※当コラムは斉藤先生の臨床経験をもとに、ウサギの医学書や論文など専門的な文献を参照して執筆しています。ウサギと暮らす飼い主さんに有益で正確な情報の発信に努めていますが、記載内容は執筆時点での情報であること、すべてのケースに当てはまるわけではないことをご理解願います。

こんにちは。うさぎの環境エンリッチメント協会専務理事の橋爪です。ウサギの最新の飼育方法を発信しているウェブマガジン「うさぎタイムズ」の編集長や、うさぎ専門店「ラビット・リンク」のオーナーをしています。 プライベートでも5頭(3男2女)のウサギさんと暮らしています。

ウサギの診療実績が年間4,000件と豊富なご経験をお持ちの斉藤動物病院の院長・斉藤将之先生にお話を伺うこちらのコラム。
診察室ではなかなか聞けないお話や、ウサギを診る獣医師の本音などお話ししていただきます。

第21回のテーマは、ぶどう膜炎です。真っ黒な瞳ーウサギ専門医に聞く(21)ぶどう膜炎の症状・治療 エンセファリトゾーンとの関連は

ウサギのぶどう膜炎ってどんな病気?

「ぶどう膜」は、イラスト中の「虹彩」「毛様体」「脈絡膜」の3つを合わせた呼び方です。このいずれかの部分に起こる炎症がぶどう膜炎で、目の内部・内側に起こる病気です。ぶどう膜ーウサギ専門医に聞く(21)ぶどう膜炎の症状・治療 エンセファリトゾーンとの関連は

ぶどう膜炎はウサギではよくある病気で、斉藤先生の病院にも1週間に8件程度と、少なくない数の来院があるといいます。

なぜぶどう膜炎になる子が多いのでしょうか? 原因に着目すると理由が見えてくる、と斉藤先生は言います。

ぶどう膜炎の主な原因は外傷と感染症

斉藤先生「ぶどう膜炎の原因は、大きく分けると2つ。目に傷がつくことと、感染症です。

目の傷から起こる疾患には、眼球の表面である角膜に生じる「角膜炎」があります。ぶどう膜炎は角膜よりもう少し奥、目の内部に負った傷が原因で起こるものです。

ぶどう膜炎に至る原因となる目の外傷は、角膜炎と同様、ウサギ同士のケンカや、飼い主さんがうっかりぶつかること等で生じます」

角膜炎の回でもご紹介したように、牧草が目に入ることで眼球に傷を負い、そこからぶどう膜炎になることもあります。

牧草で「目の内部」をケガするってどういうこと?

斉藤「ぶどう膜は、目の内部ですから、表面にある角膜とは違い、そう簡単に外から傷がつくようには思えないかもしれません。しかし、眼球は私たちのイメージする以上に柔らかい組織ですし、ぶどう膜の中で一番外側に近い部分は、眼球表面から1ミリ程度しか離れていないんです。細い牧草がスッと刺さるだけでも、意外と深くまで傷が達してしまうんですよ」
牧草を咥えたうさぎーウサギ専門医に聞く(21)ぶどう膜炎の症状・治療 エンセファリトゾーンとの関連は
目に触れることで簡単に傷になってしまうのは、乾燥してチクチクした牧草ならでは。自然界で暮らすウサギは水分の多く含まれた柔らかい草を中心に食べていますから、草の先端が少しくらい目に当たったところで、いきなり奥まで突き刺さることは考えにくいでしょう。牧草で目にケガをするのは、飼いウサギならではのお悩みなんです。

エンセファリトゾーンとパスツレラも、ぶどう膜炎の原因に

ぶどう膜炎のもう一つの原因で多い「感染症」は、エンセファリトゾーンパスツレラだそうです。
両方とも、胞子や菌が感染する部位によってさまざまな症状が出ますが、眼球内部で感染が起こるとぶどう膜炎になるのだと言います。エンセファリトゾーンもパスツレラも、ともに感染率が高いので、ウサギのぶどう膜炎が多いことにも納得できます。

斉藤「どちらかというと、エンセファリトゾーンの感染から二次的にぶどう膜炎になる子が多い印象ですね。眼球に直接、感染が起こりぶどう膜炎になる他、神経症状の“斜頸”が原因でぶどう膜炎になるケースもあります。

斜頸の子は常に頭を片側に傾けているので、下になった側の目を床に擦って傷つけやすくなります。さらに、真っ直ぐに立つ・歩くことができず転がってしまう“ローリング”が起これば、床をゴロゴロと転げ回るうちに目をぶつけ、傷を負います」斜頸ーウサギ専門医に聞く(21)ぶどう膜炎の症状・治療 エンセファリトゾーンとの関連

ぶどう膜炎の症状は? 「白い点」の正体は膿瘍

ぶどう膜炎では、涙を流す、目の充血、まばたきが増える、虹彩の脹れ、白い点のように見える塊ができる、瞳孔が小さいまま固定化する縮瞳(しゅくどう)などの症状が見られます。
必ずしもすべての症状が出るわけではありませんが、比較的多いのは、虹彩の部分に膿がたまった「膿瘍(のうよう)」ができることだそうです。

斉藤「膿が溜まって膿瘍ができると、眼の中に何か白いものが入っているように見えます。直径2ミリくらいでも結構目立ちますから、飼い主さんも気付きやすいので、軽度のうちに受診してくれる人が多い印象です」

完治が難しいぶどう膜炎 慢性化・重症化することも

ただし、早期に受診しても、元のきれいな瞳に治すのは難しいのがぶどう膜炎なんだそうです。

斉藤「眼球内部に膿瘍ができてしまうと、完全に取り去ることはできないんです。炎症自体は治っても、溜まった膿は残ったままになります。
ぶどう膜炎は、炎症がおさまった後は現状維持を目標に経過観察を続けますが、いったんは落ち着いた炎症が再燃しまた膿がたまる・・・ということを繰り返すこともあります。

すでにできている膿瘍が小さくなることはありませんから、炎症を繰り返せば膿が溜まり続けどんどん大きくなって、慢性化していくケースも少なくはありません」
ウサギの虹彩ーウサギ専門医に聞く(21)ぶどう膜炎の症状・治療 エンセファリトゾーンとの関連は
特に、エンセファリトゾーンやパスツレラは、完治が難しい感染症です。これらが原因で起こったぶどう膜炎は、長い経過の中でじわじわと悪化していく子が多いそうです。

斉藤「できてしまった膿瘍を取り去ることが難しいとはいえ、炎症をおさえることで膿瘍の形成が進行するのを止められるため、早期受診は大切です。1ミリの膿瘍と、1センチの膿瘍では、前者の方が眼球へのダメージが小さく抑えられます。放置しているうちに膿瘍がどんどん大きくなっていくこともありますから、早めの受診がベストです」

人間では緊急度はあまり高くないイメージもある眼科疾患も、ウサギでは要注意

人間で考えると、目のトラブルは日常生活に与える支障は大きくとも、それ自体が命に関わる事態になることはそうそう考えられません。しかし、ウサギのぶどう膜炎については、そうではないと斉藤先生は言います。

斉藤目の痛みから食欲が低下し、消化管の動きが悪くなれば、うっ滞になる可能性が考えられます。ウサギのうっ滞は致命的な事態になることもある怖い病気です。

人間の感覚で、“目だから慌てなくても大丈夫。もうちょっと様子を見よう”、と悠長に構えていてはいけません。痛みを取り除く処置が早急に必要です。数日で急激に悪化することはまれですが、炎症がひどければ進行も早いですから、自己判断での経過観察はおすすめできません」

ぶどう膜炎が慢性化して進行することで、眼球の内部の構造が破壊され、緑内障や網膜剥離、虹彩癒着、二次性の白内障といった病気に発展することもあるそうです。合併症を防ぐためにも、迅速な対応が肝心です。ケージにうずくまるウサギーウサギ専門医に聞く(21)ぶどう膜炎の症状・治療 エンセファリトゾーンとの関連は

ぶどう膜炎の診断・検査方法

病院では、眼球の外観上の評価と、眼圧測定などでぶどう膜炎を診断します。目の様子が診断の主な手がかりになるとのことですから、日頃から多くのウサギの症例を扱う獣医さんや、眼科専門の獣医さんに診てもらえると安心ですね。

パスツレラ・エンセファリトゾーンの感染が疑われる場合、原因菌を検査で特定するのは困難なことが多いため、他の症状からあたりをつけて、治療を開始するのだそうです。

点眼・投薬・手術 ぶどう膜炎の治療

治療は目の炎症を抑え、痛みをとることが目的になります。斜頸が原因でぶどう膜炎を発症した場合は、斜頸を起こしている原因疾患に対する治療も必要です。

軽度では点眼薬ですが、状態に応じて内服薬の投与になることもあります。ウサギの目薬のさし方はこちらをご覧ください。

時には手術の適応もあるようですが、実際のところどうでしょうか。

斉藤「内科的な治療だけでは改善されない重症例や、膿が眼球内に溜まりすぎて飼い主さんが見た目を気にしている、などの場合は、眼球を摘出する、水晶体を吸引するといった外科的な治療が選択肢になることもあります」
ウサギのつぶらな瞳ーウサギ専門医に聞く(21)ぶどう膜炎の症状・治療 エンセファリトゾーンとの関連は
斉藤「個人的には、手術が最善策かはケースバイケースだと感じています。というのも、術後も、眼球があった部分に膿が溜まり続けることがあり、高い確率で根治が期待できる手技とは言い切れないからです。

さらに術後の痛みがかなり強く出ることもあり、時には、ぶどう膜炎だった時よりも、むしろ術後の痛みの方が強いのでは、と思えるケースさえあります。こうなると、痛みのストレスから食欲不振・うっ滞と、全身状態が悪化する心配が出てきますよね。

手術に伴うその他の一般的なリスクのことも考慮すると、投薬で痛みをとる保存的治療を続けている方がトータルで考えるとメリットが大きいのでは、という場合も出てきます。

眼球摘出をすればもう目のトラブルに悩まされることがなくなるわけではないのだと理解したうえで、手術には総合的な判断が必要です」

ぶどう膜炎の予防法

できてしまった膿瘍を取り去ることは難しいとのことでしたから、ぶどう膜炎は「予防」に力を入れたいものです。

斉藤「エンセファリトゾーンとパスツレラは感染そのものを防ぐことは難しいので、発症予防に努めましょう。

また、トイレ掃除を怠るとアンモニアの刺激で目の粘膜の免疫が低下します。雑菌が目に入れば、炎症が波及してぶどう膜炎になることもありますから、ぶどう膜炎の予防だけに限った話ではありませんが、トイレは清潔を心がけましょう

目を傷つけないための予防法や、牧草のチクチクから目を守るための工夫は「角膜炎」の回で詳しくご紹介していますので、参考になさってください。

多くの人を魅了する、まんまるで大きなウサギの瞳。涙が出ていないか、目に白い点のようなものがないかなど、目の健康を保てるよう、日頃から気にかけていただければと思います。

聞き手:橋爪
編集:うさぎタイムズ編集部

※当コラムでは、人間と暮らす多くのウサギが健康で長生きできるよう、疾患についての情報を共有するため、情報発信を行っています。個体により状況は異なりますので、ウサギの状態で気になることがあれば、かかりつけにご相談されることをお勧めします。当コラムの内容閲覧により生じた一切のトラブルについて、うさぎの環境エンリッチメント協会並びに斉藤動物病院、ラビットリンクでは責任を負いかねます。


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橋爪宏幸

うさぎタイムズ編集長。 うさぎ専門店「ラビット・リンク」のオーナー。 一般社団法人うさぎの環境エンリッチメント協会 専務理事。 ExoticpetSaver FirstResponder。 ExoticpetSaver Emergency Rescue Technician。 現在ニンゲン3人のほか、長男:ミニチュアダックスの桜花、次男ホーランドロップのカール、三男:ネザーランドドワーフの政宗、長女:ホーランドロップのミラ・ジョボビッチと暮らしている。