※当コラムは筒井孝太郎先生の監修のもと、国内外のフェレットの医学書や論文など専門的な文献を参照して執筆しています。フェレットと暮らす飼い主さんに有益で正確な情報の発信に努めていますが、記載内容は執筆時点での情報であること、すべてのケースに当てはまるわけではないことをご理解願います。
フェレットと暮らすみなさん、こんにちは。フェレット情報局編集部のつりまきです。
『浦和 動物の病院』院長・筒井孝太郎先生と一緒に、フェレットの健康管理や病気について学ぶこちらのコラム。私もフェレットと暮らしていますが、飼い主さん一人ひとりが正しい知識を持ち、日頃から細やかにフェレットを観察することが、健やかな毎日のために重要だと感じています。
第10回のテーマは、副腎疾患。心臓・腎臓・肝臓などに比べると、なじみの薄い臓器なので、症状や治療のイメージも湧きにくいかもしれません。副腎疾患はインスリノーマと並んで、フェレットの病気ではよく見られるものですから、すべての飼い主さんに知識を持っておいてほしいと思います。筒井先生に、基礎から丁寧に教えていただきました。
目次
副腎ってどんな臓器? 病気になるとどうなるの?
副腎は腎臓の側にある、左右一対・5mm程度のごく小さな臓器です。副腎疾患では、副腎が異常に大きくなる・おでき(腫瘍)ができるなどして、正常に機能しなくなります。
副腎の機能はホルモンを分泌すること。ホルモンは、体内のさまざまな臓器に作用して働きを調整する化学物質で、生命の維持や生き物の行動における非常に重要な役割を担います。なかでも副腎は性ホルモンを作り、血液中に送り出しています。
筒井「“男性ホルモン”、“女性ホルモン”は日常生活でも耳にするかと思います。これらはフェレットの体内でも分泌されており、生殖活動をはじめ、さまざまな機能調整に関わっています。
正常な副腎は脳から指令を受けて性ホルモンを出しますが、副腎疾患になると、脳の指令を無視して性ホルモンを過剰に分泌します。結果、生殖器をはじめ、いろいろな臓器に症状が出るのです」
筒井「フェレットの副腎疾患の原因で多いのは、副腎に腫瘍ができる、もしくは、何らかの原因で副腎が大きくなりすぎる“過形成”です。
腫瘍・過形成のいずれも、徐々に大きくなっていきますから、副腎疾患は基本的にじわじわと発症します。急変して突然亡くなる・他の臓器に転移して全身に悪影響を及ぼす、といった深刻な経過をたどることは少ない病気ではあります。ただし、症状を見ていくと、放置しても大丈夫、ではないことがわかります」
フェレットの副腎疾患で出る症状
性ホルモンは生殖器の他にも、さまざまな臓器に作用します。そのため、副腎疾患で症状が出るのは生殖器だけではありません。
フェレットの副腎疾患で最も一般的な症状は、脱毛です。被毛の成長には多くのホルモンが関与しているため、性ホルモンのバランスが崩れることで毛が抜けるのです。
筒井「皮膚疾患や栄養状態の悪化、換毛など、脱毛はさまざまな原因で起こりますから、脱毛=副腎疾患ではありません。ただ、副腎疾患になると高確率で毛が抜けるのは事実です。
副腎疾患に典型的な抜け方は、しっぽの根本から脱毛がはじまり、やがて全身に広がるパターンです。左右対称に抜けることが多く、腰・背中とツルツルになり、やがて顔と手足だけに被毛が残った状態になります。季節性の換毛では通常、ここまでの抜け方をすることはありません」
脱毛は広がればかなり目立ちますから、多くの飼い主さんが異常に気づくきっかけになるといいます。
脱毛の他には、筋肉が落ちることでお腹がぽっこりと膨らんだように見える、全身を痒がる、皮脂が増加することで被毛や体臭が変化する、などの症状が出る子もいるそうです。
脱毛だけじゃない!副腎疾患で出る緊急度が高い症状
毛が抜けるだけでは、生命に関わるほどの深刻なダメージにはつながりにくそうです。しかし、被毛のコンディションが乱れると皮膚の保護機能や体温調節機能が低下しますし、何より本人は不快でしょう。さらに、副腎疾患でより深刻な症状が出る場合もあります。
筒井「性ホルモンが骨髄の働きを抑え、赤血球や白血球、出血を止める血小板を作る働きを阻害することにより、再生不良性貧血を起こす子がいます。皮膚の下に出血が起こり、紫色の斑点のように見えます。紫斑(しはん)と言い、毛が薄くなった場所で特に目立ちます。
こうなると、副腎疾患がかなり進行したサインと考えられます。すぐに受診しなければ、致命的な事態に陥りかねません」
また、生殖器は男の子と女の子では構造が違いますから、オスとメスで異なる症状が出ます。このうち、急ぎ対応が必要になるのはオスに起こる排尿困難です。
オシッコが出ないと危険 男の子の排尿困難はすぐ対処を
筒井「オスに特有の症状で見過ごせないのは排尿障害です。男性ホルモンの影響で前立腺が腫大し、尿道を圧迫するためオシッコが出にくくなります。
尿は生命活動で出た老廃物を体外に排出する非常に重要な役割を担い、尿が出せない状態が長時間続けば生命に関わります。猫は排尿が三日間、完全に止まれば、尿毒症で命を落とします。フェレットも同様に、尿が出なくなれば生命の危機が迫っていると考えてください。
おしっこが数日出ずにぐったりしている子が来院したら、即入院してもらって処置を行います」
筒井先生によると、フェレットの尿道確保は麻酔下でないと難しいケースもあるのだとか。近隣のかかりつけ医で対応してもらえるよう、オシッコが完全に出なくなる前に気づきたいところです。
筒井「排尿困難は事前に何らかの兆候が見られるケースが多いはずです。昨日まで普通に排尿できていた子が今朝から急にピタリとおしっこが出ない、というより、いつもジャーっと出ているのがチョロチョロになり、そのうちだんだん出なくなる、といったイメージですね。
フェレットは普通、2〜3時間おきに排尿します。イヌやネコに比べても、排尿の頻度が高い印象ですね。万が一、オシッコが出ていないとなれば、比較的気づきやすいかと思います」
たしかに、我が家でも放牧の際にトイレを置いておくと頻繁に出入りしています。
筒井「トイレのしつけができている子は基本的に決まった場所で排尿しますが、排尿困難になると尿を出しきれないため、あちこちで点々とおしっこをしだす場合があります。また、漏れ出した尿で陰部が濡れるので、頻繁に舐める姿が見られたり、中には排尿時、痛みで声をあげたりする子もいます。
こういったサインをきっかけに、いつもと違うぞ、と受診してくださる飼い主さんもいます」
早期発見のために、トイレをこまめにチェックする習慣をつけておきたいところです。
フェレットのトイレには、濡れても固まらないタイプの砂や、敷き込むタイプのシートなどがあり、ご家庭によって使用するトイレはさまざまです。尿量のチェックまでは難しくとも、排尿の頻度、排泄時の様子などは気にかけてあげたいものですね。
メス特有の症状 お股が腫れたら副腎疾患
続いて女の子に特有の症状は、外陰部の腫大です。
多くの生き物で、発情期を迎えたメスは外陰部が腫れぼったくなります。
一方、国内でペットとして飼育されるフェレットのほとんどは、お迎えの時点で避妊手術を済ませているので、発情期がありません。陰部が腫れぼったくなるのは、性周期にともなう生理的変化ではなく、ホルモン異常の可能性が高いそうです。
筒井「100%出る症状ではありませんが、避妊手術を受けたメスで外陰部が腫れているのを見たら、まずは副腎疾患を疑いますね。
見た目にわかりやすいので、フェレットの副腎疾患はメスの方がオスよりも早期に発見しやすいと言われています」
この他にも、個体によっては他の子にマウンティングを行う・他のフェレットの頚部を噛むといった発情行動が出たり、オス・メスともに乳頭や乳腺の腫大が見られたりするそうです。
ホルモンはごく微量で全身に大きく作用します。副腎疾患でホルモンのバランスが崩れることで、多彩な症状が出るのにもうなずけます。

フェレットに副腎疾患が多い理由
大規模な疫学的調査に基づくデータはないものの、副腎疾患は、日本・北米で飼育されるフェレットの病気ではインスリノーマと並んで罹患率が高いと言われています。
筒井「1歳未満での発症はほぼなく、3歳ごろから徐々に増えてくるイメージですね。基本的に、年齢を重ねるにつれ注意したい疾患だと考えてください」
なぜフェレットに副腎疾患が多いのか、複数の仮説が考えられています。
一つは、食餌内容に関連する説です。
アメリカや日本で飼育されるフェレットはヨーロッパのフェレットに比べると副腎疾患にかかりやすいと言われているのですが、米国や日本のフェレットは一般にペレットフードを主食にしている一方、ヨーロッパのフェレットは丸のままの小動物を給餌される子も多くいます。この食餌内容の違いが副腎疾患と関係しているのでは、と考えられているようです。
また、日本で飼育されるフェレットはアメリカのファーム出身の子が多いことから、遺伝的要素の関与を指摘する説、さらには、避妊・去勢手術との関連を疑う説もあります。
いずれも仮説で、確定的なことはわかっていませんが、筒井先生はどのように考えていますか?
筒井「個人的には、日照時間との関わりを指摘する説は一理あるのでは、と感じています。
光は、性ホルモンの分泌に影響を及ぼし、野生のイタチでは日照時間の周期で繁殖行動が起こります。
人間と生活を共にするフェレットは野生のイタチに比べるとたいてい長時間、明るい環境で過ごしています。光を浴びる時間が長くなる結果、性ホルモンが出続けてしまい副腎疾患につながる、という考え方があるのです」
筒井「過去に、思い当たる経験があります。以前、クリニックで飼育していたフェレットたちの話ですが、毎日必ず夜8時には消灯し、翌朝の8時頃まで暗い環境で過ごしていました。そうしたら、一頭も脱毛せず、副腎疾患にかからなかったのです。
もちろんこれだけで日照時間との因果関係が明らかだ、とは言えません。ただ、フェレットの副腎疾患の罹患率の高さを考えると、光を遮る対応になんらかの効果があったのでは、と感じました」
複数のフェレットに接してきたからこその感覚ですね。
原因について仮説がいくつか挙げられる中、どんな予防法が考えられるのか、後半では、副腎疾患の診断・治療などとあわせて伺います。次回に続きます。
【主要参考文献】
三輪 恭嗣『エキゾチック臨床シリーズ Vol.2 フェレットの診療 診療法の基礎と臨床手技』学窓社、2010年
編集:フェレット情報局 編集部
※当コラムでは、人間と暮らす多くのフェレットが健康で長生きできるよう、疾患についての情報を共有するため、情報発信を行っています。個体により状況は異なりますので、フェレットの状態で気になることがあれば、かかりつけにご相談されることをお勧めします。当コラムの内容閲覧により生じた一切のトラブルについて、浦和 動物の病院、フェレットリンク、および執筆者は責任を負いかねます。


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