※当コラムは筒井孝太郎先生の監修のもと、国内外のフェレットの医学書や論文など専門的な文献を参照して執筆しています。フェレットと暮らす飼い主さんに有益で正確な情報の発信に努めていますが、記載内容は執筆時点での情報であること、すべてのケースに当てはまるわけではないことをご理解願います。

フェレットと暮らす飼い主のみなさん、こんにちは。フェレット情報局編集部のつりまきです。
『浦和 動物の病院』院長・筒井孝太郎先生と一緒に、フェレットの健康管理や病気について学ぶこちらのコラム。私もフェレットと暮らしていますが、飼い主さん一人ひとりが正しい知識を持ち、日頃から細やかにフェレットを観察することが、健やかな暮らしのために重要だと感じています。

第3回のテーマは、フードの選び方です。
フェレットに健康で長生きしてもらうために知っておきたい消化管の特徴必要な栄養素を確認しつつ、フード選びの際に考えたいポイントをお伝えします。
飼い主さんを見つめるフェレットー獣医師監修フェレットの医療(3)フードの選び方【必要な栄養からおすすめまで】
今回は、フェレット情報局の橋爪宏幸編集長も参加。皆で、フェレットにとってより良い食餌について考えていきましょう。

フェレットにとっての理想的な栄養バランスとは

人間と一緒に暮らすフェレットの多くが、市販のドライフード(ペレット)を与えられています。フェレットは本来、どんなものを食べているのでしょうか。

筒井「“野生のフェレット”は存在しませんが、よく似た体の特徴を持つ野生動物がヨーロッパケナガイタチで、フェレットはヨーロッパケナガイタチを品種改良して生まれました。ヨーロッパケナガイタチは完全な肉食動物で、小動物や昆虫などを食べて暮らしています。
フェレットにも本来の食性にあった食べ物を、とお肉のみで育てる飼い主さんもいらっしゃいます。

ただ、ペットのフェレットの栄養学は発展途上。野生に近い食餌が健康寿命を伸ばすためにベストかというと、まだ十分に解明されていない部分もあります。
それに、野生動物が肉食だといっても、スーパーで売られているようなもも肉やロース肉だけを食べているわけではありません。肉食獣は肉だけではなく、草食動物の内臓も一緒に食べることで、草食動物が消化している繊維質も摂っています。野生とまったく同じ食餌を家庭で提供するのは簡単ではないんです。

ドライフードは、栄養価が計算されており、与えやすく、衛生管理もしやすいという観点から、バランスが良くスタンダードな選択肢です」

国内・海外でさまざまなメーカーがフェレットフードを販売しています。成分表示を確認し、必要な栄養素を満たせるよう設計されたフードを選ぶことが重要です。

フェレットに必要な栄養の「基準」はあるの?

フェレットにとってどんな栄養がどのくらい必要か、どう調べれば良いのでしょうか?

橋爪「ペットの栄養学についての取り組みが日本よりも盛んな海外では、AAFCO(全米飼料検査官協会)やFEDIAF(欧州ペットフード工業会連合)といった専門機関があります。これらの機関が、主にキャットフード・ドッグフードに関して、栄養基準や製造のガイドラインを発表しているんです。

また日本でも、「愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律」(通称「ペットフード安全法」)が定められ、それらに合わないものの製造は禁止されています。しかし、こちらも対象としているのはキャットフード・ドッグフードだけで、フェレットフードは適用外です。
つまり、フェレットに必要な栄養成分の数値について統一的なデータは現在のところ存在せず、フェレットフードの製造ルールも完全には定まっていない状況です」
フードを食べるフェレットー獣医師監修フェレットの医療(3)フードの選び方【必要な栄養からおすすめまで】
各メーカーの努力により、フェレットに適したバランスの栄養素を配合した製品が数多く開発されています。しかし、フェレットの飼育頭数はまだまだ少なく、フェレットの栄養学の研究が盛んとは言えない現状も考慮すると、飼い主さんがしっかりとフード選びの基準を持つことが大切ですね。

フェレットのフード選びで必ずチェックしたい栄養成分と3つの要素

フェレットにとって理想的な栄養素の具体的な数値には、諸説あります。
目安として、日本ペット栄養学会が発行する「日本ペット栄養学会誌」に2016年に発表された論文(※)に掲載されている数値をご紹介します。

フェレットに必要な栄養素

タンパク質(粗タンパク)・・・32〜38%
脂肪(粗脂肪)・・・20〜30%
繊維質(粗繊維)・・・2〜3%以下

※参考文献:霍野 晋吉(2016)「エキゾチックアニマルの栄養学――4 .フェレット」『日本ペット栄養学会誌』19巻1号 pp.27-32

あくまでも一例ですが、参考にしていただける数値だと思います。
ただ、これらの基準値が満たされていても、それだけで良いフードとは判断できません。完全肉食という食性を考え、以下の3ポイントも押さえておきましょう。

フード選びのポイント3つ

(1)消化しやすい動物性タンパク質が豊富に含まれる
(2)主なカロリー源が脂肪である
(3)炭水化物(糖質・繊維質)をほとんど含まない

効率よくスピーディーに吸収できる「動物性タンパク質」がキーワード

筒井「フェレットは肉食ですから、タンパク質と脂肪をたっぷり与えることが基本です。
タンパク質には大豆や小麦由来の植物性と、肉・魚・乳製品などに由来する動物性タンパク質があり、フェレットに必要なのは動物性タンパク質です。

動物性タンパク質が不足したり、植物性タンパク質が過剰になったりすると、尿のアルカリ化など全身のさまざまな問題につながる可能性が指摘されています」
鶏肉ー獣医師監修フェレットの医療(3)フードの選び方【必要な栄養からおすすめまで】
フェレットの栄養を考える際には、同じ肉食動物であるネコの栄養学が参考にされることが多いのですが、フェレットは、食べたものが排泄されるまでの時間がネコよりも短いのが特徴です。したがって、フェレットフードは消化・吸収のしやすさにおいて、よりすぐれている必要があり、一般的なキャットフードよりも高タンパク・高脂肪が重視されると言います。

筒井「フェレットは消化に時間のかかる食べ物からは、十分に栄養を吸収できません。野菜に多く含まれる繊維質や、植物性タンパク質は、ゆっくり消化されるのでフェレットには適しません。欲しがっても与えすぎないようにしてください。
また、炭水化物のとり過ぎも、下痢や腫瘍化の原因になる可能性が指摘されているので、避けたいところです」

特にでんぷん(炭水化物の一種)は、フードを成形する過程で「つなぎ」として使用されることが多い成分です。「摂りすぎ」に陥らないよう、含有量の少ないものを選びたいですね。

ちなみに、雑食である犬用のドッグフードには炭水化物が多く含まれるので、フェレットに与えるべきではありません。

フェレットフード特有!忘れてはいけない「安定供給」の視点

フェレットのフード選びでは栄養価に加えて「安定して購入できるか」も重視する必要があります。

橋爪「フェレットフードは、キャットフードやドッグフードに比べると選択肢が限られがちです。ペットフードの基準が厳しく、高品質なものを求め、フェレット飼育がさかんな国外製造品を与えるケースもありますが、輸入となると、流通の影響を受けて欠品が避けられない時があります」

そこで問題になるのが、フードを突然変更すると、食べてくれないフェレットが多いことです。

筒井「フェレットは幼い頃に覚えた味を生涯好む傾向があります。同じものばかりで飽きないの?と思うかもしれませんが、食べ慣れた味が一番おいしく感じるようです。
つまり、欠品や廃盤・リニューアルでいつものフードが手に入らなくなった際、他のフードを与えても、すんなり食べてくれるとは限りません」

そこで、入手のしやすさや安定供給もフード選びの重要なポイントになってくるわけです。
フードボウルとフェレットー獣医師監修フェレットの医療(3)フードの選び方【必要な栄養からおすすめまで】
品切れに備えて、若齢の頃から日常的に複数種類のフードを与えて、食べ慣らしておく方法があります。我が家でも、いくつかのパッケージを用意して日替わりで与えています。

橋爪「フェレット・リンクでは、フェレットの食性に合った高品質の3種類の仔猫用フードをブレンドしてパッケージ販売しています。これは普段から大量に仕入れて在庫を確保しておくことで、輸入が滞って品薄になっても店頭で安定して販売が続けられるようにするためです。また、3種類のフードのどれか1つが欠品してしまっても、輸入が再開されるまでの間、残りの2種類で食いつなぎ、焦らずに輸入の再開を待つことができるようにするためです。
昔からフェレットを飼育されている方は、幾度もフードの欠品や廃番を経験し、その都度食べてくれるフェレットフード探しに奔走してきた経験を持っていらっしゃいます。この販売方法は、不安定な高品質フードを安定して提供するために考えたひとつの方法です」

デンタルケア効果は必要?高齢になったらどうする?フード選びの疑問

ドッグフードでは歯垢除去作用をうたった製品もあるようです。フェレットフードでも、虫歯予防の観点は必要でしょうか?

筒井「動物は、口の中のphが人間とは異なるので、虫歯になるリスクは低いと言われてます。気をつけたいのは歯石の蓄積からくる歯周病で、その意味ではフェレットも歯のケアが必要です。
ただ、ウェットフードに比べると、ドライフードは歯垢がつきにくいとされています。ドライフードであればどれを選んでも、ある程度の効果はあるかと思います」

橋爪「最近では、多様なフードやトリーツが登場してきてることもあり、フェレットもデンタルケアの必要性が注目されてきています。歯のケア方法についてのご相談も増えています。
歯石除去効果をうたったフードやおやつもあるので、まったく歯磨きができないケースでは、検討しても良いかもしれません」

2人とも「あくまで安定して与え続けられることが前提」と語ります。デンタルケア機能のある商品は多くはありません。それだけしか受け付けない、となってはフードとして本末転倒ですから、「供給の安定性」を優先のうえ判断しましょう。
フェレットの歯ー獣医師監修フェレットの医療(3)フードの選び方【必要な栄養からおすすめまで】
シニア用のフードも見かけますが、年齢を重ねたら、フードの変更は必要でしょうか?

筒井「なんらかの疾患がある場合を除いて、基本的には、年齢に応じたフードの変更は必要ないと考えています。高齢になると運動量・基礎代謝の減少などにより消費カロリーが減って太るケースもありますし、逆に、消化・吸収能力の低下により体重が落ちる子もいます。

ただ、フード変更を受けつけない子が多いことから考えても、シニア用フードに変える必要性は薄いと思います。カロリーの調整なら、食べ慣れたペレットのまま、量の増減で対応するのがおすすめです」

フェレットは自ら食べる量をコントロールできるので、フードは「食べ放題スタイル」が基本ですが、肥満傾向があれば与えるフードの量を減らしましょう。
痩せてきた場合は、原因に応じて対応も変わります。加齢にともない歯や顎が弱って咀嚼力が落ちてきた・食欲が減ってきたなら、フードをお湯でふやかして食べやすくする、ダックスープ(流動食)を与える方法もあります。体調不良の可能性も考え、念のため受診しておくと安心ですね。

「うちの子」にあったフェレットフードで、健康・長生きを

現時点でベストと思われる栄養成分に近い市販品を与えるのが前提ですが、健康状態や体質には個体差もあります。どのフードを選んでも、毎日の様子をよく観察し、定期的に健康診断を受けて体重の増減や体調をチェックしてあげるのが大切です。

どんな生き物も、食べたものでしか身体は作られません。自分で選べないフェレットに、最適な食餌を用意してあげるのは飼い主さんの責任です。フェレットの栄養についての知識を身につけ、元気いっぱいの毎日をサポートしてあげましょう。

【主要参考文献】
三輪 恭嗣『エキゾチック臨床シリーズ Vol.2 フェレットの診療 診療法の基礎と臨床手技』学窓社、2010年
霍野 晋吉「エキゾチックアニマルの栄養学――4 .フェレット」『日本ペット栄養学会誌』19巻1号 pp.27-32、2016年

編集:フェレット情報局 編集部

※当コラムでは、人間と暮らす多くのフェレットが健康で長生きできるよう、疾患についての情報を共有するため、情報発信を行っています。個体により状況は異なりますので、フェレットの状態で気になることがあれば、かかりつけにご相談されることをお勧めします。
当コラムの内容閲覧により生じた一切のトラブルについて、浦和 動物の病院、フェレットリンク、および執筆者は責任を負いかねます。


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フェレット情報局編集部員。獣医師免許を取得後、動物に関連するお仕事に幅広く携わる。フェレットに魅せられ、現在はフェレットの魅力発信活動に邁進。プライベートでは天然マイペースなフェレット・おこげさんと暮らしている。「マンガで学ぶフェレットとの暮らし方」連載中。