※当コラムは筒井孝太郎先生の監修のもと、国内外のフェレットの医学書や論文など専門的な文献を参照して執筆しています。フェレットと暮らす飼い主さんに有益で正確な情報の発信に努めていますが、記載内容は執筆時点での情報であること、すべてのケースに当てはまるわけではないことをご理解願います。
フェレットと暮らすみなさん、こんにちは。フェレット情報局編集部のつりまきです。
『浦和 動物の病院』院長・筒井孝太郎先生と一緒に、フェレットの健康管理や病気について学ぶこちらのコラム。私もフェレットと暮らしていますが、飼い主さん一人ひとりが正しい知識を持ち、日頃から細やかにフェレットを観察することが、健やかな毎日のために重要だと感じています。
第8回は、「高齢期を迎える際に知っておきたいこと」をテーマに、中年以降の病院受診の実情や、健康診断にまつわる疑問など、フェレットに関わる目線でのリアルな情報を中心にお伝えします。
関連コラム:【高齢・シニア期のフェレット】トイレ・フード・お世話のポイント
目次
フェレットの寿命のリアル 「高齢」は何歳から?
フェレットの平均寿命は5〜7年と言われています。ただし、幅広く行われた統計調査にもとづくデータではありません。
筒井「ペットショップ関係者や獣医師の先生など、多くのフェレットに接する人の間では、7歳程度まで生きるのが一般的と考えられています。
個人的には、6歳を超えたら“よく頑張ったね”、8歳ともなれば“かなりのご長寿さんだね!”といった感覚ですね。10歳を超える子にはほぼ出会ったことがありません」
フェレット専門店「フェレットリンク」のオーナー、橋爪さんも「8歳の子には数えるほどしか会ったことがない」と話します。
ペットとして暮らす動物の寿命は、食餌内容や、飼育環境の影響で変化します。イヌやネコ、ウサギのように一昔前に比べて「長寿化」が進んだ動物もいますが、フェレットの寿命は10年以上前からほぼ変化がないようです。
「最近は10歳を超えるフェレットもいる」という記述を見かけたこともありますが、10歳超えは相当なご長寿と認識しておいた方が良さそうです。
フェレットは何歳から「おじいちゃん」「おばあちゃん」? 老化が始まる年齢
人間でも、かなり若々しい60代の方もいれば、40代なのに健康診断で血管年齢は60代と言われた、なんて話を聞くこともあります。フェレットの老化も個体差が大きく、一概に「◯歳から老化が始まる」とは言えません。
とはいえ、指標がある方が、イメージも持ちやすくなります。あくまで目安ですが、人間に換算すると以下のようになります。
並べてみると、5〜7歳で寿命を迎えるのは、人間の感覚では「早すぎる」ようにも思えます。実はここに、フェレット特有の事情があるかも、と筒井先生は教えてくれました。
フェレットの「厄年」は3歳と5歳?
筒井「統計的なデータではないのですが、”老化”を実感できる年齢を迎えるより早く、何らかの病気が見つかるフェレットが少なくないと感じています。
決してフェレットが病気になりやすいわけではありませんし、私は仕事柄、病院に来る子と多く接するので、特にそう感じるのかもしれません。ただ、獣医師として診察に当たるうえで、フェレットの高齢期は病気に要注意と肝に銘じています。
だいたい、3歳と5歳頃に病気が見つかることが多いので、私はこの年齢を“フェレットさんの厄年”と位置付け、飼い主さんにも注意を呼びかけています」
筒井先生の感じていらっしゃる「3歳と5歳」での入念な健康チェックは、寿命を伸ばすターニングポイントになりそうですね。
病気に気づくには、まず、正常を知らなければなりません。3歳、4歳、5歳・・・と年齢を重ねるなか、健康なフェレットには、どういった変化が見られるのでしょうか?
【加齢で起こる変化】見逃したくない病気の兆候とは
シニア期のフェレットには、次のような変化が現れます。
・(運動能力・知覚)筋力低下、運動量の減少、視力低下
・(栄養・食事面)代謝の低下、消費エネルギーの減少、消化能力の低下、歯周疾患の増加
・(皮膚)乾燥、毛並みが悪くなる
・(過ごし方)睡眠時間の延長、活動性の低下
筒井「”あまり目が見えていないみたい” ”足腰が立たなくなった” など緩やかな老化に気付き来院される飼い主さんは少数派ですね。そうなる前に、病気を疑って連れてこられる子が多い印象です」
フェレットは生来、エネルギッシュな性格ですから、老化からくる多少の衰えはものともせずに元気に動けてしまうのかもしれません。明らかな病気になって初めて、ようやく身体の不調が飼い主さんの目に見える形で現れてくる、という背景もありそうです。
筒井「中年期以降、すべての飼い主さんに意識してほしい最も重要なポイントは、病気が見つかる確率が上がることです。
白内障・脾腫・歯周病・歯肉炎・心筋症・各種の腫瘍・悪性リンパ腫・インスリノーマ・副腎疾患・胃腸障害などが、加齢に伴ってかかる代表的な病気です。
圧倒的に多いのがインスリノーマと副腎疾患ですね。別の機会に詳しく取り上げますが、特にインスリノーマは早期から対処できれば、そうでないケースに比べて健康寿命を伸ばせる子が多いので、いち早い受診が非常に重要です」
採血やレントゲンは必要?フェレットの健康診断事情
インスリノーマ・副腎疾患は、ゆるやかに発症することも多いため、家庭では症状に気づくのも簡単ではありません。「痩せてきた」「寝ている時間が増えた」などが、老化に伴う変化ではなく病気の症状だったケースもあり、判断に迷う飼い主さんも多いかもしれませんね。
早期発見には、適切な頻度の健康診断が重要ですが、おすすめの頻度は年齢によっても異なるそうです。
病気には1日でも早く気づいてあげたいから、かかりつけ医と連携を
筒井「若い子は年に最低2回、3歳を過ぎて病気の早期発見を意識し始めたら、年に4回の定期検診をおすすめしています。
フィラリアの予防薬を投与する場合は春先に受診するので、当院ではその際、同時に身体検査も行えます。2回目以降の検診は改めて足を運んでもらう必要がありますが、フェレットは季節や換毛期で体重も増減が大きいので、定期検診は、飼い主さんの不安解消にもメリットが大きいと感じます」
筒井「健康診断で行う検査の内容はクリニックによっても異なります。当院では診察室での視診・触診、飼い主さんからのヒアリングがメインで、必要に応じて採血や画像診断を追加します」
全身をくまなく詳細に検査してほしい飼い主さんもいるかもしれませんが、フェレットの検診は人間のようにはいきません。
実は難易度高!フェレットの採血
筒井「人間の健康診断ではほぼ必須の採血も、フェレットには手軽に行えるわけではありません。脚から採血できるイヌ・ネコとは異なり、首の奥深くの太い血管に針を刺す必要があるので、暴れたら大事故につながるおそれがあります。安全に行うため、かなりしっかりと保定するので、首の皮膚に内出血を起こすこともあります。
◯歳だから血液検査をする、と機械的に決めるのではなく、症状や、家庭での様子をヒントに、飼い主さんと相談して総合的に判断しています」
客観的な指標が得られる採血ですが、メリットとリスクを天秤にかけて必要性を考えるんですね。こういったフェレット特有の事情にも精通したかかりつけの動物病院を見つけ、気軽に受診できるよう日頃から慣らしておきたいものです。
【テクニックとアイデア】高齢フェレットのためのサポート
ここからは、シニア期の生活を支える工夫をご紹介します。
フェレットは、高齢期のお世話もあまり情報が多いとは言えず、各家庭で試行錯誤するしかない部分も大きいと感じます。
「絶対にやってあげた方がいい」「◯歳になったら必須」のサポートはありません。「対処法の引き出しを増やしておく」イメージでお読みいただき、必要に応じて、その子に合った方法を考える際のヒントにしてもらえればと思います。
食餌・栄養
代謝が落ちて肥満になる子もいれば、消化・吸収能力の低下で痩せる子もいます。ある程度の体型変化は自然なことなので、獣医師の先生に相談しながら、必要に応じて給餌量を調整しましょう。
筒井「フードの銘柄を積極的に変更したり、サプリメントを追加したりする必要性は低いと考えています。食べ慣れたフードからの変更で食べなくなってしまう方が問題ですから、いつものフードを増やす・減らすことで対応するのがおすすめです。
もし、食べる量が減って痩せてきたら、原因に応じて有効な対応策も異なります。歯が弱り噛むのが負担になっているならフードをふやかす、フードに飽きて食欲が落ちているならバイトを少し混ぜる、など試してみてください」
ダックスープといった手作り食を与える飼い主さんのお話も耳にします。
ただ現在のところ、手作りフードの「主流レシピ」が存在するわけではありません。フェレットの栄養学に詳しい専門家のアドバイスを受けられるなら安心ですが、完全に手探り状態でオリジナル食を作るのはハードルが高いと思います。食べ慣れたフードをアレンジする方が現実的かもしれませんね。
筒井「食欲低下・痩せの背景に、病気が隠れているケースもあります。食欲アップ目的で甘いおやつを与える方法もありますが、インスリノーマのように、食餌内容に配慮が必要な疾患もあります。純粋な食欲不振と考えて良さそうか、念のため、獣医師の先生に相談しておくと安心です」
トイレ
筋力低下に伴い、トイレの失敗も増えます。ペットシーツや吸水性のよい布マットをトイレ周囲に敷き詰めることで、お掃除の手間が減らせます。
ただし、誤食のリスクと隣合わせですから、導入時にはフェレットが安全に過ごせそうかしっかり観察・確認してください。
トイレを寝床の近くに移動させるのも、移動の負担を和らげるのに有効です。
排泄物が身体につきやすい子も、汚れ落としのための頻回なお風呂・シャンプーは乾燥や皮膚トラブルになるのでおすすめできません。日常のケアは、濡らしたタオルで拭き取る程度にしましょう。
ケージ・生活環境
脚を引っ掛ける・転落するのを防ぐため、ケージ内を段差のないレイアウトにすると安心です。ただし、急な変更はストレスになるので、ハンモックの位置は徐々に下げ、最終的には床置きの寝袋に変えるといった具合に、配慮してあげましょう。
筒井「100%こうすべき、の正解はありません。例えば、滑って歩きにくそうだからフローリングに敷物を敷く飼い主さんもいれば、爪が引っかかって危ないから何も敷かないご家庭もあります。
清潔が保持しやすく、安全・快適に暮らせるならOKと考え、それぞれに合ったスタイルを見つけてもらえればと思います」
シニア期の元気な暮らしも、コミュニケーションが大切に
筒井先生が教えてくれた通り、フェレットの高齢期は衰える身体機能のサポートだけでなく、病気をいち早く見つけいかに上手に付き合うかも大きなテーマです。
病気の兆しを敏感に察知するために必要なのは「普段のうちの子」をよく知っていること。日頃からフェレットとのコミュニケーションをたっぷり取って、動き、表情、反応を観察すると、健康寿命を伸ばすためにもプラスに働きます。年齢を重ねるフェレットとの日々も、楽しみましょう。
【主要参考文献】
三輪 恭嗣『エキゾチック臨床シリーズ Vol.2 フェレットの診療 診療法の基礎と臨床手技』学窓社、2010年
編集:フェレット情報局 編集部
※当コラムでは、人間と暮らす多くのフェレットが健康で長生きできるよう、疾患についての情報を共有するため、情報発信を行っています。個体により状況は異なりますので、フェレットの状態で気になることがあれば、かかりつけにご相談されることをお勧めします。当コラムの内容閲覧により生じた一切のトラブルについて、浦和 動物の病院、フェレットリンク、および執筆者は責任を負いかねます。
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