フェレットくんと暮らす飼い主のみなさん、こんにちは。
日本ではまだまだ「珍しいペット」のフェレット、生体や飼育方法についての情報も限られていますよね。疑問やお悩みをどこで解決すればいいの?とお困りの飼い主さんもいるのではないでしょうか。

フェレット情報局は、フェレットと暮らす方のためのメディアです。フェレットの生態・お世話の仕方について、日々フェレットに接している専門店『フェレットリンク』のスタッフが発信します。

国内では飼育頭数が少ないフェレットですが、海外に目を向ければメジャーなペットとして愛されています。フェレットの生態にはまだ謎も多く、諸説あります。フェレット情報局は、アメリカ・ヨーロッパのWebサイトや文献も参照しながら、現時点で正しいと思われる情報を中心に、ちょっと珍しいお話もお届けできたらと思います。

今回は、フェレットの「目」について取り上げます。
つぶらな瞳は、フェレットの大きな魅力の1つですよね。フェレットたちはどんな世界を見ているのでしょうか。つぶらな瞳のフェレット

薄暗いところで本領発揮するフェレットの目

フェレットの目は、狩りに最適な夜明けや夕暮れといった薄暗い時間帯でもよく見えるようになっています。実際、ヒトの目と比べると、5分の1〜7分の1の光量でもフェレットには十分だとされているんです。

私たちには真っ暗にしか見えない電気を消した室内も、フェレットには昼間とさほど変わらないくらい、よく見えているのかもしれませんね。

少ない光の量でもフェレットには「よく見える」秘密

フェレットは角膜の面積が広く、暗い場所でも光を集めやすくなっています。

また、網膜には光を感知できる桿体(かんたい)細胞と、色を認識できるものの暗闇では働きが低下する錐体(すいたい)細胞の2つがありますが、フェレットは桿体細胞と錐体細胞の比率が50〜60対1。桿体細胞が圧倒的に多く、暗いところでよく見えるように発達していることがわかります。

暗闇で光る!反射板つきのフェレットの目

ちなみに、フェレットの目は「光る」ことをご存知でしょうか。

夜道をドライブ中、ネコに出会うと目がピカっと輝くように見えますよね。これは、網膜の後ろに「タペタム」という反射板が付いているから。タペタムは光を反射して網膜に返すことで光量を倍にします。フェレットの眼球を横から見たイメージ
フェレットの目にもこのタペタムがあり、暗所での視力アップに一役買っています。

タペタムはフェレットやネコだけでなく、朝や夕方に行動する「薄明薄暮性」や夜行性の動物の多くに備わっています。
フェレットの目は、暗い環境でこそ本領発揮することがわかりますね。

ちょっと意外?フェレットの瞳孔は横長の卵形!

続いて、いわゆる黒目「瞳孔」に注目してみましょう。フェレットには黒っぽい色の瞳の子が多いこともあり、瞳孔の形を意識する機会はほとんどないかもしれません。ですが、よくよく観察すると、フェレットにも黒目があることに気づきます。見つめるフェレット

瞳孔の形は動物の種類によって異なりますが、これは、それぞれが生きる環境に最適な形に進化したからだと考えられています。動物の瞳孔にはいくつか種類がありますが、身近なところでいうと、イヌやヒトは円型、ネコやキツネは縦長のスリット形状、ヤギやヒツジは横長の瞳孔の形をしています。
いろいろな動物の瞳孔
さてフェレットの瞳孔の形はというと、「横長のスリット形状」で、カエルやヘビと同じです。

同じ肉食動物であるネコやキツネのように縦長スリット形状かと思いきや、ヤギやヒツジの横長に近いとは、少し意外ですよね。フェレットの瞳孔

フェレットの瞳孔が「横スリット形状」なのはなぜ?

スリット状や細長い瞳孔は、人間のような円形の瞳孔に比べて開閉できる範囲が大きいという特徴があります。大きく開くことで、夜間の少ない光も取り入れられるため、これも「暗いところでもよく見るため」の工夫の1つと言えます。

そして、フェレットが「横」に長い瞳孔を持つ理由は諸説あります。

横長の瞳孔を持つものの多くは、草原に住む草食動物。草を食べつつも、横に広い草原を見渡し、捕食者である肉食動物の姿を発見するためだそうで、フェレットの場合も、獲物を探しやすいよう水平線をスキャンしやすくするためとも考えられています。

一方、「狙う獲物の動きのタイプにあわせている」という説もあるんです。
縦型の瞳孔を持つネコは、主に、横に走り回る獲物をメインに狙うことが多いのに対して、フェレットは、上下に飛び跳ねるような動きをする獲物を狙うことが多いのだとか。

少し難しい話ですが、瞳孔の仕組みを考えるとこの謎を解く手がかりがあります。
瞳孔はカメラのレンズにたとえられることが多く、絞りを絞ればピントの合う距離が広くなり、開けば、ピント位置以外のボケが大きくなります。つまり、ネコの縦長の瞳孔では縦方向の映像のボケが大きく横方向がクッキリと見え、反対に、フェレットの横長の瞳孔では、横方向の映像のボケが大きく、縦方向がクリアに見えます。
ですから、フェレットの横長の瞳孔は、縦方向に動く獲物をはっきりと捉えやすい、というのです。

これらはあくまでも一説で、正解はわかりません。もしかしたら、フェレットの近縁種で、自然界に生きる「ヨーロッパケナガイタチ」の生態にヒントがあるのかも。
瞳孔の形ひとつとっても、意外な秘密が隠されているようでおもしろいですね。

視野は肉食動物の中では標準的だけど、両眼視できる範囲は狭い

フェレットの視野は約270度と人間よりも広い一方、両眼で見えているのは正面で約40度と、限られた範囲に留まります。
フェレットと他の動物の視野

猫より悪い? フェレットの視力

次は気になる「視力」を見てみましょう。
「フェレットは目があまり良くない」と聞いたことがあるかもしれませんね。フェレットの視力は猫よりも低いと考えられています。
フェレットの視力についてのデータはほとんどないのですが、一説によると(*)、フェレットの視力分解能は、スネレン式視力測定法で「20/170」なんだそうです。

*出典:Ferret Medicine and Surgery (English Edition)

フェレットの視力は0.11!?

スネレン式視力測定法は欧米で広く用いられている方式で、分数を小数点表示に直すと、日本の視力検査でおなじみの「1.0」や「0.8」などの数値になります。

つまり、フェレットの視力20/170は、0.11ということになります。

視力0.1の見え方は、視力検査表の一番上の大きな指標が「約5m離れたところから、かろうじて見える程度」。遠くにいる人が知り合いでも誰か分からない、車や自転車の運転は非常に危険で時計の数字が読めないなど、人間では、日常生活に支障が出る数値と言われています。
そのうえフェレットは、色を「赤色」だけしか識別できないと考えられています。
走るフェレット
人間で考えてみれば相当不便と思われますが、フェレットはこんなにボンヤリしか見えていなくても、困らないんでしょうか。

フェレットは視覚より聴覚、そして聴覚よりも嗅覚に頼って生きる動物です。私たち人間は、外部からの情報の9割を視覚に依存していると言われることもありますが、フェレットを含めた多くの生き物は違います。視覚以外の感覚を駆使して危険を察知したり、獲物や繁殖相手を探したりしているんです。

実際、フェレットの赤ちゃんのまぶたが開くのは生後28〜34日目とかなり遅いのですが、それでも赤ちゃんはちゃんとおっぱいを飲み成長できます。
フェレットに「あんまり見えていなくても大丈夫?」の心配は不要ということですね。

フェレットの「目」を知ればフェレットの見ている世界に近づける

フェレットの目に着目してみると、一緒に暮らすフェレットくんが見ている世界が垣間見えますね。

人間同士ですら、同じ景色を見ても「感じ方」は十人十色。フェレットくんが何をどんな風に「見て」いるのか考えてみるのも、楽しいかもしれません。

<参考文献>
Cathy Johnson-Delaney(2016). Ferret Medicine and Surgery (English Edition)
田向 健一『フェレット飼育バイブル 長く元気に暮らす 50のポイント コツがわかる本』メイツ出版、2021年
鈴木實(1994年)『動物の視覚』山口獣医学雑誌、21号、pp.1-38


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橋爪宏幸

フェレット情報局局長。 フェレット専門店フェレット・リンクのオーナー。 ExoticpetSaver FirstResponder/ExoticpetSaver Emergency Rescue Technician。 まだまだ分からないことが多いフェレットの世界。フェレットとの暮らしに少しでもプラスになるように、世界中からフェレットの情報を集めて発信していきます。