※当コラムは筒井孝太郎先生の監修のもと、国内外のフェレットの医学書や論文など専門的な文献を参照して執筆しています。フェレットと暮らす飼い主さんに有益で正確な情報の発信に努めていますが、記載内容は執筆時点での情報であること、すべてのケースに当てはまるわけではないことをご理解願います。
フェレットと暮らすみなさん、こんにちは。フェレット情報局編集部のつりまきです。
『浦和 動物の病院』院長・筒井孝太郎先生と一緒に、フェレットの健康管理や病気について学ぶこちらのコラム。私もフェレットと暮らしていますが、飼い主さん一人ひとりが正しい知識を持ち、日頃から細やかにフェレットを観察することが、健やかな毎日のために重要だと感じています。
第7回のテーマは、フェレットの風邪。お迎えの際に「インフルエンザに感染する」と聞いたことのある飼い主さんもいると思います。風邪・インフルエンザの流行期を迎える前に知っておきたいポイントをまとめました。
目次
人間と似た症状が出るフェレットの「風邪」
医学的には「風邪」という病気はありません。くしゃみ、鼻水、鼻づまり、のどの痛み、咳、たん、発熱などの症状をひとまとめに、風邪と呼びます。風邪の原因は、ウイルスや細菌への感染です。
フェレットの風邪でも、人間と同じように、咳、くしゃみ、鼻水、発熱などの症状が見られます。また、下痢・嘔吐といった消化器系の症状が出る「お腹の風邪」にかかることもあります。
フェレットの風邪、原因となるのは細菌?ウイルス?
人間の場合はウイルス感染による風邪が多いとも聞きますが、フェレットはどうでしょうか。
筒井「フェレットの風邪の原因を調べることは、臨床ではほとんどないんです。
なぜかというと、感染症を起こすあらゆる細菌やウイルスを特定できる、フェレット専用の万能な検査は存在しないからです。検査ができたとしても結果を待つうちに治ってしまうケースが大半です。
また、風邪症状を起こしている原因を特定したところで、原因のウイルスを直接やっつける薬も、フェレットの場合はほぼないのが現実。ですから、私は風邪の原因は調べていません。費用も時間も余計にかかってしまいますしね。おそらく、多くのクリニックでも同様ではないでしょうか」
では、咳や鼻水をうったえるフェレットが来院したらどのように対応しますか?
筒井「対症療法が中心になります。診察し、呼吸器系の症状がメインとわかれば咳止めや鼻水のお薬を処方する、といった具合です。症状が改善すれば、それ以上の対応は不要だと考えています。
お薬が効けば基本的に3日で改善傾向が見られ、一週間程度で8割がた症状が治まりますね」
私たち人間も、風邪を引いたら、咳止め・解熱剤など、症状を抑える薬を服用しながら、風邪の原因菌・ウイルスが体内からいなくなるのを待つことが多いですよね。フェレットも、基本的には同じ方針なんですね。
筒井先生によると、くしゃみや咳といった風邪症状で来院するフェレットはそれほど多くはないのだとか。風邪を引いても下痢がなければ基本的に重症化はせず快方に向かうとのことで、自宅で様子見をしているうちに自然治癒していくケースも一定数、ありそうです。
風邪?それともアレルギー反応? くしゃみ・咳が続いた時の見分け方
筒井「ちなみに、くしゃみや咳=風邪、とは限りません。室内に漂うホコリを吸い込んだ刺激で、生体の防御反応として一時的にくしゃみや咳をしていることもよくあります。人間と比べると床に近いところに顔がありますから、どうしても、そういったケースは多いですね。
風邪症状か、一時的な反応かを見分けるポイントの一つは、症状が続く日数です。当院では、3日間様子を見てもおさまらないようであれば受診しておいた方が安心、とお伝えしています」
人間同様、季節の変わり目に体調を崩して風邪症状が出る子もいるのだそうです。体調を観察し、症状が出始めた日をきちんと記録しておくと、受診の必要性を判断する目安にできますね。
【フェレットのインフルエンザ】検査・治療・予防まで
一般的な風邪よりも急激に進行し、高熱や関節痛など全身に影響が出るのがインフルエンザウイルスの感染です。フェレットも、人間と同じインフルエンザウイルスに感染することが知られており、インフルエンザの実験モデルとなるほど症状が人に近い、とも言われます。
人間では、シーズンごとに予防接種を受けたり、流行期に感染が疑われれば専用の検査を受けたり、感染がわかれば抗ウイルス薬を服用したりと、通常の風邪とは違って特別な対応が必要になるインフルエンザ。フェレットのインフルエンザ感染は、どうすればよいのでしょうか。
筒井「フェレットのインフルエンザ感染への対処は、人間の場合とは事情が異なります。
まず、フェレットのインフルエンザ感染を検出できる簡易的な検査キットは、現在のところありません。一般的なクリニックのレベルでは通常、インフルエンザ感染を調べることはまずないと思います。
それに、人間に用いられるタミフルやリレンザといった抗ウイルス薬も、通常フェレットには使用しません。特効薬があるわけではない、という意味でも、インフルエンザ感染を特定する必要性が薄いんです」
フェレットのインフルエンザ感染は、研究や実験などハイレベルな専門機関で調べてはじめてわかることで、一般的な臨床の場面では検査はまず行わないんですね。
「インフルエンザをフェレットにうつしてしまったかも」心配な飼い主さんへ
飼い主さんがインフルエンザに感染してしまい、その後、フェレットにも同様の症状が出たら、フェレットにうつしてしまったかも、という不安が頭をよぎります。そんな時は、どうしたらいいのでしょうか?
筒井「風邪と同じで、咳・鼻水・喉に対する対症療法になります。インフルエンザウイルスをやっつけるのは、フェレット自身の免疫です。解熱剤は使用しないほうがいい、と記載している文献もありますから、基本的に“しっかり食べて寝て治す”のが治療方針ですね」
インフルエンザにかかったら人間の場合、かなり苦しい思いをすることもありますし、重症化のリスクもありますが、フェレットは大丈夫でしょうか?
筒井「インフルエンザ感染を調べて治療にあたっているわけではないので、なんとも言えない部分ではありますが、健康な子であれば通常、風邪症状でぐったりと衰弱することはまずありません。
風邪をひいた子がげっそりと弱っているなら、風邪以外にも、全身の不調をきたす他の疾患が隠れていないかを疑います」
フェレットのインフルエンザ治療、漢方薬という選択肢も
筒井先生は漢方治療も行われていますが、インフルエンザ感染が疑われるケースも含め、風邪症状に対しても漢方薬は使用しますか?
筒井「必要性や飼い主さんの希望に応じて、西洋医学のお薬と漢方薬、それぞれ使い分けて処方しています。風邪にせよインフルエンザにせよ、免疫力の低下がベースにありますから、漢方の場合は、自己治癒力を高め、消炎効果があり、呼吸器系に作用するお薬が中心になります。
西洋医学のお薬は通常、2〜3日で症状の改善が見られますし、漢方薬も体にあっていれば服用後すぐ、遅くとも1週間以内には効果が得られますよ。
漢方薬は錠剤を砕いて粉にして出します。匂いと味は多少ありますが、フェレットバイトに混ぜれば服薬できる子が多いですね」
フェレットのインフルエンザ感染が疑われる際も特別対応は不要と知っておき、慌てず、普段通りしっかり食べて眠れていることを確認したうえで見守ってあげましょう。
フェレットのインフルエンザはどう予防する?
フェレットのインフルエンザの感染経路は、鼻水や目ヤニの直接感染、咳やくしゃみを介した飛沫感染です。
筒井「人間からフェレット、フェレット同士、フェレットから人、いずれのパターンでも感染しますが、最も感染が成立しやすいのは、フェレット同士です。ちなみに、人間ではおなじみのインフルエンザワクチンは、フェレットへの接種はできません。
このように説明すると不安に感じる飼い主さんもいるかもしれませんが、フェレットの間でインフルエンザが蔓延しているとか、フェレットが他の動物に比べてインフルエンザに非常に感染しやすいわけではないと思います。
風邪症状のあるときは他のフェレットにうつさないよう、外に連れ出す・交流会に参加するのは控えるなど、一般的な事項に気をつけていれば大丈夫ですよ。多頭飼育では、風邪症状のある子は念のため、症状が治まるまで隔離すると安心です」
人間では、インフルエンザと診断されたら出席や出勤を停止する措置があります。マスクや手洗い、予防接種といった対策はとれないフェレットですから、ウイルスとの接触機会を避けることが予防の基本ですね。
飼い主さんがインフルエンザに感染してしまったら、フェレットとは触れ合わないのがベストです。もし同居の人がいてお願いできるのならお世話をしてもらう、受け入れてもらえるのならペットホテルを利用するなどの選択肢もあります。自らお世話をする場合は、フェレットにふれる前にしっかり手を洗ってください。
また、人間の風邪予防と同様、乾燥しがちな季節は湿度を適切に保ち、換気をしっかり行うことも非常に重要です。
【フェレットとコロナウイルス】下痢が続くお腹の風邪
インフルエンザと並んで、気になるのがコロナウイルス感染です。フェレットのコロナウイルス感染で有名なのはフェレット腸コロナウイルス(FRECV)があります。こちらは、いわゆる「お腹の風邪」の原因になりうるものとして有名なので、また別の機会に詳しくご紹介します。
もう一つ、新型コロナウイルスについても気がかりな飼い主さんもいるでしょう。臨床的にはどうでしょうか?
筒井「2020年の発生から4年経ったとはいえ、まだまだ未解明なことが多いウイルスです。ペットとして人間と暮らしているフェレットに感染するのかについても様々な見解があります。臨床症状についてもほとんど報告がなく、なんとも言えないというのが正直なところですね。
ただ、フェレットと人間の間でインフルエンザ感染が成立することを考えると、新型コロナウイルスについても、フェレットにうつる可能性がないとは言えません。新型コロナウイルスは季節を問わず何度も流行の波がありました。流行期にはフェレットと触れ合う前に手洗いを心がける・換気に努めるなどはしておくとよいと思います」
私が新型コロナウイルスに感染した際、うちの子のお世話は家族にお願いできたのですが、飼い主と会えない事がストレスになることもあると聞いたので、ケージ越しに声をかける程度の関わりは続けていました。ケージに近づく時はマスクと手袋を装着し、抱っこなどはせず、特に口の回りは触らないように注意していました。
まだわからないことの多いウイルスなので何かと心配ですが、これからも、できる範囲の対策をしていければと思います。
基本的に室内で過ごすことの多いフェレットですから、フェレットが風邪やインフルエンザ・コロナウイルスなどを持ち込むことは考えにくいと思います。飼い主さんが予防接種を受ける・手洗いやうがいをするなど、自分自身の感染予防が、フェレットを守ることにつながります。秋・冬を迎える前に、改めて感染症予防対策について、見直しをしておこうと思いました。
【主要参考文献】
三輪 恭嗣『エキゾチック臨床シリーズ Vol.2 フェレットの診療 診療法の基礎と臨床手技』学窓社、2010年
編集:フェレット情報局 編集部
※当コラムでは、人間と暮らす多くのフェレットが健康で長生きできるよう、疾患についての情報を共有するため、情報発信を行っています。個体により状況は異なりますので、フェレットの状態で気になることがあれば、かかりつけにご相談されることをお勧めします。当コラムの内容閲覧により生じた一切のトラブルについて、浦和 動物の病院、フェレットリンク、および執筆者は責任を負いかねます。
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