※当コラムは筒井孝太郎先生の監修のもと、国内外のフェレットの医学書や論文など専門的な文献を参照して執筆しています。フェレットと暮らす飼い主さんに有益で正確な情報の発信に努めていますが、記載内容は執筆時点での情報であること、すべてのケースに当てはまるわけではないことをご理解願います。

フェレットと暮らすみなさん、こんにちは。フェレット情報局編集部のつりまきです。
『浦和 動物の病院』院長・筒井孝太郎先生と一緒に、フェレットの健康管理や病気について学ぶこちらのコラム。私もフェレットと暮らしていますが、飼い主さん一人ひとりが正しい知識を持ち、日頃から細やかにフェレットを観察することが、健やかな暮らしのために重要だと感じています。

第4回のテーマは、フィラリア症の予防です。

フィラリア症ってどんな病気?

フィラリア症は、イヌを飼ったことのある人なら聞き慣れた病名かもしれません。蚊が媒介する寄生虫疾患で、犬糸状虫という虫が体内で増える病気です。

筒井「感染した動物の血を吸った蚊に刺されることで、フィラリアの幼虫が体内に入ります。その名の通りイヌがおもな宿主ですが、猫、イタチ、アシカ、アザラシなど、イヌ以外でも感染が成立する場合があります。非常に稀ですが人でも寄生の報告があります。

幼虫はミクロフィラリアと呼ばれ、約0.3mmと顕微鏡でなければ見えないサイズで、脱皮を繰り返し数ヶ月かけて数十cmにまで成長します。成虫は白くて細長い、そうめんそっくりの見た目です。
この虫が心臓の内部や、心臓に血液を送る太い動脈に寄生することで、咳、呼吸困難、腹水貯留など、さまざまな症状を起こします

蚊ー獣医師監修フェレットの医療(4)フィラリア予防が大切な理由【室内飼育でも感染リスク】

フェレットのフィラリアも「侮れない」、発症すると致命的

フィラリアの最終宿主はイヌであり、フェレットではイヌほど感染が成立しやすいわけではありません。海外のデータでは、フィラリアの動物の血を吸った蚊に吸血された際、イヌで感染が成立した確率は56%だったのに対し、フェレットは40%とイヌよりは低かったという報告もあります。

しかし、イヌより感染リスクが低いといっても油断できません。フェレットがフィラリアに感染・発症すると命に関わる事態につながりかねません。

筒井「フェレットの心臓は小型犬よりも小さく、わずか2.5cmほどですから、数匹の成虫が寄生しただけでも心臓に重い負担がかかり、重篤な症状が出ます。さらに、フェレットではフィラリア感染の症例が少ないこともあり、治療法が確立されていないんです」

フィラリアの感染原因は蚊に刺されること 室内飼育だから安心とは限らない

イヌやネコでもフィラリアは近年、昔に比べるとかなり減ってきていると聞きます。予防薬の普及に加え、外飼いの子が減り、蚊に刺されることが少なくなってきているからだと言われています。

こう考えると、室内飼育が基本で、イヌのように毎日、散歩に連れ出すこともないフェレットでは、フィラリア感染は心配しなくてよさそうに思えるかもしれません。実際、「お出かけが多い子は要注意」と言われます。
一方、外に連れ出さないなら感染リスクがないと言い切れるわけではありません。

イヌの場合ですが、完全室内飼いの子と外飼いの子を比べると、フィラリア陽性が出ることが多いのは、意外にも室内飼いの子だ、という話も聞いたことがあります。
室内飼育の子では、蚊に刺されるリスクもないからフィラリア予防をしなくても大丈夫だろう、という油断がかえって感染率の上昇を招くのかもしれませんね。
家の中でも、蚊が一匹も入って来ないようにはなかなかできません。フェレットは室内飼いがほとんどとはいえ、フィラリアに気をつけなくて良いわけではないと知っていただければと思います。

日本国内で2009年に発表されたデータによると、フィラリア症予防の投薬を1年以上受けていないイヌの陽性率は9.2%だったそうです。フィラリア症が減っているとはいえ、現在も感染の可能性がゼロになったわけではありません。

枝の上からこちらを見るフェレットー獣医師監修フェレットの医療(4)フィラリア予防が重要な理由【室内飼育でも感染リスク】

フェレットのフィラリアで出る症状

筒井「フェレットのフィラリアは症例報告も少ないのですが、イヌと同様、呼吸器・循環器系の症状が出るとされています。

咳が続く、肺うっ血、呼吸困難、脱水、貧血、食欲不振に伴う体重減少、嗜眠、腹水など、全身にさまざまな症状が見られ、最終的に大多数が死に至ります。虫体が肺動脈に詰まる肺塞栓を起こせば突然死もあります」

フィラリアの幼虫に感染してもすぐに症状が出るわけではありません。幼虫の感染でも症状を示す可能性もありますが、成虫はより重篤な症状を引き起こすリスクとなるでしょう。
幼虫が成虫にまで成長するまでに7か月ほどかかると言われています。幼虫が大きくなるまでの数ヶ月は潜伏期間。明らかな症状が見られるのは虫がかなり成長した後、ということも珍しくないようです。

診断も治療も難しい フェレットのフィラリア症

筒井「心音や、Ⅹ線画像、超音波検査などの所見を確認し、症状とあわせて総合的に判断します。
イヌではフィラリア感染の有無がすぐ確認できる抗原検出キットを使用できますが、フェレットの場合は正確な検査結果が出づらいため、確定診断も簡単ではありません」

さらにフェレットのフィラリア症は診断だけでなく、治療も難しいと言います。
イヌでは、寄生している虫体の量や症状によって、駆虫薬を投与する内科的治療か、もしくは、手術で虫体を取り除く外科的な治療、どちらかを決めるそうです。
フェレットの場合、心臓が小さく血管も細いため、手術は非常に難しく、駆虫薬での治療が基本です。

筒井「イヌのフィラリア治療も、虫体を完全に取り除くことは困難です。駆虫薬で虫は殺せても、寄生している数が多い場合、駆虫した虫体によってアレルギーを起こし、ショックを起こすなどして動物が死亡する例もあります。

さらに、寄生されていた期間に負ったダメージは心臓・血管に残ります。フェレットより体が大きく体力もあるイヌですらこのような事情ですから、フェレットのフィラリア症の治療は大変難しいと言わざるを得ません。ですから、予防が非常に重要になってくるのです」

獣医師とフェレットー獣医師監修フェレットの医療(4)フィラリア予防が大切な理由【室内飼育でも感染リスク】

正しく使えば発症を確実に防げるフィラリア予防薬

検査・診断・治療が難しいフェレットのフィラリア症。一方、予防薬を適切に投与すればほぼ100%、防げる病気でもあります。

予防薬だけど「駆虫薬」 仕組みを理解しておこう

イヌ・ネコ用と同じ予防薬が、フェレットにも安全に使用できます。フィラリア予防薬で大切なのは、投与するタイミングです。蚊が活動を開始してしばらく(1ヶ月ほど)したら投薬を開始します。忘れてはいけないのは、蚊が完全にいなくなった1か月後にも、投薬をすることです。
「感染リスクもないのにどうして?」と不思議に思うかもしれませんが、予防薬の仕組みを知るとその謎が解けます。

筒井「フィラリア予防のお薬は、厳密に言うと感染そのものの予防ではなく、体内に入った幼虫を殺すことで、発症を予防するためのものです。

フィラリアに感染した蚊に吸血されるとフィラリアの幼虫が体内に入りこみます。予防薬では、フィラリアの侵入を防ぐことはできません。ただし、この段階でお薬を使って幼虫を殺しておけば、寄生が進んで症状が出ることを防げます。
お薬は月に1度の投与ですが、今月のお薬は、前月に体内に入り込んだ虫体をリセットするためのもの、と考えてください。

蚊が完全にいなくなってから最後の予防薬を与えることがとても重要なポイントです。そこで、蚊の活動期間にプラスして1か月分の予防薬を投与し、体内で虫が残ってしまう可能性をゼロに近づけるんです」

お薬の仕組みを知ると「ウッカリ投与を忘れてしまう」事態も防げそうですね。

地域によって予防薬の投与期間は異なる

お住まいの地域により蚊の活動期間が異なるため、お薬を投与する期間も異なります。関東では5月下旬〜1月始めまで、沖縄のように温暖なエリアでは通年の投薬が一般的です。近年は気候変動により蚊の活動期間も長くなっているので、獣医師の先生と相談しましょう。

ボールプールにつかまるフェレットー獣医師監修フェレットの医療(4)フィラリア予防が大切な理由【室内飼育でも感染リスク】

フィラリア予防はいつでも始められる 「若い頃」からスタートするのが最も確実

夏も終わりかけの頃に初めて、フィラリア予防の必要性を知り、予防薬を投与したいケースもあるでしょう。蚊の活動シーズンの途中からでも、予防薬は使えるのでしょうか?

筒井「期間の途中からでも投与を基本的にはおすすめしています。ただし、知っておいてほしいのは、万が一、すでに感染していた際には予防薬の使用にリスクがあるということです。

フィラリアに感染してから数ヶ月が経ち、フィラリアの幼虫の感染が成立、または成虫が育っている場合に予防薬(駆虫薬)を使うと、死亡した虫体によるアレルギー反応でフェレットがショック状態になる、死んだ成虫がフェレットの血管を塞いだりするなどして、重篤な事態に陷る可能性があります。

イヌでは、あらかじめ検査キットでフィラリアに感染していないことを確かめてからお薬を使います。フェレットの場合は診断が難しいことも多いので、リスクをゼロにはできません。フェレットのフィラリア感染率はもともと低いこともあり、この方法で問題が起こることは臨床的にもまれではりますが、一応リスクとしてご説明しています」

感染成立前から投与を開始すれば上記のリスクは防げますから、生まれて初めて迎える夏には投与をスタートできるとベストですね。

トンネルがお気に入りのフェレットー獣医師監修フェレットの医療(4)フィラリア予防が大切な理由【室内飼育でも感染リスク】

筒井「フィラリアの予防薬は、錠剤や液体など口から飲ませるお薬もあれば、背中に滴下するタイプのものもあります。
滴下薬はフェレットに多い耳ダニの治療・予防効果もありますが、その分、価格も上がります。どちらのお薬を選ぶかはケースバイケースです。蚊のいるシーズンは毎月お薬を使用することになるので、価格も検討の要素になってくると思います」

どちらを選んでも、病院で処方された薬を月に一度、飼い主さんが家庭で使用する形になるそうです。飲ませるタイプのお薬は、バイトに混ぜることで嫌がらずに服用できる子が多いとのお話でした。

フェレットの飼い主さんの間では、フィラリア症予防について知らない人もいる、と筒井先生は言います。感染の確率が低いことを考慮すると、ご家庭で判断が分かれるところかもしれませんが、うちの子には毎月、予防薬を使用しています。

フェレット同士の接触で広がる病気ではない一方、蚊が一匹でもいたら感染のリスクは否定できません。これからのシーズン、フェレットと一緒に外出の機会が増えそうなら、予防の価値は大きいのではないでしょうか。フィラリア症は診断・治療が難しいことに対して、予防は非常に簡単なので、予防薬を検討していただくといいと思います。

【主要参考文献】
三輪 恭嗣『エキゾチック臨床シリーズ Vol.2 フェレットの診療 診療法の基礎と臨床手技』学窓社、2010年
MSDMANUAL VeterinaryManual, Heartworm Disease in Dogs, Cats, and Ferrets
野上 貞雄(NOGAMI SADAO) 日本大学 生物資源科学部 教授「犬糸状虫症の免疫学的診断法の改良に関する研究」(2006年〜2008年)科学研究費補助金研究成果報告書

編集:フェレット情報局 編集部

※当コラムでは、人間と暮らす多くのフェレットが健康で長生きできるよう、疾患についての情報を共有するため、情報発信を行っています。個体により状況は異なりますので、フェレットの状態で気になることがあれば、かかりつけにご相談されることをお勧めします。当コラムの内容閲覧により生じた一切のトラブルについて、浦和 動物の病院、フェレットリンク、および執筆者は責任を負いかねます。


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フェレット情報局編集部員。獣医師免許を取得後、動物に関連するお仕事に幅広く携わる。フェレットに魅せられ、現在はフェレットの魅力発信活動に邁進。プライベートでは天然マイペースなフェレット・おこげさんと暮らしている。「マンガで学ぶフェレットとの暮らし方」連載中。