動物の「行動」を知れば、本当の姿と「心」が見えてくる!

ウサギの生態はまだまだ研究途上、謎に包まれた部分がたくさんあります。こちらのシリーズでは、「ウサギの行動」を読み解くことで、その不思議にせまります。

さて、ウサギを観察したことがある人はご存知かもしれませんが、ウサギはしょっちゅう口をモグモグさせています。かじり取って咀嚼する、という行動はウサギにとって重要です。

そこで今回は、ウサギの「かじる」の意味を深堀りし、ウサギが本当にかじりたいものは何か、そして、「かじる」からみた飼いウサギの環境エンリッチメントを考えてみます。
動物行動学者監修ウサギの「かじる」謎にせまる 草をはむうさぎ

ウサギはなぜかじりたくなるの?

ウサギの「かじる」という行動の理由を考えるとき、大切なポイントはです。

ウサギはすべての歯が毎日伸び続ける

ウサギの歯は、そのすべてが一生涯に渡って伸び続けますが、このような歯を「常生歯」(じょうせいし)といいます。ウサギの他には、ネズミやモルモットも常生歯の持ち主ですし、少し意外なところでは、カバもそうです。

ウサギは自然界で、草の葉や根、木の皮などの硬いものをかじりとって食べているため、歯が継続的にすり減ります。これに対応するため、歯が伸び続けるように進化したと考えられています。
動物行動学者監修ウサギの「かじる」謎にせまる うさぎの歯
常生歯をもつ動物の中でも、ウサギはちょっと特別。例えば、ハムスターやリスなどは「前歯だけ」が常生歯であるのに対し、ウサギは奥歯も含めたすべての歯が常生歯です。こんな動物は、身近では、ウサギの他にはモルモットくらいなんです。

そこでウサギは、日々、上下の歯を擦り合わせてけずり、同じ長さに保つよう、かじる・噛むことが本能的にプログラムされているわけです。

ウサギの「かじる」には、遊びやストレス解消・精神安定の役割も

ウサギがかじることには、「歯のメンテナンス」以上の意味もあります。本能的な欲求であるがゆえに、これが満たされることで幸福感につながると考えられているのです。

例えば、実験では、かじり木やワラなど、かじれる物を与えられたウサギでは、攻撃的な行動など、ストレスから起こると考えられている問題行動が減少したと報告されています。

ウサギの気持ちを想像すると「かじれるものがあるなら、かじっていたい」「ヒマがあれば、何かかじろうかな」といったところでしょうか。
かじることはウサギの歯だけではなく、精神面にも大切な役割があるのです。

もしかしたら「ちょっと確認」的な意味もあるのかも?

これは推測ですが、ウサギにとっての「かじる」には、「あれ何かな? 気になるから触ってみよう」程度の意味合いもあるのかもしれません。
動物行動学者監修ウサギの「かじる」謎にせまる image9
目の前の物に興味をもったら、ヒトはまず手で触って感触を確かめます。ヒトは、指が器用に動き、指先の感覚が発達しているから「手で触る」という行動になりますが、ウサギはそうではありません。その代わり発達しているのが、伸び続ける「歯」そして「味覚」です。

草食動物であるウサギは、植物に毒性がないかを味で判別する必要があるため、味覚が敏感に進化したとされています。舌には味を感じるセンサー「味蕾(みらい)」がありますが、その数は、猫が約500個、犬が約2000個、人間が5,000〜9,000個であるのに対し、ウサギは約17,000個。味覚がとっても鋭敏なのです。

ウサギはかじるとき、丈夫な歯で感触を、そしてついでに、舌で味も確かめているのではないでしょうか。このように考えれば、「なんでもすぐにかじる」という行動を読み解くヒントになるかもしれません。

ウサギはかじり不足だと「不正咬合(ふせいこうごう)」に

ウサギの歯は生涯伸び続けるとご説明しましたが、歯がうまく削られずに伸び過ぎてしまうと「不正咬合」になります。こうなると、口が閉じられない・うまくエサが食べられない、などの深刻な状態におちいります。
動物行動学者監修ウサギの「かじる」謎にせまる 不正咬合
飼いウサギが不正咬合になってしまったら、伸びた歯を人工的に削るという処置を受けなければなりません。特に、歯の向きがずれてしまうと、上下の歯がかみあわなくなるので、いくら噛んでも歯が自然にすり減ることはありません。定期的に通院して歯を削ってもらうという治療を一生続けなければならないのです。

不正咬合は、何よりも予防が大切だと言えるでしょう。日々かじることで歯を削るというセルフメンテナンスがウサギにとっていかに重要か、よくわかりますね。

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たとえ数日でもピンチ!?ウサギにとっての「かじり不足」

ウサギは、柔らかいエサばかり与えられていると、あっという間に「かじり不足」になってしまいます。
一説にはなんと、わずか数日の「かじり不足」でも、不正咬合のリスクが高まる、と言われているほどです。「たった数日で?」とびっくりするかもしれませんが、ウサギの歯の成長速度はとても早く、前歯に至っては1週間で約2ミリも伸びます
歯がどんどん伸び続ける一方、ウサギの口はこのようにとても小さいんです。だから、数日間、歯が削られないだけでもその影響は見過ごせません
動物行動学者監修ウサギの「かじる」謎にせまる 口元
人間である私たちだって、銀歯をかぶせて数ミリでも高さがあわなければ噛みづらいもの。人間よりもはるかに小さいウサギの口の中で毎日0.3ミリずつ歯が伸びると考えると、「あっという間に不正咬合になる」ことにもうなずけます。

かじり不足だと、ストレスもたまる

ウサギのかじり不足は、本能的な欲求が満たされないということですので、ストレスにもなりえます。
ストレスが溜まったウサギの行動として代表的なのは「自分の毛を抜く」「多飲(水をよく飲む)」「過度な毛繕い(全身を舐める)」の3つです。これらのストレスサインが見られた場合、ウサギの飼育環境を見直す必要があります。

かじり不足のウサギは、欲求不満を解消するためにケージを噛むことがよくありますが、これはおすすめできません。
動物行動学者監修ウサギの「かじる」謎にせまる ケージをかじるウサギ

ウサギがケージをかじるのはなぜダメか

「硬いケージをかじれば、歯を削るにはちょうどいいんじゃない?」と思うかもしれませんが、噛みきれない硬さのものはNGです。ウサギの歯に無理な力がかかってしまうため、不適切な方向に曲がったり折れたりして、逆に、不正咬合になってしまうおそれがあるからです。

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硬すぎるものがダメとはいえ、柔らかいエサばかりでは、やっぱりかじり不足に。加減が難しいのですね。

ところで、かじることはウサギの歯だけでなく心にとっても大切な意味がありました。ということは、「かじりたいもの」をかじった方が、本能がより満たされそうですよね。果たして、ウサギにかじりたいものの好みはあるのでしょうか?

実験!ウサギに「かじりたいものの好み」はある?

ウサギがどんなものをかじるのが好きか、について、世界中のウサギ研究者が実験を行っています。その一部をごく簡単にご紹介しましょう。

ウサギがかじる対象には「好き嫌い」があると明らかに

さまざまな種類の木から作ったかじり木をウサギに与えて、好みを調べた研究(参考文献④)があります。

実験ではまず、180羽のウサギを12のグループに分け、以下の9種類のかじり木からランダムにセレクトした3本をセットで与えて、どの木を好んでかじるのかを調べました

(1)ニセアカシア(white locust)
(2)セイヨウニワトコ(black elder)
(3)セイヨウシロヤナギ(White willow)
(4)フユボダイジュ(Little-leaf linden)
(5)オウシュウトウヒ(European larch)
(6)ポプラ(Black poplar)
(7)シラカンバ(European white birch)
(8)セイヨウトチノキ(White buckeye)
(9)マグワ(White mulberry species)
動物行動学者監修ウサギの「かじる」謎にせまる うさぎの好み実験
結果、かじられたのは(1)ニセアカシア(white locust)、(3)セイヨウシロヤナギ(White willow)、(4)フユボダイジュ(Little-leaf linden)、(6)ポプラ(Black poplar)、(8)セイヨウトチノキ(White buckeye)の5種類だけでした。

次に、上記5種類の中ではどれを一番かじりたいのかを詳しく調べるため、150羽のウサギを10のグループにわけ、これら5種のかじり木を与えてかじった量を比較しました。

すると、かじられた量がもっとも多かったのは(4)フユボダイジュ(Little-leaf linden)だとがわかりました。2番目、3番目に多かったのは(3)セイヨウシロヤナギ(White willow)、(8)セイヨウトチノキ(White buckeye)ですが、1位の(4)フユボダイジュ(Little-leaf linden)は、これらの倍以上もかじられていたのです。
動物行動学者監修ウサギの「かじる」謎にせまる うさぎの好み実験2
この実験を行った研究者は、木によってそれぞれ異なる硬さ・ニオイ・味などが、ウサギの「好み」に影響を与える、と考察しています。

最初の実験では、かじり木9種類のうち、まったくかじられなかった木が4種類ありましたし、次の実験でも、かじられた量がはっきりと異なりました。
ウサギには、個体差を超えた「好み」と、「できれば好きなものをかじりたい」という気持ちがあるのは間違いなさそうです。

(注意:今回の実験で使用された植物が、ウサギにとって安全かについては、論文中で言及されていません。特に、(1)ニセアカシア は、毒性が確認されています。ウサギ用として市販されている以外のものを、安易に与えないようにしてください)
動物行動学者監修ウサギの「かじる」謎にせまる いろいろな種類の木
ウサギを飼っている人は「かじりたいものの好み」があることをなんとなく感じているかもしれませんが、実験でもそれが証明された形ですね。もっと研究が進めば、いつか、猫にとっての「またたび」のように、ウサギの大好物も解明される日がやって来るのかもしれません。

飼いウサギのための「かじる」からみた環境エンリッチメント

環境エンリッチメントとは、豊かな飼育環境の実現により、ヒトと暮らす動物の生活の質を上げることです。環境エンリッチメントによって、動物たちは本来の状態に近い姿を見せてくれ、さらに、問題行動の減少にもつながることがわかっています。
さて、「かじる」という観点では、飼いウサギにはどんな環境エンリッチメントができるでしょうか。

自由に思い切りかじれるものを複数与える

好きな時に好きなだけかじれるものを用意してもらうと、ウサギはかじりたい欲求を満たしやすくなります。さらに、複数のアイテムをこまめにローテーションすることもポイントです。
実験では、ケージにワラを入れた直後は多くのウサギたちが近寄ってきたにもかかわらず、1時間後には、そのほとんどが興味を示さなくなったという報告もあります。それに、自然界にいるウサギは自由に選んであらゆるものをかじっているからです。
動物行動学者監修ウサギの「かじる」謎にせまるimage13

かじるためのおもちゃは「食べられるもの」にする

ウサギは、かじった際に出る破片を食べてしまうことも珍しくありません。ですから、かじれるおもちゃは、食べても安全なものを選ぶのがベストです。

このように考えると、先程の実験に登場した「かじり木」も、実は注意が必要なアイテムで、最近では飼いウサギにかじり木を与えることを避ける動きもあります
動物行動学者監修ウサギの「かじる」謎にせまる 木の断面
かじり木は、破片を飲み込んで胃腸を傷つけたり、「うっ滞」と呼ばれる消化管の詰まりを引き起こしたりする可能性が指摘されています。自然界では木の皮も食べているとはいえ、ウサギの健康までトータルで考えたときには、必ずしも木がベストとは言えない部分もあるのです。

もともとケージに入れている、おもちゃで使っていて問題がない、という場合は取り上げる必要まではないと思います。ですが、これから新しく買い与えることを検討しているのなら、かじり木は必ずしも与える必要はないことも知っておいてください。

おすすめは、牧草から作られたおもちゃ

牧草は歯を削れるうえ、飼いウサギのエサでもあるため、食べてももちろん安全です。かじる目的のおもちゃで与えるのなら、牧草から作られたものがおすすめです

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動物行動学者監修ウサギの「かじる」謎にせまる 草
牧草やワラには、かじり棒のような強度はありませんよね。「歯を削るために食べるんだから、もっと硬いものの方が適しているのでは?」と思うかもしれませんが、心配ご無用。草の細胞には「プラント・オパール」という小さいけれどとても硬い、天然のガラス質の成分が含まれているからです。

さらに、ウサギが噛んでいる様子をよく観察すると、すりつぶすように口を動かしているのが分かります。ウサギは、顎関節を不完全脱臼させることで、上の歯と下の歯をこすりつけるようにダイナミックに、かつ素早く動かせるのです。
このように、プラントオパールを含む牧草をよく噛んで食べることで、ウサギの歯は自然に削れるというわけです。

行動観察から環境エンリッチメントを始めよう

ウサギの行動がもつ意味を知ると、新たな一面が見えてきます。そして、環境エンリッチメントを実践するうえでも、動物の行動の意味を深く考えることはとても大切です。
動物行動学者監修ウサギの「かじる」謎にせまる image12
「環境エンリッチメント」というと、少し耳慣れない言葉かもしれませんが、その基本は、動物の目線に立って考える、というシンプルなものです。そして、動物たちの行動をよく観察することは、その第一歩になります。

うさぎの環境エンリッチメント協会は、飼いウサギの「ウサギらしさ」を引き出し、そして、私たち人間と楽しく活動的に暮らしていけるよう、これからも、ウサギの『生活の質=Quality of Life』の向上に役立つ情報を発信していきます。

一般社団法人 うさぎの環境エンリッチメント協会

参考文献
① Wiley Blackwell(2010). Behavior of Exotic Pets. 69-77.
② Teresa Bradley Bays, Teresa Lightfoot and Jörg Mayer(2006). Exiotic Pet Behavior. 1-44.
③ 大野瑞江著・曽我玲子監修『よくわかる ウサギの健康と病気』. 論文堂新光社. 2018年.
④ Princz Z., Orova Z., Nagy I., Jordan D., Stuhec I., Luzi F., Verga M., Szendrö Sz. 2007. Application of gnawing sticks in rabbit housing. World Rabbit Sci., 15: 29-36.
⑤ 「うさぎと暮らす」編集部編『うさぎの医学&動物病院ガイド』.株式会社マガジンランド. 2008年


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橋爪宏幸

橋爪宏幸

うさぎタイムズ編集長。 うさぎ専門店「ラビット・リンク」のオーナー。 一般社団法人うさぎの環境エンリッチメント協会 専務理事。 現在ニンゲン3人のほか、長男:ミニチュアダックスの桜花、次男ホーランドロップのカール、三男:ネザーランドドワーフの政宗、長女:ホーランドロップのミラ・ジョボビッチと暮らしている。