※当コラムは斉藤先生の臨床経験をもとに、ウサギの医学書や論文など専門的な文献を参照して執筆しています。ウサギと暮らす飼い主さんにとって有益で正確な情報の発信に努めていますが、記載内容は執筆時点での情報であること、すべてのケースに当てはまるわけではないことをご理解願います。
こんにちは。うさぎの環境エンリッチメント協会専務理事の橋爪です。ウサギの最新の飼育方法を発信しているウェブマガジン「うさぎタイムズ」の編集長や、うさぎ専門「ラビット・リンク」のオーナーをしています。 プライベートでも5匹(3男2女)のウサギさんと暮らしています。
ウサギの診療実績が年間4,000件と豊富なご経験をお持ちの斉藤動物病院の院長・斉藤将之先生にお話を伺うこちらのコラム。
診察室ではなかなか聞けないお話や、ウサギを診る獣医師の本音などお話ししていただきます。
第12回のテーマは、ウサギの腎不全です。
目次
腎不全=腎臓の機能が低下した状態 ウサギに腎不全は多い?
“腎不全”は、腎臓の動きが低下した状態を広く指します。軽度から重度、急性から慢性まであり、緊急度や予後はさまざまです。腎不全の原因も多岐にわたり、例えば「老化」も原因の一つです。
腎臓といえばおしっこを作る臓器。腎不全になると血液から老廃物を濾(こ)して排出する力が低下します。これは体にとって大問題で、腎臓の動きが著しく低下すれば、老廃物の毒素が体に溜まり、生命維持にも影響が出てしまいます。
また、腎臓は血液を作るホルモンも作り出しているため、腎不全で貧血になることもあるんです。
全身に影響を及ぼす腎不全ですが、ウサギではよくある病気なのでしょうか。
斉藤先生「ウサギの腎不全の割合は、多いもので25%との報告があります。ただ当院では、腎不全で来院する子は1週間に1〜2件で、他の病気と比べ、突出して多いとは思いません。この差はおそらく、医師の考え方の違いや、腎不全が発見されにくいことに関係しています。
腎不全は血液検査の数値で診断しますが、どこまでが正常値でどこからを異常値とするかは獣医師によって見解が分かれます。ウサギの医学はまだまだ研究途上ですから。
また、基準値を超えてもすぐ体調不良が現れるとも限らないため、“軽度の腎機能低下があるけれど支障なく暮らせており、腎不全の診断がついていない子”が相当いる可能性もあります。
長寿の子も増えていますから、詳細に調べてカウントしたら、腎不全傾向の子がもっと見つかるかもしれません。でも、このような方法は現実的ではないので、正確な発症率を出すのは難しいのが実情ですね」
腎不全は「急性腎不全」と「慢性腎不全」の二つに分けられ、急性腎不全は数時間から数日という短期間で発症する一方、数ヶ月から数年かけて徐々に進むのが慢性腎不全です。
ストレスで腎機能低下! ウサギの腎不全の原因
腎不全の原因を見ていきましょう。
まず、急性腎不全は細菌感染や脱水などで起こります。ウサギの急性腎不全の原因で多いのはカルシウムの砂が尿管に詰まる尿路閉塞なのだとか。ウサギのおしっこはカルシウム濃度が高いため、尿中のカルシウムが結石となったり、砂状になって膀胱に溜まったりして、おしっこの通り道を塞ぐ尿路閉塞が起こりやすいんです。
さらにウサギの腎不全に特徴的なのは「急激なストレス」で発症する場合があることです。
斉藤「ストレスが体調不良につながるのはどんな生き物も同じですが、腎不全という形で、短期間で急激に体に出るのは繊細なウサギならではかもしれません。
例えば、“骨折し思うように身体を動かせなくなったこと”や“聞き慣れない大きな音”すら腎不全の原因になることがあります。近所に落ちた雷の音にパニックを起こし、様子がおかしかったので念のため受診したら腎不全だった、という子もいました。
ウサギにとって、ショックな出来事や大きな音は、私たちの想像以上のストレスとなりうることを知っておいてほしいですね」
斉藤「慢性腎不全は、急性腎不全から移行するケースもありますが、加齢そのものも要因です。腎臓の組織が異常に増植する“線維化”や細胞が変化し脂肪が現れる“脂肪変性”などは、高齢になると増えてきますから」
【ウサギの腎不全の症状】気づきにくい?おしっこが出ないと緊急事態!?
腎不全になると、まず食欲が低下し元気がなくなります。刺激がなければ眠り込む嗜眠(しみん)、歯ぎしりなどが出ることもありますが「これが見られたら腎不全」という特徴的な症状はないのだとか。「なんとなく調子が悪そう」とは思えても、飼い主さんが腎不全を疑うのは難しいそうです。
斉藤「尿の状態は、腎不全の原因によってさまざまです。
初期はおしっこの量が増えることが多いのですが、尿路閉塞からの急性腎不全では血尿がポタポタ出る、量が減るなどもあります。尿で老廃物を排出することは生き物にとって非常に大切ですから、尿がまったく出なくなると緊急事態です」
急激に進む急性腎不全はまだしも、慢性腎不全はさらに発見が遅れがちだと斉藤先生は言います。
斉藤「慢性腎不全の末期では食欲不振が体重低下として目に見える形で現れますが、初期の食欲不振はさほど目立たないこともあります。
食欲不振は体内に溜まった老廃物の毒素で気持ち悪くなるため起こります。犬や猫は気持ち悪ければ嘔吐しますが、ウサギは嘔吐できません。これもウサギの腎不全が見逃されやすい理由です」
病院では血液検査で腎機能を判定し、必要に応じて「X線撮影で結石があるか」「腎臓の形状」などを確認するそうです。もちろん外観からの診断はできないため、受診が必須ということですね。
ウサギの腎不全は治るの? 治療方法
「完治が難しい」イメージもある腎不全ですが、ウサギはどのように治療するのでしょうか。
斉藤「急性腎不全は、適切に対応すれば8〜9割程度は回復が期待できます。
腎不全は“腎機能が低下した状態”の総称なので、治療方法は原因によって異なります。
例えば、尿路閉塞が原因の腎不全だとわかったら、おしっこの通り道を塞いでいる結石やカルシウムの砂を取り除く手術が最優先です」
失われた腎機能は元にはなかなか戻らないから、早期に適切な対応を
斉藤「慢性腎不全で壊れてしまった腎臓の組織は元には戻りませんから、そうなる前に、早急に手を打たねばなりません。
“腎機能を回復させる薬”はありません。ウサギ自身の体力にまかせることになるので、治療方針は、回復をサポートするため体内環境を整えることです。
①点滴
②食餌介助
③胃腸運動の維持
具体的にはこの3つですね」
斉藤「点滴は、水分を補い毒素の排出を促す目的で行います。食餌介助は体力づくりに加えて、食餌量低下にともなう消化管うっ滞を起こさないために大切で、食が進まなければ強制給餌も必要です。
ただし、“食べてくれるならなんでもいい”とばかりに、おやつをたくさんあげるのはNG。消化器障害になり腎不全がさらに悪化するので、食物繊維がしっかり入ったペレット&牧草を与えないと腎不全は改善していきません。
さらに、胃腸を動かす薬を飲ませることもあります」
慢性腎不全は治療も長期戦 飼い主さんは「病気と付き合う」つもりでサポートを
一方、慢性腎不全が進行してしまい回復が期待できないケースでは、状態の維持を目的に、週に何度か通院したり、在宅で飼い主さんが処置をしたりと、長期の治療が続くそうです。
ウサギと飼い主さん双方への負担が気がかりです。点滴には、どのくらいの時間がかかるのでしょうか?
斉藤「点滴にかかる時間は手技によって異なります。数時間かけて輸液を点滴する方法もありますが、私は、皮下点滴といって皮膚の下に輸液を一気に注射する方法をとっていることが多いです。注射した直後は膨らみがありますが、半日ほどで体に吸収されるため、長時間、病院で待つ必要はありません。
また、負担軽減のために、飼い主さんに自宅での点滴や自己注射を依頼するケースもあります」
一番頑張っているのはウサギ本人。飼い主さんが「ウサギと一緒に病気とも付き合う」気持ちで、手厚いサポートをしてあげればウサギはとても幸せだと思います。
斉藤「数回の点滴で改善が見られる子もいれば、毎日点滴に通ってもらう子もいます。
人間の腎不全は、投薬や点滴で対応できるレベルでなければ、腎移植や透析なども選択肢ですが、ウサギでは現実的ではありません。
輸液をメインとした、できるだけ穏やかに過ごすための治療が中心になります」
水分摂取と定期的な健康診断、体重測定で腎不全の予防と早期発見を
腎不全予防のためにできることはありますか?
斉藤「急性腎不全の大きな原因は、カルシウムの砂や結石による尿路閉塞ですから、これを予防するため水分をしっかり摂取させましょう。基本ですが、常に新鮮なお水をたっぷりと飲めるようにし、結石の原因となるカルシウムの多量摂取に気をつけてください。
また、年齢を重ねることで腎機能が低下していくので、腎不全の徴候を早期発見するためにも定期検診を受けましょう」
健康診断は年齢によって来院目安が異なる
健康診断はどのくらいの頻度で行くと良いですか?
斉藤「1〜2歳は年1回程度、7歳を超えた高齢ウサギでは半年以内を目安にすると良いと思います。腎不全を経験した子は3〜4ヶ月に一度、血液検査で経過を見てあげると安心です。
また、自宅でも定期的に体重を測定しましょう。体重は健康のバロメーター。腎不全に限らず、体調不良を発見する手がかりになります。一部の動物は夏と冬で体重が変化しますが、ウサギは年間を通じて体重の増減がありません。体重が落ちている=体のどこかに余計なエネルギーを取られている、と考え、不自然な体重減少に気づけば受診してください」
腎不全は早期に対応すれば回復の可能性が十分にあるということでした。定期的な検診に加え自宅でも体重測定をして、腎不全から守ってあげましょう。
聞き手:橋爪
編集:うさぎタイムズ編集部
※当コラムでは、人間と暮らす多くのウサギが健康で長生きできるよう、疾患についての情報を共有するため、情報発信を行っています。個体により状況は異なりますので、ウサギの状態で気になることがあれば、かかりつけにご相談されることをお勧めします。当コラムの内容閲覧により生じた一切のトラブルについて、うさぎの環境エンリッチメント協会並びに斉藤動物病院、ラビットリンクでは責任を負いかねます。
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