※当コラムは筒井孝太郎先生の監修のもと、国内外のフェレットの医学書や論文など専門的な文献を参照して執筆しています。フェレットと暮らす飼い主さんに有益で正確な情報の発信に努めていますが、記載内容は執筆時点での情報であること、すべてのケースに当てはまるわけではないことをご理解願います。
フェレットと暮らすみなさん、こんにちは。フェレット情報局編集部のつりまきです。
『浦和 動物の病院』院長・筒井孝太郎先生と一緒に、フェレットの健康管理や病気について学ぶこちらのコラム。私もフェレットと暮らしていますが、飼い主さん一人ひとりが正しい知識を持ち、日頃から細やかにフェレットを観察することが、健やかな毎日のために重要だと感じています。
第5回のテーマは、フェレットによく見られる「耳ダニ」。ご存知の飼い主さんも多いかもしれません。一緒に、耳掃除にまつわる疑問も取り上げます。
目次
フェレットに多い!耳ダニ寄生 人間にもうつる?
耳ダニとは、耳の穴(外耳道)の皮膚に寄生する虫で、正式名称はミミヒゼンダニ。成虫でも0.3〜0.5㎜と、肉眼ではほとんど見えないサイズです。
筒井「耳ダニはおもに耳垢を餌にしています。ただし、耳垢が溜まっているから寄生されやすいわけではありません。あくまで、耳ダニに寄生された他の個体から耳ダニをもらうことで寄生が成立します。
耳以外の部位に耳ダニがつくのはまれで、人間に寄生する心配も、基本的にありません」
筒井「耳ダニは主に、耳ダニに寄生された動物間の身体的な接触で広がりますが、中には、寄生された動物と直接触れあわなくとも、同じ環境を共有しただけでうつる場合もあります。
耳ダニは、動物の身体から離れても生存し、感染力が強いのが特徴です。そのため、寄生された個体が遊んでいた同じ部屋で遊んだらうつった、ということも起こるんです」
フェレットの耳ダニ寄生率は高い
ミミヒゼンダニは、イヌやネコにも共通の寄生虫症ですが、フェレットの寄生率は、イヌやネコに比べて高いそうです。
筒井「当院に来院されるフェレットのうち、耳ダニに寄生されている子はけっこうな割合を占めます。
飼っているイヌやネコからフェレットにうつるケースもあるとは思いますが、耳ダニは、お迎え直後のフェレットにもよく見つかります。多くのケースでは、ファームにいる時点から寄生されているのかもしれません。
耳ダニは、感染力が強い上、寄生されてもすぐには症状が出ない子もいます。ファームやショップで気をつけていても、発見がなかなか難しいのだと思います」
耳ダニがいるときの耳垢の特徴【耳ダニ寄生の症状】
耳ダニに寄生されたフェレットに出る主症状は、大量の耳垢と、かゆみだそうです。
筒井「かゆみの程度は個体差がありますが、私の印象では、相当かゆがる子が多いですね。後ろ足で耳をかく仕草が頻繁に見られたら要注意。強くかきすぎて傷になる場合もあります。眠っている最中にも飛び起きたり、食欲がなくなったりする子もいるんですよ。
耳の中を常時、小さな虫がガサガサと動き回っている状況は、非常に不快だろうと思います」
耳垢は、黒〜茶褐色のものがたくさん出る、と聞きますが、耳ダニがいない健康な子でも、似たような色の耳垢が出ます。
耳垢の状態から耳ダニ寄生を見分けるポイントはありますか?
筒井「耳垢の性状と量に着目してみてください。
通常、フェレットの耳垢はペタペタと綿棒にくっつきます。もし乾燥したカサカサの耳垢が大量に出ているなら、耳ダニ寄生を疑います。
フェレットの耳にかさぶたがくっついていると思ったら、耳ダニ寄生による乾燥した耳垢だった、そんなことがあってもおかしくありません」
放置すると「かゆみ」だけでは済まなくなるおそれ
耳ダニに寄生されたまま過ごしていると、やがて、細菌の二次感染を起こしたり、外耳炎、中耳炎、内耳炎になったりする恐れもあるそうです。
筒井「ダニが自然にいなくなるとは考えづらいので、治療しない限り寄生は続くでしょう。
かゆみの強い子の場合、頭をブルブルと激しく振ります。その遠心力で耳たぶの軟骨周囲の血管が切れ、耳の皮と軟骨の間に血が溜まる耳血腫(じけっしゅ)になることもあります」
耳血腫まで至るケースはまれだとは言いますが、かゆみは大きなストレスですから、早めに対処してあげたいところです。
耳ダニの診断はどうする?「いない」証明は難しい
耳垢を顕微鏡で見て、虫体が見つかれば耳ダニの確定診断ができます。ただし、寄生している虫の量が少ないと、検査では発見できないことがあるのだとか。
筒井「ダニが見つからなくとも、寄生されていない証明にはなりません。顕微鏡で覗いた範囲には、たまたま一匹もいなかっただけで、耳の穴の中の他の場所に潜んでいる可能性があるからです。
ですから、検査でダニが見つからなくとも、症状があれば寄生を疑います」
耳ダニ治療はお薬で 放置は厳禁
耳ダニの治療は、薬によるダニの駆除が基本です。
筒井「私がよく使う治療薬は、背中に垂らす滴下薬のセラメクチンです。
フィラリア予防の効果もあるので、フィラリア予防も同時に希望される方にはおすすめしています」
お薬は成虫にしか効果がないので、投与の時点で卵だったダニは、卵からかえった後に再度、薬で駆除する必要があります。
ただ、お薬は1回の投与で1ヶ月間、効果が続くので、寄生されてすぐの虫体の数が少ない段階なら、1回の投与で終了できることもあるのだとか。
早めに対処できれば治療も早く済むのは、意識しておきたいところです。
耳ダニは「疑わしい」なら治療する 虫の数が増えてからでは駆除が大変に
筒井「耳ダニには検査で必ず発見できるとは限らないので、疑わしいケースでは、寄生されている前提で治療を開始することもあります。また、目立った症状はないが念のためチェックしたら耳ダニが見つかったケースも、無症状だから駆除不要とはせず、治療対象と説明しています。
耳ダニの寄生を放置すると、飼育環境にダニや卵が散らばります。将来的に治療を開始した際、フェレット本人についたダニはお薬ですぐ退治できても、飼育環境に生息しているダニに繰り返し寄生され、結果的になかなか症状がおさまらない事態にもつながりかねません」
筒井「フェレットの耳ダニ駆除は、薬の副作用のリスクが特別高いわけではありません。積極的な治療に大きなデメリットがなく、早期に対応しておくメリットの方が大きいので、基本的に治療をおすすめしています」
耳ダニが増殖し、飼育環境に居着いてしまうと、頻繁な掃除や消毒が必要になります。目に見えない虫の駆除は思った以上に手間がかかると言います。
筒井「飼い主さんには、寝床、ハンモックなどフェレットが直接触れる飼育用品について、定期的に、70度以上の熱湯で消毒するように伝えています。ケージは週1回程度の消毒がおすすめです。
人間に負担がかかりすぎない範囲でダニの個体数を減らして、生活サイクルを途切れさせるまで継続します」
滴下タイプのお薬の場合、使用して数日はお風呂に入れない方が良いそうですが、それ以外に特に生活の制限もありませんでした。滴下タイプはフェレットへの負担も少なく、使いやすいと個人的にも感じます。
【耳ダニの予防】耳掃除で定期的な状態チェックを
耳ダニを予防するポイントはあるのでしょうか?
筒井「寄生率の高さを考えると、お迎えしたら早めの段階で動物病院を受診し、耳ダニがいないか確かめるようおすすめします。多頭飼育で新しい子をお迎えしたら、先住の子と引き合わせる前に、寄生されていないと確認しておきたいですね。
他のフェレットとよく交流する子は、寄生の兆候がないか注意して観察してあげてください」
耳掃除の理想の頻度は? 耳ダニ予防の効果はある?
耳垢が溜まると、耳ダニや悪臭の原因になる、と聞きます。耳ダニの予防のための耳掃除は必要でしょうか?
筒井「獣医師の先生によるかもしれませんが、私は、耳掃除では耳ダニの寄生を減らしたり、予防できたりしないと考えます。耳垢を餌にするとはいえ、耳垢から自然にダニが発生するわけではなく、あくまで、寄生された個体との接触が前提だからです。
また、耳掃除はフェレットにも飼い主さんにも負担です。どんな動物も耳掃除を嫌がりますが、フェレットはアクティブに動き回りたがりますから、ケアの際の保定が特に大変な動物だと感じます。無理に耳掃除をすると事故につながるリスクが高く、おすすめできません」
フェレットの耳掃除は週に1度、月に1度など、さまざまな説があるようです。近頃は、人間でも耳掃除は不要と聞きますが、フェレットも同様でしょうか?
筒井「よっぽどのことがない限り、耳掃除はしなくても大丈夫です。耳垢は基本的に、自然に耳の外に出ていくようにできていますから、健康な子には耳掃除は必要ないと思います。
例えば週に1度は耳掃除が必要なくらい耳垢やニオイが気になるなら、外耳炎や、耳ダニといった疾患を疑った方がいいと思います。もしかしたら、耳掃除のしすぎで耳穴の皮膚が荒れ、分泌物が出るのを耳垢が増えたように感じている可能性もあります。
いずれにせよ、耳掃除ではなく、受診をおすすめします」
耳掃除は「耳の状態の定期チェックのため」と考えて
ただし、耳掃除にまったくメリットがないわけではありません。耳の「正常」を知り、定期的に耳の状態を確認すると、耳垢が多すぎる・ニオイや色がいつもと違うといったサインにも気づきやすくなります。
1〜2ヶ月に1回程度は、耳掃除の機会を持ち、耳の状態をチェックしてあげると良いそうです。専用の洗浄液(クリーナー)を耳に垂らして揉むようにゆすぎ、耳たぶの外側に浮き出た汚れをコットンやタオルで拭き取る程度が、ケガのリスクも少なく安全だと言います。
自宅では難しい場合は、ショップや動物病院に相談してみるといいですよ。
フェレットの耳垢は人間と違って褐色で目立つため、耳掃除の後は「こんなに取れた感」がありますよね。私も、うちの子の耳掃除をついがんばりたくなってしまいます。あくまでも、耳掃除=耳の状態を定期的にチェックするためと考え、耳垢除去の深追いはしないでおこうと思いました。
耳ダニは放置厳禁 早期発見・治療が重要だと知って
生命を脅かすことのない耳ダニは、緊急性が低いように感じられるかもしれません。しかし、フェレットのQOL(Quolity of Life=生活の質)を考えてみると、決して、のんびり構えていて良い病気ではないとわかります。
筒井「痛みはなんとか耐えられても、かゆみは我慢しようがありません。非常に不快で、生活の質を大きく低下させます。
体中を小さい虫が這い回るのを想像するとゾクっとしますよね。耳の中で常時、小さいダニがガサガサ動き回っているのですから、不快感は並大抵のものではありません。明らかな症状がなくても、最初に予防的に治療薬を使用することをおすすめいたします」
お迎え後には早めの受診、そして、日々のケアや何気ない触れ合いの際には耳の様子のチェックを心がけていただければと思います。
【主要参考文献】
三輪 恭嗣『エキゾチック臨床シリーズ Vol.2 フェレットの診療 診療法の基礎と臨床手技』学窓社、2010年
編集:フェレット情報局 編集部
※当コラムでは、人間と暮らす多くのフェレットが健康で長生きできるよう、疾患についての情報を共有するため、情報発信を行っています。個体により状況は異なりますので、フェレットの状態で気になることがあれば、かかりつけにご相談されることをお勧めします。当コラムの内容閲覧により生じた一切のトラブルについて、浦和 動物の病院、フェレットリンク、および執筆者は責任を負いかねます。
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