※当コラムは筒井孝太郎先生の監修のもと、国内外のフェレットの医学書や論文など専門的な文献を参照して執筆しています。フェレットと暮らす飼い主さんに有益で正確な情報の発信に努めていますが、記載内容は執筆時点での情報であること、すべてのケースに当てはまるわけではないことをご理解願います。

フェレットと暮らすみなさん、こんにちは。フェレット情報局編集部のつりまきです。
『浦和 動物の病院』院長・筒井孝太郎先生と一緒に、フェレットの健康管理や病気について学ぶこちらのコラム。私もフェレットと暮らしていますが、飼い主さん一人ひとりが正しい知識を持ち、日頃から細やかにフェレットを観察することが、健やかな毎日のために重要だと感じています。

第12回のテーマは熱中症。高温多湿の日本では空調設備の整った室内飼育が基本で、多くの飼い主さんが暑さ対策を心がけていますが、それでも熱中症になるフェレットがいます。
特に注意したいシチュエーションから緊急時の対策まで、筒井先生にお聞きします。
トイレから見上げるフェレット_獣医師監修フェレットの医療(12)熱中症【応急処置・要注意シチュエーション】

フェレットは暑さが苦手 分かっていても熱中症を防ぎきれない理由

フェレットの原種であるヨーロッパケナガイタチは涼しいヨーロッパ生まれ。身体のつくりは寒冷地に適応しており、室温15〜25℃、湿度40〜60%がフェレットの過ごしやすい環境です。
一方で日本の夏は近年、東北や北海道でも気温が30℃を超える日もあり、フェレットにとって過酷です。

筒井「夏は全国どこでも、エアコンによる温度・湿度管理が必須です。
フェレットは人間のように汗をかいて体温を下げることができません。被毛は密度が高く保温性があるうえ、舌や肉球の面積も小さいため十分な放熱も困難です。室温が高いとあっという間に体温も上昇してしまいます」

「真夏の外出、散歩からのお風呂、うっかり空調オフ」熱中症の危険は思わぬところに

筒井「暑さが苦手とわかっていても、このくらい大丈夫だろう、という判断にはご家庭で差があります。
まさかこんな短時間で? 少し蒸し暑かったけれど、あのくらいで? といった、ちょっとしたことも、フェレットの熱中症の原因になりえます」

実は我が家でも、思い当たるエピソードがあります。

お迎えして初めての夏、気温が下がった夜を見計らって少しお外に連れ出しました。短時間のお散歩を終え、帰宅後にそのまま入浴しようと、お風呂場へ。いつものようにお湯を張った浴槽に浸からせたところ、急に私の肩にかけのぼり、口を開けて苦しそうに荒い呼吸を始めたのです。

すぐに冷房の効いた部屋に移動し、ケージに戻したら、勢いよく水を飲んでそのまま寝てしまいました。様子を見守っていましたが、その後は呼吸も落ち着き、翌朝は普段と変わらない様子で起きてきてホッとしました。
もしかしたら、軽い熱中症を起こしていたのかもしれません。

筒井「少し休ませてあげてから入浴した方が良かったかもしれませんね。お散歩直後で体温の上がった身体には、普段と同じ温度のお湯でも、負担が大きすぎたのかもしれません。

昼間の直射日光で温まったコンクリートは日没後も熱を帯びています。コンクリートに近い地表の温度も十分に下がりきらず、過酷な環境になってしまったのでしょう。
すぐに適切に対応できたので、大事に至らなかったのだと思います」

接触冷感素材ブランケットに包まって眠るフェレット_ 獣医師監修フェレットの医療(12)熱中症【応急処置・要注意シチュエーション】

自力では暑さから逃れられない 人間と一緒に暮らすからこその熱中症リスク

筒井先生によると、暑さによる体調不良や熱中症は自然界で暮らす動物では考えにくいそうです。

筒井「野生で暮らす生き物は、日陰や水場の近くなど、涼しい場所をきちんと選んで移動し、暑さから身を守っています。
一方、ペットの動物はそうはいきません。真夏の昼間に散歩に行ったイヌ、高温の水道水で水換えをしていたカメなどが熱中症で担ぎ込まれるケースがあります。人間と一緒に生活するからこそ、熱中症の危険がアップしていると言えます」

温度・湿度をしっかりと管理するのは、私たち飼い主の責任ですね。
4月・5月でも熱中症になる人の話を聞いたことがありますが、フェレットはどうでしょうか?

筒井「春先は身体が暑さにまだ慣れていないので、気温が30℃未満でも熱中症になるケースがあります。フェレットも状況は同じだと考えてください。
ゴールデンウィークの頃から梅雨入り前まで、かなり暑くなる日も出てきます。高温対策は”早め”が鉄則です」

人間と同じ?フェレットの熱中症で起こる症状

熱中症では、高温多湿な環境に長時間いることで体温調整が上手く行かず、様々な不調が起こります。フェレットも人間同様、めまいや立ち眩みでぐったりする、呼吸が荒くなる開口呼吸、吐き気や食欲低下といった消化管症状も見られます。
ダメージの大きさは高温にさらされた時間の長さに比例し、最悪の場合、死亡するおそれもあります。

筒井「フェレットはイヌのように呼吸での体温調節はできません。激しく運動した後に短時間、荒い呼吸を見せることはありますが、動き回ってもいないのに口を開けてハーハーしていたら異常事態です」
夏用ハンモックで眠るフェレット_ 獣医師監修フェレットの医療(12)熱中症【応急処置・要注意シチュエーション】

フェレットの熱中症の治療・家庭での対処法

熱中症の治療の基本は、上昇した体温を下げる冷却と、失われた水分を補う飲水です。

筒井「意識がもうろうとしている、身体がかなり暑いなど、重症では冷却が最優先です。

冷たいタオルで全身を包んで扇風機の風にあてる・霧吹きで少しずつ水をかける、などの方法で冷やしてください。
かなり体温が上がっているなら20℃前後の水に浸からせるのもありですが、冷水は体温が低下しすぎるのでNGです。保冷剤を直接身体にあてるのも、凍傷のリスクがあるので避けましょう。

水分補給は、人間用のスポーツドリンクを5〜10倍に薄めたものや、ペット用の経口補水液を飲ませるのも良いでしょう。意識を失った子に無理に飲ませるのは危険ですから、すぐに受診してください。病院では点滴で水分などを補給します」

重症では腎臓・肝臓・脳などの臓器が深刻なダメージを受けるのだとか。高温の環境に長時間居た場合は、元気になったように見えても、念のため受診した方が安心です。

フェレットの熱中症予防のポイント2つ

常に十分な水を飲めるようにする、飼育環境を適温に保つ、この2点が熱中症予防の基本です。

筒井「ケージは風通しの良い場所に設置し、環境温度は25℃以下に保ちます。床と天井付近で温度は異なりますから、温度計をケージの傍に置き、低い場所で過ごすフェレット目線での適温を心がけましょう。

大理石や接触冷感素材のもの、凍らせたペットボトルなど、冷却グッズをケージ内に設置するのも良いと思います。メッシュや綿麻など、風通しの良いハンモックもありおすすめです」

ボトルから水を飲むフェレット_ 獣医師監修フェレットの医療(12)熱中症【応急処置・要注意シチュエーション】

ちなみに、フェレットは汗をかかないので風を直接あてても身体を気化熱で冷やす効果はさほどありません。扇風機はエアコンの冷気を効率よく循環させる目的で、設置場所や風向を調節すると良いそうです。

夏場の外出・移動は最大限の配慮を

筒井「気をつけたいのが外出や移動です。車での移動は、車内をあらかじめ十分に冷やしておきます。キャリーには氷を入れたペットボトルや保冷剤を入れてあげてください。タオルで巻いたり専用ケースに入れたりして、保冷剤を齧らせない対策も必要です。

特にハイリスクなのは実家への帰省や旅行です。慣れない長距離の移動になりがちですし、移動先にはフェレットを診察可能なクリニックがないかもしれません。可能なら、熱中症のリスクの高い猛暑の時期を避けるのも一つの手段です」

うちの子はあれ以来、夏場は夜でも外に連れて行かないことにしています。お風呂に入れる際は浴室の換気をして熱がこもらないようにし、お湯の温度も低めにしています。

筒井「そういった小さな工夫が大切です。
また、同居の家族が誤って飼育部屋のエアコンをOFFにしてしまう、放牧中に空調を入れていない部屋に迷い込んでしまう、など偶発的なアクシデントからの熱中症も起こり得ます。

“うっかり”を防ぐため、夏場は特にフェレットと飼育環境の様子に気を配りたいところです」

【熱中症の積極的予防 正しいのはどれ?】スポーツドリンク・氷水・漢方

給水ボトルを見上げるフェレット_ 獣医師監修フェレットの医療(12)熱中症【応急処置・要注意シチュエーション】

ペット用の経口補水液を、熱中症予防目的で日常的に与えるのは効果的でしょうか?

筒井「少量与えるのは構いませんが、量が多いと糖分の摂りすぎになるので、日常的に飲ませるのは避けた方が無難です。そもそも、大量の汗をかくことがないフェレットでは、汗と一緒に失われるミネラル分も人間ほど多くありません。スポーツドリンクや経口補水液は移動の際や緊急時の“お守り”の位置付けで良いかと思います」

暑い時期は冷たいものを飲みたくなりますが、給水ボトルに氷を入れて冷たくするのはどうでしょう?

筒井「やめた方が良いと思います。消化管や体を冷やしても、基本的に良いことはありません。
日頃からできる積極的な予防法は、全身の調子を整えることです。

例えば当院では、消化管の動きを促す成分、潤いを足す成分などその子の状態に応じた漢方薬を処方することもあります。めぐりを改善することで、ベースの体力をアップするのが目的です。
基礎疾患がある子や高齢の子では、暑い時期には“夏バテ”のように少しずつ体力が削がれがちです。そこにちょっとしたイベントが重なって熱中症に、といったケースを防ぐために、より慎重な管理が大切だと思います」

こちらを見つめる二頭のフェレット_ 獣医師監修フェレットの医療(12)熱中症【応急処置・要注意シチュエーション】

体温上昇の兆候に早く気付いてあげることが重要、と筒井先生は話してくださいました。
フェレットの平熱は37.8~39.5℃。検温をせずとも、抱き上げた時の感覚で“いつもよりあたたかい”と気づけるよう、日頃からスキンシップをたくさん取ろうと思います。

編集:フェレット情報局 編集部

※当コラムでは、人間と暮らす多くのフェレットが健康で長生きできるよう、疾患についての情報を共有するため、情報発信を行っています。個体により状況は異なりますので、フェレットの状態で気になることがあれば、かかりつけにご相談されることをお勧めします。当コラムの内容閲覧により生じた一切のトラブルについて、浦和 動物の病院、フェレットリンク、および執筆者は責任を負いかねます。


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フェレット情報局編集部員。獣医師免許を取得後、動物に関連するお仕事に幅広く携わる。フェレットに魅せられ、現在はフェレットの魅力発信活動に邁進。プライベートでは天然マイペースなフェレット・おこげさんと暮らしている。「マンガで学ぶフェレットとの暮らし方」連載中。