※当コラムは筒井孝太郎先生の監修のもと、国内外のフェレットの医学書や論文など専門的な文献を参照して執筆しています。フェレットと暮らす飼い主さんに有益で正確な情報の発信に努めていますが、記載内容は執筆時点での情報であること、すべてのケースに当てはまるわけではないことをご理解願います。

フェレットと暮らすみなさん、こんにちは。フェレット情報局編集部のつりまきです。
『浦和 動物の病院』院長・筒井孝太郎先生と一緒に、フェレットの健康管理や病気について学ぶこちらのコラム。私もフェレットと暮らしていますが、飼い主さん一人ひとりが正しい知識を持ち、日頃から細やかにフェレットを観察することが、健やかな毎日のために重要だと感じています。

第6回のテーマは、ケアや医療行為を施す際に行う抱っこ「保定」についてです。
日々のケアを安全に行うために役立つテクニックですが「保定してもなかなかじっとしてくれない」なんて声もちらほら聞こえてきます。保定する際のポイントや、抱っこも含めたフェレットとのスキンシップのコツをまとめてご紹介します。

腋窩部保定法ー獣医師監修フェレットの医療(6)保定 暴れる・嫌がるのは練習不足?抱っことの違いも解説

保定って何? 抱っことの違いを理解しよう

保定は、動物が動かないようにしっかりと持つことで、抱っことは異なる手技です。物理的な力だけに頼って動きを抑えるのではなく、動物の身体の特徴・生態をふまえて、安全かつ確実に固定するために考えられた方法です。

診察・爪切り・耳掃除 必要な時にのみ行う保定

筒井「保定は、ケアや診察など、たとえ嫌がられても、協力してもらう必要があることを実行する際のテクニック。動きを封じることで処置をスムーズに行えますし、不安や苦痛を最小限にできるので動物の負担を減らすためにも役立ちます

家庭で飼い主さんがフェレットを保定する必要がある場面は、主に爪切り・耳掃除です。抱っこに慣れておらず嫌がる子では、キャリーに入ってもらう・お掃除でケージを移動する際にも、保定が役立ちます。

フェレットの保定「頚部(けいぶ)保定法」のやり方

イヌ、ネコ、ウサギなど、それぞれ異なる身体の特徴があるので、保定方法も動物によって異なります。

筒井「フェレットの保定は、首の後ろの皮膚をつまむように持つ頚部保定法が最も一般的です。
頭の後ろ〜肩にかけての皮膚をぎゅっと持ち上げます。この時、四肢は持たないようにしてください。暴れたら無理な力がかかって怪我につながりますし、四肢を抑えてもじっとさせる効果はありません」

頸部保定法ー獣医師監修フェレットの医療(6)保定 暴れる・嫌がるのは練習不足?抱っことの違いも解説

ブランと吊り下げる保定はフェレットの負担にならないの?

“首根っこ”をつかんで全身をぶらりと吊り下げる形になりますが、こんな持ち方をされてフェレットは平気なのでしょうか?

筒井「見慣れないやり方に、初めて見る飼い主さんは、びっくりしますよね。イヌやネコはこういった保定方法はせず、フェレットの他には、ハムスターくらいでしょうか。”かわいそう”、”痛くないの?”と気がかりに感じるのもわかります」
フェレットの頸部保定にまつわる疑問ー獣医師監修フェレットの医療(6)保定 暴れる・嫌がるのは練習不足?抱っことの違いも解説
筒井「でも、心配する必要はありません。首の後ろは赤ちゃんのときにお母さんがくわえて運ぶ部位なので、もともと皮膚が柔らかくてよく伸び、頸部保定法でフェレットに苦痛はないと言われています。
実際、私も診察時に頸部を持って保定しますが、痛そうにする子はいませんね」

頸部保定をされたフェレットはあくびをすることが多いので、大口をあけた隙に、口腔内の検査もしやすいそうです。人間で考えると、あくびが出るのは気持ちが緩んでいる時ですよね。もしかしたらフェレットも、首の後ろを持たれることでお母さんに運ばれていた子ども時代を思い出し、本能的にリラックスしているのかもしれませんね。
頸部保定法2ー獣医師監修フェレットの医療(6)保定 暴れる・嫌がるのは練習不足?抱っことの違いも解説

保定してもフェレットは動く? じっとしていてもらうポイント

保定されるとおとなしくなる子が多いと言われますが、診察で多くのフェレットに接する筒井先生の感覚ではどうでしょうか。

筒井「抱っこより保定の方がフェレットの動きを抑えられるのは事実です。ただ、保定したら全員が全員、完全にダラリと脱力するとか、じっと動かなくなるわけではありません。

飼い主さんならご存知の通り、フェレットはバイタリティあふれる性格です。保定しても諦めず、体幹をブランブランとさせて動き続ける元気な子もいますよ(笑)保定の上手い・下手というよりは、その子の性格や気分の問題かと思います」

筒井「吊り下げられた体幹がブラブラすることで、余計な動きにつながってしまうと思います。なので私は診察時、頸部保定の状態でフェレットの腰の下に手を入れたり、腰を自分の膝や診察台の上にのせたりして、できるだけ安定させるようにしています」頸部保定されてあくびをするフェレットー獣医師監修フェレットの医療(6)保定 暴れる・嫌がるのは練習不足?抱っことの違いも解説

落ち着く体勢・好きな姿勢にも個体差があります。「うちの子がじっとしてくれる姿勢」を見つけられると良いですね。

フェレットの飼い主さんにとって保定は必須スキル?練習は必要?

お迎えの際に店頭で、頸部保定の方法について説明を受けた飼い主さんもいるかもしれません。フェレットにとって負担でないとわかってはいても、首の後ろをガッチリとつまんで吊り上げる方法に、「いきなりはちょっと…」と戸惑ってしまうかもしれませんね。

「ケアの際に必須」と聞いたり、「フェレットを保定に慣れさせるべき」と書かれているのを読んだりしたら、「お迎えしたらすぐ保定の練習を始めた方がいいの?」と疑問が湧いてきます。筒井先生の意見を聞いてみました。

筒井「保定はあくまで、必要な時のみ行う手技です。なので、日常的なコミュニケーションの中で、“練習”の意味で保定を試みなくてもいいのでは、と私は思います。

頸部を持たれること自体がフェレットにとって苦痛でないとはいえ、保定では、身体の自由を奪われることに変わりはありません。フェレットは基本的にじっとしていることが好きではありませんから、私は診察時に保定する際も、できるだけ短時間で行うよう心がけています」
あじさいとフェレットー獣医師監修フェレットの医療(6)保定 暴れる・嫌がるのは練習不足?抱っことの違いも解説
あえて練習する・フェレットを慣れさせる目的で、保定を行う必要性は薄いんですね。

筒井「全身状態のチェックやスキンシップは大切ですが、通常の抱っこができれば事足ります。保定に関しては、飼い主さんとフェレットのペースで、無理のない範囲でトライする、程度に考えて良いのではないでしょうか。

保定が難しくてできない・させてくれない子は、ベースに噛み癖の問題があることがほとんどだと思います。手を近づけたら噛みついてしまうなら、保定だけでなく抱っこも難しいでしょう。その場合はまず、噛み癖をなくすためのしつけから始める必要があります」

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爪切りや耳掃除といったケアはショップや動物病院にお願いすることもできます。獣医師の先生や動物病院・ショップのスタッフはプロです。保定に慣れていないフェレットでは診察・処置ができない、といったことはまずありませんから、心配は不要とのこと。
もちろん飼い主さんがスムーズに保定できるに越したことはありませんが、「お迎えしたら1日も早くできるようにならなければ」と焦らず、ゆっくり慣れていけばいいと思います。

保定とあわせて改めてチェック!フェレットの「抱っこ」「持ち方」

フェレットとの日頃のコミュニケーションの中心になるのは、やはり抱っこでしょう。

抱っこは保定のように、特に決められたスタイルがあるわけではありませんが、一般的によく行われるバリエーションをご紹介します。スキンシップのヒントにしてもらえればと思います。

抱っこバリエ(1)脇の下に手を持って支える持ち方

最も一般的な抱っこの方法です。一部の文献では「腋窩部(えきかぶ)保定法」と紹介されますが、動き回ろうとするフェレットをじっとさせる効果はほぼありません。保定ではなくあくまでも、抱っこと考えてください。
腋窩部保定されるフェレットー獣医師監修フェレットの医療(6)保定 暴れる・嫌がるのは練習不足?抱っことの違いも解説
【方法】
①両脇の下に指を入れて身体を持ち上げる。手は背側から回しても背側から回してもOK。
②動き回りたがる場合、腰も抑えると安定しやすい。

抱っこバリエ(2)片手でも安定する持ち方

①脇の下にお腹側から手を入れる。
②人間の腕の上にフェレットを乗せて支える。

片手で抱っこができ、空いた方のもう片方の手でケアもできる持ち方ですが、慣れるまでは難しいかもしれません。専門店や病院のスタッフなど、慣れている人がよく行います。フェレットの片手抱っこ

 

抱っこバリエ(3)肩・背中に乗せる

抱っこというよりは、高い所に登ることが好きなフェレットの性質を利用したスキンシップの方法です。飼い主さんによく慣れたフェレットは、肩や背中に登り、服の中に潜って遊びたがるので、乗せてあげると喜びます。
肩に乗るフェレットー獣医師監修フェレットの医療(6)保定 暴れる・嫌がるのは練習不足?抱っことの違いも解説
ただし、フェレットは高低差を認識出来ていないので、落下には十分注意してあげてください。転落にそなえて床に近い場所で、飼い主さんが座った状態で行うのが安心です。

抱っこバリエ(4)フェレットに慣れていない人向け

脇の下をお腹側を手で抑えて腰を持ち、フェレットの背中を人間の腹部に密着させます。
抱っこのバリエーションー獣医師監修フェレットの医療(6)保定 暴れる・嫌がるのは練習不足?抱っことの違いも解説

保定も抱っこも「声かけ」で気持ちを作ってから

筒井「保定や抱っこでフェレットに触れる前は、「これから触るよ」とフェレットに知らせるため、必ず声をかけてから行いましょう。噛み癖のない子でも、突然、身体に触られるとびっくりして噛みついてしまうことがあります」

フェレットやうさぎのような小動物にとって、抱き上げられることで四肢がフワッと地面から離れる感覚は、本能的に恐怖をよびおこす、とも言われています。上空から、猛禽類に襲われるシーンを連想させるからだそうです。
噛み癖のない子でも、身の危険を感じたら噛みついてしまうのも無理はありません。声をかけることでフェレットに心の準備をしてもらってから、保定・抱っことスキンシップに進めると、より良いですね。

保定と抱っこを使い分けつつ、フェレットとの触れ合いを楽しんで

身体の小さいフェレットですから、噛み癖の激しい子でなければ、抱っこすること自体はそれほどむずかしくないと感じます。一方、おとなしく腕の中でじっとしていてくれる子も少数派。抱っこされていることもあまり気に留めないのか、常に動き続けていますから、抱っこしている飼い主さんの方が落ち着かない気持ちになるかもしれません。
抱き上げられるフェレットー獣医師監修フェレットの医療(6)保定 暴れる・嫌がるのは練習不足?抱っことの違いも解説
でも、それもまた「フェレットらしさ」の一つでもあります。年齢を重ねることで落ち着いてきて、抱っこでじっとしてくれる時間が増えてきた、という話を聞くこともありますし、眠気を感じるタイミングでは、腕の中で眠ってしまった、なんてことも。フェレットならではの動きを楽しみつつ、触れ合いを楽しめるといいですね。

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【主要参考文献】
三輪 恭嗣『エキゾチック臨床シリーズ Vol.2 フェレットの診療 診療法の基礎と臨床手技』学窓社、2010年

編集:フェレット情報局 編集部

※当コラムでは、人間と暮らす多くのフェレットが健康で長生きできるよう、疾患についての情報を共有するため、情報発信を行っています。個体により状況は異なりますので、フェレットの状態で気になることがあれば、かかりつけにご相談されることをお勧めします。当コラムの内容閲覧により生じた一切のトラブルについて、浦和 動物の病院、フェレットリンク、および執筆者は責任を負いかねます。


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フェレット情報局編集部員。獣医師免許を取得後、動物に関連するお仕事に幅広く携わる。フェレットに魅せられ、現在はフェレットの魅力発信活動に邁進。プライベートでは天然マイペースなフェレット・おこげさんと暮らしている。「マンガで学ぶフェレットとの暮らし方」連載中。