はほぼずっと発情期なんです。

また、ウサギの妊娠期間は約1ヶ月と短く、さらに産後はすぐに次の妊娠が可能です。

そのうえ、左右に1つずつ独立した子宮を持っているため、妊娠中にさらに妊娠することまであります。先に受胎した子どもたちの妊娠を継続したまま、次の子どもたちを妊娠し、順番に出産できるのです。ウサギの子宮ー物行動学者監修 育児放棄じゃなかった!ウサギの子育ての秘密〜妊娠・出産から育児まで〜

ウサギは交尾したら高確率で妊娠する

卵子と精子が出会うことで妊娠はスタートします。そのため、多くの哺乳類では、メスが排卵するタイミングにあわせて交尾しなければ子どもは生まれません。

ところが、ウサギのメスは交尾の刺激で排卵します。つまり、タイミングは関係なく、ひとたび交尾が起これば受胎する確率が非常に高いのです。

繁殖力が強いのは、捕食される側としての生存戦略

ウサギは自然界では捕食される側であるため、天寿をまっとうできるケースはまれです。野生の子ウサギは、その9割が1歳までに命を落としてしまうというデータもあります。
たくさん子孫を残さなければ種としての存続が難しいため、このような繁殖スタイルに行き着いたと考えられています。

「増える」だけじゃない!ウサギにも家族計画があった

ウサギが一度の出産で産む子どもの数は4〜10匹で、時には10匹を超えることも。この調子で年中産み続けたらあっという間にウサギだらけになってしまいそうですが、そうならないための仕組も備わっています。

実は、妊娠中の母ウサギは、子宮内の赤ちゃんを自らの身体に再吸収することがあるんです。これは、ウサギの繁殖システムの自己調節機能の1つだと考えられています。

ウサギも、産みすぎれば育てられない事態におちいる可能性が

子どもが増え続けるのは、群れで暮らすアナウサギにとって、必ずしも良いことばかりとは限りません。巣穴が過密状態になり、エサが足りなくなるリスクがあるからです。
エサを食べるウサギの群れー物行動学者監修 育児放棄じゃなかった!ウサギの子育ての秘密〜妊娠・出産から育児まで〜
限られたスペースで暮らすウサギでは、群れの密度が一定以上になると繁殖力が減少したという研究報告があり、これは、子宮内で赤ちゃんが再吸収される割合が増えたからだとされています。

母ウサギは「育てるのが難しそうなら産まない」という選択をすることも

また、母ウサギが身体的に未熟である、体調が悪い、ストレスを感じている、などでも胎児の再吸収が起こると考えられています。「この状況では満足に育てられそうにないわ」と感じた母ウサギは、産まないという選択肢を無意識のうちにとっていると言えます。

赤ちゃんを再吸収することで、母ウサギは出産にかかる体力をセーブし、養分を蓄えられます。身体のコンディションを整えたうえで、今度こそ元気な子どもたちを確実に産み育てられるよう、次のチャンスに賭けるのです。
リスクが高い状態で出産・育児をするより合理的で、まさに、生き物の知恵と言えます。

ウサギの出産準備から赤ちゃん誕生まで

ここからは、アナウサギの育児行動を時系列で見ていきましょう。

母ウサギは赤ちゃんのために子ども部屋とベッドを用意

出産が近づいた母ウサギは生まれてくる子のために、自らの毛や牧草を使って、ふわふわの暖かいベッドをこしらえます。野生では専用の巣穴に、飼育下であれば、与えられた巣箱の中で巣作りをします。ウサギの毛皮ー物行動学者監修 育児放棄じゃなかった!ウサギの子育ての秘密〜妊娠・出産から育児まで〜
子育てをする場所は子どもたちの生存率に直結するので、より安全な場所をめぐって、メスどうしは激しく争うこともあります。自然界のアナウサギは、群れでのランクが高いメスほど、地下深くにある、外敵に狙われにくい場所で子育てができるのです。

いよいよ出産!未熟な状態の赤ちゃんが誕生

妊娠から約1ヶ月後、アナウサギの赤ちゃんは目や耳の感覚が未発達で、毛も生えていない状態(※)で、巣穴の中に産み落とされます。

※アナウサギは未熟な状態で生まれてくるのに対して、ノウサギは目や耳が聞こえ、毛も生えた状態で生まれてきます。ペットのウサギはアナウサギを品種改良したもので、正式にはアナウサギに分類されます。(関連コラム:ウサギの行動学(1)
ウサギの新生児ー物行動学者監修 育児放棄じゃなかった!ウサギの子育ての秘密〜妊娠・出産から育児まで〜

母ウサギと子ウサギのコミュニケーションは「ニオイ」が肝心

ウサギの赤ちゃんは、生存のために嗅覚を活用します。母ウサギの乳首の近くから出るフェロモンをかぎわけて、おっぱいを見つけるのです。
人間の赤ちゃんでも、ニオイを頼りにお母さんの乳首を探すことがわかっていますが、よく似ていますね。

一方、母ウサギも子どもたちのニオイで育児本能を刺激されます。
子ウサギは1人では排泄できず、お尻を刺激してもらう必要があります。子ウサギのお尻から出る化学物質が含まれるニオイを嗅いだ母ウサギは、子ウサギのお尻を舐める行動をするのです。
そして母ウサギは、子どもたちに自分のニオイをつけることで、我が子を識別します。
(関連コラム:動物行動学者監修 ウサギのマーキングの意味は?

これって育児放棄!?ウサギの独特な育児スタイルとその理由

未熟な赤ちゃんを守り育てるため、ヒトはつきっきりでお世話をしますが、ウサギの育児は対照的で非常にあっさりしているんです。

ウサギの授乳は1日1回、わずか数分

母ウサギが子ウサギたちに授乳するのは、1日1回(多くても2回)、たったの4分程度。授乳を終えた母ウサギはさっと巣穴から飛び出し、野生では巣穴の入り口を埋め、子どもたちを隠してから出かけてしまいます。そして、翌日の授乳まで巣に戻りません。
授乳が終わって立ち去る母ウサギー物行動学者監修 育児放棄じゃなかった!ウサギの子育ての秘密〜妊娠・出産から育児まで〜
ペットとして身近なイヌやネコ、そして私たち人間は、1日に何度も赤ちゃんにおっぱいを与えますし、常に側について我が子を守ります。それに比べると、ウサギの育児は驚くほど放任で、かなり特殊に思えます。

放任主義は、ウサギの立派な生存戦略

実はこれ、子ウサギに近づく時間をできるだけ短くすることで敵を巣穴に寄せ付けないという、ウサギなりの生存戦略なんです。

ウサギの本領は逃げることと隠れること。子どもたちが襲われても守ってあげられませんから、外敵に巣穴を悟られないことが最も大切というわけです。「愛あるがゆえの放置」という見方もできますね。

過干渉はむしろ、ウサギの子どもたちの死亡率を上げるという報告も

飼育下での実験では、母ウサギが頻繁に巣を訪れると、子ウサギの生存率が下がったという報告があります(参考文献⑤)。
小屋の中のウサギ親子ー物行動学者監修 育児放棄じゃなかった!ウサギの子育ての秘密〜妊娠・出産から育児まで〜
常に巣箱に自由に出入りできる状態の母ウサギと、1日15分しか巣箱に出入りできないようにした母ウサギとで、子どもたちの生存率を調べました。すると、母ウサギが巣箱に自由に出入りできるグループの方が、子どもたちが命を落とす割合が多かった(※)のです。

死亡率を高めた原因として、母ウサギがしょっちゅう出入りすることで巣が汚れやすくなる、母ウサギのツメで子どもが怪我をする、母の存在を感じた子どもたちがおっぱいを求めて余計に動き体力を消耗する、などがあげられています。

1日1回のお世話でもきちんと育つように進化したウサギですから、母子のコミュニケーションは本来の形のまま、放任主義をつらぬくのがベストと言えるでしょう。

※母ウサギが初産だった場合のデータです。2回目以降の出産の母ウサギで比較したところ、どちらのグループでも子どもの生存率に有意な差はありませんでした。これには母親の育児経験が関係していると考えられています。

ウサギの赤ちゃんは、放置されてどうして大丈夫なの?

放任主義でもウサギの子どもたちがきちんと育つのには、理由があります。

高脂肪・高タンパクな、特濃ミルクをお腹いっぱいに飲む

1日1度の授乳でも栄養が不足しないように、ウサギは脂肪分とタンパク質が凝縮された濃い母乳を出します。
分析によると、ウサギの母乳には脂質が18.3%、タンパク質が13.9%も含まれており、牛乳(脂質3.7% 、タンパク質3.4%)やヒトの母乳(脂質3.8%、タンパク質1.0%)と比べると、かなり腹持ちが良いことがわかります。
授乳ウサギー物行動学者監修 育児放棄じゃなかった!ウサギの子育ての秘密〜妊娠・出産から育児まで〜
この濃厚なミルクを赤ちゃんたちはたっぷり飲みます。1回の授乳でなんと体重の約1/3もの量を飲むのでお腹はポッコリ。側からみても、満腹とわかる状態になります。

兄弟でくっつきあって体温をキープ

イヌやネコでは赤ちゃんのそばに母親が横たわって赤ちゃんたちの身体から熱が奪われるのを防ぎますが、母ウサギはそれもしません。
そのため、子ウサギたちはピッタリくっつき、まるで「おしくらまんじゅう」をしているかのように団子になって暖を取り、体温維持のエネルギーを節約します。ウサギの子どもたちにとって兄弟の存在は、とても大切なんです。
くっついて眠る子うさぎ"litter huddle"ー物行動学者監修 育児放棄じゃなかった!ウサギの子育ての秘密〜妊娠・出産から育児まで〜
また、このおしくらまんじゅうには、兄弟間での「協力」とも思えるような機能があると考えられています。

場所をゆずりあうことで、みんなが適温に

おしくらまんじゅうの内側にいれば四方を兄弟に囲まれて暖かい一方、外側ではそうはいきません。暖かい場所にいる子ウサギの方がより「省エネ」なので、生存に有利です。
ですが、暖かい場所をめぐって子どもたちが競い合うのかというと、実は、そうではないことがわかってきました(参考文献⑥)。

子ウサギたちは時折、モゾモゾと動き、おしくらまんじゅう内でのポジションを変えています。その行動を分析したところ、おしくらまんじゅうの外側にいた子が暖かい場所を求めて内側に潜り込む一方、それまで内側にいた子は、その動きに押し出される形で外側に移動するなど、かわりばんこにポジション交代が行われているようだというのです。

「寒いから温まろう」「暑いからちょっと涼もう」といった行動かもしれませんが、まるで「ゆずり合い」のようにも見えますね。

ウサギの育児はできるだけお母さんに任せて

ウサギが妊娠したら、飼い主さんは落ち着いて出産・育児ができる環境を整え、あとはそっと見守るべきです。見守るウサギー物行動学者監修 育児放棄じゃなかった!ウサギの子育ての秘密〜妊娠・出産から育児まで〜

飼育環境での子育てでは、母ウサギはつい「過干渉」になりがち?

飼育下では、自然界とは違い、授乳後に巣穴の入り口を埋めて塞ぐことができません。母ウサギからしてみれば、子どもたちが安全に隠されているか常に気がかりな状態です。そして、一日一度のお世話がウサギの本能とはいえ、子どもたちのいる巣箱が一日中すぐ近くにある状態では、母ウサギだって、どうしても気になってしまいます。

その結果、「子どもたちは大丈夫かな?」と母ウサギが何度も巣箱に入ってしまうことがあります。また、ストレスを感じた母ウサギは、安心を求めて巣箱に逃げ込もうとすることも。

こうなると、母子の接触が増え、ウサギ本来の育児スタイルから遠ざかってしまいます。

ウサギが安心して本来の子育て方法を実践できるよう、環境面でのサポートを

飼い主さんは、母ウサギが安心して子どもを「放任」できるよう、巣箱を覗きに行かない、赤ちゃんを触らないなどの環境整備に努めましょう。母ウサギが子どもたちを「安全な場所に隠せている」と認識できるよう、巣箱はなるべく静かで安全なケージの隅などに設置するのもポイントです。

また、飼育下で母ウサギが子ウサギに過干渉になってしまうのは、母子の物理的な距離の近さも原因の1つと考えられています。飼育スペースを広くとって、子ウサギのいる寝床・巣箱に戻らなくとも、母ウサギがいつも通りの生活を送れるようにしてあげると、母子間の距離を適切に保ちやすくなります。

飼い主さんが介入するのは最後の手段

ウサギの最初の授乳は産後24時間くらい後になることもあり、育児放棄に思えるかもしれません。ですが、それがウサギの本能的なやり方です。
人間が手出しをすることで人間の臭いが子ウサギに付いてしまい、本当の育児放棄につながるケースも多いので、できるだけ、そっと見守る姿勢を大切にしてください。

人間の介入が必要かは、授乳した形跡を確認しましょう。きちんと授乳されている子ウサギは、お腹がポッコリと膨らみます。また、母乳を飲んでいない子は落ち着きなく巣を這い回り、脱水のため皮膚をつまんでもすぐには元に戻りません。
このような兆候がみられたら、獣医師さんに相談して、人工保育に切り替える判断も必要です。(関連記事:【うさぎの赤ちゃん】誕生〜離乳期間までどうすればいいの?

行動観察から環境エンリッチメントを始めよう

ウサギの行動がもつ意味を知ると、新たな一面が見えてきます。そして、環境エンリッチメントを実践するうえでも、動物の行動の意味を深く考えることはとても大切です。
動物行動学者監修ウサギの「かじる」謎にせまる image12

「環境エンリッチメント」というと、少し耳慣れない言葉かもしれませんが、その基本は、動物の目線に立って考える、というシンプルなものです。そして、動物たちの行動をよく観察することは、その第一歩になります。

うさぎの環境エンリッチメント協会は、飼いウサギの「ウサギらしさ」を引き出し、そして、私たち人間と楽しく活動的に暮らしていけるよう、これからも、ウサギの『生活の質=Quality of Life』の向上に役立つ情報を発信していきます。

一般社団法人 うさぎの環境エンリッチメント協会

参考文献
① Wiley Blackwell(2010). Behavior of Exotic Pets. pp.69-77.
② Teresa Bradley Bays, Teresa Lightfoot and Jörg Mayer(2006). Exotic Pet Behavior. pp.1-44.
③ 片岡啓著『各種哨乳動物の乳成分組成の比較』. 岡山実験動物研究会報(3)、pp.24-31、1985年
④ 山田文雄『ウサギ学ー隠れることと逃げることの生物学』.東京大学出版会. 2017年
⑤ Gérard Coureaud, Benoist Schaal, Pierre Coudert, Robyn Hudson, Patricia Rideaud and Pierre Orgeur(2000). Mimicking Natural Nursing Conditions Promotes Early Pup Survival in Domestic Rabbits. Ethology,106, pp.207-225
⑥ Amando Bautista, Esmeralda García-Torres, Margarita Martínez-Gómez and Robyn Hudson(2008). Do newborn domestic rabbits Oryctolagus cuniculus compete for thermally advantageous positions in the litter huddle? Behavioral Ecology and Sociobiology, 62(3), pp.331-339
⑦ R・M・ロックレイ著・立川賢一訳『アナウサギの生活』.思索社. 1973年


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橋爪宏幸

橋爪宏幸

うさぎタイムズ編集長。 うさぎ専門店「ラビット・リンク」のオーナー。 一般社団法人うさぎの環境エンリッチメント協会 専務理事。 現在ニンゲン3人のほか、長男:ミニチュアダックスの桜花、次男ホーランドロップのカール、三男:ネザーランドドワーフの政宗、長女:ホーランドロップのミラ・ジョボビッチと暮らしている。