食糞行動について

ウサギは食糞行動をとります[1]。食糞行動はうさぎにとって必要不可欠な行動であり、この行動によってウサギは必要な栄養素を再摂取しています[1]。ウサギが食糞で摂取することで知られている軟糞(盲腸便)はタンパク質に富んでいるだけでなく、ビタミン類も含んでおり[1]、これらの栄養素はウサギの盲腸内にいる微生物により作られています[1]。ウシやヤギのように発酵槽(微生物を棲ませ飼料中の繊維を分解してもらうところ)が胃の前にあれば、その後に続く胃や小腸でタンパク質(微生物由来)を消化し、利用することができますが、ウサギの発酵槽は盲腸であり、後には結腸しかありません[1-3]。結腸の主な機能は水分の吸収や食物繊維の発酵産物である短鎖脂肪酸の吸収であり、タンパク質は消化できません[4]。そのため、ウサギは軟糞中のタンパク質を利用するためにも食糞をする必要があるのです。余談ですが、食糞行動が初めて報告されたのは1882年[5]と約140年前になります。よほど信じられなかったのか別の研究者が57年後の1939年に本当にウサギが食糞をするのか観察し、Natureの論文として報告しています[6]。

今ではウサギを飼育されている方であれば、ウサギが食糞することをご存知かと思いますが、食糞行動の頻度や実は硬糞(捨てる糞)も食べていることはあまり知られていないのではないでしょうか。ウサギの軟糞の重量を測定した研究[7]では、主に朝から昼にかけて食糞をしていることがわかります(図1)。

図1.1日当たりの軟糞排泄量と飼料摂取量(Carabaño and Merino, 1996)

 

また、ノウサギでは硬糞を再摂取することも報告されています[8]。ノウサギの場合、飢えをしのぐために硬糞も食べることがあると考えられている[8]ようです。アナウサギでは、母ウサギが自分の腸内細菌を子ウサギに引き継がせるために、生後間もない子ウサギたちが眠る巣内に硬糞を数粒置くそうです[9]。ちなみに、母ウサギが巣内に置く糞の数は分娩後から6日目までは多く、徐々に減少し、生後2週間目以降は糞を巣内にあまり置かなくなるようです[9]。

 

食糞による窒素利用性の向上

ウサギに限らずほとんどの動物の構成成分は水分が約60%と最も多く、その次にタンパク質が約20%を占めるといわれています[4]。動物の体に存在するタンパク質は日々合成と分解が行われており、動物は体を形作っているタンパク質を飼料から摂取しなければなりません[4]。飼料中のタンパク質はウサギに消化吸収されるとアミノ酸にまで分解され、体タンパク質(ウサギの体を構成するタンパク質)や非タンパク質性誘導体(神経伝達物質やホルモン等)の合成に利用されます[4]。このようにタンパク質は一度ウサギの体内に取り込まれると様々な物質に変換され体内を巡るため、タンパク質の構成最小単位である窒素に注目することで、タンパク質の分布や流れ等を把握することが可能です。ちなみに、タンパク質には窒素が約16%含まれており[9]、飼料中に含まれるタンパク質量は粗(おおよその)タンパク質量として表示されています(厳密には飼料中の窒素を分析したのち6.25を掛ける)。

ウサギの窒素代謝の様子を図にすると、食糞行動が窒素利用性の向上に貢献している[10]ことがわかります(図2)。牧草(アルファルファ乾草)のみを与えられたウサギの食糞を阻止するかしないかで窒素の消化率は食糞阻止により15%ほど下がり、窒素の蓄積量も15%ほど低下したそうです[10]。

図2.ウサギの窒素代謝の模式図

 

ウサギが摂取した飼料中のタンパク質は消化酵素の影響を受けペプチドやアミノ酸等に分解され、大半が小腸で消化吸収され、残りは盲腸に流入します[4, 11]。その際アミノ酸にまで分解され肝臓に運ばれますが、植物性タンパク質はアミノ酸の組成が動物性タンパク質とは異なりますので、ウサギの体に蓄積するための体タンパク合成に利用できないアミノ酸が多く含まれていたりします。このアミノ酸は肝臓で尿素に変換され、尿として排泄されるのですが、ウサギはこの尿素の一部を盲腸内にいる微生物のために再利用することができます[3, 11]。微生物が増殖するときにはこの尿素をアンモニアに変換して利用しています[3, 11]。つまり、ウサギにとっては捨てるはずだった尿素(窒素)が微生物として生まれ変わり、軟糞として再度利用されていることになります(図2)。

 

生物価

体内に消化吸収された窒素に対する体内に蓄積された窒素の比を生物価(図3)といい、摂取するタンパク質の生物学的価値(どの程度利用できるのか)を表します[4, 9]。

図3.生物価について(数値は適当に設定したもの)

 

動物は必須アミノ酸を外部から摂取しなければならないため、必須アミノ酸の割合が高い動物性タンパク質の方が植物性タンパク質よりも生物価が高くなります[4]。ウサギは図2のように植物性タンパク質を飼料として与えられ摂取しますが、盲腸で増殖させた微生物体タンパク質を食糞により再摂取し消化吸収しています。また、生物価は牧草(植物性)よりも軟糞(非植物性)の方が高いため、ウサギの窒素代謝に食糞行動が貢献していることにつながります。さらにウサギの栄養学(1)に記載した通り、盲腸便のタンパク質含有率は30%を超えており、飼料中タンパク含有率を大きく超えています。極端な例えですが、ヒトで考えた場合、キャベツを食べたら体の中でハンバーグに変換し、そのハンバーグをもう一回食べるというような感じでしょうか。

 

軟糞について

軟糞の形が硬糞と異なり、水っぽく小さい粒がたくさんある形状をしていることはみなさんご存知かと思いますが、この形がどのようにして作られているかははっきりとわかっていません。また、前述のように軟糞はウサギにとって重要なものであり、食糞行動はウサギが生きるうえで必要な機能(栄養戦略)です。ヒトで考えると汚いからといって食糞をやめさせることはしてはいけません。

 

参考文献

1 Carabaño, R., Piquer, J., Menoyo, D., Badiola, I. 2010. The Digestive System of the Rabbit. In: Nutrition of the Rabbit, 2nd Edition. CAB International, pp 1-18.

2 Stevens, C.E., Hume, I.D. 1998. Contributions of Microbes in Vertebrate Gastrointestinal Tract to Production and Conservation of Nutrients. Physiological Reviews 78, 393–428.

3 Sakaguchi, E. 2003. Digestive strategies of small hindgut fermenters. Animal Science Journal 74, 327-337.

4 柳田晃良, 福田亘博, 池田郁男 編著. 2010. 新版 現代の栄養化学. 三共出版.

5 Morot, C. 1882. Mémoire relatif aux pelotes stomacales des léporidés. Recueil de Médecine Vétérinaire 59, 635-646.

6 Madsen, H. 1939. Does the rabbit chew the cud? Nature 143, 981-982.

7 Carabaño, R. and Merino, J.M. (1996) Effect of ileal cannulation on feed intake, soft and hard faeces excretion throughout the day in rabbits. In: Proceedings of the 6th World Rabbit Congress. Association Française de Cuniculture, pp. 121-126.

8 Hirakawa, H. 1996. Hard faeces reingestion in the mountain hare. Zeitschrift fur die Zaugetierkunde 61, 379-381.

9 一般社団法人 日本科学飼料協会. 2018. 新編 飼料ハンドブック 第三版.

10 Robinson, K.L., Cheeke, P.L., Patton, N.M. 1985. Effect of prevention of coprophagy on the digestibility of High-forage and High-concentrate diets by rabbits. Journal of Applied Rabbit Research 8, 57-59.

11 Villamide, M.J., Nicodemus, N., Fraga, M.J., Carabaño, R. 2010. Protein Digestion In: Nutrition of the Rabbit, 2nd Edition. CAB International, pp 39-55.


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川﨑浄教
香川大学 農学部助教 農学博士 現役の研究者としては、日本唯一のウサギ栄養学の研究者