食餌のながれについて

牧草やペレットといった食べ物はウサギに食べられた後、胃に入り、その後小腸、大腸というように消化管内を移動していきます。具体的には、食べたもの(消化管内容物)は消化管内で攪拌、消化、微生物発酵、吸収などの過程を経ます[1]。この過程にかかる時間、つまり、食べたものが消化管内に留まる時間のことを消化管内容物平均滞留時間といいます[1]。滞留時間の測定は草食動物の中でも変わった消化管の構造をしている反芻動物の栄養生理解明のために、かなり昔から実施されてきた方法で、個人的には様々ある実験の中で最もハードな実験であると考えています。その理由として滞留時間の測定には継時的に糞を採取し続けなければならないからです。滞留時間の測定方法は様々ありますが、ウサギでよく用いられる方法は食べ物と同じ動きをすると考えられているマーカー(後で分析可能な物質を標識した植物粉末等)を食べさせた後、約1週間糞を回収する方法がとられています[2]。糞の採取方法にきちんとした決まりはないのですが、継時的に1週間集めるタイムスケジュールとしては次のような例が挙げられます。

(例)朝9時にマーカーを給餌してから15時まで(初めの6時間)は1時間おきに糞を回収、その後は翌日の朝9時まで2時間おきに糞を回収、さらに次の日の朝9時まで4時間おきに糞を回収、その後はマーカーが糞中に出てこなくなるまで(約1週間)6時間おきに糞を回収。
さらにこの大量に集められた糞の各時間のマーカー濃度を分析することになります。滞留時間の測定は糞が比較的乾燥していて回収しやすいウサギでさえ糞を集めるだけでも大変なので、最近はあまり行われなくなってしまいました。しかし、滞留時間のように消化管内容物の移行に関する情報は、消化管の運動生理と栄養との関係を説明するうえで不可欠です[2]。なぜなら、滞留時間を測定した結果、食餌中の難消化性繊維が多くなると消化管内容物の滞留時間が短くなることが報告されており[3]、ウサギに関してはうっ滞の予防に繋がる情報の提供をもたらしているからです。具体的には、大人のウサギ(体重約2 kg)の消化管内容物平均滞留時間は約18時間で、その約60%が盲腸への滞留時間といわれています[4]。また、難消化性繊維含有量を20%(R1)、15%(R2)、10%(R3)にした3種類の飼料をウサギに与えた研究ではウサギの滞留時間はR1で16.6時間、R2で21.7時間、R3で28.6時間となっており、消化管内容物平均滞留時間は食餌中の繊維含有量の影響を受けるということが報告されています[5]。ウサギのうっ滞の予防には牧草をたくさん与える方法がありますが、若齢ウサギの死亡率を調査した研究では食餌中の難消化性繊維含有率が12%より低いものを与えると大幅に死亡率が上がったそうです[6]。また、食べ物の低繊維化はウサギの滞留時間の増加をもたらしますが、低繊維の代わりに増加し得るデンプンや脂肪は消化管内容物滞留時間の増加とともにウサギの盲腸内で悪い微生物を増殖させ、ウサギに悪影響を及ぼすとの報告もあります[7]。

繊維の利用

ウサギに摂取された繊維は消化管内容物の流れを左右するだけでなく、消化管内に棲む微生物による分解・発酵を受け、短鎖脂肪酸(酢酸やプロピオン酸、酪酸、吉草酸)という物質に変換されます[2]。ウサギはこの短鎖脂肪酸を発酵槽から血管を介して肝臓に運びエネルギーに変換します。最近、腸内細菌と健康との関係がヒトで解明されつつありますが、ある意味で、腸内細菌は草食動物にとって、ヒトよりも生きる上で重要なパートナー(共生生物)であることに間違いありません。

参考文献
1 坂口英. 2007. 消化管内容物滞留時間の測定法. FFIジャーナル 212, 57-65.
2 Sakaguchi, E. 2003. Digestive strategies of small hindgut fermenters. Animal Science
Journal 74, 327-337.
3 Kaisa, R., Jenni, L., Hannu, M., Kaisa, P. 2011. Dietary fiber type reflect physiological
functionality: comparison of grain fiber, inulin, and polydextrose. Nutrition Reviews 69, 9-
21.
4 de Blas, C., García, J., Carabaño, R. 1999. Role of fibre in rabbit diets. A review. Annales
de zootechnie, INRA/EDP Sciences 48, 3-13. hal-00889777f
5 Gidenne, T. 1994. Effets d’une réduction de la teneur en fibresalimentaires sur le transit
digestif du lapin.Comparaison et validation de modèlesd’ajustement des cinétiques
d’excrétionfécale des marqueurs. Reproduction Nutrition Development 34, 295-307.
6 Carabaño, R., Fraga, M.J., Santomá, G., de Blas, J.C. 1988. Effect of diet on composition
of cecal contents and on excretion and composition of soft and hard feces of rabbits.
Journal of Animal Science 66, 901–910.
7 Lowe, J.A. 2010. Pet Rabbit Feeding and Nutrition. In: Nutrition of the Rabbit, 2nd
Edition. CAB International, pp 294-313.


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川﨑浄教
一般社団法人うさぎの環境エンリッチメント協会 理事 香川大学 農学部助教 農学博士 現役の研究者としては、日本唯一のウサギ栄養学の研究者