※当コラムは筒井孝太郎先生の監修のもと、国内外のフェレットの医学書や論文など専門的な文献を参照して執筆しています。フェレットと暮らす飼い主さんに有益で正確な情報の発信に努めていますが、記載内容は執筆時点での情報であること、すべてのケースに当てはまるわけではないことをご理解願います。
フェレットと暮らすみなさん、こんにちは。フェレット情報局編集部のつりまきです。
『浦和 動物の病院』院長・筒井孝太郎先生と一緒に、フェレットの健康管理や病気について学ぶこちらのコラム。私もフェレットと暮らしていますが、飼い主さん一人ひとりが正しい知識を持ち、日頃から細やかにフェレットを観察することが、健やかな毎日のために重要だと感じています。
第11回は歯肉炎・歯周病を中心に、フェレットの歯や歯ぐきのトラブル、お口の健康を考えていきます。
目次
フェレットの歯の基礎知識:乳歯・永久歯もある 虫歯にならないのはなぜ
フェレットにも乳歯と永久歯があります。乳歯は生後3ヶ月までに永久歯に生え変わるので、ほとんどの子がお迎え時点で永久歯が揃った状態。飼い主さんがフェレットの乳歯を目にする機会はほとんどありません。
ウサギやハムスターのように歯が一生伸び続ける動物もいますが、フェレットの永久歯は一度しか生えてきません。人間同様、歯は大切にケアしていかねばならないのです。
フェレットの歯に関するトラブルには、どんなものがあるのでしょうか。
筒井「多いのは、歯周病・歯肉炎です。
歯周病は、歯ぐきやあごの骨など、歯の周辺組織に菌が繁殖して炎症を起こし、組織が徐々に破壊されていく病気です。歯周病の歯ぐきが炎症を起こした状態が歯肉炎で、悪化すれば最終的に歯を支えきれなくなり、抜け落ちてしまいます。
ちなみに、フェレットに虫歯の心配はまずありません。口腔内のpHの関係で、ヒトと同じ虫歯菌が活動するのは難しいからです。ただ、歯そのものが健康でも、歯ぐきがダメージを受ければ歯を失います。虫歯にならなくとも、歯のケアは必須です」
筒井先生のクリニックに、歯周病で来院するフェレットはどのくらいいますか?
筒井「歯のトラブルを主訴に受診する子は少数ですが、歯周病・歯肉炎のフェレットが少ないわけではありません。
診察時に口の中をチェックすると、歯周病の前段階である歯石(しせき)が付着している、軽い歯肉炎が見つかる子は非常に多いですね。
飼い主さんが気づいていなかった、治療の必要性を感じずそのままにしていたケースが大半です。
なんらかのサインはあっても、“口臭が気になる”、“歯に何かくっついている”といった程度のうちは、受診に至るきっかけが少ないのでしょう」
歯石が付着しているだけで歯周病の兆候があると考えるのは、意外に感じる人もいるかもしれません。歯周病で起こる症状を初期段階から詳しく見ていきます。

フェレットの歯周病の症状 発見のポイント
歯周病は、歯・歯ぐきの汚れ「歯垢(しこう)」が硬く変化した歯石の蓄積からスタートします。歯石の内部では細菌がどんどん増殖し、やがて歯ぐきに感染、さまざまな症状を起こします。
「ニオイ」「歯の色」日頃からチェックしたい
筒井「おもな症状は、口臭が強まる、歯石が付着し歯が黄色や茶色に見える、歯肉が腫れて出血する、よだれを垂らす、などです。
健康なフェレットの口臭は、至近距離で遊んでいる際に感じられる程度のかすかなものです。少し離れた場所でも気になるくらいニオイが強いなら、異常を疑ってください」
歯に付着した歯石は、飼い主さんが目で見てもわかりますか?
筒井「歯垢が白っぽいのに対し、歯石は時間の経過で白、黄、茶、黒の順番に色が変わっていきます。黒っぽくなった段階では飼い主さんも“何かくっついている”と気づきやすいと思います。受診時には黒くなった段階の子が多いですね」
歯周病は「口の中の病気」では済まされないことも
悪化すれば歯が抜け落ちる、とのことですが、そこまで至るケースも多いのでしょうか?
筒井「フェレットの歯周病は重度に進行することはまれで、歯が抜けてしまったり、治療で抜歯が必要になったりする重症例はイヌ・ネコに比べると多くはないですね。
とはいえ、楽観視はおすすめできません。常時、細菌感染・炎症を抱えているのは望ましい状態ではないからです。例えば、高齢や他に疾患があるなど、ベースの体力が低下した子の場合、歯周組織で増殖した病原菌が血流で全身を回り、菌血症や敗血症といった重篤なケースに発展するリスクもゼロではありません」
歯周病はゆっくり進行し、自覚症状に乏しいのが特徴です。ヒトの歯周病でも「痛くなかったのに、気づいた時には歯がグラグラに」と聞いたことがあります。わかりやすい症状が少ないからこそ、炎症が慢性化してしまうのが歯周病の怖いところですね。

フェレットの歯周病の治療 歯石を取る方法「スケーリング」はできる?
歯周病治療ではまず、細菌の感染源となる蓄積した歯石を除去します。歯石は非常に硬いので、歯磨きやガーゼでこするといった家庭でのケアでは落とせません。そこで、専門の器械を使って歯の表面を削るように歯石を取り除きますが、これを「スケーリング」といいます。
イヌやネコの歯周病ではスケーリングを行いますが、フェレットはどうでしょうか?
筒井「フェレットの歯周病治療では、スケーリングは標準的な方法として普及してはいません。
フェレットの場合、歯石を除去するには全身麻酔が必要です。一定のリスクがともないますし、フェレットへの負担も軽くはありません。そのため、食餌がとれないほどの重症でない限り、スケーリングを選択することはまれです」
よほどひどいケースでは、スケーリングに加えて抜歯を行ったり、必要に応じて抗生物質の投与なども必要だそうです。
「歯磨きが上手くできないから、歯石が溜まったらプロに取ってもらう」は難しい
歯医者さんの定期検診の際に、「歯のお掃除」として、歯石除去を受けた経験のある人もいるでしょう。人間ではさほど大掛かりな処置ではない印象がありましたが、フェレットはそうではないのですね。
筒井「口を開けたままじっとしているのは動物にとって簡単なことではありませんし、ましてや活発なフェレットですから、人間のようにはいきません。
さらに、付着した歯石をスケーリングできれいにしても、毎日の歯磨きができなければ、すぐにまた歯石が付着してしまいます。そもそも家庭での歯磨きが全くできないのであれば、頑張って行うスケーリングも“一時しのぎ”の手段にしかならないのです。
そういった点も加味すると、溜まった歯石を定期的に獣医師さんで取ってもらう、という発想は現実的ではないと思います」
フェレットの歯周病予防は歯磨き 歯石をためないコツ
予防的に歯のクリーニングや歯周組織のチェックを行う「予防歯科」の考え方が、人間では近年、浸透しつつあります。一方、愛玩動物ではそういった意識はまだ乏しい、と筒井先生はいいます。
筒井「口の中のチェックのためにクリニックを受診する飼い主さんは少数派。口臭や歯の異常を主訴に来院する子を診察すると、歯周病がある程度、進行してしまった後、ということがほとんどです」
筒井「フェレットの歯周病予防で人間と大きく異なるのは、ついてしまった歯石の除去は最終手段で、気軽に行えるものではないこと。歯石の蓄積を防ぐための家庭でのケアが非常に大切です」
正しい歯磨き方法は? 「がんばらない歯磨き」をおすすめする理由
日常的に行えるケアは歯磨きですが、筒井先生おすすめの方法はありますか?
筒井「フェレットの歯磨きは、犬猫用の小さい歯ブラシ、ウェットティッシュ状の歯磨きシート、マウスウォッシュ、綿棒などを使って行います。歯垢がつきやすい上顎の第一小臼歯と第二小臼歯の側面をしっかり磨けると良いですね。
私の知る限り、“フェレット用の歯磨きグッズ”は市販されていませんが、イヌ・ネコ用を代用できます。
ただ、やり方にはあまりこだわらなくていいと思っています。歯磨きは、毎日の継続が何よりも重要だからです。歯垢は放置するとわずか3日で歯石に変化するので、歯周病予防の歯磨きは日々続けてこそ意味があります。
活発な性格のフェレットですから、歯磨きも簡単ではないと思います。”がんばる歯磨き”では長くは続けられませんから、無理なく継続できることがともかく重要です。飼い主さんとフェレットの双方にとって負担なくできるやり方が、その子にとってベストな歯磨き方法だと思います」
幼少期から歯磨きを習慣にすることが重要だと思い、我が家でもお迎え後すぐに歯磨きを始めました。
筒井「幼い頃から慣れさせておけば、歯磨きに対して本気で噛むことは少なくなると思いますから、良いやり方だと思います。
でも、大人になってから歯磨きを覚えるのは無理、と諦めることはありません。柔軟に受け入れることが難しくなる傾向はあれど、”しつけ”は何歳でも始められます。
イヌ・ネコでは、まず口の周りに触れることに慣れさせるところから始め、歯磨きシートを口の中に入れる、歯ブラシで磨く、と徐々に進めていきます。歯磨き習慣のない子も、できる範囲から試みてみましょう」
歯磨きがどうしても難しい場合は、どうしたらいいでしょうか?
筒井「歯垢のつきにくいフード選びを心掛ける、歯垢除去機能のあるおやつやおもちゃを与える、などの工夫ができます。
ウェットフードを食べるフェレットは歯垢がつきやすく、歯肉炎になりやすいとされています。野生で暮らす肉食動物は獲物を丸ごと嚙み切る際に歯の汚れが自然と取り除かれますが、飼育下ではそうはいきません。
ドライフードを与えるご家庭が多いかと思いますが、手作りのフードもプラスしている、ダックスープをおやつにあげている、といったケースは注意が必要です。
なお、歯垢除去機能をうたったおやつや、かじって遊べるおもちゃで、“フェレット用”として販売されているものはほとんどありません。イヌ・ネコ用を使う場合は、安全管理に十分気をつけてください」
我が家ではこうしています リアルなフェレットの歯磨き事情
ちなみに我が家の歯磨きは、毎日、寝る前に行うようにしています。歯ブラシは犬猫用のものだと大きく、急に動いたりすると危ないので、シートタイプを使用しています。
指に巻きつけて歯を優しくこすります。口に指を入れるため、噛まれることは今もありますが、うちの子は、慣れているので本気では噛んでいないと思います。
最初は前の方だけで、徐々に奥まで磨けるようにしていきました。この写真は、取れた汚れです。
今回、筒井先生に詳しく伺うことで、日々の歯磨きの重要性を改めて実感しました。何よりも継続が重要とのこと、「無理ない歯磨き」を一番に、これからも続けていこうと思います。
【主要参考文献】
三輪 恭嗣『エキゾチック臨床シリーズ Vol.2 フェレットの診療 診療法の基礎と臨床手技』学窓社、2010年
編集:フェレット情報局 編集部
※当コラムでは、人間と暮らす多くのフェレットが健康で長生きできるよう、疾患についての情報を共有するため、情報発信を行っています。個体により状況は異なりますので、フェレットの状態で気になることがあれば、かかりつけにご相談されることをお勧めします。当コラムの内容閲覧により生じた一切のトラブルについて、浦和 動物の病院、フェレットリンク、および執筆者は責任を負いかねます。


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