※当コラムは斉藤先生の臨床経験をもとに、ウサギの医学書や論文など専門的な文献を参照して執筆しています。ウサギと暮らす飼い主さんにとって有益で正確な情報の発信に努めていますが、記載内容は執筆時点での情報であること、すべてのケースに当てはまるわけではないことをご理解願います。

※当コラムへの写真掲載にご協力いただいた飼い主様とウサギさんに感謝申し上げます。

こんにちは。うさぎの環境エンリッチメント協会専務理事の橋爪です。ウサギの最新の飼育方法を発信しているウェブマガジン「うさぎタイムズ」の編集長や、ウサギ専門「ラビット・リンク」のオーナーをしています。 プライベートでも5匹(3男2女)のウサギさんと暮らしています。

ウサギの診療実績が年間4,000件と豊富なご経験をお持ちの斉藤動物病院の院長・斉藤将之先生にお話を伺うこちらのコラム。
診察室ではなかなか聞けないお話もざっくばらんにお話ししていただきます。

第10回のテーマは、ウサギの関節炎です。

足首と膝に多いウサギの関節炎

関節炎は、関節にかかる負担が大きく、関節に腫れや痛みが生じた状態のこと。人間では加齢によるものと捉えられがちですが、過度な運動や関節リウマチなどが原因で若い人も発症します。

ウサギでは、骨折よりは頻度が少ないものの、“関節炎になりやすい部位もある”と語る斉藤先生。どのような特徴があるのか教えてください。

斉藤先生「関節炎はウサギがそこまで痛がらないこともあり、来院する子は、1ヶ月に1、2件程度です。

関節炎になりやすいのは、足首と膝の関節です。オス・メスで発症頻度に差はありません。しかし、体を動かさなくなった高齢ウサギは、急に動いた拍子に関節炎を起こします。人間に例えるならば、普段はデスクワーク中心で1日中椅子に座ってばかりの人がストレッチもなしに急にランニングをし、膝を痛めたという状況に似ています」

ウサギの関節炎「感染性」と「非感染性」はどう違う? ソアホックから関節炎になることも

ウサギの関節炎は原因によって「感染性」と「非感染性」の2種類に分けられます。それぞれの特徴を教えてください。

斉藤「まず感染性の関節炎は、足裏の傷が細菌感染を起こす“ソアホック”が主な原因です。足裏から始まった感染が拡大して後足の関節に膿が溜まったり、前足をかじることで細菌感染が起きたりします」

では非感染性の関節炎はどのような原因なのでしょうか。

斉藤「非感染性の関節炎は、膝に多くみられ、関節が硬くなって伸びにくくなった膝を“無理に伸ばした時に膝関節の組織が膨れ上がった”状態。柔軟体操で体の硬い部分を無理やり曲げられたらそこの関節が痛くなる、といった感じですね。身体を動かすのがおっくうになる高齢のウサギや、部屋んぽの機会が少ない運動不足のウサギに起こります。

また、“びっくりしてケージ内で膝をぶつけた”などで膝を脱臼し、そこから関節炎を招くことがあります。ウサギは脱臼しても「痛みで動けない!」とはなりにくいため、飼い主さんが気づきづらいんです。

感染性と非感染性では、ソアホックが原因となる感染性の関節炎の方が多いんです。人間で“感染性の関節炎”はなかなか耳にしないので驚きですよね」

関節炎が進むスピードには個体差がある

関節炎は飼い主さんが気づかぬうちに状態が悪くなることもあるのでしょうか。また、感染性・非感染性で進行スピードに差はありますか?

斉藤「感染性も非感染性も、じわじわ痛くなることもあれば、急に痛くなる場合もあります。しかし、痛みの有無で関節炎に気づくのは、そもそも難しいかもしれません

動物は人間よりも関節の痛みに強い傾向があり、ウサギも、膝が外れてもケロッとしているように見えることも多いんです。ですから、飼い主さんが気づかない間に意外に関節炎が悪くなっていた、というケースもあり得ると思います」

「歩き方がおかしい」「食欲不振」関節炎の症状

草原を走るうさぎーウサギ専門医に聞く(10)関節炎は膝と足首に多い? 症状と治療・予防法飼い主さんが「関節炎かも」と気づくきっかけは何でしょうか?

斉藤「関節に炎症が起きると可動範囲が狭くなるので、のそのそ動くようになれば“歩き方がおかしい”と気づきやすいですね。
関節が腫れることもありますし、痛みのための食欲不振から気づく飼い主さんも多いんです」

高齢の子や、おとなしい性格で普段からあまり動かない子だと判断が難しそうですね。

斉藤「活動量が少なくとも、足がきちんとのび、飼い主さんから見て問題なく動いているようなら、気にしなくても良いと思います。

発見が難しいのは、関節炎が慢性化しているウサギです。痛みに慣れてしまい、わかりやすい症状がとぼしいんです。

さらに見た目には腫れていなくとも関節炎が進行しているケースもみられます。関節炎というと、炎症を起こした関節が“腫れる”というイメージがあるかもしれませんが、必ずしもそうではないと知っておいてください。見た目では判断しづらい疾患だと言えますね。
歩き方がいつもと違うなら受診を検討しましょう」

関節炎の有無はレントゲンや触診で診断

斉藤「関節炎は、レントゲン撮影と触診で診断します。レントゲンでは明らかな違いが確認できます。ソアホックが原因で関節に膿が溜まっているなら、細菌検査をすることもあります」

関節炎を疑っていたが、他の病気だったというケースもありますか?

斉藤「関節炎以外の病気でも、同様の症状が出ることはあります。また、炎症があっても細菌は検出されず、膿も溜まっていない場合は、関節の細胞をとってガン検査をすることもあります。

この他、斜頸が背景にあり関節炎が起きているのか、単体の関節炎なのか、判断がつかないこともあります。斜頸でバランスが取れず、特定の関節にいつも以上の負担がかかり関節炎を発症することもあるんですよ。
斜頸にも関節炎にも抗生物質を投与するので、治療に反応して回復しても、原因の特定は困難です」

関節炎の治療はまず投薬、状況によっては手術も。切断はどんなケース?

手のひらサイズの眠るうさぎーウサギ専門医に聞く(10)関節炎は膝と足首に多い? 症状と治療・予防法まずは投薬から始め、時には手術も視野に入れるというウサギの関節炎治療。どのように治療が進むのか教えてください。

斉藤感染性は“抗生剤”、非感染性は“鎮痛剤”の投与から始めます」

人間では炎症を起こした関節に湿布や塗り薬を使用することもありますが、ウサギに対しては何をしますか?

斉藤「多くのウサギは、薬を塗られると不快に感じ、舐めて取り除いてしまいます。舐めることが更なる感染に繋がりかねないため、当院では湿布や塗り薬の処方はしません
感染性の関節炎でも、体内の細菌をやっつけるのは抗生剤にまかせ、患部への外用薬は使わない方がいいと思っています」

では、治療・予防の目的でサプリメントを与えるのはどうでしょうか? 関節を修復・保護する目的のサプリメントも販売されていますが…。

斉藤「ウサギにも、関節のスムーズな動きをサポートする成分としてグルコサミンやコンドロイチンなどのサプリメントが発売されています。私も関心があり当院でも試したのですが、その時は、明らかな効果はみられないと感じました。現在は積極的には処方していません。

サプリメントを投与するより、原因に応じた治療法を検討する方が良いと思います」

関節炎で足を切断 ペットのウサギは三本足でもあまり困らない

斉藤「薬で改善がみられず、関節に膿が溜まってしまうなら排出するために関節部を小さく切開することもあります。

さらに、溜まった膿が足から体の方へ進行してくる兆候が見られたら救命のため、足の切断も視野に入れます。ペットのウサギは外敵から狙われる可能性がないため、生活上の不便は少なく、3本足でも実は平然としているんです。そのため、炎症が進行しきる前の体力がまだ残っている段階で、予防的に切断を提案することがあります」

3本足でも平然としているとは驚きですね。足の切断と聞くとショッキングですが、もちろん命には代えられないので、やむを得ません。
ちなみに、感染性、非感染性ともに「自宅で様子を見ているうちによくなった」「いつの間にか治っていた」ということもありますか?

斉藤「軽い関節炎なら自然に治癒する場合もあります。しかし、飼い主さんが気づいたということはその時点で、放っておいて治るレベルではないと解釈してください。

ウサギは体調不良を限界まで隠そうとしますから、“食欲がない”、“歩き方がおかしい”など、飼い主さんが普段と様子が違うと気づく頃には、既にかなり症状が進行しているかもしれません。早めの来院を検討してください」

運動機会の確保と飼育環境を見直しで関節炎を予防しよう

関節炎を予防するには、どんなことに気をつけるべきでしょうか。

斉藤「ソアホック予防と運動習慣の改善が大切です。
床材は足への負担が軽減できるプラスチックや木のすのこがおすすめです。フローリングのお部屋には部屋んぽ用にコルクや毛の短いカーペットを敷いてあげるといいですね。

感染性の関節炎になったことがある子は、抵抗力が弱った時に再発する可能性もありますから、再発を防ぐために飼育環境を見直しましょう」

並んで座る子うさぎーウサギ専門医に聞く(10)関節炎は膝と足首に多い? 症状と治療・予防法なおソアホックが他の子にうつらないのと同様、感染性関節炎もウサギからウサギへとうつる心配はないため、多頭飼育でも隔離の必要はないそうです。

見た目では判断しにくいこともある関節炎ですが、切断に至る可能性も考慮すると、早期に対応したいものです。異変にいち早く気づけるよう、普段からウサギの様子をよく観察してあげてください。

聞き手:橋爪
編集:うさぎタイムズ編集部

※当コラムでは、人間と暮らす多くのウサギが健康で長生きできるよう、疾患についての情報を共有するため、情報発信を行っています。個体により状況は異なりますので、ウサギの状態で気になることがあれば、かかりつけにご相談されることをお勧めします。当コラムの内容閲覧により生じた一切のトラブルについて、うさぎの環境エンリッチメント協会並びに斉藤動物病院、ラビットリンクでは責任を負いかねます。


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橋爪宏幸

うさぎタイムズ編集長。 うさぎ専門店「ラビット・リンク」のオーナー。 一般社団法人うさぎの環境エンリッチメント協会 専務理事。 ExoticpetSaver FirstResponder。 ExoticpetSaver Emergency Rescue Technician。 現在ニンゲン3人のほか、長男:ミニチュアダックスの桜花、次男ホーランドロップのカール、三男:ネザーランドドワーフの政宗、長女:ホーランドロップのミラ・ジョボビッチと暮らしている。