人間の栄養学の研究は進んでいますが、ウサギについては、まだまだわからないことがたくさんあります。ウサギの栄養学コラムでは、家庭で飼われるウサギを健康的に長生きさせるため、体のしくみや必要な栄養、食餌についてお伝えします。
現在、主なエサとして与えられているフードは、本来の食性とは異なるものかもしれませんが、野生に近い食餌が必ずしも「ウサギの長生き」にとってベストとは限りません。
だからこそ、栄養学の基礎はもちろん、最新の研究までを知る必要があると考えています。

今回は、栄養学(1)でご説明した消化管のしくみの話に続き、ウサギの特徴的な行動である食糞が、なぜ重要なのかについてお話しします。
毛繕いするウサギ/ウサギの栄養学(2)フンを食べないと生きられない!食糞の重要性とは?

うさぎはなぜ糞を食べるの?研究者も目を疑った食糞行動の謎

ウサギの食糞行動が初めて報告されたのは1882年、約140年前です。よほど信じられなかったのか、57年後の1939年に別の研究者が「本当に食糞するのか」観察し、有名な科学雑誌であるNatureの論文として報告しています。

排泄物を食べるという行動に人間は驚いてしまいますが、ウサギは食糞によって必要な栄養素を再摂取しているんです。

食べるために出す糞は、しっとり柔らかで形状も違う

ウサギが食糞で摂取するのは、ふだんのコロコロした半乾きの糞ではありません。ウサギを飼っている人でも目にすることは少ないのですが、硬糞とは明らかに違います。
ウサギ硬糞と軟糞の比較/ウサギの栄養学(2)フンを食べないと生きられない!食糞の重要性とは?
軟糞はブドウの房状で、透明な粘液に包まれています。触れるとしっとり柔らかく、硬糞とはにおいも違います
タンパク質が豊富なだけでなく、ビタミン類も含んでいます。これらの栄養素は前回、消化管の話で出てきたように、ウサギの盲腸内にいる微生物により作られているんです。

微生物が作り出した栄養素、ウサギはどこで消化吸収するの?

草食動物は消化管内に発酵槽を設け、微生物を棲まわせています。自力では消化できない繊維を、その微生物に分解してもらうのです。発酵槽が胃の前にあるウシやヤギは、微生物が生成した栄養素を、そのあとに続く胃や小腸で消化・吸収できます。
ウサギの消化管/ウサギの栄養学(2)フンを食べないと生きられない!食糞の重要性とは?
しかし、ウサギの発酵槽は、肛門に近い盲腸にあります。その後ろで消化吸収できそうなのは、結腸しかありません。

結腸の主な機能は、水分や食物繊維の発酵産物である短鎖脂肪酸の吸収です。タンパク質は結腸から先の消化管では消化吸収できません。
ではどうするのか?ウサギはタンパク質を利用するために、いったん体の外に出して、再摂取します。そう、それが食糞です

最近では、ウサギが食糞することが多くの人に知られ、飼っている方ならご存じかと思いますが、「どれくらいの頻度で食糞しているのか?」や「実は硬糞も食べている」ということはあまり知られていないのではないでしょうか?

観察すれば見えてくる!決まった時間に食糞するウサギ

以下のデータは、1日当たりの軟糞排泄量と飼料摂取量を示したものです。

図・1日当たりの軟糞排泄量と飼料摂取量
ウサギ1日当たりの軟糞排泄量と飼料摂取量/ウサギの栄養学(2)フンを食べないと生きられない!食糞の重要性とは?

Carabaño and Merino, 1996

まずはブルーのライン、軟糞の排泄量を見てみましょう。朝から昼にかけてが一番多いことが分かります。
飼料摂取量を示すオレンジのラインを見ると、食べているのは夕方から朝にかけて。ウサギは、活動が落ち着いたリラックスタイムに軟糞を食べたいのかもしれませんね。

軟便の排泄時間=軟便の摂取時間

ところで皆さん、食糞しているところを見たことがありますか?
ウサギは全身の毛繕いを自分でできるほど、体が柔らかいのですが、食糞をする際は、お尻に口を近づけて直接食べているんです。だから、排泄時間と摂取時間は同時刻です。

食糞タイムに遭遇したら、少し離れて観察してみてください。一口で食べられる分の糞を出し、お尻に寄せた口で落とさずに受け止めます。そのまま顔を上げて、もごもご口元を動かし、飲み込んでいる様子がみられます。とてもリラックスした表情から、ウサギにとって、本能的な行動であるのだとわかります。

軟糞だけじゃなくて、硬糞を食べることもある

ウサギ科/ウサギの栄養学(2)フンを食べないと生きられない!食糞の重要性とは?
ペットとして飼われるウサギは野生でいうとアナウサギ。日本で野生のウサギといえば、ノウサギですね。
そんなノウサギでは、硬糞を再摂取することが報告されており、飢えをしのぐために食べていると考えられているようです。

一方、アナウサギでは、母ウサギが自分の腸内環境を子ウサギに引き継がせるために生後間もない子ウサギたちが眠る巣内に硬糞を数粒置くそうです。子どもたちはその硬糞を摂取します。

お部屋で遊んでいる最中に、トイレ以外の場所でポロポロと硬糞をするウサギを見たことがある人は、「たまたま巣の中に落ちたんじゃないのかな?」と思うかもしれません。
しかし、母ウサギが巣に置く糞の数は分娩後から6日目までは多く、そのあとは徐々に減少、生後2週間目以降はあまり置かなくなってくるようです。

この行動から、母ウサギが意図的に置いていることが分かります。赤ちゃんの寝室に糞を置くなんて、人間では考えられないことですが、ウサギにとっては、ママから赤ちゃんへの愛情こもったプレゼントなんですね。

食糞行動の謎を解くカギはタンパク質と窒素

ここからは、ウサギのタンパク質摂取についてお話ししましょう。ウサギの食糞とタンパク質には深い関係があります。

タンパク質は体の2割を占める大切な構成要素

ウサギに限らず、ほとんどの動物の体を構成する成分の約60%は水分です。その次に多いのがタンパク質で、約20%を占めるといわれています。
たんぱく質の構成割合/ウサギの栄養学(2)フンを食べないと生きられない!食糞の重要性とは?
タンパク質は英語でいうとプロテイン。最近ではたくましい筋肉をつけたい人だけでなく、美容目的で摂取する人がいるのは、肌や髪、爪もタンパク質からできているから。動物の体には欠かせない栄養素です。

動物の体に存在するタンパク質は日々、合成と分解が行われています。そのため動物は、タンパク質を食物から摂取し続けなければなりません

タンパク質はアミノ酸で形作られている

タンパク質は複数のアミノ酸が結合して形作られています。アミノ酸の数や組み合わせ、結合順序は、タンパク質の種類によってさまざま。タンパク質を構成するアミノ酸は20種類ありますが、そのうち、体内で合成できない13種類を必須アミノ酸といいます。

体に入ったタンパク質はどうなるの?

ウサギが摂取した飼料中のタンパク質は消化酵素の影響を受け、ペプチドやアミノ酸などに分解されます。そして、ウサギの体を構成するタンパク質である体タンパク質や、神経伝達物質・ホルモン・酵素などの合成に利用されます。

このようにタンパク質は、一度、ウサギの体内に取り込まれると、さまざまな物質に変換され、体内をめぐります。

アミノ酸が結合してできたタンパク質を、ウサギの体の中でいったん元のアミノ酸に分解、それを材料に新たな栄養素に変換しているということですね。

体を作るための窒素は食物でしか取り込めない

ちなみにタンパク質には窒素(チッソ)が約16%含まれています。窒素は、空気中の約80%を占めているので、「わざわざ食餌から摂取する必要はないのでは?」と思うかもしれませんね。
しかし生き物が空気を吸っても、気体の状態で取り込んだ窒素は、非常に安定しているため体に留めておくことはできません。そのため体内の窒素量は、すべて食餌の結果、体内に入ってきたものなのです。
葉を食べるウサギ/ウサギの栄養学(2)フンを食べないと生きられない!食糞の重要性とは?
窒素は体を構成する要素のうち、タンパク質やアミノ酸、核酸塩基(DNAやRNA)に含まれており、生物にとって重要な物質です。こうしたことから、動物栄養学の分野では、窒素の分布や流れを把握する研究も行われてきました。

食糞を阻止すると窒素の消化率と蓄積量が低下する

ウサギの食糞を阻止するかしないかで、窒素(チッソ)の消化率に変化があるかを調べた実験があります。この実験では、マメ科のアルファルファ牧草のみが与えられました。
すると、食糞を阻止した個体では、窒素の消化率と蓄積量がともに15%ほど低下したそうです。

「低下した」ということは必要量が満たされなかった可能性が高いということ。ウサギにとって、食糞がいかに大切かがよくわかります。

ウサギの窒素代謝の様子をあらわしたのが以下の図です。

図・ウサギの窒素代謝の模式図
ウサギの窒素代謝 模式図/ウサギの栄養学(2)フンを食べないと生きられない!食糞の重要性とは?
食べ物から取り入れるしかない窒素ですから、せっかく取り入れた分は効率よく利用したいですよね。食糞行動により、窒素利用性が向上するというのは、生き物としてとても重要なことなんです。

捨てるはずの尿素すら微生物のエサとして利用するウサギ

アミノ酸プールは、体内に一定量蓄えられたアミノ酸を指します。水泳のプールを想像してしまうかもしれませんが、ここでのプールは蓄えるという意味です。正確には遊離アミノ酸といい、血液中や筋肉中に溶け込んでいるものです。特に消化管などから吸収した血液は肝臓に運ばれますので、この図に示しています。

体内に取り込まれたタンパク質は、大半が小腸で消化吸収され、残りは盲腸に流入します。
その際、アミノ酸にまで分解されて肝臓に運ばれますが、すべての種類のアミノ酸をウサギが利用できるわけではありません

ウサギの血となり肉となっているタンパク質は、もちろん動物性です。しかし、ウサギが摂取しているのは植物性タンパク質。アミノ酸の組成は、動物性タンパク質とは異なります。

だから、摂取したタンパク質のなかにも、ウサギが体に蓄積するための体タンパク質の合成にあまり利用しない種類のアミノ酸もあるのです。それらは肝臓で尿素に変換され、尿として体外に排出されます。これは人間も同じですね。

ウサギやモルモットの場合、この尿素の一部を盲腸内の微生物のために再利用しているのがおもしろいところ。盲腸の中に棲む微生物はこの尿素をアンモニアに変換し、利用しています。
つまり、ウサギにとっては捨てるはずだった窒素を含む尿素が微生物として生まれ変わり、軟糞として再利用されていることになるんです。

捨てるしかないはずの尿素を、ウサギは微生物を育てるために再利用しているなんて、すごいしくみですよね。

生物価は高いほうが良い

摂取されたタンパク質のうち、どれくらい利用できるか、その生物学的価値を表したのが生物価です。(詳しくはこちら
動物は、体を構成するタンパク質に含まれるアミノ酸のうち、体内で合成できない必須アミノ酸は外部から摂取しなければなりません。
ですから、必須アミノ酸の割合が高い動物性タンパク質の方が植物性タンパク質より生物価が高くなります

では、草食であるウサギは、どのようにして、必須アミノ酸の必要量を満たすのでしょうか?

ウサギは植物性タンパク質を食餌として摂取しますが、細菌叢のある盲腸で微生物の働きで、違うアミノ酸に形を変えるのです。盲腸で増殖させた微生物体タンパク質を食糞により再摂取し消化吸収しています。そのことで植物からだけでは補えない種類のタンパク質を補うことができるのです。
また、生物価は植物性である牧草よりも、非植物性の軟糞の方が高いことは、ウサギの窒素代謝に食糞行動が貢献していることにつながります。

さらにウサギの栄養学(1)の詳細データにある通り、軟糞のタンパク質含有量は30%を超えており、飼料中のタンパク質含有量を大きく超えています。軟便に含まれる微生物が作り出したタンパク質はほとんどが動物性で、必須アミノ酸量も植物性より豊富です。

これは、ウサギが飼料のタンパク質を体内で増やしているということです。極端な例えですが、人で考えた場合、食べたキャベツを体内でハンバーグに変換、そのハンバーグをもう一回食べているような感じですね。
キャベツからハンバーグへ/ウサギの栄養学(2)フンを食べないと生きられない!食糞の重要性とは?

軟糞の食糞を止めさせちゃだめ!

ウサギにとって、軟糞を食べるということは、健康な体を維持するために必要なこと。ヒトにとっての排泄物とは、意味が全く違うのだということを忘れてはいけません。汚いからと、食糞を止めさせるなんて言語道断。尊いウサギの本能を阻止してはなりません

実は軟糞が、どのようにしてこのようなブドウの房状の形が作られているか、はっきりとはわかっていません。
ウサギの食糞行動はまだ解明されていない部分もありますが、ウサギが生きる上では必要な機能であり、栄養戦略なのです。

参考文献
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川﨑浄教
香川大学 農学部助教 農学博士 現役の研究者としては、日本唯一のウサギ栄養学の研究者