※当コラムは筒井孝太郎先生の監修のもと、国内外のフェレットの医学書や論文など専門的な文献を参照して執筆しています。フェレットと暮らす飼い主さんに有益で正確な情報の発信に努めていますが、記載内容は執筆時点での情報であること、すべてのケースに当てはまるわけではないことをご理解願います。

フェレットと暮らす飼い主のみなさん、こんにちは。フェレット情報局編集部のつりまきです。
フェレット情報局では、フェレットの生態・お世話の仕方について、発信してきました。今回から、フェレットの健康管理や病気について学んでいく企画を始めます。

日本ではまだ「珍しいペット」のフェレット。気軽に相談できるクリニックになかなか出会えない、とお困りの方もいるかもしれません。飼い主さん自身が正しい知識を持ち、日頃から細やかにフェレットを観察することが、健やかな暮らしにつながります。

このコラムでは、浦和 動物の病院の院長・筒井孝太郎先生にお話を伺い、その内容を飼い主さんにわかりやすく伝えていきます。

『浦和 動物の病院』は、小動物・エキゾチックアニマルなど幅広く診療するクリニックです。治療や日常のケアに加えて漢方診療も取り入れ、コンパニオンアニマルの心身の健康維持に取り組んでいます。「ひげめがね先生」として飼い主さんと動物たちから慕われる筒井先生は、お話上手で、小さな疑問にもじっくり向き合い丁寧に答えてくださいます。

さて前置きが長くなりましたが、初回のテーマは、ジステンパーのワクチン接種です。
「家から連れ出さなければ接種しなくもていい?」「副反応が心配」「高齢になってきたけど、何歳まで接種を続けるべき?」などの疑問に答えつつ、ワクチン接種のスケジュールの考え方や、接種にあたって知っておきたいことなどをお伝えします。

大人のフェレット_抗体価のイメージ_獣医師監修フェレットの医療(1)ジステンパーワクチン 接種は必要?

ジステンパーってどんな病気?

ジステンパー(犬ジステンパー)は、イヌやキツネに共通の感染症で、フェレットにも感染します。
感染後すぐあらわれるのは、高熱、呼吸器の異常、下痢嘔吐、脱力、脱水などの症状です。慢性的な経過をたどると、やがて神経症状(運動失調・斜頸)、皮膚炎、肉球が固くなるなどの症状が出現します。
ジステンパーの怖いところは、有効な治療方法がなく、感染すると致死率は100%であること。接触感染・飛沫感染・空気感染で広がり、感染力も強いとされています。

ジステンパーはワクチンで予防できる

ジステンパーのワクチン接種では、弱毒化させた少量のジステンパーウイルスを体に注入し、抗体を作って免疫を獲得します。

筒井「イヌの予防接種では必ずと言っていいほど接種される、とてもベーシックなワクチンです。
ワクチンは感染を100%予防するのではなく、症状を大幅に軽減するためのもの。人間のインフルエンザの予防接種をイメージするとわかりやすいかもしれませんね。
ただ、感染したフェレットの致死率は100%と報告されていることを考慮すると、フェレットにジステンパーワクチンを接種させる意義は大きいと言えます」

フェレット「専用」は日本では手に入らない!ジステンパーのワクチン事情

日本国内に、フェレット用に作られたジステンパーのワクチンはありません。海外では使用されていますが、法律の関係で日本には輸入できないんです。
日本のフェレットがジステンパーの予防接種を受けるには、イヌ用を代用することになります。

イヌ用をフェレットに使用して問題ないの?

筒井「フェレットとイヌ、別種の生き物に対して同じワクチンを使用しても安全かについては、専門家の間でも意見が分かれるところで、100%大丈夫とは言い切れません。しかし、実際にはほぼ問題がないので、イヌ用がフェレットにも使われています。
ただし、適用外の使用であることは理解しておく必要があります」

ネコとイヌ、フェレットなど_獣医師監修フェレットの医療(1)ジステンパーワクチン 接種は必要?

フェレットが接種することの多いジステンパーのワクチン

イヌ用のジステンパーワクチンには複数の種類がありますが、ジステンパーだけのワクチンは入手困難です。他のワクチンをミックスした「2種混合」「5種混合」などを接種することになります。
フェレットのジステンパーワクチンとして使用されることが多いのは、2種混合ワクチンですが、どのワクチンを接種するかは獣医師さんによって異なるのだそうです。

「余計なものを入れたくない」から2種混合ワクチンを選ぶという考え方

筒井「イヌ用の2種混合ワクチン、5種混合ワクチン、8種混合ワクチンを接種しても、フェレットがジステンパー以外の病気に対する抵抗力を獲得できるわけではありません。あくまで目的はジステンパーを防ぐこと。必要最低限のものだけを体に入れる、という意味では2種混合ワクチンがフェレットにとって負担がもっとも少ないと言えるでしょう。

ただ、2種混合ワクチンはイヌに接種させる機会も少ないため、扱っているクリニックは多くはありません。動物病院によっては5種混合・8種混合しか接種できない、というケースもあるでしょう。複数種類のワクチンを接種させることが必ずしもNGというわけではありません。個々の事情を考慮のうえリスクとメリットを天秤にかけて判断しますから、獣医師の先生とよく相談することが大切です」

フェレットのジステンパーワクチンは何回接種?接種ルールの基本

フェレットのジステンパーワクチンは、1歳未満では計3回(1回目=生後6〜8週、2回目=生後10〜12週、生後3回目=13〜14週)、その後は毎年1回(1歳で接種した3回目から1年後を目安)の接種がのぞましいとされています。

接種スケジュール_獣医師監修フェレットの医療(1)ジステンパーワクチン 接種は必要?
ただし、これはあくまで目安で、この時期を過ぎたら接種ができない・接種しても免疫が全く獲得できないわけではないそうです。

筒井「免疫反応には個体差がありますし、免疫システムとワクチン接種について、まだ完全には解明されていない部分もあります。適切な接種時期・回数については、獣医師の先生によってもさまざまな考え方があることも知っておいてください」

いつ接種するのがベスト?接種スケジュールの考え方

免疫獲得の仕組みを知っておくと、ワクチン接種のルールを理解しやすくなります。少し専門的な話になるのですが、と前置きして、筒井先生が詳しく説明してくれました。

筒井「フェレットをジステンパーから守ってくれるのは、体内に作られる抗体の働きです。
フェレットの赤ちゃんは、母乳を飲むことでお母さんから移行抗体を譲り受けます。移行抗体は生後すぐの赤ちゃんを伝染病から守ってくれますが、生後2ヶ月頃には減少していきます。そこで、お母さんからもらった移行抗体が消え去る前にワクチンを接種するのが良いでしょう」

抗体量の変化のイメージ_獣医師監修フェレットの医療(1)ジステンパーワクチン 接種は必要?

筒井「ただし、接種は早ければいい、というものでもないんです。実は、移行抗体が機能している状態でワクチン接種をしても十分な免疫をつけられません。つまり、生後2ヶ月以降にワクチンを接種することが望ましいでしょう」

移行抗体は徐々に低下していき、どのタイミングで完全に消失するか特定は困難だとか。
そこで、1回目の接種は移行抗体が減少してきている生後2ヶ月以降で行い、移行抗体が減少したタイミングで2回目・3回目を行う、という考え方で、先ほど紹介したスケジュールでの接種が行われることが多いそうです。

なぜ何度もワクチン接種が必要か

ワクチン接種で獲得した抗体は時間とともに低下していきますが、追加の接種を行うことで、抵抗力をさらに強化できます。そのため、ある程度の期間をあけて2回・3回と接種を行うことが重要です。
ジステンパーウイルスに対する抵抗力のイメージをイラストにすると、このようになります。

抗体価のイメージ_獣医師監修フェレットの医療(1)ジステンパーワクチン 接種は必要?

ワクチン接種は、適切な時期に、適切な回数行うことが効果的だとわかります。

ベビーをお迎えするなら、すでに済ませた接種回数・日付を確認

ジステンパーワクチンの接種を希望する飼い主さんは、お迎えする子がすでに済ませた接種回数と日付を確認し、足りない分を接種させることになります。

ペットショップでお迎えを待っている時点で、大半のフェレットが、1回ないし2回の接種を終えています。初回の接種は生まれたファームで済ませていることがほとんど。出身ファームによってワクチン接種の回数が異なります。これに加えて、ショップ側が追加でワクチン接種させることもあります。

ファームごとの違い_獣医師監修フェレットの医療(1)ジステンパーワクチン 接種は必要?
生まれてから受けたワクチン接種のデータは、通常、ショップできちんと管理されています。お迎え時にはワクチン接種の回数・日時を教えてもらえますから、必ず控えを取っておきましょう。

例えばマーシャルファーム出身のフェレットは、一頭ずつこのような証明書が発行されます。

ワクチン接種日の例_獣医師監修フェレットの医療(1)ジステンパーワクチン 接種は必要?

この子の場合は、3回の接種をすでに終えていて、いつ接種したかも記載されています。

適齢期をすぎてしまっても、接種させる意味はある

「お迎えしたフェレットが1回目だけワクチン接種を受けて2回目・3回目を受けていなかった」「お迎え後に予定していた3回目の接種が体調不良で受けられなかった」といった場合もあるかと思います。

少しタイミングを逃してしまったからワクチンの効果がまったく期待できなくなるのではありません。獣医師に状況を伝え、その子にあった接種スケジュールを組んでもらいましょう。

大人フェレットのワクチン接種、回数とタイミングの考え方

筒井「長年フェレットと暮らしている飼い主さんからも、ワクチン接種について知らなかった、予防が必要だと意識していなかった、などお聞きすることがあります。

成獣でこれまでワクチン接種をしていなかった子や、接種履歴がわからないという子は、かかりつけの獣医師の先生と相談のうえ、接種をどうするか決めましょう。文献には、3週間間隔で2回の接種を行い、その後は毎年1回の接種を行うこと、と記載されていました。あくまで目安ですが、参考にしていただければと思います」

フェレットのワクチン接種、知っておきたい副反応のリスク

ワクチン接種にともなうリスクは、副反応の可能性です。副反応が起こることはまれですが、「絶対に大丈夫」とは言えません。特に、高齢フェレットは副反応が出やすいので注意が必要だとされています。

ジステンパーのワクチン接種_獣医師監修フェレットの医療(1)ジステンパーワクチン 接種は必要?

筒井「ワクチン接種によりアレルギー・アナフィラキシーショックといった急性反応が起こる可能性があります。発熱、下痢、嘔吐、ふらつき、痙攣、貧血、毛が逆立つなどが短時間のうちに現れた場合は、獣医師による応急処置が必要です。
すぐに対処できればほとんどが回復に向かいますが、体力が低下している子では、重篤な事態に至ることもあります」

ワクチン接種のリスクに対応する方法 安全な接種のために

コンディションを整えて接種に臨みましょう。体調不良時はもちろん、お迎え後1週間は避けた方が無難です。
副反応が出現してもすぐ対応できるよう、接種後30分はフェレットの様子をよく観察し、クリニック内もしくは近辺で過ごすことをおすすめします。可能であれば午前中の接種が安心です。

フェレットのワクチン接種にはいくらかかる? 料金の目安

病院によって異なりますが、フェレットのジステンパーワクチンは診察料をあわせて7,000円前後というところが多いようです。ショップで接種した回数分を、お迎え時に飼い主さんが実費で負担することもあります。

うちの子にジステンパーのワクチン接種は必要?迷ったときの考え方

ジステンパーは感染率・致死率ともに高く、怖い病気ではありますが、近年はかなり減ってきている印象です。予防接種は必要なのでしょうか?

筒井「ペット業界関係者や獣医師の間では、もう何年もジステンパーの子をみていない、という話を聞くことがあります。イヌですらそうですから、飼育頭数の少ないフェレットとなれば、ジステンパーの感染・発症はさらに少ないと思われます。

ただ、ジステンパーは完全に撲滅された病気ではありません。日頃から室内での単独飼育を徹底しても、飼い主さんの服についたウイルスで感染する、動物病院の受診で感染するなど、リスクはゼロではありません。ワクチン接種は、万が一のための保険になります。

また、ペットホテルに預ける、遊び場で遊ばせる、レースやフェレットの交流会に参加するなどの際は、接種記録の確認が必須のこともあります。ジステンパーの予防接種は不要、と言い切ることはできません」

メリットとデメリットのどちらが大きいか、判断できるのは飼い主さん

どんな医療行為もそうですが、100%安全ではありません。リスクを理解し、メリットとデメリットを比較したうえで、ワクチン接種を決定すべきです。

3頭のフェレット_獣医師監修フェレットの医療(1)ジステンパーワクチン 接種は必要?

感染リスクは暮らし方によって大きく異なるので、フェレットがワクチンを接種すべきかは、個々の事情を考慮して初めて、適切に判断できる、と筒井先生は教えてくれました。

筒井「多頭飼育、複数のフェレットと交流する場に連れて行く機会が多い、ショーやレースなどに連れて行きたい、などのケースでは、接種のメリットが大きいでしょう。

一方、かなりの高齢で、室内から一歩も外に出さず、他の個体と接触する機会もない子なら、感染リスクが低いので年齢的に副反応のリスクの方が心配だから接種させない、という判断も理解できます」

個々の事情を考慮のうえ、うちの子のワクチン接種をどうするか、決めてあげられるといいですね。
スケジュール的にお迎えしてすぐの接種もありえますから、ワクチン接種をどうするか、あらかじめ考えておけるとベストだと思います。

【主要参考文献】
三輪 恭嗣『エキゾチック臨床シリーズ Vol.2 フェレットの診療 診療法の基礎と臨床手技』学窓社、2010年
田向 健一『フェレット飼育バイブル 長く元気に暮らす 50のポイント コツがわかる本』メイツ出版、2021年

編集:フェレット情報局 編集部

※当コラムでは、人間と暮らす多くのフェレットが健康で長生きできるよう、疾患についての情報を共有するため、情報発信を行っています。個体により状況は異なりますので、フェレットの状態で気になることがあれば、かかりつけにご相談されることをお勧めします。
当コラムの内容閲覧により生じた一切のトラブルについて、浦和 動物の病院、フェレットリンク、および執筆者は責任を負いかねます。


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つりまきなつみ

フェレット情報局編集部員。獣医師免許を取得後、動物に関連するお仕事に幅広く携わる。フェレットに魅せられ、現在はフェレットの魅力発信活動に邁進。プライベートでは天然マイペースなフェレット・おこげさんと暮らしている。「マンガで学ぶフェレットとの暮らし方」連載中。