※当コラムは筒井孝太郎先生の監修のもと、国内外のフェレットの医学書や論文など専門的な文献を参照して執筆しています。フェレットと暮らす飼い主さんに有益で正確な情報の発信に努めていますが、記載内容は執筆時点での情報であること、すべてのケースに当てはまるわけではないことをご理解願います。
フェレットと暮らすみなさん、こんにちは。フェレット情報局編集部のつりまきです。
『浦和 動物の病院』院長・筒井孝太郎先生と一緒に、フェレットの健康管理や病気について学ぶこちらのコラム。私もフェレットと暮らしていますが、飼い主さん一人ひとりが正しい知識を持ち、日頃から細やかにフェレットを観察することが、健やかな毎日のために重要だと感じています。
第10回のテーマは、副腎疾患。後編では検査・診断の方法から治療法、予防を視野に入れた日々の過ごし方と、順に見ていきましょう。
目次
副腎疾患の診断:症状と画像で総合的な判断を
副腎疾患は、症状をヒントに、血液検査、ホルモン検査、Ⅹ線、超音波、CTなどさまざまな観点からの評価を行い、確定診断につなげるそうです。筒井先生のクリニックではどのような方法を行うのでしょうか。
筒井「副腎疾患が疑われる症状がある場合、超音波検査を行い副腎の大きさを確認して診断を導きます。
一定の大きさを超えたら副腎疾患、と即断はできませんが、正常なサイズを大きく逸脱していれば疑いは濃厚です。また、判断が難しい場合は間を置いて検査を行い、前回の計測値との比較も行います。いずれにせよ、総合的な角度から診断を行います」
超音波(エコー)検査は、人間の健康診断でも行うので、なんとなくイメージが湧く方もいるでしょう。ベッドに横たわって検査部位にジェルを塗り、プローブと呼ばれる器具を押し当てて皮下組織や臓器の状態を調べます。
エックス線による被曝なしに受けられる分、レントゲン検査よりも少し気が楽かもしれませんが、フェレットの場合は決して「お手軽」な検査ではないと言います。
筒井「診察台の上でフェレットさんにじっとしていてもらう必要があります。正確な計測のためにはどうしても、検査に10〜15分かかり、この間ずっと動かないで体勢をキープしてもらうのは至難の業。
安全かつフェレットへの負担を最小限に検査を進められるよう、保定しながら行います。保定はフェレットに苦痛を与えにくい手技ですが、これだけの時間ずっと保定し続けると、首の部分が赤くなってしまうことがあります。また、活発な子はその分、強い力で固定する必要がありますから、青あざができることもあるんです。
診断をつけるために必要とはいえ、検査の前には必ず飼い主さんに十分な説明をし、了承をいただくことを心がけています」
副腎疾患か他の病気か、診断に迷うこともありますか? 例えば、メス特有の症状である外陰部の腫大は、避妊手術の際に取り除ききれずに残存した卵巣が原因で起こる場合もあると聞きます。
筒井「ファームで受けた避妊手術での“取り残し”に関して言えば、可能性は非常に低いと考えています。私が聞いたことのある範囲では、そういったケースはほとんどありませんね。
残存しているか、していないか、はっきりしない卵巣を探すのは難易度が高く、フェレットへの負担も増えます。ですから、疑わしい症状があればまずは副腎のサイズを確認し、副腎疾患の可能性の有無を検討します。明らかに副腎疾患が否定できそうなケースであれば、そこから他の原因を探します」
お薬か手術か?副腎疾患の治療
副腎疾患の治療は、服薬を中心とした内科的な治療と、外科治療の両方があるそうです。
それぞれポイントを教えてください。
筒井「内科治療は基本的に、症状の緩和が目的になります。
性ホルモンの働きを調整する“GnRH製剤”や、抗エストロゲン薬・抗アンドロゲン薬など、選択肢は複数あります。また、医薬品ではなくサプリメントですが、体内の概日リズム(サーカディアンリズム)を整えるホルモンである“メラトニン”を補う方法もあります。メラトニンは日本では製造販売が承認されていないので、海外から輸入する飼い主さんもいます」
筒井「どのお薬を使うかは獣医師の先生の方針によって異なります。当院では漢方薬での治療を行う子が多いですね。漢方の場合、副腎疾患の子にはこのお薬、と決まっているわけではなく、症状に応じて処方内容を調整します。
漢方治療のメリットは、ゆるやかで、穏やかに作用してくれることです。漢方薬だけで脱毛部分に急激に被毛が生え揃う、といった急激な変化は期待しづらいですが、その分、身体への負担が抑えられます」
内科療法は根治的ではないとのことですが、一生涯、お薬を続けるのでしょうか?
筒井「ある程度、症状がおさまった後もお薬を継続するかは飼い主さんと相談して決めます。投薬を続けるとなれば、フェレットにとっても飼い主さんにとっても負担になりますから、メリットとデメリットを天秤にかけ判断します。たとえば主流になっているGnRH製剤の場合は、1回の治療に1万円を超えることも珍しくないため、費用面も考慮に入れなければなりません」
いずれにせよ、副腎疾患は進行性の病気なので、内科的治療を選択する場合は変化する症状に応じて都度、お薬の調節が必要、と筒井先生は教えてくれました。
では、手術を行う場合、治療効果はどうでしょうか?
筒井「外科的治療を行った結果、副腎疾患を治療できることもあります。
ただ、メリットとリスクを比較した結果、手術を希望されない飼い主さんも多いですね。また、両方の副腎が腫大、腫瘍はなく副腎が過剰に働いている、といったように、手術適応でない副腎疾患もあります。そもそもフェレットの外科手術を扱えるクリニックもさほど多くないため、外科治療を受ける子は少数派かもしれません」
副腎疾患で起こるさまざまな症状について前回、教えていただきました。副腎疾患と診断されたが症状は軽い脱毛のみ、といった具合に、緊急度が高くなさそうな子では、治療を行わずに経過観察のみで過ごすこともありますか?
筒井「オスの排尿困難や、再生不良性貧血など、生命に影響を及ぼしうる症状がないなら、そのまま様子を見るケースもあります。ただ、症状は常に変化する可能性がありますから、いわば“爆弾”を抱えた状態。今は脱毛だけでも、副腎疾患が進行すればやがて別の症状が出るであろうと予測できますから、この先を視野に入れ、早めに内科治療を開始する子もいます」
筒井先生の行う漢方治療も、緩やか・穏やかに作用していくとのことでした。早期に発見でき緊急性が高くないからこそ、漢方薬を選択できるケースもあるでしょう。あらためて、クリニックで定期的な健康チェックを受けることの重要性を認識しました。
副腎疾患は予防できる?「ストレス減」のためにできること
「フェレットに副腎疾患が多い理由」で教えていただいた通り、副腎疾患にかかる原因について、食餌内容、避妊・去勢手術との関連、日照時間など、複数の仮説が考えられています。ただ、確定的な原因はまだ分かっておらず、エビデンスのある確実な予防法は現在のところ無いと言わざるを得ない状況だそうです。
筒井「個人的に、日照時間と副腎疾患の罹患率の間には何らかの関係がありそうと感じていますが、あくまでも感覚値レベルの話で、はっきりとしたことはわかりません。
また、フェレットはドライフードを食べている子がほとんどですから、食餌内容の調整は一般家庭ではハードルが高いと思います。
さらに、避妊・去勢手術は、お迎えの時点でほとんどの子が済ませていますから、“手術を受けない”選択肢はそもそも選べないことが多いと思います。また、手術を受けることは別の病気のリスク軽減にも役立っていますから、この点についても、飼い主さんの方でできる対策は難しいでしょう」
副腎疾患予防のためにできることは何もないの?と考えると、もどかしい気持ちになります。罹患率が高いからこそ、できることはやってあげたいと感じます。
筒井「必ず効果のある予防法、とまでは言えませんが、夜は早めに電気を消して部屋を暗くするよう心がけるのは良いと思います。自然下の環境に近くなり、光を浴びる時間も本来のサイクルに近づくので、副腎の負担が減らせる可能性があります」
目安として、何時から何時まで消灯すればいいのでしょう。人間の睡眠時間にあわせて、例えば23時〜翌朝6時の間は部屋を真っ暗にする、では短すぎますか?また、季節で日照時間が異なるので、日の入り・日の出の時刻に合わせたほうがいいのでしょうか?
筒井「最低◯時間は真っ暗に、と明確に示せればいいのですが、残念ながらそこまでのデータはありません。
考え方のポイントは、“余計なストレスを減らす”ことです。
ストレスは、目には見えず、重さや長さのように明確な数値化もできませんよね。でも、ストレスによる負荷がかかった際、生体には明らかな変化が起こります。副腎の異常も、そういったストレス負荷のあらわれの1つと考えられています。
自然界ではありえないほど長い日照時間は、ストレスになりえます。夜早めに電気を消しましょう、というのも、日照時間を整えることで余計なストレス刺激を抑えるのが狙いです」
筒井「ただし、外が暗くなるのにあわせて早く室内も暗くしなければ、と意識しすぎるあまり、飼い主さんの生活リズムを無視してまで早い時間に消灯しなくて大丈夫。フェレットにとって、大好きな飼い主さんと思いっきり遊ぶ時間は大切な心のエネルギー。毎日、十分に遊んでもらえないことで、逆にストレスが溜まっては本末転倒になってしまいます。
日常的に、フェレットが寝ている深夜まで電気をつけっぱなしにしているのであれば消灯時刻の見直しをおすすめします。そうでなければ、“無理のない範囲で毎日決まった時間に消灯”と心がける程度で良いかと思います。どうしても消灯が難しければ、決まった時間にケージを布でおおう、でも良いでしょう」
あまり神経質にならず、いかにストレスなく楽しく快適に過ごせるか、を考えるのが大切なんですね。
同じ空間にいるとストレスは自然と相手にも伝播します。消灯時刻を気にするあまり、自分にも、フェレットにも、余計なストレスをかけるのは避けたいものです。
副腎疾患にかぎった話ではありませんが、ストレスコントロールとあわせて、定期的な健康チェックが重要です。副腎疾患はインスリノーマと並んで罹患率の高い病気であることを念頭に、被毛や排尿の状態を日常的に丁寧に観察していこうと思います。
【主要参考文献】
三輪 恭嗣『エキゾチック臨床シリーズ Vol.2 フェレットの診療 診療法の基礎と臨床手技』学窓社、2010年
編集:フェレット情報局 編集部
※当コラムでは、人間と暮らす多くのフェレットが健康で長生きできるよう、疾患についての情報を共有するため、情報発信を行っています。個体により状況は異なりますので、フェレットの状態で気になることがあれば、かかりつけにご相談されることをお勧めします。当コラムの内容閲覧により生じた一切のトラブルについて、浦和 動物の病院、フェレットリンク、および執筆者は責任を負いかねます。


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