※当コラムは筒井孝太郎先生の監修のもと、国内外のフェレットの医学書や論文など専門的な文献を参照して執筆しています。フェレットと暮らす飼い主さんに有益で正確な情報の発信に努めていますが、記載内容は執筆時点での情報であること、すべてのケースに当てはまるわけではないことをご理解願います。

フェレットと暮らすみなさん、こんにちは。フェレット情報局編集部のつりまきです。
『浦和 動物の病院』院長・筒井孝太郎先生と一緒に、フェレットの健康管理や病気について学ぶこちらのコラム。私もフェレットと暮らしていますが、飼い主さん一人ひとりが正しい知識を持ち、日頃から細やかにフェレットを観察することが、健やかな毎日のために重要だと感じています。
第13回のテーマは「ケガ」。切り傷や打撲、擦り傷、やけど、刺し傷などさまざまなケガがありますが、出血をともなうケガを中心に、起こりやすいシチュエーションから、傷口に膿のたまる“膿瘍(のうよう)”、家庭での応急処置について筒井先生に伺います。

フェレットのケガ発生の状況【多頭飼育でのケンカ・爪切り失敗・かきこわし】

フェレットは本当に活発で、放牧中に観察していると、しょっちゅう物にぶつかったり、足をひっかけたりしています。うちの子のブラッシング中にも、いつできたのかわからない小さな傷やかさぶたを時折見つけますが、外傷で受診するフェレットは多いのでしょうか?

筒井「実は、それほど多くはありません。エネルギッシュに動き回る子が多いので、少し意外に感じるかもしれませんね。ぶつかることは多くとも、上手に“受け身”をとって身を守っている子が多いのかもしれません。

“ケガをしたので受診した方がいいですか?”と飼い主さんからお電話いただくこともあるのですが、状況を伺った結果、まずは家庭での経過観察を案内するケースが大半です」

軽傷の子が多いんですね。フェレットのケガはどのような状況で起こっていますか?

筒井「圧倒的に多いのは、フェレット同士のじゃれ合い・ケンカによる咬み傷です。

フェレットは遊びの中でかなり激しく咬み合うことがあります。基本的に手加減をしているので、出血をともなうケガに至ることはまれですが、お迎え直後に新入りの子と先住の子の間で本気のケンカに発展する場合があります。
また、単独飼育が長い子では、他の個体と遊んだ経験が乏しいゆえに力加減がわからず、咬みすぎてしまうケースもたまにありますね」

筒井「また、皮膚をかゆがって自ら患部を咬んだり、かきこわしたりして傷ができることもあります。強いかゆみの原因で多いのは、副腎疾患によるホルモンバランスの変化に関連した皮膚トラブルや、耳ダニの感染で、どちらもフェレットのかかりやすい病気です。また、“おでき”のようなものである肥満細胞腫も、かゆみをもたらすことがあります。

他には、爪切りの際にうっかり深く切りすぎた、フェレットが暴れて爪が剥がれた、などの相談もよくいただきますね」

フェレットのケガは様子見で大丈夫?病院での治療

少量の出血は自然に止まりますし、小さいケガは放っておいてもいつの間にかかさぶたになりますが、深い傷や大きな傷口はきちんと手当てをすべきです。
筒井先生のクリニックでは、ケガをしたフェレットにどのような処置を行いますか?

筒井「傷口を洗浄・消毒し、特に深い傷は必要に応じて抗生物質の投与や縫合を行います。
軽傷の子がほとんどなので、診察室で患部に薬を塗り、後は家庭での経過観察をお願いすることが多いですね。浅い傷であれば、あえて処置を行わない判断になることもあります。傷口をテーピングしたり包帯を巻いたりすると、かえって患部を気にして咬んだり、包帯を誤食してしまったりするおそれもあります」


人間であれば小さなささくれでも傷絆創膏を貼りたくなりますが、動物の傷は自然に任せた方がスムーズに治りそうですね。

受診すべきか、自宅で様子を見るかはどのように判断すればよいでしょうか?

筒井「以下の状態はすぐに獣医師の診察を受けましょう。
・出血が止まらない
・傷口の大きさが5mm以上
・皮下組織が見えるほど深い傷

また、

・受傷後3日経ってもじゅくじゅくしている
・血が止まり切らない
・再出血しやすい

このようなケガも、受診をおすすめします。
不衛生な条件の下で傷口を放置すると、細菌感染から炎症を起こし膿がたまる膿瘍(のうよう)になるリスクもありますから、治りの遅い傷には積極的な対処がベターです」

小さなケガも膿瘍の心配がありますか?

筒井「基本的にはまれですが、 極端に不衛生な環境で生活している、高齢で免疫力が低下している、基礎疾患があり栄養状態が悪いなどの場合、膿瘍のリスクがないとは言い切れません。
膿瘍ができると疼痛や熱感、発赤が生じ、痛みのために元気や食欲が減退します。念のため、傷を負った後は患部の状態に加えて、全身の様子も気にかけてあげてください」

【切り傷、咬み傷、爪切り失敗】家庭で行う応急処置

ケガの際、自宅でできる対処法を教えてください。

筒井「人間と同じで、まず、傷の大きさ・深さ、傷口の状態を確認しましょう。

散歩で屋外に出していた、ホコリの溜まっている家具の裏にいた、など衛生状態が心配な状況下でのケガは、流水で傷口を丁寧に洗い流します。清潔なガーゼやタオルで患部をぎゅっと圧迫して血が止まるのを待ちます」

フェレットはなかなかじっとしていてくれないので、一定の時間、患部を圧迫して止血するのは難しそうに感じます。

筒井「止血剤を使うことで血が止まりやすくなります。クリニックでは小動物専用の止血剤を用いますが、家庭では、清潔な小麦粉・片栗粉を少量、傷口に直接振りかけると凝固作用で出血が抑えられます。

止血剤をつけた後は患部をそのままにせざるを得ないこともあるでしょう。心配だとは思いますが、比較的多い爪切り時の失敗について言えば、基本的に小さい傷なので命に関わる大量出血にはまず至りません。爪が根元から剥がれたら血がボタボタ出てびっくりしますが、それでも、家庭で止血できるケースが多いので、落ち着いて対処しましょう」

フェレットのケガ予防 飼育環境の危険箇所は定期的に確認を

ケガを防ぐには、どんな点に気をつければ良いでしょうか?

筒井「飼育環境の危険箇所を取り除くことが基本です。 ケージ内に尖った部分はないか、おもちゃに破損はないか、定期的に確認してください。

特に、高所からの転落・落下の危険性はチェックしたいところです。フェレットは好奇心につられて高いところに登りたがりますが、降りるのはあまり得意ではありません。落下には十分注意してあげてください」

筒井「放牧中に、壁際に立てかけていた畳んだ段ボールの上によじのぼろうとして、足の腱を切ってしまった事例を聞いたことがあります。放牧を行う部屋はできるだけ、物を少なくしておくことがポイントです。

また、キャットタワーのように高い所に昇れる遊び場も、安全管理の観点からはおすすめしていません。遊ばせる際は、万が一の転落のリスクを十分考慮してください」

事故・ケガ予防の観点からは、屋外での散歩も避けるべきでしょうか? 限られた空間と物だけの室内で過ごすのに比べると、格段にリスクが高いと思うのですが・・・

筒井「屋外のお散歩では、尖った小石や枝などでケガをすることもあるでしょう。細菌やダニの数も室内より増えますから、傷から感染症になるリスクも上がります。個人的には、室内飼育が基本のフェレットをあえてお散歩に連れ出す必要はないと思います。

ただ、お散歩が習慣になっていて、お外に出してもらうのを楽しみにしている子もいますよね。ケガ予防のためリスクのあるものを何もかも取り除くのでは刺激が減り、生活の質の低下にもつながります。バランスを考えつつ、個々の状況に応じた判断をしていただければと思います」

うちの子も、お散歩に出かけるのが大好き。太陽のもと、季節の風を感じながら一緒に外を歩くのは、私にとっても大切な時間です。
ケガ予防をどこまで優先するか統一的な正解はないかもしれませんが、フェレットの身体の安全を守ることは飼い主の大切な責任だと改めて感じます。散歩後は体をチェックし、傷や異変がないか確認を徹底したいものです。

電気コードの保護や家具の安全対策など、飼育環境の具体的な整備方法はこちらの記事でも解説しています。

【室内飼育・放牧時の事故防止】フェレットと暮らす家の安全対策

多頭飼育、先住の子と新入りの子は焦らずゆっくり仲良くなろう

筒井「多頭飼育でのケンカ・ケガを防ぐには、フェレット同士の相性を十分に見極めることが重要です。初めて引き合わせる時は飼い主さんが注意深く見守り、短時間から始めます。十分な広さのスペースを確保し、おもちゃや隠れ場所を用意することで、喧嘩のリスクは軽減できます。ゆっくり慣らすつもりでスタートし、相性が悪そうであれば、いったんは別々に飼育する判断も必要です」

筒井「日本でショップからお迎えできるフェレットは基本的に、避妊・去勢手術を済ませており発情期がありません。子孫を残さねばという本能的な欲求がないので、他の個体に対して非常に強い攻撃性を示すことはまれです。
ただ、子ども同士で遊ぶ場合や、長年、単独で飼育してきた子では、遊びの中の適切な力加減がわからず、楽しくなりすぎるとつい力が入りすぎてしまうことがあります。飼い主さんがすぐに介入できるよう、常に監視下で遊ばせてあげてください。フェレットよりも力の強い動物・身体の大きい他種の動物と一緒に飼育をする際も同様で、慎重に見守りましょう」


多頭飼育の基礎知識と始め方、他の動物との同居については、以下の記事で解説しています。

【関連コラム】
フェレットは多頭飼いに向いてる? 2匹目、3匹目をお迎えしたいなら
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フェレットのケガで大切なのは、対処が必要な傷を見落とさないこと。
日々体に触れてブラッシングする習慣を持つことで、治りが遅い傷や、治ってきていたのにまた腫れてきている、といった異変にも早い段階で気づけます。

我が家でも、首回りや腹部など自分で舐めやすい部位は咬み傷・ひっかき傷がないかチェックし、放牧後やお散歩後には全身を確認しようと思います。

 

【主要参考文献】
三輪 恭嗣『エキゾチック臨床シリーズ Vol.2 フェレットの診療 診療法の基礎と臨床手技』学窓社、2010年

編集:フェレット情報局 編集部

※当コラムでは、人間と暮らす多くのフェレットが健康で長生きできるよう、疾患についての情報を共有するため、情報発信を行っています。個体により状況は異なりますので、フェレットの状態で気になることがあれば、かかりつけにご相談されることをお勧めします。当コラムの内容閲覧により生じた一切のトラブルについて、浦和 動物の病院、フェレットリンク、および執筆者は責任を負いかねます。


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フェレット情報局編集部員。獣医師免許を取得後、動物に関連するお仕事に幅広く携わる。フェレットに魅せられ、現在はフェレットの魅力発信活動に邁進。プライベートでは天然マイペースなフェレット・おこげさんと暮らしている。「マンガで学ぶフェレットとの暮らし方」連載中。