人間の栄養学の研究は進んでいますが、ウサギについては、まだまだわからないことがたくさんあります。ウサギの栄養学コラムでは、家庭で飼われるウサギを健康的に長生きさせるため、体のしくみや必要な栄養、食餌についてお伝えします。
現在、主なエサとして与えられているフードは、本来の食性とは異なるものかもしれませんが、野生に近い食餌が必ずしも「ウサギの長生き」にとってベストとは限りません。
だからこそ、栄養学の基礎はもちろん、最新の研究までを知る必要があると考えています。
五大栄養素といえば、 炭水化物・脂質・たんぱく質・無機質(ミネラル)・ビタミンの5つです。ウサギの栄養学基礎編は栄養学(10)が最終回。最後にウサギにとっては必要量は少ないものの、重要な働きをする脂質・ビタミン・ミネラルについてご説明します。
目次
ウサギに脂質は必要?
草を食べているイメージの強いウサギ。人間の食べるハンバーグやピザ、ドレッシングがかかったサラダなどと比べると、ウサギの食べるものに脂質はあまり含まれていないように見えます。だからといって、ウサギが長生きするために脂質が必要ないわけではないんです。
ウサギが生きていくうえで、牧草のみでは、脂質の必要量を満たせないことがわかっています。健康に長生きしてもらうためには、他の食べ物やラビットフード(ペレット)で補う必要がありそうです。
ウサギに必要な脂質は、リノール酸とα−リノレン酸
脂質といってもいろいろな種類があります。ウサギにはどのような脂質が、どれくらい必要なのでしょうか?
必要量はごく少量
ウサギは少量の必須脂肪酸 を除いて、特別な脂肪を必要としません。
食餌の総量からすると、ビタミンやミネラル同様、脂質も必要なのはごく少量。しかし、非常に重要な働きをしています。
必須脂肪酸は体内で作れない
ウサギが摂らなければならないのは、リノール酸やα−リノレン酸といった必須脂肪酸です。必須脂肪酸は、体内では合成できないので、口から摂らねばなりません。
牧草だけでは必須脂肪酸の必要量を満たせないので、ラビットフード(ペレット)が重要な役割を担います。
野生のウサギは草以外にも、必須脂肪酸の含まれる木の皮や実を自由に食べられます。それでも過酷な野生下では、十分な必須脂肪酸を摂取できていない可能性が高いでしょう。
2~3年と言われる野生のウサギの寿命。飼いウサギの平均寿命の7~8年と大きく開きがあるのは、ウサギが捕食される立場であることだけが理由ではないのかもしれませんね。
リノール酸・α−リノレン酸の働き
ではこれらの必須脂肪酸はどのような働きをするのでしょうか。
リノール酸は、生殖・止血機能をつかさどるプロスタグランジンやプロスタサイクリン、トロンボキサンの前駆体であるアラキドン酸の合成に必須です。
α−リノレン酸は、心臓・網膜・脳の機能や免疫系に必須のいくつかの化合物の前駆体であるエイコサペンタエン酸(EPA)の合成に必須であるとわかっています。
ここで出てきた前駆体は、後述のビタミンの項でも出てきますが、体の中でビタミンやミネラル、脂質などに変換される前の物質のことで、部品みたいなものですね。
また、摂取するリノール酸とα−リノレン酸の割合も重要で、α−リノレン酸が多い方が健康にいいと言われています。
リノール酸やα−リノレン酸はどうやって与えればいいの?
リノール酸やα−リノレン酸は、ウサギのペレットフードの原材料とされる米ぬかや大豆かす、ビートかすなど(かす:油を搾った後の残り)に豊富に含まれる脂質です。そのため牧草の他に規定量のペレットを与えているのであれば、不足の心配はありません。
エネルギーは繊維質から
草食動物であるウサギは、繊維質を分解してエネルギーの大半を得ています。ウサギにとって必須脂肪酸は必要ではあるものの、肉食・雑食の動物ほど、脂質には依存していないのです。
脂質の量が1日の食餌の4%を超えないように
気にすべきは、脂質の過剰摂取です。ウサギの飼料には純粋な油脂を添加しないので、通常、飼料中の粗脂肪含量は平均して3~3.5%の範囲を超えません。牧草とともに適量のペレットを食べているのなら不足の心配は不要です。
良く食べるからとペレットばかり与え、食餌全量に対する脂質が4%を超えると、摂りすぎで健康を損ねますので注意してください。
おやつとして、ドライフルーツやその他のエサを追加しているなら原材料をよく確認してください。人間用のドライフルーツは、くっつかないように油脂が添加されているものがありますし、糖質も多いので、与えないほうがいいかもしれませんね。
高脂肪フードは与える量に要注意。過剰摂取は繊維質の消化率を下げてしまう
高脂肪食を与えると、ウサギの盲腸内のセルロース分解活性が低下することがわかっています。セルロースは繊維質、ウサギの主食は繊維質豊富な草ですから、消化率が下がるのは大問題。反芻動物や家禽、馬についても同様の悪影響が報告されています。
従来のラビットフードの原材料に含まれる脂肪は植物の構造に結合しており、消化されにくくできています。しかし、添加される脂肪は、遥かに消化されやすく、影響も大きいのです。これは大豆かすや菜種油かすに含まれる脂肪も同様であると考えられているので、これらが原材料に使われたフードを与える際は注意が必要でしょう。
身体を作るために必要な脂質は、脂溶性ビタミンの吸収に深くかかわっています。続いて、ビタミンのお話に入ります。
ビタミン
ビタミンは、飼料中に微量に存在する複合有機物化合物と定義され、栄養代謝と生命維持に不可欠な栄養素です。すべてのビタミンは生体内で必須の機能を持っており、大きく脂溶性ビタミンと水溶性ビタミンに分類されます。
ウサギで重要なのは脂溶性ビタミン
脂溶性ビタミンは肝臓や脂肪細胞など、体内にかなりの量が蓄積されます。一方、水溶性ビタミンは貯蔵されずに速やかに排泄されますが、ビタミンB12のように例外もあります。
また、脂溶性ビタミンは胆汁を介して主に便中に排泄されるのに対し、水溶性ビタミンは主に尿中に排泄されるなど、両社の排泄パターンは異なります。
このような理由から、蓄積できない水溶性ビタミンは脂溶性ビタミンに比べ、継続的な供給が必要です。
しかし、ウサギは自分の体内で合成したり、盲腸便として摂取したりと、水溶性ビタミンの調達は容易であることから、脂溶性ビタミンの方が補給の必要性が高いと考えられます。
脂溶性ビタミン
ビタミンA
ビタミンAは、動物由来の原料や合成サプリメントにしか含まれていないものです。植物には、さまざまなビタミンA活性を持つ一連の前駆体、カロテノイドが含まれています。
野菜に含まれるビタミンAの前駆体であるβ-カロテンは、腸管粘膜でビタミンAに変換されます。
ビタミンAは視覚、骨の発達、生殖、免疫反応など、数多くの代謝反応に関わっています。
欠乏すると、母ウサギの受胎能力と乳量を低下させ、流産率と胎児の吸収を増加させると報告されています。
肝臓は大量のビタミンAを貯蔵できますが、必要量を超えて供給されると、臓器に負担がかかり、中毒症状が現れることがあります。
1998年、Albarによる論文で、成長期のウサギに高濃度のビタミンA(50,000 IU)を補給すると、血漿カルシウム、骨重量、骨灰、体重増加の減少などの悪影響が見られたと報告されています。
したがって、免疫状態を高め、ストレスやその他の現場での問題に対処するために、飼料や水を介したビタミンAの継続的で大量な供給は避けるべきです。
1987年発行のNRC(National Research Council:米国の飼料成分表 )では、ウサギの飼料一日分に添加する安全上限値を最大16,000IUとしています。
ここでのビタミンAの上限は、精製された純粋なビタミンAを添加した場合の数値なので、単純には比べられませんが、ビタミンAが豊富な野菜をおやつとして継続的にたくさん与えるのは多少リスクがあるかもしれませんね。
牧草とペレットを与えているだけなら、この上限値は超えません。サプリメントなどで過剰に与えているのでなければ、気にしなくていいでしょう。
ビタミンD
動物は太陽光を浴びることで、体内でビタミンDを合成できます。
体内合成以外での主要な天然供給源は二つあります。コレカルシフェロールという動物由来のビタミンD3と、エルゴカルシフェロールという植物由来のビタミンD2です。
ビタミンDは、ウサギの肝臓と腎臓で処理された後、ホルモンとして作用します。他の哺乳類と同様に、カルシウムとリンの代謝において中心的な役割を果たし、骨へのミネラル貯蔵に影響を与えます。
しかし、ウサギはもともとカルシウムの吸収能力がほかの動物より高いため、それほどビタミンDに頼る必要がありません。このことから、ウサギのビタミンD3の推奨レベルは低く、1000〜1300IUを超えてはならないとされています。
ビタミンDの過剰摂取は問題ですが、サプリメントで補給しているのでなければ、心配ありません。ビタミンDが多く含まれるのは魚類やキノコ類。ウサギがエサとして食べる植物のうちビタミンDが多いものはほとんどないからです。
ビタミンE
ビタミンEは、老化防止・ストレス耐性向上に寄与します。
ビタミンE欠乏で現れる主な兆候は、成長期のウサギの筋萎縮症と、母ウサギの流産率の増加や死産などの生殖能力の低下です。しかし、必要量についてはほとんどデータがないため、詳細は不明ですが、通常の食餌で不足の心配はありません。
ビタミンK
ビタミンKが不足すると、成長期のウサギでは出血性疾患、母ウサギでは胎盤出血や流産の原因となると報告されています。
ウサギの場合は、盲腸内微生物が大量のビタミンKを合成するので、飼料にビタミンKが含まれていなくても糞には相当量のビタミンKが含まれています。そのため、ウサギのビタミンK必要量は食糞によって満たされています。
ほとんど研究がおこなわれていないため、ウサギのビタミンKの必要量を評価するのは難しいのですが、健康なウサギであれば、欠乏症の心配はありません。
ただし、怪我や下痢などの理由で食糞を行えない場合は、飼料中のビタミンKを増やすことが望ましいでしょう。
植物ですと、モロヘイヤや明日葉に豊富に含まれています。ただし、食べなれていなかったり、季節によっては手に入らなかったりすることもありますので、その場合は軟糞をするタイミングを見計らって、軟糞を口元に運んであげると食べるかもしれません。落としたものは食べない子もいますが、無理のない範囲で試してみるといいですね。
水溶性ビタミン
水溶性のなかでも有名なビタミンC。ウサギは体内で合成できるんです。また、ビタミンB群のほとんどは、ウサギの腸内の微生物によって合成され、体内でリサイクルされています。ここからは水溶性ビタミンについてご説明します。
ビタミンC(アスコルビン酸)
ビタミンCは、多くの生野菜や果物に含まれています。ビタミンC(アスコルビン酸)は、酸素が基質に取り込まれる、多くの生化学的反応において重要な役割を果たしています。
コラーゲンやカルニチンの生合成に関与し、白血球の食細胞活性を刺激しています。
人間はビタミンCを体内で合成できないので食事で摂らねばなりませんが、ウサギを含むほとんどの哺乳類が肝臓でD-グルコースからビタミンCを合成できます。意識的に与えなくても良いということですね。
ビタミンB群
ビタミンB群はウサギの体内で、ヒトの体内と同じ働きがあるとわかっていますが、うさぎの場合は盲腸便に大量に含まれるため、飼料に添加する必要がありません。
また、研究もほとんど行われていないため、必要量も不明ですが、アルアルファや大豆かすに多く含まれているため、不足の心配はないでしょう。
では最後に、ミネラルについてご説明します。
ミネラル
ミネラルは、鉄や銅、カルシウムなどを指します。必要量は少ないのですが、欠かせないものです。その働きは多岐に渡ります。
特に重要な三つのミネラル
ウサギに必要なミネラルのうち、特に重要なのは、カルシウム・リン・ナトリウムの三つです。
カルシウム
カルシウムは、骨格を構成する主成分です。全身のカルシウムの98%以上が骨と歯に存在しています。
カルシウムは、心臓を機能させるためにも必要ですし、筋肉の収縮、血液の凝固、血清中の電解質平衡など、多くの有機的プロセスにおいて重要な役割を果たしています。
母ウサギの母乳にはカルシウムが豊富に含まれています。このことからカルシウムは幼齢期や妊娠後期、乳生産のピークにある雌ウサギの方が、成熟期のウサギよりも必要量が多くなると予想されます。
一方で、食餌全量中4%を超える過剰なカルシウムを長期間摂取させると、尿結石のリスクが高まると報告されています。飼いウサギに通常与えている牧草やペレットを規定範囲で与えているのなら心配はありませんが、おやつやサプリメントなどで、カルシウムが多く含まれるものばかり与えないよう注意してください。
リン
リンもカルシウム同様、骨の主要な構成要素です。また、エネルギー代謝に関連する多くの反応においても重要な役割を果たしています。
ほとんどの哺乳類では、無機リンは十二指腸や空腸で吸収されます。甲状腺や下垂体などの内分泌臓器や摂取される栄養によって調整されます。
植物からのリンの吸収利用に影響を与える主な要因は、フィチン酸塩とフィターゼの存在です。フィチン酸塩は体内で作られる酵素では分解されないリンを多く含む複合体です。
フィチン酸塩の分解を助けるために、豚や鶏の飼料にはフィターゼを添加することがあります。しかし、ウサギは盲腸の微生物がフィターゼを産出するため、飼料に添加せずともフィチン酸のリンが良く利用されます。
リンの大部分は、食糞によって軟糞として再吸収されるため、フィチン酸リンはほぼ完全に利用されていると考えられています。
ナトリウム
ナトリウムは、体内のphと浸透圧の調整にかかわっています。また、グルコースやアミノ酸などの腔内栄養分の吸収にも不可欠です。
腸の刷毛縁膜にあるNa+-リン酸共輸送系が、リン酸とNa+の腸上皮細胞への侵入を触媒しています。
ウサギの飼料中の推奨量は0.2%程度とされています。ヒトの場合は3.5%程度ですから、人間がおいしいと感じる塩味の食べ物はウサギには禁物です。
その他のミネラル
マグネシウム
マグネシウムも骨の主成分で、全身に分布するマグネシウムの70%程度が骨格にあります。また、エネルギー代謝反応の補酵素としても働きます。
不足すると、成長不良、脱毛症、興奮性亢進、痙攣、被毛の質の低下、被毛の噛み込み(自分や他のウサギの毛をむしって食べてしまうこと)などが生じます。
口から過剰に摂取したマグネシウムは尿中に排出されます。したがって、マグネシウムを余分に補給しても、重篤な副作用を引き起こすことはほとんどないと報告されています。
ウサギ飼料のほとんどの原材料に含まれるマグネシウム。その量と見かけの消化率が高いので、市販のウサギ飼料にマグネシウムを余分に添加する必要性はないと考えられます。
カリウム
カリウムは、生体の酸性とアルカリ性のバランスを保つ重要な役割を果たしており、、多くの酵素の補酵素として働いています。
カリウムが欠乏すると、筋力低下、麻痺、呼吸困難などの症状が現れます。ウサギのカリウムイオン(K+)欠乏症は、下痢をしたときに現れることがあります。ただ、ウサギの飼料に使用されている原料のほとんどはK+を豊富に含んでいるので、欠乏症は起こりにくいようです。
1976年 Surdeauらは、飼料中の K+レベルが0.8%を超えると腎炎の発生率が高くなることを報告しています。さらに1983年 Evansらは、K+濃度が1%を超えると飼料摂取量が減少することを報告しました。K+の推奨量は飼料中に0.6%程度とされています。通常の食餌なら不足も過剰摂取も心配しなくて良いでしょう。
鉄
鉄は酸素の運搬や代謝に関わる酵素の主要な構成成分です。そのため、欠乏するとヘモグロビンの形成が阻害され、貧血になることがあります。
ウサギの母乳には鉄分がほとんど含まれていませんが、長いと数か月ある授乳期間中、早い子で生後2週間から母ウサギの飼料を食べ始めます。おっぱいだけでは満たされず、つまみ食いをしているんですね。そのため、母ウサギと同じケージで飼われる子ウサギの鉄分欠乏は、あまり起こらないと考えられています。
銅
銅はエネルギーや鉄の代謝、コラーゲン・毛髪の形成に関与する金属酵素の主成分です。銅が不足すると、成長の遅れや骨の異常、貧血などの症状が現れます。
マンガン
マンガンが不足すると骨格の発育不良、骨の脆弱化、体重減少などの問題が生じます。またマンガンが欠乏すると、ほとんどの家畜で生殖不全に陥ることが分かっていますが、ウサギの場合は情報がないため、定かではありません。
ウサギの飼料中のマンガン必要量は、成熟ウサギの場合2.5 mg/kg程度、子ウサギの場合8.5 mg/kg程度とされています。
少量でも必要な栄養素 バランスのいい摂取が大切
ウサギにとって脂質は、量は少なくとも必要なもの。ビタミン・ミネラルについてはまだ研究が進んでおらず、わからないことも多いのですが、人間同様、生きていくうえで必須であるのは確かです。人と暮らすパートナーとしてのウサギへの関心が高まれば、栄養学の研究も進むのではないかと期待されます。
現在わかっている情報で、ウサギに健康で長生きしてもらうための最善策は、たっぷりの牧草と安全なラビットフード(ペレット)を規定量与えることでしょう。
栄養学の基礎編は今回で終了です。次回からはさまざまな研究をもとに、ウサギを飼ううえで有益な情報をお伝えしていきます。
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