【第２話】初夏の日差しの中

ひとり暮らしを始めて3年目。

初めのころこそ、誰に気兼ねすることのない自由な暮らしを満喫していたのですが、段々とその単調な暮らしに僕は物足りなさを感じ始めていました。

特に平日の夜の自宅は、『次の日に出社するために寝に帰る場所』『リラックスはできるけど、少し味気ない場所』になっていました。

ところが最近になってここに”相棒”がやって来ました。

メスのフェレット、ルーシーです。

ルーシーと暮らす以前の僕は、仕事から帰って来ると、真っ暗な部屋の電気をつけると、カバンを床に降ろし、カーテンを閉め、着替えた服を洗濯機に入れて、ソファーに腰掛ける。そしてスマホを眺めながら買ってきた弁当を口に詰め込むという、味気ないルーティーンを毎日繰り返していました。

そんな僕の生活に、ルーシーが変化を与えてくれました。

仕事で帰りが遅くなっても、暗い部屋の明かりを灯すとルーシーはハンモックからひょこっと顔を出して黒くて丸い目で僕を見つめます。

「ただいま、ルーシー」

『ア、オカエリ。オカエリ』

カーテンを閉めに行くと、ルーシーはハンモックから体を半分ほど出しながら僕の動きを追いかけてきます。

ケージからルーシーを出すと、着替えている僕にお構いなしにぴょんぴょん跳ねながら足にじゃれついてきます。

ルーシーを踏まないように気を付けながら着替え終えソファーに腰かけてご飯を食べ始めると、ルーシーは今度は部屋の探検に出かけます。

今はスマホではなく、ルーシーの行動を眺めながら食事を摂ります。

お気に入りのおもちゃを咥えて得意そうに横切っていくルーシーを見ると、知らず知らずのうちに口元がほころんでいるようです。

食事中、一人でニヤニヤしてるって。

「怪しいよなぁ。」

ルーシーに語り掛けているのか、ひとりごとなのか。

そのうちルーシーは僕のカバンに入り込み財布を引っ張り出そうとし始めました。

「わぁ。ダメダメ。やめろよ、ルーシー』

ひとりの部屋で、これまでより饒舌になっている自分に驚かされます。

休日の昼間、夏の日差しが差し込むエアコンが効いた部屋で、自分のハンモックの上で大の字でぐっすり眠っているルーシーを見ていると、なんだか穏やかな気持ちで満たされていくようです。

『イッパイ寝テ、イッパイ遊ブト大抵ノ嫌ナコトハナクナルヨ』

単調だった僕の日々に、ルーシーが明るくて穏やかな色を加えてくれたようです。

小さな体のルーシーにそんな力があるなんて、ちょっと魔法みたいだ。

で、僕はずっとこの小さな魔法にかかっていたいと思っています。