【第５話】特別なクッキー

バレンタインデーの朝、私はキッチンで特別なクッキーを作る準備をしている。

材料は、ラビットフードとキャロブとリンゴ。

裕一が「僕のためにチョコレートでも作ってくれるの？」と声をかけてきた。

「あなたのじゃないわ、福助のために特別なクッキーを作るの」と材料を並べながら裕一に答えた。

裕一は私の彼氏で、福助は私と一緒に暮らすオレンジ色のふわふわしたうさぎです。
なぜか裕一と福助はとても気が合うようで、さっきまでソファーで一緒に遊んでいた。

「福助にはチョコレートはあげられないんだよね」と私が言うと

「そうらしいね。チョコレートは福助にとっては毒らしいね」の裕一が答えた。

「よく知っているわね」と私が驚くと、「一応勉強したんだ」と自慢げな裕一。

裕一はこれまで動物と暮らしたことはおろか、動物と接したことがほとんどなかった。
福助のために勉強してくれたのだと感心しながら、
「そうなの、だからラビットフードを成形しなおしてクッキーでも作ろうと思うの」と私が答えると
「フードをクッキーにするって、どうやるの？」と裕一が聞きました。

「簡単なのよ。フードをお湯でふやかして、好きな形に固め直して、オーブンで焼くだけなの」と私は説明しました。

裕一は驚きながら、「へえ、それでうさぎも喜ぶの？」と再び聞いてきた。

「もちろん、福助はいつも同じフードしか食べないから、たまには違う形や味がしたら、嬉しいと思うの。
今日はバレンタインだからチョコレートの味に近づくようにキャロブを入れて、
福助の好きなリンゴもトッピングしようと思うの。あなたが手伝ってくれたクッキーの方が福助は喜ぶかも」と私は笑いました。

「じゃあ、僕も手伝おうか」と裕一が言って、私の隣に立ちました。

「ありがとう。じゃあ、この型でハートの形に切り抜いてくれる？」と私は裕一に型抜きを渡しました。

「ハートの形か。本格的だね」と裕一が言って、型抜きを受け取りました。

私たちは二人で楽しくクッキー作りをしました。福助のフードは、ハートや星や花の形になりました。
オーブンで焼いている間、私たちはリビングで福助と遊びました。福助は私たちの顔を見て、ぴょんぴょん跳ねて喜びました。

「福助、今日はバレンタインデーだよ。おやつに特別なものをあげるから、楽しみにしててね」と私は福助に話しかけました。

「じゃあ、僕にもチョコレートをくれるの？」と裕一が期待した顔をしました。

「もちろん。でも、福助のクッキーが出来上がってからね」と私は返しました。

「良かった、僕もチョコレートがもらえるんだね」と裕一が満足そうに言いました。

「そうよ。だから福助と仲よくしてね」と私は言いました。

「分かった。嬉しいよ」と裕一が言って、福助をなでました。

オーブンのタイマーが鳴って、クッキーが出来上がりました。
私たちはクッキーを冷ましてから、福助に一つあげました。
福助はクッキーを嬉しそうにかじりました。
私たちは福助の様子を見て、微笑みました。

「福助、美味しい？」と私が聞きました。

「うん、美味しい」と裕一がチョコレートを頬張りながら答えました。

「よかった。あなたのためにこの間テレビで見た有名なショコラティエの人のチョコレート専門店で買ってきたのよ」と私は言いました。

「ありがとう。とっても美味しいよ」と裕一が言って、チョコレートをひとつつまんで私の口元に運び食べさせてくれた。

私たちは福助と一緒に幸せなバレンタインデーを過ごしました。