人間の栄養学の研究は進んでいますが、ウサギについては、まだまだわからないことがたくさんあります。ウサギの栄養学コラムでは、家庭で飼われるウサギを健康的に長生きさせるため、体のしくみや必要な栄養、食餌についてお伝えします。

現在、主なエサとして与えられているフードは、本来の食性とは異なるものかもしれませんが、野生に近い食餌が必ずしも「ウサギの長生き」にとってベストとは限りません。
だからこそ、栄養学の基礎はもちろん、最新の研究までを知る必要があると考えています。

今回のテーマはウサギに必要な栄養素とその量。私たち人間に対しては「1日にあともう◯グラム、食物繊維をとりましょう」などのメッセージを見かけることもありますよね。ヒトでは「1日に摂取すべき栄養素の目安」が定められていますが、ウサギの場合はどうでしょうか?
ウサギに必要な栄養素の量と、その測定方法を見ていきましょう。
花を食べるウサギ/ウサギの栄養学(5)食餌中成分の分析方法と消化率の測定方法

食餌に含まれる栄養成分は6種類の「一般成分」に分けられる

栄養分析で用いられる用語に、「一般成分」があります。食餌の成分を性質や利用面での違いから分けたもので、比較的、簡単に測定できるのが特徴です。
具体的には、水分・灰分・タンパク質・脂肪・可溶無窒素物(NFE)・繊維の6種類を指します。

少し見慣れない言葉も含まれていますね。というのも、これらはほぼ飼料の分析だけに使われるものなんです。人間の食事の成分分析にも使えますが、人間の場合はもっと細かく成分を測定するので、一般成分の形で表記されているものを目にする機会はほとんどないと思います。
一般成分/ウサギの栄養学(5)食餌中成分の分析方法と消化率の測定方法
続いて、今回初めて登場する「灰分」と「可溶無窒素物(NFE)」についてご説明しましょう。

「灰分」は燃やした残り ミネラル量の目安

灰分は、その名のとおり「燃やすことで水分、タンパク質、脂肪を取り除いた残りの成分」のこと。具体的にはミネラル分を指します。ただし、食品中のミネラル分の合計量を正確に示しているのではなく、あくまでも総量の目安です。

なぜなら、加熱時間などの条件によっては、ミネラル分の一部が失われたり、逆に、増加したりするからです。食品中のミネラルのおおよその量を表すということで、「おおざっぱ」という意味の「粗」をつけ、粗灰分とも呼ばれます。

ミネラルってどんなもの?

ミネラルは、カルシウム・リン・カリウム・ナトリウムなどのこと。動物の体の約95%は炭素・水素・酸素・窒素という4つの元素からできていますが、残りの5%にあたる微量元素がミネラルです。
ミネラルは体を構成するだけでなく、身体のpHや浸透圧を調節するなど多様な役割があります。
食餌に含まれるミネラル/ウサギの栄養学(5)食餌中成分の分析方法と消化率の測定方法

「カルシウム」とウサギの関係

ウサギの飼い主さんが意識することの多いミネラルは、カルシウムではないでしょうか。食餌中のカルシウムが過剰だと、尿路結石や慢性的な膀胱炎になりやすいとされているので、気をつけている飼い主さんもいると思います。実は、ウサギのカルシウム代謝はかなり特殊です。

哺乳類では普通、過剰なカルシウムを便に排泄しますが、ウサギは尿中に排泄します。尿中へのカルシウム排泄率は多くの哺乳類で2%以下であるのに対し、ウサギでは45〜60%もあるんです。よく見られる濃く白っぽい尿も、炭酸カルシウムを多く含むことが原因です。

カルシウム排泄量が多いのは、ウサギが効率良く体内にカルシウムを取り込めることと関係があります。多くの動物は、摂取したカルシウムを吸収するにはビタミンDが必須ですが、ウサギはビタミンDに依存せず吸収できます。つまり、吸収効率が非常に良いんです。

実際、ウサギは他の哺乳類よりも血中にカルシウムを多く含みます。この理由ははっきりとわかってはいません。もしかしたら、ウサギの一生伸び続ける歯や、年に何度も出産できる強い繁殖力には、カルシウムが常に豊富であることも関係しているのかもしれません。

可溶無窒素物(NFE)ってなに?

可溶無窒素物は、動物のエネルギー補給源と考えられています。主成分は糖・でんぷんですが、有機酸やペクチン、ゴム質、ペントサン、リグニンの一部などが含まれます。

エネルギー補給源といえば、ヒトの場合おもに「糖質」として表現される部分ですが、飼料ではなぜNFEかというと、測定が簡単だからです。NFEは測定実験は行わず、計算のみで求められます。

エネルギー補給源と言いながら、糖やでんぷん以外も含まれていることに違和感をお持ちの人もいるかもしれません。

これは、NFEの意味合いが「エネルギー源になる物質をきっちり抽出している」のではなく、「エネルギー源になりそうなものを簡易的に算出している」からです。NFEは、飼料全体から、水分、タンパク質、脂肪、繊維、灰分の5成分の含量(%)を差し引いて求めます。つまり、計算の都合上「残り物」として、糖・でんぷん以外の、エネルギーにならなさそうな物質も微量に含まれてしまうということなんです。

各種栄養素の必要量はどのくらい? 簡単そうで難しい、栄養成分の測定方法とは

一般成分6種類をそれぞれ、ウサギはどのくらい摂取すべきなのでしょうか。各成分の測定方法もあわせてご紹介します。

水分

体重約2kgの個体なら、飲水量は1日200mlは必要です。体重の10%もの水を飲むとは、かなりの量ですよね。
水分/ウサギの栄養学(5)食餌中成分の分析方法と消化率の測定方法
人間にたとえてみると、体重50kgの人で1日5リットルも飲まなければならないことになります。実際には、ヒトの飲水量は体重1kgにつき35ml以上とされているので、50kgなら最低1750mlです。ウサギの必要とする水分量がいかに多いかわかりますね。

飼いウサギは、乾いたものばかり食べているから喉が渇くのかも?

ウサギはなぜ大量に水を飲まなければいけないのでしょう? これは、飼いウサギの食生活と関係がありそうです。
飼いウサギは牧草やペレットを中心に与えられることがほとんどですが、このように「乾き物」ばかりを食べるのは、自然界では考えられないことです。

私はアマミノクロウサギの研究もしていますが、野生のアマミノクロウサギは、ラビットフードや牧草など乾燥したエサを皿に置いておいても、まったく手を付けません。本能的に、水分が豊富なものを好むようです。

自然界で生きるウサギは、あまり水を飲みません。水辺に降りて飲水するには体が濡れるリスクがありますし、隠れ場所もなく目立つため、捕食者にも狙われやすくなります。

そこで、水をあまり飲まない代わりに、水分豊富な生の草で補っているのでしょう。実際、アマミノクロウサギは、刈り取った生草や木の葉は食べます。

多くの生き物が、体の60%以上は水分ですから、不足は禁物。「下痢をするから、ウサギに水を飲ませてはいけない」と言われていたこともあったそうですが、それは正しくありません。
飼いウサギの食生活は、人間でいうと乾パンやおせんべい、コーンフレークを中心に食べているようなものかもしれません。水分は、意識して十分に与えてあげてください。
牧草/ウサギの栄養学(5)食餌中成分の分析方法と消化率の測定方法

水分の測定方法

食餌中の水分量を測るには、おもに「加熱乾燥法」を用います。これは、飼料サンプルを加熱して水分を除去し、加熱前後の重さの差から水分量を求める方法です。

加熱温度は水の沸点より高い105℃もしくは135℃ですが、時には100℃未満で加熱することもあります。温度によって成分間の反応や分解が起こることもあるため、サンプルによっては、減圧下で100℃より低い温度で加熱しなければなりません。
「乾かして重さを測る」という原理は単純ですが、実際の測定はけっこう大変なんです。

灰分

灰分としての1日必要量は明らかになっていませんが、体重約2kgの場合、カルシウムやリン、カリウム等のミネラルを合わせて7〜10g必要なようです。
飼いウサギでは、これらのミネラル分は牧草だけでは満たせないため、ペレットで補う必要があります。

ウサギのミネラル補給のためにミネラルウォーターは与えていいの?

では、ミネラルを補うためにミネラルウォーター(硬水)を与えるのは適切でしょうか?

一般に、尿路結石を防ぐため、カルシウムが多く含まれるミネラルウォーターは避けるべきだと言われています。ただし、これは、科学的な根拠に乏しいとも考えられています。「念のため避ける」というニュアンスが強く、実はまだはっきりとはわかっていない部分も多いのです。論理的に整理してみるとむしろ、硬水の摂取が即、尿路結石につながる可能性は低いことがわかります。

例として、実際の数値で考えてみましょう。WHOの基準では、軟水のカルシウム濃度は0〜60mg/L 未満、硬水が120〜180mg/L未満ですので、仮に、間を取って軟水が30mg/L、硬水が150mg/Lとします。

これを%に変換すると、軟水のカルシウム濃度は0.03%、硬水で0.15%です。
一方、飼料中のカルシウムの推奨濃度は0.4%〜0.8%です。硬水のカルシウム濃度はこれをはるかに下回りますから、硬水を飲んでも問題ないと考えるのが妥当でしょう。

さらに、ヒトでは、硬水の摂取はむしろ、腸管で尿路結石の元となるしゅう酸の吸収を妨げ、結石形成を抑える効果があるとされています。同様の効果はウサギでも期待できるので、一概に、ミネラルウォーター(硬水)が、尿路結石のハイリスク因子とは言えないと思います。
水/ウサギの栄養学(5)食餌中成分の分析方法と消化率の測定方法

灰分の測定方法

灰分の測定も、水分と同様、熱を加えて行います。サンプルを550℃で約2時間加熱した後、残った灰の重さを測り、加熱前後での重量差を灰分とします。

ちなみに、このように加熱前後の重さを比較する測定では、サンプルを入れる容器「るつぼ」の重さが結果に影響を与えないよう、事前に調整しておくことも必要です。そのため測定前に、るつぼの恒量(それ以上乾燥させても重量が変化しない状態の重量)を求めておきます。

具体的には、るつぼを550~600℃で2時間加熱し、冷ました後に重さを測ることを繰り返します。前回との重量差が0.3mg以内になった時に、恒量に達したこととします。
下準備から、なかなか手がかかるのです。

タンパク質

成長期と大人でタンパク質の要求量が異なりますが、体重約2kgの場合、1日あたり12〜15gのタンパク質が必要です。ウサギは食糞によりタンパク質を摂取していることを第2回でご説明しましたが、上記の必要量は、フードのみから摂取すべき値です。

ヒトでは年齢や運動量によっても差がありますが、体重1kgあたり0.8g程度が目安とされています。こう見ると、ウサギのタンパク質の必要量は、体重あたりで考えるとヒトよりも多いことがわかります。なぜでしょうか?

この理由を説明するヒントが「生物価」です。生物価とは、吸収したタンパク質がどれだけ体に蓄積されるかを表す指標のこと。ウサギの主食である植物の生物価は、ヒトのタンパク源である肉や魚の生物価に比べて劣り、蓄積効率が半分くらいしかない場合もあります。

つまり、摂取するタンパク源が違うウサギとヒトでは、単純に比較できないということです。

ただし、生物価の違いを抜きにしても、小型の動物ほど「ヒトに比べると多く食べる」という傾向はあります。

体重1kgのウサギの代謝体重は1(1の0.75乗)で、基礎代謝量(安静・空腹時でも消費する熱量)は代謝体重に70をかけた数値の70kcalとなります。ヒトの場合、体重70kgとすると基礎代謝量が70×70^0.75となり、約1700kcalとなります。ゾウの場合、体重4,000kgとすると基礎代謝量が約35,200kcalとなります。このように体重が大きくなるほど、エネルギーを得るために食餌を多くとる必要があります。
しかしながら、体重1kg辺りに必要なエネルギーにして考えてみると、ウサギは70kcal/kg、ヒトは1700÷70=約24kcal/kg、35,200÷4000=約9kcal/kgとなり、ウサギが体重あたりで考えると他の動物に比べ多く食餌をとる必要があります。

このように、体重1kgあたりで考えると、小さい動物の方がたくさん食べないといけないんですね。

なお、ウサギの食餌の特徴的なタンパク源は盲腸便で、盲腸便から摂取量は全体の10〜20%に達するケースもあるようです。

タンパク質の測定方法

タンパク質量の測定は、サンプルを濃硫酸(酸性の液体)とともに加熱分解し、この液に水酸化ナトリウム溶液を加え、強アルカリ性の液体にします。加熱蒸留するとアンモニアがでてくるのでこれを回収し、ごく少量の硫酸が溶けた液体を徐々に加え、全窒素量を計算します。算出された窒素量に窒素係数6.25をかけあわせ、おおよそのタンパク質含量とします。

脂肪

体重約2kgのウサギの場合、1日あたり1〜2g程度を必要とします。

脂肪の測定方法

ソックスレー脂肪抽出装置という器具を用い、サンプルをエーテル(有機溶剤)に溶かして取り出したものを粗脂肪といいます。「粗」とつくとおり、これも「脂肪の大まかな量」で、色素類、ロウ、有機酸などの成分も含まれることがあります。

繊維質

体重約2kgの場合、1日あたり最低でも14 g以上が必要です。繊維質がウサギにとって非常に大切であることは、以下のコラムで詳しくご紹介しました。測定方法は第3回で解説しています。

ウサギの栄養学(3)不足は禁物!ウサギに繊維が欠かせない理由
ウサギの栄養学(4)繊維質からエネルギーを作り出す!ウサギの代謝の仕組み

NFE

NFEは食餌の熱量(カロリー)を計算する際に使用されます。NFEの1日あたり必要量ははっきりと定められていません。

ご説明した通り、100から水分、タンパク質、脂肪、繊維、灰分の各含量(%)を差し引いて求めます。

食べたものをすべて吸収できるわけではない!「食餌の消化率」とは

さて、ウサギに必要な各栄養素の量がわかりましたが、与える食餌の量を決めるうえで考えたいもう1つの要素が、食餌の消化率です。

食べたものは100%が体に吸収されるわけではありません。それぞれの栄養素をどのくらい利用できたのかを示すのが消化率です。
ペットのウサギの場合、ほとんどの成分の消化率は65〜85%程度ですが、繊維質の消化率だけは飛び抜けて低く、20%を切ることも珍しくありません。特に、牧草のみを摂取している個体の繊維消化率は低いことがわかっています。

どんな餌を与えてもいつも同じように消化できるわけではありません。例えば、なんらかの要因で食べたものが消化管内にとどまる時間が短くなれば、消化・吸収に使える時間も短くなるので、消化率は下がります。
エサを食べるうさぎ/ウサギの栄養学(5)食餌中成分の分析方法と消化率の測定方法

消化率を求める計算式

消化率は、食餌に含まれる栄養素の量から、糞中に排泄された量を差し引き、その量が食べた量に対してどれくらいになるかを割合で求めます。
みかけの消化率の計算式/ウサギの栄養学(5)食餌中成分の分析方法と消化率の測定方法

「見かけの消化率」と「真の消化率」

ただし、この式で求められるのは、厳密にいうと「見かけの消化率」です。
糞には腸粘膜や消化液、腸内微生物など食餌に由来しない物質も含まれており、この方法ではそれらもひとまとめに計算するからです。

通常、消化率といえばこの「見かけの消化率」を指しますが、真の消化率を測定する方法もあります。
真の消化率/ウサギの栄養学(5)食餌中成分の分析方法と消化率の測定方法
例として、タンパク質の消化率を測定する場合をご説明します。

まずタンパク質をまったく含まない食餌を約7日間与え、その後5日間程度、糞を回収して成分分析をし、糞に排出されるタンパク質の割合を求めます。このときのタンパク質は、消化管内壁や消化管内微生物からできたもので、内因性成分といいます。

次に、消化率を測定したい食餌を与え、糞を回収して成分分析をします。そして消化率を求める際に、糞中に排泄されたタンパク質から、内因性成分を差し引きます。こうすることで、食餌中のタンパク質の消化率だけを正確に算出できるのです。

手間暇かけた実験も、フードづくりのために必要

滞留時間の測定方法がとてもハードな実験であることは第3回でお伝えしましたが、消化率の測定もまた、手間のかかる作業です。各栄養素について消化率を算出しますが、これには、まず糞をすべて回収して成分分析を行わなければなりません。さらに、参加するウサギを実験の環境に慣らすため、約1週間、実験と同じ条件で過ごす予備試験も必要です。
検査イメージ/ウサギの栄養学(5)食餌中成分の分析方法と消化率の測定方法
ウサギにあったフードを作り上げるまでには長い道のりがあります。
必要な栄養素とバランスを考え、それにあった配合でフードを設計し、消化率を求めて与えるべき適量を定めるーー どれかひとつが欠けても、理想のフードにはなりません。

一方で、日本のウサギ向けフードは法律面の整備が遅れている現状もあり、統一した基準などが存在しません。次回はそのあたりを中心に、ペットフード開発を取り巻く状況についてご紹介します。

参考文献

小野寺良次, 星野貞夫, 板橋久雄, 日野常男, 秋葉征夫, 長谷川信 著. 2006年. 家畜栄養学. 川島書店.
The European Pet Food Federation (FEDIAF). (2013). Nutritional guidelines for feeding pet rabbits, 1-42.
霍野 晋吉, 山内昭 著『ウサギの医学』.緑書房. 2018年.
うさぎの時間編集部編『うさぎの心理がわかる本』. 誠文堂新光社. 2012年
川﨑浄教 著『ウサギの栄養学(5)食餌中成分の分析方法と消化率の測定方法』


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香川大学 農学部助教 農学博士 現役の研究者としては、日本唯一のウサギ栄養学の研究者 World Rabbit Science Association 会員